今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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感想、誤字報告ありがとうございます。それと申し訳ありません。5人目のヒロインの名前を近いうちに

銀堂クロナから銀堂クロコに変えようと思っています。申し訳ありません


百一話 ヒロインは突然に

 あーし達が演劇の練習を始める。セリフは直ぐに覚えることができ順調なスタートを切れたように見えたが……

 

 

始めは普通にセリフを言い合って場の流れを掴む。クラスの人たちそれぞれに配役があるので全部は出来ないが出来る部分だけやっていく。やっていて気付いたが中々に難しい。

 

表情の変化が難しい。マジで一人だけ浮いている。どうにかして、笑ったり、気難しい顔をしたりしたかったのだが全くできず……そんな微妙な感じで今日の練習は終わった。まだ、時間はある、焦らずいこう、だが油断はしない。

 

 

皆が寝静まった後に一人でリビングの電気をつけて台本を読む。頭の中でイメージだ。

 

十二時になり、魔法が解けてしまう事に焦ったシンデレラ。ガラスの靴が舞踏会場で脱げしまい、しまったと言う顔……

 

を一応したつもりで鏡で自分の現在の顔を確認する。うん、無理。これはしょうがない。今度は笑顔をしてみよう。

 

無理やり、笑顔をするが……鏡を見ると不格好な自分の顔。笑顔って難しい。

 

 

そもそも笑顔と言うものが難しい。よく、写真で1+1は? と聞かれるがそこで笑顔を出来る人をあーしは尊敬している。以前にクラスで集合写真を撮った事がある。一人だけ陰謀を企てる悪のカリスマのような表情であった。

 

笑顔、笑顔……夏祭りで大笑いしたっけ。彼と共に時間を過ごしたあの時。心の底から十年分は笑ったと思う位笑った。あの時の感じでやってみよう。しかし、思い出すと何故か、頬が赤くなり笑顔どころではなくなってしまった。

 

ダメだ、この記憶は使えない。何か、メッチャ恥ズイ。四苦八苦しながら自身で表情改善方法を考える。あーしの演技力は低い。火蓮や萌黄よりだいぶ遅れている。どうにかしないといけない。ただ、これはあーしの問題だから皆を巻き込むのはナシだ。

 

一人でやろうと考えているとリビングのドアが開いた。そこには……

 

「もう、なんで一人でやろうとするのよ」

 

パジャマ姿でいつものように髪は縛っていない火蓮。同じようにコハクも萌黄も居た。

 

「えっと、迷惑かけちゃダメだと思って」

「そんなの気にしないでいいよ。僕たち友達でしょ?」

「そうですよ。先輩。私は出来る事が少ないと思いますが……色々手伝います!」

「ありがと……」

 

 

嬉しい。こんな人たちが側に居てくれるって事が。最近、思う、あーしはどうしようもない未熟者だったと。友達ができない、ほしい、そう思っていたけどあーしは何もしなかった。眼が怖いとかコミュ力が不足とかそういうのを言い訳にして全部から逃げていた。

 

眼が怖くても会話を上手く繋げられなくてもこうやって誰かが居てくれるんだ。自分の踏み出す勇気がずっと足りなかっただけだ。

 

 

彼との出会いで全部が変わった。だけど、この幸福も何もかもあーしは何一つ頑張っていない。流しそうめんのように流れて来たものをあーしは子供のようにすくって喜んでいるだけ。彼から接待されてるだけ。これではダメだ。

 

もっと、強くなりたい。劇の本番は、絶対成功させたい。真の意味であーしは成長したい。頑張ろう

 

 

「皆、ありがと」

「まぁ、これくらいね。でも、私達に言うよりあっちでこっそり見てる人に言った方が良いわよ」

 

 

彼女は指でドアの方角を指さす。ドアが若干開いていて、その隙間から誰かがこっそりとこちらを覗いていた。

 

「十六夜君がアオイ先輩が困ってるだろうから、手伝ってあげて欲しいと」

「なるほど……」

 

 

彼は暖かく私たちを見守っていた。お礼を言うためにドアを開ける。パジャマ姿の彼がそこにいた。

 

「ありがと……」

「支えになればよかったです!」

「そう……」

「じゃあ、俺は扉越しに見守っていますから。続きをどうぞ!」

「見守っててくれるの?」

「勿論ですとも」

「嬉しい」

「あ、そ、そうすか?」

「うん。でも、眠くないの?」

「お気になさらず。全く眠くないです」

 

 

その日はかなり夜まで暖かい視線を受けながら演技に没頭した。まぁ、直ぐに上手くは行かなくて皆には申し訳ないがやり続ける。

 

 

次の日も朝早く起きて演技の練習を始める。昨日遅くまで付き合って貰った皆にはこれ以上の負担はかけられない。

 

一人、再びリビング。白湯を飲みながら表情筋を動かしていく。僅かに眠気が残るがそれを振り払って目をパッチリ開ける。

 

 自分でシンデレラがやりたいと選んだ。いろんな理由があるが責任という大きなものもある。お姫様になりたい、自分を成長させるため、その為に選んだシンデレラという役にある責任。背中にどしりと大きな何かが乗る。重い、とんでもなく重い。

 

 

 でも、頑張らないといけない。これが成長に必要、責任。休む暇なんて無い。気合を注入して試しに笑顔。何度も口角を上げる。頑張らないと、何度でも挑戦。

 

 

「一人で悩むことないですよ!」

 

 

いきなりリビングのドアが開く。キキーッと車が急ブレーキを踏んで止まるように彼が現れた。こんな早朝に、しかも彼も昨日は遅くまで起きていたはずで睡眠時間は大分少ないはず。彼は右目に右手を添えて若干ポージングをしていた。

 

「……」

「? あ、一人で悩むことないですよ!」

 

 

いきなり、来たのであーしは思わず何と言っていいか分からず黙りこくってしまった。それを聞こえていないと勘違いしたのかもう一度言葉を発する。ちょっと可愛い……

 

なんて思ったりする。それは置いておいて彼は悩むと言ったがあーしは悩んでいない。

 

 

「悩んでないよ。やることも目標もある、それにあとは向かうだけ」

「か、かっけぇ……」

「別に、普通だけど」

 

 

思わず髪の毛を触ってそっと目を逸らす。彼は目をキラキラさせて本心から思っているのだと分かる。

 

「これから演劇の練習なんですよね?」

「まぁ、イメージだけど……そう」

「俺、手伝っていいですか?」

「悪いよ。昨日も遅くまで見守って……」

「そこら辺は大丈夫です。俺の体って、1000年前の魔王から転生したので、魔力で出来た転生体なんです! だから睡眠を必要としない体なのです!」

「え!? ホント!?」

 

それはビックリ。何を言っているか分からず、人体の構造とか機能とか考えるとあり得ないと思うが……彼ならもしや……

 

「すいません。嘘です……」

「コラ」

 

こつんと軽めの拳でげんこつあたっく。年上先輩をからかうとは何事か?、である。

 

「つ、つい、嘘をついてしまいました。でも、お願いです! 手伝わせてください!」

「なぜ、アンタがそんなに頼む……まぁ、そこまで言うならお願いしてもいい?」

「はい!!」

 

彼が手伝ってくれると言うのでお願いすることにした。

 

「ああ、貴方があの時の美しい姫なのですね!」

「っ……えっと、セリフ忘れた……ごめん……」

「じゃあ、もう一回行きましょう!」

 

何度も何度もチャレンジ。なぜか、ロマンチックなセリフを言われるとセリフが飛んでしまう。だが、彼は一切面倒くさいような雰囲気も出さず、真摯に何度も付き合ってくれた。どくどくと……いや、ドキドキ、いや、バクバク、うーん、どっくん、どっくんと心臓が高鳴る。

 

何故か前より強く、血流が良くなりこんなことに付き合わせて申し訳ないと言う感情に支配されないといけないのに、幸福感が溢れてくる。このまま、このまま、時間が止まってしまえばいいと感じる。

 

 

「よし、これで取りあえず劇の内容は5周しましたね!」

「うん、ありがと……」

 

 

彼は私のシンデレラ役以外を全て演じてくれた。彼も疲れているだろう。ここら辺で休憩を……

 

「じゃあ、あと5周いきましょうか!」

「え?」

「継続は力なりと昔から言いますからね。シンデレラがもう息を吐くように出来れば絶対に本番で緊張せず大成功を収められるはずです!」

「確かに……」

「さらに、今後、本番まで百人一首かるたのように、上の句がでたら下の句。俺が生活中の至る所でシンデレラの前のセリフを言います! それにいち早く答えると言う事もやりましょう!」

「う、うん。心強い。で、でも」

「気にしないでくださいね! さぁ、俺達のシンデレラ残り5周をはじめましょう!」

 

 

速い。まさに閃光のような一手。こちらが申し訳ないと言う感情すら置き去りにして彼は台本を手に取って再び、悪役令嬢を演じ始めた。そして、5周が終わりこれで10周をしたことになる。

 

 

「じゃあ、15周目に行けるまで頑張りましょう。でも、ちょっと息抜きした方がいいかもしれませんね。反復は大事ですがだからと言って馬鹿みたいになるのもダメ。人間の集中力は限られていますし、ただやるより意識を持ってやる方が絶対にためになる……ちょっと、休みましょう」

「うん。じゃあ、白湯持ってくる」

 

彼の分も白湯を作りソファの前のテーブルに持っていく。それをテーブルに置きソファに座る。

 

「白湯体にいいから飲んで」

「はい。いただきます」

 

 

熱々なのでふーふーしながら少しづつ飲んでいく。あれだけ、練習をしたからもうすぐコハク辺りが起きてくるはず。火蓮は朝が弱いから暫く起きないはず。火蓮はかなり寝坊助で寝起きはかなりボケボケ。

 

この間も……

 

『火蓮、朝、起きて』

『ん、? ママ? 抱っこして……』

 

と言って私に抱き着いてきた。いつも強気な感じだが実は甘えん坊なのかもしれない。その後、気づいて顔を真っ赤にしながら誰にも言わないでと何度も頼まれた。火蓮とは毎日教室でも一緒。話すのも楽しいし、ゲームを一緒にしても楽しい。ごくまれに何を言っているのか分からないときもあるが楽しい物は楽しい。

 

『暴力系ツンデレヒロインは嫌われる可能性があるから気を付けないと……』

 

どういう意味か見当もつかないがきっと彼女にとっては大事な事だろう。今分らなくてもいつかきっと理解して見せる、彼女は大事な友達、今後彼女の色々な事を知りたい。

 

 

白湯を飲みながらそんなことをわずかに考えたり、彼と話したりする。彼と一緒に居ると重い責任とかを感じない。あーしが感じないといけない物を彼が一緒に背負ってくれているから。

 

それを申し訳ないと言うと彼はそんなことは無いと言う。自分がやりたいから、そうしたいから、そう言って一緒に歩いてくれる。あーしは成長できているのか、彼ばかりに負担をかけてないかと強く感じてしまう。

 

「あのさ、あーしは成長してるかな? アンタばかりに負担をかけて……なんか……」

「俺だってご飯作ってもらったりして、負担かけてますよ。お互い様です。成長に関してはすいません、俺にも何と言っていいか……ただ、こうやって頑張ったり、悩んだりすることがこう、何と言うか、経験値と言うか養分と言うか、アオイ先輩のものになっていると思います!」

「そうかな……」

「そうですとも! でも、頑張っても全部報われるわけじゃないとも思います。でも無駄じゃないと思います! あと、責任とか一人で抱え込まないでくださいね。えー、人と人とが支え合って人と言う字になるわけでありますから……互いに支え合って、迷惑をかけあっていきましょう!」

「今、良いこと言ったって思ったでしょ?」

「あ、バレましたか」

「しかも、ちょっと古い言い回しだね」

「ええ、まぁ……」

「でも、ありがと。凄く、響いた……」

 

 

この時、顔には出さなかったがあーしの胸は異常なほどに高鳴っていた。もう、後戻りはできないほどに……

 

◆◆

 

高鳴る胸をなんとか制御しながら彼と会話をする。

 

「そう言えば、貸したゲームどうですか?」

「面白い。ありがと。貸してくれて」

 

 

彼が少し古いが携帯用のゲーム機を貸してくれたのだ。それでウルトラモンスター、通称ウルモンをやっている。以前もやっていたのだがワザットのせいでデータが消えた為、ずっと手を出さず家に置いてきたのだが、皆とゲームをすることであーしのゲーム魂が再び目覚めた。

 

「ウルモンですよね? やってるのは?」

「うん。やっぱりウルモンはいい。最近はちょっと劇の練習とかでやってないけど……劇が決まる前にボスは倒しておいた」

「おお、凄いですね」

「うんうん、そんなことない。ウルモンはエンディングが始まり。ここから厳選とかやって裏ボスあるし」

「廃人思考ですね。それも良いと思います!」

「うん、自分で言うのあれだけどウルモンに関してはあーしは廃人だと思う。でも、これはウルモンが悪い。特に今やってる3世代のこのタイトルは最高。時間を忘れちゃう」

「そうですよね。俺も神げーだと思います!」

 

 

ウルモンの話で盛り上がりつつ他のゲームの話もする。僅かではあるがその時間は何よりも大事な時間だった。その後はまた、劇の練習して……

 

「やっぱり表情が……」

「俺は良いと思うんですけどね……」

「そう?」

「はい。良いと思います」

 

 

と表情の相談をしているとリビングのドアが開いて、あくびしながら眠そうなコハクが入ってきた。彼女の朝のルーティンは先ず歯磨きをして顔を洗い、その後白湯を飲んで、身だしなみを整えるらしい。その後で日の光を浴びて、朝ごはんを作ったり、予習したり……

 

最早、完璧超人のようなモーニングルーティーン。本日も昨日あーしが付き合わせてしまったにも関わらずいつもと同じように起きてきた。

 

「おはよぅ、ごじゃいま~す、ふぁ~」

 

 

完全に気の緩んだ、フニャフニャなあくびコハク。そんな彼女を見れるのは早朝だけだろう。そして、彼女は同じ部屋で寝ているあーしが居ない事であーしが起きているのは見当がついていたのだろう。だが、流石に彼が居る事には気づかなかったようで……

 

「い、い、いいいいい、いじゃよい君!!! な、なんで!?」

「朝からアオイ先輩と演劇のけいこを……」

「そ、そうですか! それは素敵ですね! でも、居るなら言ってくださいよ! ああ、もう、髪に枝毛が……ぼさぼさだし、メイクも出来てないし……しかも、あくびしちゃったし! 髪ぼさぼさだし、メイク出てないし、あくびしちゃったし! うぅ、私の最高に可愛い貴族令嬢のようなイメージが……」

 

彼女はあくびと完璧でない身だしなみを見られたことで恥ずかしいようだ。いつもの白い肌を真っ赤にしながら手を床について顔を下に向けている。

 

「くっ、朝からこんなコハクさんの可愛いシーンが見れるなんて……俺はなんて幸福なんだ」

 

彼の言葉を彼女の耳はしっかりと聞いていたようだ。顔を上げて彼に聞く。

 

「え? か、可愛いですか?」

「勿論です」

「ど、どれくらいですか?」

「言葉に表せない程です。普段もいいですがちょっと気の抜けた素の感じがたまりません!」

「えへへ、そうですかぁ? なら、良かったです。白湯飲みまーす」

 

一瞬で彼女は立ち直り、キッチンへ向かう。なんでか分からないけど非常に面白くなく……あーしの頬が膨らんでいた。

 

 

 

 


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