いや読んでくれる人が多いのは嬉しい、ですけど、なんか複雑です。
7話
先日の実技試験
無論、勉強を教えるためであり、それ以上でもそれ以下でもない……と本人は言い張ってるけど、これって人間の言うところの『通い妻』ってやつじゃないの?
そう指摘したら真っ赤な顔で枕を投げつけられた。
当然のごとく避けた。
まあ、仮にヒットしても透り抜けるだけなんだけどね。
「なんでこんなにカードの効果覚えないといけないんだよ~、自分の使うカードだけで良いじゃないかぁ」
とある日のレッド寮の一室、十代君の部屋にて。
十代君が教科書を放り出しながらぼやいてるのを遊理が呆れたように見つめている。
「自分の使うカード
そんな2人を、十代君の弟分にしてルームメイトの翔君と、同じくルームメイトの【デスコアラ】に似た風貌のレッド生、
「うう、兄貴……あんな卑怯な戦法にやられるなんて」
「珍しいこともあるもんだな。ブルーの生徒がこのレッド寮に来るなんて。しかもあの十代がこんな風にやりこめられるなんて」
翔君は恨めし気な、隼人さんは信じられないといった様子で、それぞれ遊理と十代君を観察している。
「こんなの覚えきれるかよ~」
「さすがに私も全部のカードを熟知しろとは言いません。それでも主要なカードは覚えておくべきです。決闘の最初のターンにエクスチェンジの効果で私の手札を見た時、カードの効果を知っていれば、私が伏せたカードが見せかけのブラフだと即座に気づけたでしょう」
そうなれば、十代君は次のターンでワイルドマンとは違うカードを引き当てて、
このあたりの理屈が、遊理が他の―――三沢 大地みたいな完全理論派
理論派じゃなくてもまともな思考の持ち主なら、そんなことは考えもしない。
主張しても「デッキをシャッフルしたわけでもないのに、ドローするカードが変わるわけないだろ」と突っ込まれて終わるでしょうね。
それでも遊理は変わっていただろうと割と本気で信じているみたい、いや信じていないのかな?
デッキには無限の可能性が詰まっている……なんて夢みたいなことを遊理は考えているわけじゃない。
ただ、シュレディンガーの箱並に信用していない。
遊理にとってデッキとは何が起こるか分からないブラックボックスであり、
時折、入れた覚えのないカードが偶然紛れ込んで飛び出したりするから、なおの事予想がつかないみたいね。
デッキ管理が甘いだけだと思う?
遊理ごときに管理されてあげるような素直な
少なくとも私をはじめとする遊理の元に集まってくる精霊たちはどいつもこいつも曲者だらけ。
その曲者が更なる曲者精霊を呼んで…手に負えないったらありゃしないわ。
人間の世界の諺に「類は友を呼ぶ」ってのがあるらしいけどまさにこのことよね。
この言葉に科学的根拠はない。
それでもこれは紛れもなく世界の真理の一端を示しているわ。
遊理はそのことに気づいているのかな?
「こうなりゃ遊理! もう1度俺と
「そうだ! やっちゃえ兄貴! 負けそうになったら自爆スイッチで自爆するような卑怯な奴に負けるな!」
「ちょ、自爆スイッチは卑怯じゃないです! あれは戦略に基づいた立派な戦術で……」
「遊理! こんな時間まで何をやってるの! ブルーの女子寮に戻るわよ!」
「うぇ!? 明日香さん!? どうしてここに……」
「門限過ぎているから迎えに来たのよ。ルームメイトの夜遊びは見過ごすわけにはいかないわ」
「夜遊びって、まだ7時にもなってないじゃないですか! 私は子供ですか!」
「そうだ! 帰れ帰れ! 小っちゃい子供は帰れ!」
「小っちゃくないです! ってか翔君にだけは小っちゃいとか言われたくないのですよ!」
「助かったぜ明日香~」
「ブルーの女子生徒が2人も……槍が降るかもしれないんだな」
『
「何のことですか!?」
遊理は即座に叫び返し、突然叫びだしたように見える周囲は目を丸くした。
『クリクリー』
ハネクリボーがそれを見てクリクリ笑い、私もそれにつられて笑う。
もともと私は、使えないカードばかり好んで使う変わり者という扱いでした。
しかし、この間の十代君との一戦以来、定期的にレッド寮に通うようになってからより一層レッド贔屓の奇人扱いになりました。
「納得いきません。一応、クロノス先生を破った十代君と引き分けたんですよ?」
結局、明日香さんや十代君に押し切られて、私は明日香さんに手を繋がれてレッド寮を後にすることとなりました。
本当はもう少しノルマを達成したかったんですけど仕方がありません。
一応、十代君にはきちんと復習するように言い含めておきましたけど……絶対に守る気ないですね。
昨日の夜も、勉強すっぽかしてモンスターカードの束で『引いたカードのレベルだけ怖い話をする』という謎のゲームをしてましたし。
カードでゲームするなら
私との約束なんて別に守らなくてもいい、みたいに思われてるのかも……ノヴァマスターのカードも結局受け取ってもらえなかったんですよね。
「俺は俺を選んでくれたヒーロー達と共に戦う!」なのだそうです。
格好いいなぁコンチクショウ。
それに比べて私の
『いつになく卑屈ね~。別に守らなくていい、とは十代君もそこまでは考えてないと思うよ? ただ、なんというか……子ども扱いというか、甘く見られてるのは確かかも』
やっぱりココロちゃんもそう思いますか。
事実、レッド寮の去り際にお土産として飴とかチョコとかお菓子をたくさん渡されたし……
いえ、嬉しいんですよ?
お菓子を貰えたこと自体は嬉しんです……お菓子好きですし……でも、お菓子で私の機嫌を取ろうとしたことにはいささか以上に納得しかねます。
なんでこんな扱いなんでしょう……
「大丈夫。私はちゃんと貴女の事分かっているわ」
「ありがとうございます」
でも明日香さん? その手のかかる妹を見るような目で私を見るのは止めてくれませんか?
手を放しても迷子になんかなったりしませんよ?
それなのに、しっかりと握られた手は離れる気配はありません……同い年なのに、同い年のはずなのに!
『私からすれば妥当で的を射た評価だと思うけど? 実際小さいし、実際奇人だし。いったい何を不思議に思うことがあるのやら』
いつも近くで観察していた私が言うんだから絶対よ、とココロちゃん。
奇人なのは私じゃなくて
それに繰り返すようですが私は小っちゃくないです!
周りが人達の身長が高すぎるんです。
女子の平均身長が160後半ってどう考えてもおかしいでしょうに……
『おお~見事な棚上げ。自爆スイッチをデッキに仕込む奴が変人じゃなかったらなんだっていうのよ。そんな
別に良いじゃないですかちょっとくらい変なカード入れたって!
凄いんですよ、自爆スイッチ。
このカードをデッキに入れてから私の敗北率が大幅に下がったのですよ!
問題は敗北率が下がっても勝率が全く上がってないことなのですが……まあ些細なことです。
『ダメじゃん』
ダメとか言わないでください。
『……百歩譲って遊理が変なカードばかり使うのはそういうカードに好かれているからだとしましょうか。でもね遊理、
「…………」
おのれ、必死に考えないようにしていたのに。
そんな私を生暖かい目で見下ろすココロちゃん。
「あ、そうだ。女子寮に帰る前にちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかしら?」
「もう、どうでもいいですよぅ……」
もう好きにしてください。
突然ですが、明日香さんは私のブルー女子寮におけるルームメイトです。
この世界に偶然はない、というのが私の持論です。
ならばこの縁も何かしらの意味があるはずなのですが今のところそれは分かりません。
誰かが意図した必然なのか単なる偶然なのか、真相はさておき同じ部屋で過ごすことになって自然と明日香さんとは話す機会が増えてそれなりに親密になりました。
また、親密度に比例して明日香さんの過保護度も上がりました。
明日香さん曰く「見ているとなんだか凄くハラハラする」とのこと。
同い年なんですからもっと対等な友人関係を築きたかった……って、相手がブルーの女王様の時点で対等な関係なんて築けないのですけどね。
どうしてこんな雲の上の人と同じ部屋になったのでしょう?
十代君と翔君が同じ部屋になったのと同じ理屈ですかね。
実際、十代君も明日香さんと同じく面倒見がいいんですよね……翔君が兄貴って呼び慕う気持ちもわかります。
……私も明日香さんの事を「お姉さま」って呼ぶべきなのか……
私達が立ち寄ったのは学園島の奥深くに位置している今は使われていない元特待生専用の学生寮でした。
エリート至上主義のアカデミアらしく建物は大きくて立派ですが、すでに廃墟になってます。
明日香さんは、その建物に何かしらの思い入れでもあるのかじっと見つめて……いえ、睨みつけて動きません。
かくいう私も、その建物から目が離せませんでした。
建物は見る限り、使われなくなってからそれほど月日が経ってないことが伺えます。
ほんの数年前までは現役だったのではないでしょうか。
にもかかわらず、その外観はまるで何十年も放置していたかのようにボロボロです。
明らかに経年劣化以上に何かの要因で朽ちてますね。
『なんなの此処? あからさまにダークな気配が漂ってるんだけど……』
ココロちゃんが顔をひきつらせて呻きます。
かつて十代君は
それにならって、この廃墟に渦巻いているこれを表現するならばいわば……
「『闇のゲームの匂い』がします……」
それも、数年足らずで豪華な特待生寮をボロボロに朽ちさせてしまう程度に強烈かつ濃密に。
それがまさかこんな目と鼻の先にあったなんて。
「遊理は分かるの?」
「……はい」
よく見れば、寮の入り口のところに花が供えられています。
どうやら定期的に明日香さんは此処に立ち寄っているみたいですね。
やっぱり、ここで何か良からぬことがあったんでしょう。
「数年前、この寮で何人もの生徒が行方不明になる事件が起きたの」
「……それが廃寮になった原因ですか」
恐ろしい話です。
こうして明日香さんが様子を見に来ているということは、その消えた生徒の中に近しい、もしくは親しい人がいたのでしょう。
恋人とかそういう雰囲気ではなさそうなので、おそらく血縁。
事件が起こったのは数年前で、消えたのは此処に通っていた生徒でしょうからおそらく特待生のエリート。
しかも建物がオベリスクブルーの男子寮に似ていることから推察するに……
「消えたのはひょっとして兄ですか?」
明日香さんの顔が驚愕に染まりました。
ほとんど勘頼みの当てずっぽうだったのですが……ビンゴみたいですね。
『時々、遊理って実は
ココロちゃんが呆れたように言います。
心なんて読めません、ただ臆病で、それ故に過敏なだけです。
「遊理、どうして分かっ…………待って! 話し声が聞こえるわ」
急に周囲を警戒する明日香さん。
それにならって私も意識を集中します。
確かに、馴染みのない
……そして馴染みのある
「しかし、隼人が来たがるなんて意外だぜ。いつもは授業に出るのも面倒くさがるくせによ」
「別に俺、出不精でも勉強が嫌いなわけでもないよ? ただ……」
「ただ?」
「嫌なんだ、
「勝つ方法以外に
「え、えっと…あるよきっと、例えば『闇のゲーム』とか…」
そんな会話をしながら現れたのは、ついさっき、レッド寮で別れたばかりのオシリス三人組でした。
勉強してって言ったのに……
「貴方達!」
「明日香!? それに遊理も!? なんでこんなところに」
「それはこっちのセリフです。勉強どうしたんですか?」
って、ここにいる時点で聞くまでもありませんでしたね。
あんなに拝み倒してお願いしたのに、結局無駄でしたか……
「こ、これはあれだ! 勉強の一環として夜の探検……じゃなくて噂の心霊スポットツアー……でもなくて闇のゲームの実地調査をだな……だから泣くな!」
「泣いてません!」
泣きたい気分なのは確かですけど。
ところで、十代君のそのセリフは子供をあやすような物言いに聞こえるんですが気のせいですかね?
「貴方達、誰から聞いたかは知らないけど、知ってるんでしょう? 何人もの生徒が行方不明になってるって」
そう言って十代君に詰め寄る明日香さん。
口調こそ厳しいですが、これは心配の裏返しですね。
「そんな迷信、信じないね」
十代君?
貴方ついさっき、自分がなんて言ったか覚えてますか?
「
十代君は確かに豪胆ですが、同時に繊細でもあります。
ちゃんと向き合いさえすればすぐにでも感じ取り理解できるはずなのです。
「闇のゲームは実在します」
「お、脅かそうったってそうはいかないよ!」
翔君が前に出て言いますが、声がどうしようもなく震えています。
隼人さんに至っては全身がガクブル状態……よく十代君について来れましたね。
「闇のゲーム云々は別にしても、生徒の行方不明事件は本当よ。遊び半分で来る場所じゃない。それに此処は立ち入り禁止のはず。学校に知られたら騒ぎになるわ」
「そんな怖くて探検なんてできないぜ」
「真剣に聞きなさい!」
「なんだよ? やけに絡むなぁ…」
血相を変えて叫ぶ明日香さんを怪訝な表情で見つめ返す十代君。
たかが迷信になんでそこまでムキになるのか分からないといった様子です。
本気で信じていませんね。
「そっちこそ、質問に答えてないぜ。お前等はどうしてこんなところにいるんだよ?」
人の事言えるのかよ、と暗に言う十代君。
返答に窮する明日香さん。
「……勝手にすればいいわ」
「あ、待ってください明日香さん!」
踵を返す明日香さんを私は小走りで追いかけます。
と、明日香さんはふと立ち止まり
「ここで消えた生徒の中には、私の兄もいるの」
それだけ言うと、今度こそ私たちはその場を後にするのでした。
その後、十代君達がどうしたかはわかりません。
出来れば思いとどまってくれるとうれしいんですが……
この時、私はうっかりしていました。
意識を集中した時に感じた十代君とは別の
旧特待生寮の消えた生徒の噂は、此処デュエルアカデミアではそれなりに有名です。
それこそ気合を入れて調べなくても、すぐに耳に止まる程度には。
しかし噂の内容は、闇のゲームで負けた生徒が消えたとか、強力な
十代君が信じないのも無理ないですね。
故にこの話はどこかの噂好きが流した作り話であると考えられていて、私もずっとそう思ってました。
しかし、実際に件の廃墟を目の当たりにして私は逆にこう思うのです。
『噂は全て作り話である』という話の方こそ真実を隠ぺいするために誰かが流した作り話なのではないかと。
(どうしてこんなことに……)
明日香さんが倒れています。
そして私の目の前には突如目の前に現れた、唾の広い黒い帽子と黒いコートを身に纏った大男が立ちはだかっています。
目の部分だけを覆うように仮面をかぶっていて感情が読み取れません。
やたらと大きくてゴツいデュエルディスクをプロテクターの様に腕と胸に装着していて、あからさまにただ者じゃない気配。
明日香さんは、その男がコートのポケットから取り出したピラミッドを逆さにしたような形の物から発せられた謎の光を浴びせられ、気絶させられたのでした。
私が無事なのは明日香さんに庇われたからです。
「な、何なんですか貴方は?」
姿もそうですが、
対峙しただけで分かります。
ものすごい実戦経験の差と、
「ふふふ、貴様等には、遊城 十代を誘き出す餌になってもらおう…」
(―――ッ!? 狙いは十代君ですか!)
『また十代君か……人気者だね十代君』
顔をひきつらせつつも呆れたようにココロちゃん。
ちっとも羨ましくないですが。
そんなことはさておき気になるのはこの男の素性です。
「貴方は何者ですか?」
「私は闇の
「『!?』」
闇の
驚愕を隠せない私とココロちゃん。
『こいついったい何者?』
「(分からない、けど大体予想はつきます)」
おそらく、誰かに金で雇われた
この世界において、
しかし、一口に職業
テレビなどで華々しく
学校などで時代の
大会などに出て賞金を狙う賞金稼ぎ、などが合法的な職業
アンティルールを持ちかけて、レアカードを狩るレアハンター。
賭博の一環として
そんな犯罪
やることなすこと全てうまくいく補正がかかった犯罪者ですので、
圧倒的強運と、活性化された身体能力で切り抜けられてしまいます。
撃った弾丸は悉くはずれ、爆発に巻き込まれても無傷で生還、まるで映画の主人公みたいな補正に守られた犯罪者にどう対抗するか。
そんな需要に駆られて誕生したのが
意外と多い、というかプロも副業でやってたりしますね。
相手を超える運命力で追い詰め、
しかも目の前のタイタンとやらは、ただの請負人ではなく闇の
幸運どころか魂まるごとはぎ取るのでしょうか。
明日香さんは無事なんですかね。
というか、こんな奴を差し向けられる十代君は何処のどなたにどんな恨みを……
「餌は多いに越したことはない。お前も眠ってもらおう……」
「しまっ―――!?」
ごちゃごちゃ考えている暇があったら、この窮地を脱する方法を考えるべきでした!
再び逆ピラミッド型の小道具が光りだして、それを浴びた私の意識は急速に遠のいて行ったのでした。
『―――理、遊理!』
「うにゃ、ちょっ、痛っ……ううん」
気が付けば、ココロちゃんが私の頭に蹴りを入れまくっていました。
この世界においては実体を持たない精霊であるココロちゃんですが、私限定で触ることが可能なのです。
もっとも、特異なのはココロちゃんではなく私の方らしいのですが。
『私が特別
正直、メリットのない(むしろ
起こし方にはいろいろと物申したい気分ですが。
『キスの方がよかった?』
「心の底より遠慮します! もう少し他の選択はないんですか!? で?……ここは?」
そこは棺の中でした。
身体にこれと言った外傷は見当たらないですが、両手が縛られていて身動きが取れません。
そしてすぐ隣には同じように縛られている明日香さん。
まだ気がついてはいない様ですが見た限りこちらも無事ですね。
『なんかタイミング逃したっぽいけど、それでも一応聞いとくわ、生きてる?』
「生きてますよ。明日香さんも気がついてはいないものの無事みたいです。ふふ、棺桶の中の生者。いったい何の暗喩なのやら」
【浅すぎた墓穴】、【早すぎた埋葬】。
いろいろ連想できそうですね。
思わず乾いた笑みがこぼれます。
『なら、私の呼びかけはさしずめ【リビングデットの呼び声】ね。……って、なんか本気で余裕そうね』
ココロちゃんがほっとしたように息をつきます。
「……あの男は?」
私は周囲を警戒しつつココロちゃんに尋ねました。
辺りに漂う妖気というか闇の気配が濃密すぎて
明らかに旧特待生寮内部ですね。
えらい場所に連れ込まれちゃいました。
『ん、今はいないみたい』
それはチャンスですね。
今のうちに、明日香さんを起こしてとっとと逃げちゃいましょう。
幸い、縛られているのは両手だけで足は縛られてないようですし、走って逃げるくらいなら余裕のはず。
私はそう思って棺から抜け出して……
「……この散らばっているカードは何ですか?」
『あ~、それ? もちろん遊理のデッキ。棺桶に放り込まれた時にデッキケースから零れ落ちたのを見てたよ』
「そんなことだろうと思ってましたよ!」
もちろんって何ですかココロちゃん。
うう、
『裏目に出なかったことあったっけ?』
「やかましい!」
ココロちゃんに叫び返しつつ、私はいそいそと棺桶を抜け出します。
カードを置いていくわけにはいきません。
同じカードが存在しないこの世界において、デッキは文字通り掛け替えが効かないのですから。
しかし、改めて周囲を見渡してみると学生寮の部屋というよりなんか洞窟みたいな空間です。
壁もゴツゴツの岩肌がむき出しになってますし、寮の地下になんでこんな空間が……ってそんなことを考えている場合ではありません。
私はてんやわんやしながら手首の拘束をほどいて、部屋をちょこちょこ駆け回ってカードをひたすら回収して……
「何をしている? 小娘」
……ようやく全部拾い終わったところにタイタンさんが戻ってきてしまいました。
うん、こうなることは分かってました。
世の中そんな上手くいくわけないのです。
「驚いたな。もうしばらくは目を覚まさないと思っていたが」
「わ、私は眠りが浅いのですよ……」
まさか
ということはこの大男、
「まあいい、もう一度眠って……」
「ま、待った!」
私はタイタンさんが謎の光を放つ小道具を取り出す前にストップをかけます。
「なんだ?」
「わ、私と
私は床に頭をこすり付けるように限界まで下げて
「どうか! 私と明日香さんを見逃してください!!」
五体投地、全身全霊をかけた土下座でした。
冷静な思考による行動ではありません。
ほとんどヤケクソです。
『腰、低っ!』
何とでも言いなさい。
助けてもらえるならいくらでも下手に出るのですよ。
「いいだろう……ただし、私が勝ったらカードは全ておいて行ってもらおう」
「ええ!?」
そんな!
カードに代えは効かないのに!
「それだけはご勘弁を!」
「ダメだ」
く、私はどうすれば!?
『勝てばいいじゃん』
ココロちゃんが正論過ぎる突っ込みを放ちますが、それでも勝てる気がしないんですよ。
ですが、それでもやるしかありません。
「ふふふ、覚悟は決まったようだな……では闇のゲームを始めると「あ、待ってください」……何だ?」
「デュエルディスク、貸してください」
「…………」
『……なぜ、
放っておいてください。
タイタンさんは快く貸してくださいました。
闇の
「「
さあ、紆余曲折ありましたが、気を取り直して
暁 遊理
LP 4000
タイタン
LP 4000
「レディーファーストだ。先攻は譲ってやろう」
「ホントですか!?」
やった!
いや~、最初に見たときは怖い人かと思いましたけど、案外本当に良い人かもしれません。
『……子ども扱いされて舐められてるだけなんじゃ』
「私のターン、ドロー!」
私はココロちゃんの呟きを聞かなかったことにしました。
今は
手札は
想定通りですね……想定通り過ぎて涙が出そうです。
これで負けたら奪われちゃうっていうのに、こんな時でも力を貸してくれない私のデッキって……って泣き言を言っている暇はありませんね。
不利なのはいつもの事、いつも通り引っくり返すだけです。
「私は永続魔法、天変地異を発動します!」
「『何ぃ!?』」
タイタンさんとココロちゃんが揃って驚きの声を上げました。
【天変地異】
永続魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーはデッキを裏返しにしてデュエルを進行する。
この効果はいわば、お互いのデッキトップを常に確認できるようにするというものです。
前世では
で、なんで私がこんなカードをデッキに入れているかというと……
「フッフッフ、やはり
デッキトップにはニヤリ笑いの顔が付いた緑色の壺のイラストが描かれたカードが。
発動条件もコストも一切なしで手札を1枚増やしてくれる元祖にして最高のドローソースカード【強欲な壺】!
「次のターンのドローフェイズが楽しみですね。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
実は、
下手すれば前世でも使ったことがないかも。
禁止カードでしたし。
ガラにもなくワクワクしています。
『不憫すぎて涙出てきた……』
目頭を押さえるココロちゃん。
いろいろ物申したいですが、それよりもまずは相手の、タイタンさんのデッキトップの確認しなければ。
私のところからじゃ、距離が空いているうえに周囲が薄暗いのでよく見えないんですよね。
墓地とかもそうですが、ルール上では公開情報のはずなのに実戦では確認できないなんてことはざらにあるんですよ。
私はじっくりと目を凝らして……え~と何々、ジェノサイドキング……
「私のターン、ドロー!」
「待って! せめてそのカードがデーモンなのかサーモンなのか確認させてください!」
一番肝心な部分を確認する前にドローされちゃいました!
「見せるわけないだろう」
デスヨネ~……目先の
……本当にどっちでしょう?
個人的にはシャケであってほしい、というかデーモンであってほしくないです。
もし、デーモンだったら……デーモンデッキだったら。
「……私はシャドウナイトデーモンを召喚する」
現れたのは、全身を西洋風の甲冑に身を包み、鋭い剣と爪を装備した悪魔族モンスター。
あ、ダメです。
しかも、チェスデーモン……
「リ、リバースカードオープン! 月の書! 発動!」
私は絶望しつつも、リバースカードを発動します。
無駄であることは重々承知、それでもやらないよりはマシ、そんな心境でした。
【月の書】
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
「モンスター1体を裏側守備表示に変更します!」
「ふ、ならばシャドウナイトデーモンの効果発動」
【シャドウナイトデーモン】
効果モンスター
星4/風属性/悪魔族/攻2000/守1600
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に900ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。
3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが相手プレイヤーに与えるダメージは半分になる。
「この場においてはサイコロの代わりにこのルーレットを用いる。さあ回れ、運命のルーレットよ」
タイタンさんのすぐ横に浮かびあかった1から6の数字に、炎が円を描くように順番に灯っていきます。
ルーレットはびっくりするほど早く止まりました。
当然のごとく「3」の数字に。
「ルーレットの出目は3、よって月の書の効果は無効となり破壊される」
あっさり無効化されて破壊された月の書。
これで私のフィールドはがら空き。
『遊理……ひょっとして状況かなり悪い?』
「言うまでもなく最悪です」
チェスデーモン。
サイコロデーモンとも呼ばれ、その名の通りサイコロを用いたギャンブル効果を持つモンスター群。
そして私は、今まで一度たりともこの手のサイコロやコインを用いたギャンブルカードを対戦相手が使って失敗したところを見たことがありません。
時の魔術師のタイムマジック成功率は100パーセントだったし、アルカナフォースは当然正位置、ゾークは毎ターンサンダーボルトを放ってくる上、リボルバードラゴンはトリガーハッピーで、ダイスポッドの反転召喚はホルアクティを召喚されるのと同義でした。
はっきり言いましょう。
チェスデーモン使いのタイタンさんと私の相性はこの上なく
『……どうするの?』
「どうしましょう?」
むしろこっちが教えてほしいくらいです。
ふと、シャドウナイトデーモンが容赦なく斬りかかってきました。
私は絶望と主にそれを受け止めるのでした。
本当は決闘パートと合わせて連続投稿しようと思ってましたが、あまり投稿間隔をあけると失踪を疑われそうだったのでやむなく。
なるべく早く次回投稿したいです。