外周区にて   作:えるごみ

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前回は呪われた子供達への悪意を書いたけど今回は割と善意より(最初の回想を除く)

当たり前の話だけど呪われた子供達を含む人間の赤ちゃんは誰かの庇護がなければ子供まで成長することなんてありえない。それが善意かはわからないけれど誰かの助けを必ず受けてその歳まで生きてきたはずです。


昔の誰かの努力の上に今の私たちがいる

 有栖は背の高い男の人と一緒に手をつないで街中を歩いている。周りにはたくさんの人間がいてその人たちは一様に彼女の顔を見ると目をそらしたり顔をこわばらせたり、にらみつけたり露骨に舌打ちしたりしてきた。有栖にはそれの意味するところが分からなかったから特に気にもしていなかった。それよりも初めておとーさんと街まで買い物に来たのだからそのことを楽しみたかったのだ。

 

 二人で商店街のいくつかの店を冷やかした後、鮮魚店の前を通りかかったところで中から出てきた男が自分に向かって何か銀色に輝くものを振り下ろしてくる。

 有栖は自分が何をされようとしているのかもよく理解しておらず男が自分に包丁を振り下ろすのをただ眺めていた。見ているだけだった有栖に対しおとーさんは状況を正確に理解し有栖の服の襟元を掴み後ろに引っ張った。それにより男は勢い余って転倒し包丁を取り落とす。

 顔を上げた男はおとーさんが無言で自身を見下ろしていることに気づくと声を荒げた。

 

「てめぇ、なんで街にガストレアなんて連れて入ってくんだよ! 今すぐ殺してしまえ。そいつらは俺の女房を娘を家族をみんな殺しやがったんだぞ!」

 

 その言葉にあれは罵倒してもいいものだと気づいたかのように先ほどまで態度にするだけだった嫌悪や憎悪が通行人の口から次々にあふれ出た。

 

「そうだそうだ! さっさと死ねよ」「いつガストレアになるのかもわからないのによくあんなの連れてられるわね」「人型なんかして人間に紛れ込むつもりか汚ぇ奴らだ!」「東京エリアから出ていけガストレアめ!」

 

 大勢の人に罵声を向けられようやく怒りや憎しみが自分に向いていることに気づいた有栖はここで初めて周囲に怯え泣いた。有栖は勝手にあふれてくる涙を手でぬぐおうとする。その時少し長い前髪がどかされ額があらわになると周囲の罵倒の声が止む。時が止まってしまったみたいに誰もが動かない中有栖だけが泣いていた。

 

 そして次の瞬間狂乱がぶちまけられる。

 

 こちらを罵倒していたものも遠巻きに眺めるだけだったものも、皆逃げ出し悲鳴を上げ腰を抜かしたり酷いありさまだった。電話を取り出しどこかにかけている者もいる。

 

 周りの恐慌にさらに怯え涙が止まらなくなった有栖は唐突におとーさんに持ちあげられ尻の下に手を回され胸に抱かれた。いわゆる抱っこというやつだ。

 

「落ち着け有栖。大丈夫だから」

 

 そういってリズムよく揺らしながら一定の間隔で背中を優しくポンポン叩かれまだ幼い有栖はそれだけのことでどうにも落ち着いてしまい涙もすぐに止まってしまった。

 その時には先ほどまであれほどうるさく聞こえていた人の声はせずあたりは静寂を取り戻していた。有栖が泣き止むまでの間におとーさんは移動しており家からほど近い場所まで移動していたのだ。

 

「大変だな、お前ら」

 

 頭をなでながらかけられた言葉の意味はよく分からなかったがなんとなくもうしばらくこうしていてほしくなった有栖はおとーさんに強く抱き着いた。

 

「う、有栖少し力弱めろ、さすがに痛い」

 

 そういいつつもおとーさんはどことなく嬉しそうに見えた有栖は構わず力を込めた。

 

「う~」

「ちょっと有栖ちゃん痛い! 痛いです! 離して腰折れちゃいますから!!」

 

 ふと、おとーさんの声はこんなではなかったようなと気づく。

 

 そして有栖は夢から覚める。眼を開くとそこにはそこには同居人の一人である実香の腰があった。どうやら彼女を抱き枕にして寝ていたらしい。更には寝ていたせいで制御が緩んだのか呪われた子供たちとしての力を開放して抱き着いている。夢の中の時は痛いで済んだかもしれないが今の力であればただの人間にはきっとかなりのダメージを負わせることになってしまうだろう。

 慌てて力を緩めた。

 

 昔の夢を見たせいかどうにも制御が緩んでいたようである。腰元にかかっていた力が緩み実香が安堵のため息をつく。

 

「おはよう、実香。ごめんね、大丈夫? 内臓つぶれてない?」

「はぁ、おはよう。やっと離し、え、ど、どうだろう大丈夫かな……」

 

 顔が真っ青になる実香。心配性の実香は反応が激しくからかうと楽しい。

 

「あれ、お腹痛くなってきた? どうしよう、本当に内臓潰れちゃった!?」

 

 からかうと楽しいが、彼女は胃痛持ちで動揺するとすぐにお腹の調子が悪くなってしまうのでちょっと申し訳なくなってしまうのは難点だ。お腹のあたりを服の上からさすりながら顔を真っ青にしている。

 もし内臓がつぶれていたそのぐらいの変化では済まないだろうから間違いなく潰れていない。

 

「冗談だよ……。ストレスから来るただの胃痛でしょ。いつものやつ」

「そうかなぁ、腸破裂してたりしないかなぁ……」

 

 実香は呪われた子供たちの中では珍しく胃痛という持病のようなものを持っている。他に何か体に弱い部分があるというわけではなくお腹だけが弱い。原因は本人にもわからないとのことなので謎のままである。

 

 内臓が壊れていないと納得したからか顔色も元に戻ってきている。実香がお腹をさするのをやめて有栖の方を見た。しかし若干目線が合わず、そしてすぐに目線を逸らされた。

 

 あぁ、と思って頭に手をやると案の定というかナイトキャップが取れてしまっている。

 

「ごめん、すぐ包帯する」

「えっと、そのそんなつもりじゃなくて……。ごめんね」

「いや、いいよ気にしないで。私もちょっと気味悪いって思うしね」

 

 有栖の額はちょっと人にはあまりお見せできないような状態になっており日中は見えないように包帯を巻いている。ずっと包帯を巻いていては不衛生なので寝るときはナイトキャップをしているのだが今日は寝ている間に外れてしまったらしい。

 

「ん、よし、これでどう? 見えてない?」

 

 枕元に置いてある洗ってきれいにした包帯を巻き終えると実香に向かって前髪をめくって見せる。多分これで見えないと思うがたまにはみ出してしまっていたりすることがあるからなるべく家を出る前に誰かに確認してもらうのを毎日の習慣にしていた。

 

「大丈夫よ」

「ん、ありがと。実香も似合ってるよ」

 

 実香も有栖が包帯を巻いている間にトレードマークのカチューシャをつけていた。今日のカラーは青だ。他に黒と白もある。

 

 周りを見回すと芹花と千鳥と霞がまだ寝ていて灰土と日和が既に起きているようで布団がしまわれていた。灰土は朝の運動というか訓練だろう。

 日和はと考えたところでキッチンの方からパンが焼けるいい匂いがしてくる。朝食を作ってくれているようだ。

 

 しかし、今日の朝食の当番はそこで寝こけている千鳥ではなかっただろうか? 

 

 洗面台で顔を洗った後ダイニングに繋がる戸を開けると二つ並べて置いてあるこたつ机の上に既に目玉焼きトーストとサンドイッチが乗った皿がそれぞれ四枚と二枚、それと書置きが一枚置かれていた。

 書置きには『早い者勝ち』と一言だけ書かれている。

 

「サンドイッチって珍しいね。ちょうど二つだし二人で食べちゃう?」

「それいいね」

 

 もうすぐ匂いにつられて起きてくるだろう千鳥の悔しがるさまが目に浮かぶようだ。

 

 それから十五分ぐらいかけてのんびり朝食を食べている間にみんな起きてきたり戻ってきたりして狭いダイニングは大賑わいになった。予想通り千鳥はサンドイッチを見て羨ましそうにしていた。ふふん、早起きの特権だ。

 

 朝食を食べ終えお皿を流しに置くと外出するため細々とした身だしなみを整えていく。外周区の近くで汚れた格好をした子供が親も伴わず出歩くというのはそれだけで自分は外周区に住む呪われた子供たちだと喧伝しているようなものだと私たちは考えている。だからここに住む住人達は街を歩くとき少しでも自分たちがそうだとばれる要素を減らすためなるべく小綺麗にしてから出かける。

 

「日和、もう準備できた?」

「ん」

「それじゃ行くよ」

 

 有栖は日和を伴って玄関を出た。

 

 日和が何やら大きなバスケットを両手で持っていた。

 

「何それ?」

「お弁当、食べて、もらいたいなって、思って。あと、あいさつの、意味でも」

 

 

 

 今日は外出してどこに行くのかというとなんとバイトである。

 

 有栖たちが曲がりなりにも屋根のある家に住んでいられるのはひとえにバイトをしてお金を安定的に稼げているというところが大きい。

 有栖は会ったことが無いが芹花、千鳥、霞の恩師ともいうべき人が見つけてくれたらしい。本音を言えばそこまでしてくれるならそもそも養ってもらえばよかったのにと言ったらどうにもそうできない事情があったらしい。

 

 とにかくこれからも文化的で健康的な最低限度の生活を営んでいくためにも労働にいそしむ必要があるというわけだ。

 

「有栖ちゃんそのスパナ取って!」

「はいはい、これですね!」

 

 有栖たちは建築現場にいた。ここがバイト先である。ここであれば骨組みに防音シートを巻いてしまった後なら外から見られる心配もないというわけだ。だがここで働いている人たちからは有栖たちが呪われた子供たちだとばれてしまう。大の大人以上の荷物を一度に持ち上げ運んでいるのだから当たり前なのだが。

 

「日和ちゃんそれ持て……うお!? スゲーな!」

「あんな小さいのに、いや流石はというか……」

 

 ここで働いてるひとたちはみんな自分たちに寛容だ。

 

「え、これ日和ちゃんが作ってくれたの?」

「マジか!」

「おい、お前ら! 日和ちゃんの手作りサンドイッチだぞ! 食いたいかぁああああ!!!」

「「「ゔぉおおおおお!!!!」」」

 

 大歓声を上げる大人たちを遠目かつ半目で眺める。

 

「いや、本当寛容だ……」

「あの」

「ん!?」

 

 日陰で休んでいた有栖の横にいつの間にか日和が立っていた。少し面食らったもののすぐにいつもの調子に戻す。日和は唯一有栖より後にあのボロアパートに住むようになったメンバーだ。

 そのせいかどうにも先輩風のようなものを吹かせようとしてしまう(残念なことにあまりうまくいっていないのだが)。そうしてしまうのは彼女の容姿が際立って幼いからという理由もあるかもしれない。日和は有栖の一つ下の8歳だというのに見た目はそれこそ5、6歳ほどのものでしかない事も拍車をかけている。

 

 まあ、何はともあれ彼女の前では済ました態度でいたいのだ。

 

「どうしたの日和」

「ここの人たち、どうしてこんなに、その……」

「普通に接してくれるのかって話?」

 

 日和は無言でうなずく。

 有栖も初めてここに来たときは全く同じことを考えたので日和が言いたいことも簡単に予想がついた。

 

 話は結構単純で何でも彼らが働いていた工事現場に迷い込んできたガストレアから民警のイニシエーターが命を懸けて守ってくれたのだという。

 誰も助けてくれなければ死んでいたかもしれない場面で幼い女の子が常人なら死ぬようなけがを負いながら自分の命を助けてくれた。その事実によほどの呪われた子供たち嫌いでもさすがに感じるものはあったようでその戦いで重傷を負ったイニシエーターの元に何人かでお見舞いに行った。しかし病院で彼女は死んでしまったと告げられたらしい。

 感謝の言葉を伝えることすらできず悶々としていたところに他の呪われた子供たちを救ってはみませんかと声をかけた人物がいた。というか芹花たちの恩師らしい。

 その人が大人の庇護も受けられず自分でお金を稼ぐ手段も持っていなかった私達みたいな外周区の子供たちに働く場を作ってくれた。

 

「っていう話らしいよ」

「そんなことが……」

 

 芹花に聞いた話をそのまま伝えただけだがそのことは黙っておいた。

 

「それで後は自分たちを助けてくれた子はともかく他の子は大丈夫なのかって不安を実際に現場に来た千鳥の人懐っこさとかで打ち崩して後は大体こんな調子」

 

 丁度じゃんけん対決の末に最後のサンドイッチを食する権利を持つものが決まったらしい。先ほどに負けず劣らずの歓声が響き渡る。有栖の横に体育座りで座った日和はその光景を眺めつつどこか心あらずな様子で呟いた。

 

「私の周りも、こんなだったら……よかった」

「……そうだね」

 

 それはきっとこの光景を見た呪われた子供たちというだけで迫害を受けたことがある誰もが思うことだろう。

 

 しばらくそこで二人で座っているとサンドイッチを食べ終えた男の一人が近づいてきた。男は日和の前まで来るとしゃがんで視線を合わし男らしいごつごつした手で日和の小さく柔らかい手を優しく包み込んだ。

 様子から危害を加えられることはなさそうだったが無言で近づいてきていきなり手を取られ日和はもちろん有栖も若干警戒していた。

 

 外周区にまれに現れるろりこんの変態野郎の可能性もあった。そして男は二人の幼い少女の視線に晒されながらおもむろに口を開いた。

 

「なあ、日和ちゃん! お願い! 次来るときもまたサンドイッチ作ってきてくれないか! この通りだ」

 

 言ってしゃがんだ状態からさらに頭を下げる。というか土下座だった。

 

(これが土下座! 初めて実物見た……)

 

 本や漫画で見たことがあるがあまり人と関わらないせいで現実では初めて見る土下座に有栖は若干興奮していたが男の言葉に頭を回し我に返った。

 

「えっと、おじさん今日のは日和の好意とこれからよろしくお願いしますっていう挨拶の意味で作ったんだ。これから毎回ってのは日和の手間もそうだしお金との方面でもさ、ちょっと」

「別にいい、ですよ」

「えぇ、いいの日和……?」

 

 やんわり断ろうとしたが日和が承諾してしまい思わずちょっと情けない声が漏れてしまう有栖だった。普段も千鳥の朝食当番を時々代わらせられたりしているから断るのが苦手なのかと思っていたが断る理由をこちらで提示してやってもやろうとする当たり案外そういうわけでもないのだろうか。

 

「はい、誰かに、頼られるのは結構、好きだから」

「……そう日和がいいならまぁ私はいいけど。でも、材料費と手間賃は弾んでもらいますからね! いいですか!」

「おう、任せろ」

 

 きりっとした顔でサムズアップ。正直なんか少しうざかった。

 

 それから休憩時間が終わり午後五時まで仕事に精を出したあと日給を現金でもらい有栖と日和は帰路についていた。

 

「よかったの? もし自分たちの立場が悪くなるとかそういうの気にしてるんなら大丈夫だからね。あの人たちそのぐらいじゃ気を悪くしないくらい良い人なのは私知ってるし」

「はい、その私、あんまり人に、頼られるってことが今まで、なかったから……」

 

 話を聞いてみると親と内地で暮らしていた時も割と過保護に育てられていたようで家事の手伝いとかも全くさせてもらえなかったらしい。有栖として面倒くさくなくていいなぁとしか感じなかった。だが日和としては誰からも何もさせてもらえないというのは誰からも認めてもらえていないと感じるようだ。そういう考え方もあるのかと少し驚かされた。

 

「だから、今の家で当番を、任せられたり私が、作った物が、美味しいと認められる、のはうれしい」

 

 そう言って日和は笑った。有栖としては先ほども口にしたが日和がそれでいいなら何でも構わなかった。芹花あたりはそれでいいのかと言いそうだが本人が望むのなら他人がとやかく言う必要はないと思う。ああでも少しだけ。

 

「千鳥が当番代わってって頼んできたらちゃんとなんか条件つけて。じゃないとあいつ際限なくつけあがるから」

「うん、気を付ける」

「よろしく」

 

 後日、夕飯時におかずを半分ほど持っていかれて呆然とする千鳥の姿が食卓にあったとかなかったとか。

 

 




最初は一話につき三千字の八話構成で全部で二万四千字ぐらいで完結できるはずだったのに二話で一万二千字を超えてしまった。短編杯の間に全話作ることができそうになくて辛い。

一緒に暮らしている彼女たち7人は一応全員原作にいる子で、また全員にオリジナルでそれぞれのガストレア因子を設定しているので予想してもらえると嬉しいです。

最後に感想や評価をいただけると泣きながら部屋の中を全力疾走し下の階から苦情をいただく予定ですので何卒よろしくお願いします
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