転生者・暁 遊理の決闘考察   作:T・P・R

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連続投稿2つめ。
ようやく主人公の決闘(デュエル)シーンです。


5話

「十代君、この決闘(デュエル)で1つ賭けをしませんか? もちろん賭けるのはカードではなく」

 

「賭け?」

 

フィールドを挟んで構えている十代君は怪訝な表情で私を見つめています。

 

「はい、賭けです。この決闘(デュエル)でもし十代君が私に勝てなかったら、今後授業を真面目に受けてください。あと「知識と実力は関係ない」などの発言も取り消してくれると嬉しいです」

 

もともと、十代君にはいろいろと物申したいことが結構あったんですよ。

恨みはないですが、湖の一件で借りはありますし。

 

「うう、せっかくの決闘(デュエル)の時に授業の話は勘弁してくれよ~」

 

十代君が頭を抱えてボヤキます。

 

「そんなに嫌なら勝てばいいんですよ?」

 

「そうか……そうだな。俄然負けられなくなってきたぜ! 気合入ってきた~」

 

そんなに勉強が嫌ですか…そうですか…

 

「では、私が貴方に勝てなかった場合、責任を持って十代君に勉強を教えることにします」

 

「うぇ!? そ、それじゃ俺は勝っても負けても…」

 

「良かったですね? もうドロップアウトとは呼ばれませんよ。というか私が呼ばせません。その実力に見合った模範生徒になってもらうのですよ」

 

うわあ~と、のたうつ十代君。

そんな嫌なら賭けに乗らなきゃいいのに、真っ直ぐすぎる十代君はその選択肢は概念レベルで存在していない模様。

デュエル脳の一種なのですかね。

 

『これもある意味直接攻撃(ダイレクトアタック)なのかな? ライフじゃなくて精神に直撃的な意味で』

 

知りませんよそんなこと。

というか、私は私なりの方法で十代君をギャフンと言わせてみせるつもりでしたが……この時点で目的は半場達成しちゃいましたね。

 

「おい! いい加減はじめろ!」

 

「そうだそうだ!」

 

と、さすがに引き延ばしすぎましたか。

 

「とりあえず、賭けは成立で良いですね?」

 

「え? ああ、うん」

 

「言質はとりましたよ、では私の先行! ドロー」

 

私は6枚になった手札をさっと一瞥。

さて、気になるその内容は……

 

魔法(みどり)が2枚に、(むらさき)が4枚……相も変わらずモンスター(ちゃいろ)がこないね~』

 

ココロちゃんが手札を覗き込んで苦笑いしていますが、この程度私からすれば日常茶飯事、不運の内に入りません。

逆境、苦境どんとこいなのです。

 

「私は手札より魔法カード、エクスチェンジを発動します!」

 

「っ!?」

 

『はあ!?』

 

ざわ…

 

私のこの行動に、相手の十代君、ココロちゃん、観戦していた生徒、クロノス教諭をはじめとする教師陣、この場にいるほぼ全員がぎょっとした表情をしました。

そりゃそうですよね。

通常、このカードは場にカードを伏せるなどして手札をなるべく絞ってから使うべきなのですから。

 

 

【エクスチェンジ】

通常魔法

お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選択して自分の手札に加える。

 

 

単純明快な手札交換カード。

手札バレという多大なリスクをはらむうえ、交換で得たカードもよほど汎用性が高いかミラーマッチ(同じデッキ)でもない限り使えません。

正直、リスクばかりでリターンの少ない使いにくいカードです。

あと前世では、カードに傷防止のため独自のスリーブ(カードカバー)をかけている場合が多く、交換したカードがバレバレになるリスクをはらんでいたりします。

公正を期すためスリーブを外そうとすれば、ルール以前のマナートラブルが発生したりもするのでなかなかに審判泣かせなカードと言えるでしょう。

 

まあ、そんな話はさておいて早速十代君の手札を拝見。

 

融合

E・HERO スパークマン

E・HERO クレイマン

融合解除

E・HERO バーストレディ

 

おおう、予想はしていましたが何という神引き。

いきなり私を溺れさせかけたビリリとニクいアンチクショウが召喚できてしまうじゃないですか。

 

『おまけに融合解除で追撃の用意も万全……壁なしでターンエンドしてたらその時点で終わってたね』

 

全くです。

 

「とりあえず、融合をもらいます」

 

「っく!」

 

悔しそうにする十代君。

さすがに1枚だけということはないでしょうが、それでもヒーローデッキにとって融合を奪われるのは相当の痛手になるはず。

 

そして対する私の手札ですが、

 

反目の従者(魔法)

ドレインシールド(罠)

便乗(罠)

ピケルの魔法陣(罠)

洗脳解除(罠)

 

微妙です。

物凄く微妙です。

この露骨なまでの引きの内容の違いに、私と十代君の実力差が思いっきり表れているのですよ。

……想定通りですけど。

 

「……俺はドレインシールドを選択する」

 

「毎度あり~」

 

『ねえ、手札交換(エクスチェンジ)するにしてもなんでその前にドレインシールドをセットしておかなかったのよ? それならたとえサンダージャイアントを召喚されても……』

 

「(いいんですよこれで)私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

十代君の顔には油断はなく、むしろ警戒した様子で私がセットしたカードを見つめます。

そう、それで良いんですよ。

 

『どういうことよ?』

 

「(元よりエクスチェンジは相手のカードを奪うためではなく、こちらの手札を見せつけるために発動したってことです)」

 

もちろん舐めプでもありません。

 

「(私は十代君がヒーローデッキを使うことを知っています。しかし十代君は私がどんなデッキを知らないのですよ)」

 

『フェアな対決がしたいってこと?』

 

「(まさか、私が言いたいのは十代君が今必死に頭をひねっているだろうということです)」

 

おそらく、今見せた手札から私のデッキがどういうタイプなのか考えているはずです。

ですが十代君は勉強不足故に、カードの効果に詳しくありません。

彼がドレインシールドを選んだのも、そのカードが汎用性の高い使いやすいカードだから、というよりそれ以外のカードについてよく知らなかったからでしょうね。

使い方が分からなかったんです。

 

ならば、彼は私の偏りまくった手札を見てこう考えるはずです。

 

なんかよく分からない罠カードがいっぱいあったから、とにかく罠カードには気を付けよう。

 

ならばこのターン十代君が引き当てて、召喚するモンスターは……

 

「(ワイルドマン!)」

 

「俺はE・HERO ワイルドマンを召喚する!」

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ワイルドマン】

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1500/守1600

このカードは罠の効果を受けない。

 

 

「ビンゴ!」

 

『ウソ!? 当たった……凄い…って待って、この読みにいったい何の意味が?』

 

「(特にありません)」

 

『アホなの!?』

 

「ワイルドマンにトラップは効かない! ダイレクトアタックだ!」

 

筋肉が大きく盛り上がった半裸の野性的な男性戦士のモンスターが私に襲いかかります。

 

「ワイルドスラッシュ!」

 

私は予想通りというか、予定通りというか、なすすべなく吹っ飛ばされるのでした。

 

「……くはっ!」

 

 

暁 遊理

LP 4000 → 2500

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

『どうすんのよ。これじゃ単なるプレイミスじゃない』

 

「(とりあえずこれでいいんですよ)」

 

少なくとも今のところは。

 

「私のターン、ドロー……私は魔法カード、手札抹殺を発動します」

 

「また手札の交換……」

 

 

【手札抹殺】

通常魔法(制限カード)

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 

 

よし、これでお互い手札は全て交換できます。

 

「さて、そろそろ動かないと不味いですね」

 

『動けないから不味いんじゃないの?』

 

言わないでくださいココロちゃん。

余裕ぶった態度で誤魔化しているだけで、実は普通に順当にいつも通りピンチなのですよ。

このまま対処できなければ、何の山も谷もなく決闘(デュエル)に負けてしまうのです。

 

何とか巻き返さないと……で、肝心の新しい4枚の手札ですが……

 

『ここでこの(モンスター)がくるか…』

 

「来ちゃいましたね」

 

 

同じ名前で同じ効果な同じカードでも、宿る精霊は全て違います。

そういう意味で、全く同じ精霊(カード)なんて存在しません。

つまりはどんなカードにも特有の個性があるということなのですが……このカードは数いる精霊の中でも超絶ピンの際物です。

 

 

『え? 出すの? 召喚するの? ただでさえ苦しい状況がさらに悪化するだけじゃ……』

 

「それでも出さないわけにはいかないでしょう……」

 

でないと烈火のごとく怒るでしょうし。

文字通りの意味で。

 

前に彼女を怒らせたときどんな目にあったか……

 

『……とりあえず部屋のカーテンが焦げただけで済んで良かったね』

 

小火がマシに思える時点で感覚がマヒってます。

 

 

「……私は、十代君のフィールドのモンスター、ワイルドマンをリリースします」

 

「俺のモンスターをリリース!?」

 

「ヴォルカニック・クイーン! 召喚!」

 

ワイルドマンが音もなく炎上し、最初に現れたのは蛇のように長い炎の龍でした。

そして、炎の龍の眉間が紅蓮に発光、爆発し―――

 

 

 

『ひぃゃああああああはハハははっははははっははははアははっはあはははあヒャヒャハははははっハハハハッハ!!』

 

 

 

―――フィールドに狂ったような哄笑が轟きわたりました。

 

 

【ヴォルカニック・クイーン】

効果モンスター

星6/炎属性/炎族/攻2500/守1200

このカードは通常召喚できない。

相手フィールド上のモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。

1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地へ送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

また、自分のエンドフェイズ時にこのカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、自分は1000ポイントダメージを受ける。

このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

 

見た目は女の子の上半身が額から生えた炎の龍です。

バーン効果、つまり直接効果でライフを削る能力を持つ炎属性炎族のモンスターシリーズ「ヴォルカニック」の1体であり、このモンスターも例にもれず強力なバーン効果を持っています。

 

ですが私に言わせれば、この精霊(カード)の事を語る場合、そんな効果の説明はおまけでしかありません。

私の大きな転換点にもなった12歳のあの日、最初に選んだカードは心変わり(ココロちゃん)でしたが、最初に私の目の前に姿を現して話しかけてきた精霊(カード)は彼女なのですよ。

交流した時期で言えばココロちゃんより古い顔馴染みと言えます。

ですが、未だこの精霊とは分かり合える気がしません。

 

『来たあああああああ! 来た来た来た私の出番ついに来たあああ! 寂しかったよおおおおおぉぉぉおおぉぉおおおう!!』

 

彼女のテンションを表すかのごとく、竜の長い身体は出現した十代君のフィールドでグネグネウネウネ動き回り、本体である炎の女の子の眼は危うい輝きを爛々と放っています。

物理的にも精神的にも近寄りがたいモンスターの出現に、さすがの十代君も腰が引けている様子でした。

 

「な、なんだこのモンスターは?……」

 

「私の腐れ縁ともいうべきモンスターです…………まあ、仲良くしてあげてください」

 

出来ればですが。

 

「く、腐れ縁? いったいどういう『ひっどおおおおおぉおおぉぉぉおおおおい! 私の事腐れ縁だなんて!』…!?」

 

彼女は決闘(デュエル)の進行を完全に無視し、龍の長い身体をグイ~ンと伸ばしてこちらのフィールドに身を乗り出して

 

『互いに遊理ちゃん、ルカちゃんって呼び合う仲だったじゃない? カードについて熱く語り合ったじゃない? 精霊界の話で夜も眠れなくなるくらい盛り上がったじゃない!?』

 

『ひい!?』

 

フィールドを離れてはるか遠くに避難するココロちゃん。

こら逃げるなというか私を1人にしないでお願いですから。

 

 

とまあ、これが私のヴォルカニック・クイーン通称ルカちゃんです。

便利なカード、強力なカード、レアなカードとデュエルモンスターズのカードは多々ありますが、私は彼女以上に厄介な精霊(カード)を知りません。

精霊というか……まるっきり悪霊です。

 

『あの日の約束、遊理は覚えてる? 覚えてない? 私は覚えてるよ? 精霊界に行ってみたいって言ったよね? あの時の私たちは熱く燃え上がっていたよね!?』

 

「え、ええ覚えてますよ……」

 

忘れもしない、13歳の冬の日の事。

私は比喩ではなく文字通りの意味で私は熱く燃え上がったのです。

あやうく霊になって煙と共に(精)霊界に旅立ってしまうところでした。

その臨死体験以来、私の霊感というか、精霊に対する感度センサーは思いっきり振り切れ状態です。

 

『覚えてくれたんだ! 私達相性ばっちりだね! 永遠の友達だね、親友だね!』

 

「何でもいいからとにかく今は十代君のフィールドに引っ込んでください。決闘(デュエル)中です」

 

あの日以来、ルカちゃんはずっと私を(ともだち)にするチャンスを虎視眈々と狙っているのです。

つくづく油断なりません。

 

『ああん、冷たいよでも大丈夫私の熱い炎で凍った心を溶かしてあげるからさあ燃やそうすぐ焼こううねり狂う情熱のままに骨の髄まで灰も残さず恋焦がそう! バトル!』

 

「いや、まだ私のメインフェイズは終了してませんが!? 私は一時休戦を発動します」

 

 

【一時休戦】

通常魔法

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

『そんなぁあああぁぁぁ~』

 

これで何とか次のターンまではルカちゃんの脅威はしのげるはず。

ひとまず安心ですね。

 

『貴女たちはいったい誰と戦っているのよ……』

 

あ、ココロちゃん、戻ってきたんですね。

誰とって、もちろん自分自身(のデッキ)ですが?

あと、十代君。

 

「俺はついでかよ!」

 

「そんなことありません。貴方()強敵です。私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

 

暁 遊理 手札 2枚

LP 2500

フィールド セットカード 2枚 モンスターなし

 

遊城 十代 手札 5枚

LP 4000

フィールド ヴォルカニック・クイーン セットカード 1枚

 

 

「……まあ、お前も苦労してんだな」

 

「ハハ、もう慣れっこです………………お前()?」

 

「あ、れ? なんだろう? なんか遊里が他人事に思えなくて……」

 

ひたすら首をひねっている十代君。

ひょっとして彼も病んだ精霊に憑りつかれた経験が?

 

『やめてよ。こんな精霊が何人もいたら堪らないわ』

 

ココロちゃんが身を震わせてそう言います。

ですよね!

こんな精霊はルカちゃんだけですよね!

……嫌な予感しかしないのは何故でしょう?

 

「俺のターン! ドロー! 俺は魔法、ミラクル・フュージョンを発動する!」

 

 

【ミラクル・フュージョン】

通常魔法

自分のフィールド・墓地から、

「E・HERO」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

「このカードは墓地に存在するヒーローを除外して新たなヒーローを融合召喚できる! 俺は墓地のバーストレディとクレイマンを融合! 現れろ! E・HERO ランパートガンナー!」

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー】

融合・効果モンスター

星6/地属性/戦士族/攻2000/守2500

「E・HERO クレイマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが表側守備表示の場合、守備表示の状態で相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。

 

 

分厚い鎧に身を包んだ女性戦士が銃と盾を構えた守備表示でフィールドに現れます。

 

『せっかく、融合カードを奪ったのに…』

 

「そりゃ、融合モンスターを召喚する方法は融合だけじゃないでしょうよ」

 

十代君のフィールドに並んだ2体のモンスター。

対するこちらはフィールドにも手札にもモンスターはいません。

一応セットカードはありますけど、どちらも防御手段にはなりえませんし……いよいよもって巻き返しが困難になってきましたよ…

 

「さらに永続魔法、悪夢の蜃気楼を発動」

 

「っ!? そのカードは…」

 

 

【悪夢の蜃気楼】

永続魔法

相手のスタンバイフェイズ時に1度、自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローする。

この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てる。

 

 

単体で使えば単なる手札交換カードです…ですが。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「あの伏せカードは…」

 

『うん、私にも分かった。絶対非常食だよね』

 

「ですね」

 

ただし、分かったからと言ってどうすることも出来ないわけですが。

これで一時休戦の効果も消失。

 

さて私のターンです。

このターンで何とかしないといけないと負け確定なわけですが……そのためにはまずモンスターを引かないといけません。

頼みますよ私のデッキ。

逆転は望みません。

ただ、もう少し持ちこたえられるだけの力を貸してください……




僕にはハイレベルな頭脳戦やチェーンが何重にもつながるコンボとかは到底描写できないって今回はっきり思い知りました。

反面、茶番の類が多くなっています。

ヴォルカニック・クイーンは原作ではオブライエンのデッキテーマ「ヴォルカニック」シリーズのカードですが、主人公は単体でデッキに入れて(?)います。
ライバルはユベルです。

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