転生者・暁 遊理の決闘考察   作:T・P・R

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遅れました。
というのも、当初考えていたコンボが不可能だと後日解って急遽内容を変更する羽目に……
チェスデーモンがフィールドだけじゃなく墓地からの効果にも反応するなんて聞いてませんよ。


8話

「速攻魔法! エネミーコントローラー! これで相手のモンスターの表示形式を」

 

「私のシャドウナイトデーモンが効果の対象になった時、ルーレットが回る。ルーレットの出目は3、よってエネミーコントローラーの効果を無効にし、破壊!」

 

「反転したX・E・N・Oのリバース効果発「デーモンの効果発動! ルーレットの出目は当然3! 無効、破壊!」ってせめて最後まで言わせてください!」

 

 

手も足も出ない、とはまさにこのこと。

 

私とタイタンさんの決闘(デュエル)は終始一方的なのでした。

何なんでしょうね、この決して開かない鉄の扉を爪楊枝で必死に突き刺そうとしているかのような絶望感は。

 

 

暁 遊理 手札 1枚

LP 1000

フィールド モンスターなし 永続魔法【天変地異】 セットカード 3枚

 

タイタン 手札 4枚

LP 3000

フィールド シャドウナイトデーモン ジェノサイドキングデーモン 永続魔法【デーモンの宣告】 セットカード 1枚

 

フィールド【万魔殿-悪魔の巣窟-】

 

 

【デーモンの宣告】

永続魔法

1ターンに1度だけ、500ライフポイントを払いカード名を宣言する事ができる。

その場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、宣言したカードだった場合手札に加える。

違った場合はめくったカードを墓地へ送る。

 

 

万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟-】

フィールド魔法

「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。

戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードをデッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

 

 

フィールドも相手の得意な戦場に塗り替えられしまい、完全アウェー。

ただでさえなす術がないのに加えて、せっかく発動した天変地異もデーモンの宣告で逆利用されるという悪循環。

どうしてこうなったし。

というか、なんで宣告が入ってるんですか!

確かにデーモンってつくけどデーモンあんまり関係ないでしょうに。

デーモンギャンブルデッキなのですか?

 

私が……この私がギャンブルで勝てるわけないじゃないですか。

 

「もう諦めてもいいかな? 最後に壺も使えたし」

 

『ダメよ!? 頑張って、というかそんなささやかなことで満足しないでよ! 遊理のサティスファクションはこれからよ!』

 

そんなこと言われても、いつもならとっくに諦めている状況なんですが。

でもまあ、今回は精霊(カード)がかかってるわけで、諦めるわけにはいけないのも確かです。

 

もう少し挑戦してみますかね。

 

「次こそは……次こそは」

 

『い、いやねえ? もうルーレットで勝つのは無理なんじゃない? 諦めないにしても別の可能性を模索すべきというか』

 

「それでもルーレットで勝たないことにはどうしようもないんですよ」

 

私のデッキはリバースコントロール、相手のモンスターを奪うことに特化しています。

つまりカードのほとんどがモンスターを対象にするものばかり、なのでチェスデーモンのギャンブルに勝たないことには私に勝機は訪れないのですよ。

 

そんな風に気を引き締めなおしている私を見て何を思ったのかタイタンさんは不敵な笑みを浮かべて

 

「何を1人でぶつぶつと……恐怖のあまり気でもふれたか?」

 

「……まあ、そんな感じですかね」

 

「そうか。ならばもう諦めて楽になったらどうだ? 自分の身体をよく見てみるがいい、闇に呑まれてほとんど残ってはいまい」

 

闇のゲームであるらしいこの決闘(デュエル)ではライフポイントが減るにつれて身体がどんどん消えていくルールなのだそうで。

そして現在残りライフが1000ポイントである私は、胴体の大部分が消えてしまい、頭と手首から先と足しか残ってません。

 

でもそれがどうしたっていうんですか。

 

「まだ立ち上がる足があります。カードをドローする手があります。考える頭も残ってるのです。ライフはもちろん手札もデッキも尽きてない。うん、諦めるにはまだまだ早いですね」

 

「虚勢を張るのはよせ……身体を抱えて震えているではないか。闇のゲームは精神を浮き彫りにする。怯えを、恐怖を隠すことは不可能だ」

 

「怯えてなんかいません! 震えてるのはあれです。こ、これは作戦なんです」

 

決して怖くて震えてるわけじゃないのです!

本当ですよ?

 

『怯えたふりをするのにいったいどんな意味があるのよ……同情でも誘うつもり?』

 

プロ相手にそんな手が通用するわけないじゃない、とココロちゃん。

 

「う、うそじゃないもん! 怖くないもん!」

 

生憎と地獄ならとっくの昔に体験させてもらったことがありますからね、ルカちゃんに。

地獄のデーモンがなんだ!

闇のゲームどんとこいなのです!

 

「だ、断じてビビってなんかにゃいのです!」

 

「『…………』」

 

タイタンさんの目もとは仮面で隠されていて、その表情はうかがい知ることはできません。

しかし、それでも私は憐みの視線を感じ取ることが出来ました。

良いじゃないですか、ちょっとくらい噛んでも!

ビビって無くても緊張はするんです!

 

「……ならば見せてやろう、本物の地獄というものを。私のターン、ドロー」

 

あ、スルーしてくれました。

やっぱり良い人かもしれません。

 

永続魔法【天変地異】の効果のおかげで、タイタンさんが何をドローしたのか確認できます。

プリズンクインデーモン……チェスデーモン最強のモンスターを早くも手札に呼びましたか。

ただでさえ絶望的なのにさらなるピンチ。

 

しかし同時にこれはチャンスでもあります。

 

「私は、フィールドの2体のモンスターを生贄にささげる。現れろ! 我が最強のデーモン、プリズンクインデーモン!」

 

ジェノサイドキングデーモンとシャドウナイトデーモンをリリースして現れたのは、細身で高貴な雰囲気を漂わせる女性デーモンです。

 

 

【プリズンクインデーモン】

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2600/守1700

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

フィールド上に「万魔殿-悪魔の巣窟-」が存在し、このカードが墓地に存在する場合、自分のスタンバイフェイズ毎にフィールド上に存在するレベル4以下の悪魔族モンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。

 

 

『うわ、絶望的』

 

「いえ、むしろ助かりました。これは希望です」

 

『?』

 

「もはやライフを払って宣告の効果を使うまでもない。これで終わりだ! プリズンクインデーモンの攻撃! 獄氷滅葬!」

 

「この瞬間、(トラップ)カードオープン!」

 

「何!? 防御のカードをセットしていたのか!」

 

警戒するタイタンさんですが、オープンしたカードを目にして目が点になった……ように思いました。

仮面付けているので解りませんが。

 

 

【ゴブリンのやりくり上手】

通常罠

自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を自分のデッキからドローし、自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻す。

 

 

「発動! ゴブリンのやりくり上手!」

 

「ふざけているのか!? 今更そんなカードで何になる!」

 

「何とかするんです! さらに2枚目のゴブリンのやりくり上手を発動! からの~、最後のリバースカードをチェーン発動! 非常食!」

 

「!?」

 

 

【非常食】

速攻魔法

このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「非常食の効果により、たった今発動したゴブリンのやりくり上手2枚と天変地異を墓地に送り、ライフを3000回復します!」

 

 

暁 遊理

LP 1000 → 4000

 

 

回復直後、プリズンクインデーモン攻撃がヒット!

強烈、ですが回復した今のライフなら持ちこたえられるのです!

 

 

暁 遊理

LP 4000 → 1400

 

 

「セーフ!」

 

「っく、おのれ!」

 

タイタンさんは悔しそうに唇をゆがめます。

 

『油断してくれて助かったね。相手がセットカードに無警戒じゃなかったらこうはいかなかったわ』

 

「油断したんじゃなくて、油断させたんですよ。怯えたふり作戦が上手くいったんです」

 

同情は誘えませんでしたが、油断(プレイミス)は誘えたようです。

ついでに天変地異の情報アドバンテージも地味に効いてます。

相手のデッキトップを一方的に知れたのは大きいのですよ。

手札が分かってると対処もしやすいです。

 

『一方的? 天変地異のデッキトップ公開効果は双方向のはず……!?』

 

怪訝な顔を私に向けたココロちゃんの顔が引きつりました。

ふっふっふ、どうやら気づいたようですね。

私の怯えたふり作戦の陰に隠したもう1つの華麗なる作戦に。

 

タイタンさんも気づいたらしく目を見開きました……仮面越しなのでたぶんですけど。

 

「こ、小娘! もしや貴様、天変地異を発動した時から……!?」

 

「言ったはずですよ? これは作戦だって」

 

私は別に伊達や酔狂で闇のゲームに怯えているふりをしていたわけではないのですよ。

その目的は、タイタンさんの油断を誘うためともう1つ、震える身体を抑えていると見せかけて、()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気づかせないことです。

 

実際気づいてなかったみたいですしね。

お互いにデッキトップを公開して手札が筒抜け状態のはずなのに、こちらが何をセットしていたのか解らなかったのですから。

お蔭で、意表を突くことが出来ました。

 

『いくらなんでもせこすぎよ!?』

 

「卑劣な…!」

 

「はっはっは、なんとでも言いなさいなのですよ~」

 

 

過去、対戦相手に「ちょっと墓地のカード確認させてもらっていいですか?」と聞いて町中の嗤い者になったことがあります。

 

決闘(デュエル)の最中に何言ってるのバカじゃないのか? と

 

公開情報だからって、それが決闘(デュエル)中にいつでも確認できるわけじゃないというのは、前世と今世の対戦の大きな違いの1つです。

何故なら、私たちはカードゲーマーではなく決闘者(デュエリスト)であり、行うのは単なる遊戯(ゲーム)ではなく決闘(デュエル)なのですから。

 

ごちゃごちゃ理屈を並べたてましたけど、要するにこういうことです。

 

 

「私は悪くない!」

 

それでももしこの場に悪い奴がいるとすれば、それは私を怯えるだけの小娘と油断してちゃんと確認しなかったタイタンさんなのです!

文句があるなら、審判かもしくは警察でも連れて来いってんですよ!

ただし、その場合捕まるのは闇のゲームでアンティをふっかけてきたタイタンさんの方ですけどね。

法廷では加害者より被害者の方が圧倒的に強者なのです。

 

「見損なったぞ! 決闘者(デュエリスト)の誇りはないのか!」

 

「貴方には言われたくないですね。闇の決闘者(デュエリスト)……いえ、()()闇の決闘者(デュエリスト)さん?」

 

「っ!?」

 

タイタンさんが目に見えて狼狽えました。

解りやすい人ですね、何のための仮面なのやら。

 

『……どういうこと?』

 

「どういうことも何も、もしタイタンさんが本物であるなら、ココロちゃんが見えないわけがないということですよ」

 

『……そういえば』

 

私の周囲をふよふよ飛んでいるココロちゃんに、タイタンさんは終始無反応でした。

 

闇のゲームを実践できるほど(バー)に精通しているなら、精霊(カー)の存在を認知できないなんてあるわけないのです。

つまりタイタンさんは偽物、ペテン師や催眠術師の類だということです。

こうしてライフ減少により身体が消えていくのも、単なる視覚と暗示を応用したトリックでしかないのですよ。

決闘者(デュエリスト)の誇りが聞いてあきれます。

 

「貴方は闇の決闘者(デュエリスト)なんかじゃありません! ただの嘘つきのペテン師です。この卑怯者が!」

 

「貴様にだけは言われたくないわ!」

 

『どっちもどっちよ……ある意味これも類友なのかしらね』

 

ギリッ……歯をきしませる音が響きました。

タイタンさんです。

憤怒の形相を浮かべているのが仮面越しでもわかります。

 

「……どうやら私は貴様の事を少々見誤っていたようだ。よろしい、ならばこれはもはや決闘(デュエル)ではなく誅伐だ」

 

「いいですね、正直、決闘(デュエル)では勝てそうになかったんですが、誅伐なら何とかなりそうです」

 

ライフこそ崖っぷちですが、これでなんとなく希望も見えてきましたよ。

 

『……最低ね…そんなにしてまで勝ちたいの?』

 

軽蔑したようにいうココロちゃんに私は返答を返しません。

しかし、勝ちたいのは確かです。

ようやく希望が見えてきたところなんです。

こんなときに諦めるほど私は潔くないのですよ。

 

それに希望は他にもありますしね。

希望というか、不確定要素というか。

 

私はちらりと自分の手札を見やりながら思考を巡らせます。

そこには私に馴染みのないモンスターがいました。

 

 

【エトワール・サイバー】

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が600ポイントアップする。

 

 

当然私のカードではありません。

これは明日香さんのカードですね。

何かの拍子に紛れ込んだみたいです。

 

おそらくこの場所にバラかれたデッキを拾い集めた時ですね。

その時に気絶した明日香さんが落としたカードもあったんでしょう。

普通に考えれば1枚1枚確認している暇がなかったが故の事故ですが、私はこれを単なる事故だとは思いませんでした。

 

明日香さんのカードが私のデッキに紛れ込んだのは、精霊(カード)の意思。

もし勝機があるとすればこれでしょうね。

 

「効果処理を行います。非常食の効果で天変地異が墓地に送られたことにより、ひっくり返っていたデッキが元に戻ります。さらに発動したゴブリンのやりくり上手の効果、自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を自分のデッキからドローします。墓地のやりくり上手の数はたった今非常食のコストになった2枚、よって3枚ドロー!」

 

これぞ一気に手札を補充して圧倒的なハンド・アドバンテージを得るドローコンボ、通称『やりくりターボ』です。

非常に強力なコンボではあるのですが、このコンボを成立させるのに必要なカードであるやりくり上手と非常食はいずれも単体では活用しづらいカードであるため、実際デッキに仕込んで活用している決闘者(デュエリスト)はほとんど見ませんね。

ちなみに私は何故入れているかというと、この手の(単体では)使えないカードとはそれなりに好相性であるがためです。

 

閑話休題。

 

私はデッキトップのカードを触った時、感覚的に理解しました。

これは明日香さんのカードだと。

さて、お願いですよ明日香さんのカード。

明日香さんを助けるためにもどうか力を貸してください。

 

そんな祈るような期待するような心持でドローしたカードは……

 

 

【ドゥーブルパッセ】

通常罠

自分フィールド上の表側攻撃表示モンスター1体が相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。

そのモンスターの攻撃は自分への直接攻撃になる。

その後、攻撃対象になったモンスターはこのターン相手に直接攻撃をすることができる。

 

 

「…………うん、これはあれですね! 明日香さんのカードはきっと私に「力を合わせて一緒に戦おう」って言ってくれてるのですよ!」

 

『そうなの? 私には「雑魚ならせめて盾として役に立て」と言ってるようにしか思えないんだけど』

 

言わないでください!

ちなみに他の2枚のカードは一時休戦、ギブ&テイクでした。

 

「…やりくり上手の効果処理を続行。自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻します」

 

戻すのはもちろん今1番要らないカードです。

さらばドゥーブル、貴方の犠牲は無駄にしません。

そして2度と私の手札に来るな。

 

「さて、気を取り直して2枚目のやりくり上手の効果、再び私は3枚ドロー、そして1枚をデッキの1番下に戻します」

 

これで手札は5枚……ですが、逆転できるカードはありません。

これだけドローしてもダメですか……

 

「どうやら望んだカードは来なかったようだな。私は手札より、二重魔法を発動する」

 

 

二重魔法(ダブルマジック)

通常魔法

手札から魔法カードを1枚捨て、相手の墓地の魔法カード1枚を選択して発動できる。

選択した魔法カードを自分フィールド上の正しいカードゾーンに置き、使用する。

 

 

「コストとして手札から魔法カード1枚を墓地に送り、貴様の使用した魔法カードをこのターン使用する。使用するのは非常食、デーモンの宣告を墓地に送りライフを1000回復」

 

 

タイタン

LP 3000 → 4000

 

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 




良い子はルールとマナーを守って、楽しく決闘(デュエル)しよう!!

…タグに外道を追加すべきか検討中。

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