外周区にて   作:えるごみ

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処女作筆おろしどこもかしこも新しい新作短編です


不幸の中の幸福

 夕暮れ時のとある今にも崩れそうなボロアパートの一室。そこには2人の少女がいた。方や黒髪のショートカットに額に包帯を巻いたかわいらしい女の子。もう一方は金髪に後ろの方でツインピッグテールに髪を止めた碧眼の女の子だ。こちらも大変にかわいらしい。そして黒髪の子が金髪の子に向かって一方的に話しかけているようだった。

 

「————10年前、人類は戦争に負けた。人間が人間以外と戦うことになった初めての戦争。相手はガストレア。ゾンビの怪物バージョンみたいなやつだ。体液を注入されて、しばらくすると巨大な怪物に変化してしまう。そうなった怪物はまた他の人を襲い始める。かつての記憶は無くなってしまうのだろう。それとも、記憶があり感情があった上で、食べたいとか感染させたいって欲に負けているのか。だとすると、とても悲しい話だ。それはそうと人類は敗北した。しかし終戦と言っても賠償金を払って、不平等な条約を結ばれてハイ、終わりと言う訳にはいかない。何せ、相手は意思の疎通が出来ない怪物である。なので人類はガストレア達から身を守るためにモノリスというガストレアが嫌う金属……あれ?嫌う磁場を出す金属だったかな?…………まぁ、どっちでもいいか。バラニウムと言う金属をつかって結界を作りその中に引きこもった。人類総引き篭もり時代の始まりだね。ところでこのモノリスという代物。バラニウムのブロックをたくさん積み重ねて出来た巨大な板みたいなやつなんだがこの板と板には隙間があってそこから偶にガストレアが入って来てしまう事がある。通常は板が無いと言ってもバラニウムの磁場が出ているからガストレアは入ってこれない。だけど板と板の隙間の丁度真ん中辺りを運良く通って入って来てしまう奴がいる。他にも磁場届かない程空高くからあるいは地面のはるか下からなんて事もできるにはできるらしい。で、その入って来てしまったガストレアを狩るのが民警だ。民警は大人と呪われた子供たちのペアで活動していて—————

……………………って、聞いてる?」

 

 有栖(ありす)はそこまで話したところで、折りたたみ式の小さい丸テーブルの向こう側でこの講義を聞かせている相手、(たちばな)千鳥(ちどり)が船を漕いでいることに気づいた。千鳥は目をしょぼしょぼさせながら小さく欠伸をしながら答えた。

 

「ふぁあ、今日の晩御飯が親子丼だって話でしょ?」

「いつ誰がそんな話をした!?」

 

 有栖はここまで話して来たのは何だったんだと悲しくなった。なるべくわかりやすく話そうと思って色々考えながら話してたのに。その悲しみを込めてジトッとした眼差しで見つめてやると、千鳥が口を尖らせて反論してくる。

 

「もっと簡単に話してよー。有栖の話は難しいよー」

「あぁ、もう。なら、箇条書きで言う?変な表現だな……。ま、いいか。ちゃんと聞いてろよ!」

「うん!」

「・感染すると怪物になるガストレアウィルスと言うのが発生する。

 ・ガストレアが増えすぎてどうしようもなくなった人類はガストレアが嫌う物で作った結界に引き篭もる。

 ・でも偶に結界に入ってくるガストレアもいてそれを倒すのが民警。

 ・民警は大人と呪われた子供たちのペアで活動している。

 

 ここまでは分かった?」

 

 千鳥の顔を見るとそこには清々しいの笑み。そうだ、いくら千鳥がバカと言ってもここまで簡潔に話せば伝わるに決まっている。そう思い、肯定の言葉を待つ。

 

「わかんにゃい」

 

 期待は見事に裏切られた。

 

「な、何故だ?」

「何故って言われてもわかんないものはわかんないー」

 

 これでもわからないなら、もうどうしようも無いじゃないか!と絶望のあまり、机に突っ伏すとちょうど玄関の開く音が鳴った。ただいまーと聞きなれた声もした。住人の一人が帰って来たみたいだ。有栖が気力を振り絞って顔を上げるとそこにはこのバカ(千鳥)の教育を頼んで来た人物、(たちばな)芹花(せりか)が夕飯の買い出しから帰って来ていた。床に食料品の詰まっって重くなったビニール袋を置き、靴を脱いでいる芹花の腰に有栖は思わずちょっと涙目になりながら縋り付く。

 

「芹花!千鳥に何か教えるなんて私には無理だよ!他を当たってくれ!」

「はぁ、有栖ちゃんでも無理となると、どうしようかしら」

「もう無理だ諦めよう千鳥に何かを教えるなんて不可能だ。人類には決して出来ない事だって存在するんだ」

 

 例えば独力で空を飛ぶとかマグマの中を生身で泳ぐとか、そういうの。きっと千鳥に学問を教えることもそれに当たるのだ。今まで芹花が返ってくるまでの2時間ほどを千鳥の勉強に費やしてきたけど何の手ごたえも感じていない。暖簾に腕押し、糠に釘、千鳥に学問。できない事をしたって時間の無駄だ。

 

「でも、このままじゃまずいでしょう?」

「う、まぁ、それは確かに。簡単に騙されてホイホイ誘拐とかされそうだし」

「流石にそんな事ないよー!」

 

 レジ袋を玄関に置いたまま二人は居間まで来ると机を挟んで向き合い千鳥の将来がどうとか勉強させる必要があるかとか話していた。始め、有栖たちの会議が終わるのを待っていた千鳥だったが飽きてきたのかソワソワと左右に揺れだした。それからしばらくは本人そっちのけで続けられる会話を眺めてい。しかし二人の話はいつまでたっても終わらないまま続いていくので遂には堪え切れなくなって、こっそり2人にバレないように移動を開始した。抜き足差し足忍び足と千鳥の将来の話に熱中し本物の千鳥に目が行っていない2人の脇を通り過ぎ玄関まで辿り着くと靴を履き音を立てないようにそっと玄関を開けた。

 

「————でもね、それだと千鳥ちゃんの為に」

「いやあれはどうしようも」

「行ってきまーーすっ!」

「ん?」

「え?」

 

 玄関から元気一杯な声がして、有栖と芹花はお互いに顔を見合わせそれからはっと気づいたように先ほどまで、千鳥が座っていた場所を見るとそこは既にもぬけの殻だった。逃げられた。千鳥は足が速く有栖と芹花では追いつけない。

 

「逃げやがった……」

「千鳥!……はぁ、まったくあの子は……。これは後で説教だわ」

 

 南無三千鳥。普段から問題行動の多い私達7人のまとめ役としていつもみんなを叱っている芹花はまとめ役というだけあってほかの子とは違いしっかり他人を叱れる人だ。しかも怖いし間違ったことも言わず淡々と理詰めで追い詰めてくる。最近はあまりないがここに来たばかりのころはよく叱られていた有栖としては帰ってきたら正座させられて芹花の説教を受けることになるであろう千鳥は少し哀れであった。

 

「ほどほどにしてあげなよ?」

「あの子の態度次第ね」

 

 千鳥の教育についての話は当の本人がいなくなってしまった事でいったんお開きになり残った二人は玄関に置きっぱなしだったレジ袋を取って中身を冷蔵庫に移していく。

 

「千鳥ちゃんは帰ってきてからでいいとして。他には誰もいないの?」

「実香と日和は公園に行ってた。灰土はバイトが終わった後どっか行ったって霞が言ってた。霞は押入れの中で昼寝してる。千鳥は今出てった。そういえば今日の夕飯は?」

 

 そう言いながら千鳥は今自分が冷蔵庫に放り込んでいる野菜を見て今晩の献立を半ば予想していた。

 

「もやし炒めね」

 

 予想は的中した。というか自分が冷蔵庫の中に入れたのが豚肉と野菜はもやししかないのでそれ以外思いつかなかった。芹花が持っていたほうの袋には他にも入っていたが。

 

「日和の靴を買って金欠なんだっけ?」

「そうなの、それに調味料も何種類か一気に切れるしで一気にお金が逃げられたわ……」

「ま、そういうときもあるよ。足りなさそうなら私のバイト代も渡すから言って」

「ん~、まあ今までも金欠になったことは何度かあるけど結局何とかなってるし多分大丈夫だとは思うけどもし足りなかったらお願いするわ」

「ん、了解。それじゃ私は千鳥捕まえてくるから夕飯よろしく」

「任されたわ。なるべく暗くなる前に帰ってきてね」

「はいはい」

 

 まるでお母さんみたいなことを言う。

 

 玄関から外に出ると西日が目に突き刺さる。日が落ちてくると影が長くなる。巨大なモノリスの影が自分たちの家にかかるのではないかというほどに。というか時間によってはモノリスの影で実際有栖たちが住んでいるアパートは暗くなる。夏は涼しくていいが冬は寒い。それがこのボロアパートの二階の一室に住むようになって二年になろうかという有栖の感想だった。ここからでは見えない東京エリアの内地の方を見て思う。もっと内側に住めるようになったらモノリスの影も届かなくなるのだろうか。

 

 

 ***

 

 

 階段を降りたところで公園に行っていた実香と日和にあったので千鳥を見ていないか聞くと秘密基地に行くといっていたという。千鳥の言う秘密基地はもう人が住んでいない廃墟の一室を勝手に間借りして彼女が好むガラクタなどを持ち込んだ場所のことを言う。外周区である40区の中でもかなり奥まった位置にありそれこそ下手したら外から東京エリアに侵入してきたガストレアと遭遇することもあるほどだ。そんな場所だから危険なことをしてほしくない芹花や心配性の実香は千鳥がそこに近づくのを止めている光景を何度か見たことがある。

 廃墟が近づいてくると外からでも金髪にピッグテールに髪をまとめた女の子がこちらに背を向けて座り込んでいるのが目に入る。千鳥で間違いないだろう。そしてその奥には誰かが寝そべっているようだった。身長や肌の感じから見るに有栖や千鳥と変わらない年代の少女ものに見える。

 近づいていくにつれ状況がよくわかるようになっていく。

 今まで有栖は別にそんな目くじら立てることないんじゃないかと、秘密基地ぐらい好きに作らせたらいいじゃないか、下手に私たちみたいのが街に行くよりはむしろ安全なのではないかぐらいに思っていた。

 でも少し考えを改めなければならないかもしれない。有栖が廃墟の中に踏み入る。その間千鳥も少女も微動だにしなかった。

 

「千鳥、その子もう死んでるよ」

「……うん」

 

 寝そべっているよ思われた少女は10歳にも満たない少女の死体であった。千鳥はこちらに背を向けて座り込んだまま少女の死体をぼんやり眺めていた。

 元は薄汚れてはいたけどかわいらしいピンクのチュニックだったのだと思う。それが乾いた血でどす黒く染められていた。拳銃で撃たれたのだろうか、背中側に10個ほどの小さい穴が開いている。眼の光を失って口が半開きになった表情からは怒りや苦悶というよりは悔しさを感じられた。足元からは引きずったような血の跡が続いておりその先にはガラスが割れ窓枠だけになった部分に切れた縄が落ちていた。あそこに縛られて抵抗できなくされたところに銃で撃たれたのだろうか。それでも死にきれなくて下手人が去った後何とかロープを残っていたガラス片で切り裂き何とかこの場を離れようとしたところで無念にも力尽きたというところまで空想したところで現実に帰ってきた。

 彼女は変わらず少女の無惨な亡骸を眺めていた。その背に心持ち感情を乗せないようにして声をかける。意図してそうしなければよくわからない感情に動かされてしまいそうだった。

 

「埋めてあげようか」

「うん」

 

 スコップは幸いにして二階の宝物(がらくた)置き場にあった。スコップなんかがなんで宝物になるのかは有栖にはわからなかったが今はただスコップがることに感謝した。

 有栖と千鳥は二人で廃墟の庭に穴を掘ったが存外に時間がかかってしまい終わるころにはすっかりあたりは暗くなってしまっていた。廃墟から少女の亡骸を引きずって掘った穴に寝かせる。月明りで彼女の目が開きっぱなしになっていることに気づいて古本屋で立ち読みした漫画みたいに閉じさせようとするがうまくいかなかった。結局ちゃんと閉じさせることに成功するころには穴を掘るときについた土が眼球に付着してしまいあの世でさぞ痛い思いをしたことだろうと少し申し訳なくなる。

 掘った時に出た土で少女の死体を埋めていく。少しずつ亡骸が見えなくなっていく。顔は知っていたけど話したこともなかったし名前も知らない少女だった。そんな少女に目線だけで無言の別れを告げた。

 

 スコップを元の場所に戻した後有栖と千鳥は無言で帰り道を歩いていた。

 

「ねぇ、有栖ちゃん」

「何?」

「圭ちゃんはなんであんな死に方をしなきゃならなかったんだろ」

 

 一瞬、圭とは誰だろうかと考えて先ほどの少女の名前が圭だったのだろうと察した。千鳥は有栖と違って社交的なのであのボロアパートの一室に住んでいる住人達以外にも友達や知り合いが多い。その中の一人があの子だったのだろう。だったらわかっているはずだ。圭があんな死に方をする理由がないことは名前すら知らなかった自分なんかよりも千鳥のほうがよほど。

 

「……」

「東京エリアの歴史とかどうでもいいことは教えてくれるのにこんな時だけ教えてくれないんだね」

 

 泣きたるようなことを言ってくれるとうつむいていると手を握られた。

 

「ごめんね有栖ちゃん、今あたしひどいこと言ったよね、たぶん」

 

 有栖が横に目を向けると心配そうな顔で千鳥が心配そうな顔で見つめてきていた。先ほど誰かに殺された友人の死体を埋めた後という精神的に不安定になってもおかしくない状況だというのにすぐに他人を思いやれる。自分の言葉で他人を傷つけてしまったと気づける。自分にはもったいないぐらいに優しくて強い仲間だ。

 

「ありがと、大丈夫だよ。それより……」

「ん?」

 

 だからこそこんなうっかりミスで誰かに傷つけられるような事にはなってほしくない。

 

「目赤くなってる。気を付けて」

「あ、ごめ、ちょっと待って」

 

 そういって立ち止まった千鳥は目をつむって3回深呼吸をすると目を開いた。瞼の裏からいつもと同じ碧い瞳が現れる。

 

「治ってる?」

「うん、大丈夫。しっかり戻ってる」

「そっか、ありがと」

「じゃ、帰ろうか」

「うん、それじゃうちまで競走ね。じゃスタート!」

 

 そういうが早いか千鳥は走り出してしまった。スタートに大きく出遅れてしまっては勝ち目がないだろうと早々に勝つことを諦めた。

 誰もいなくなり街頭すら無い暗い道を月と星の明かりを頼りに一人歩んでいく。本当に強い子だと思う。きっと自分や家でご飯を作って待っているだろうみんなに心配をかけないようにあのように能天気にふるまっている。もし有栖が今一緒に暮らしている6人の誰か一人でも欠けたら千鳥と同じようにできる自信がない。きっと泣いてしまう。泣いて立ち止まって現実から目を背けていつまでも途方に暮れてしまうのではないだろうか。

 あの子は確かに勉強はできないかもしれないがそんなことは問題にならないぐらい立派だ。それに勉強なら後からでも詰め込める。

 

「私も頑張らないとな……」

 

 有栖には一つの目標があった。それは一緒に暮らしているみんなを幸せにすること。初めて会ったとき食料を奪おうと襲いかかった自分のようなやつにでも優しくできるような大切な仲間たちが誰かに奪われ蔑まれ苦しむことが無いようにすることだ。しかし目標は明確に定まっているのにそのための手段が有栖にはまだわからなかった。わからないままぬるま湯のような温かい日々に浸りながら生きてしまっている。今日のことでこのまま安穏としていては自分の掌の上からいつかこの幸福が零れ落ちてしまうかもしれないと改めて気づいた。気を引き締めよう。

 

「しかし、どうしたら呪われた子供たち(わたしたち)は隣人に怯えずに暮らせるんだろう……」

 

 誰かに尋ねたかったがこんなことを聞いてまともに答えてくれそうな生物に心当たりがない有栖だった。あぁ、でもおとーさんだったら何か答えてくれたかな。

 

 

 ゆっくり歩きながら帰った有栖が玄関を開けると仁王立ちの芹花が視界に入った。そういえば日が落ちるまでに帰るという話だったなとここに至って思い出した有栖だった。

 

 

 




一般的な呪われた子供たちについて呪われた子供たち目線で書こうとしたらなんか一般的じゃなくなった気がする。
ちなみに主人公たち名前しか出てない子も含む一緒に暮らしている7人はほぼオリキャラですが一応原作にもいます。


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