今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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百六話 それぞれの変化

世界に大穴が開いた。何度も開きその度に僕たちが対処してきた。世界の平和は僕たちに託されている。

 

そう、託されているんだ。

 

 

大きな黒の翼と白の翼。異形と言う存在がヒシヒシと伝わってくる。悪意に満ちている目……そこに、いきなり彼女達の攻撃が放たれた。光と火と水それぞれの攻撃によって堕天使に大きなダメージが入る。

 

 

こういうのって普通相手の自己紹介とか待つものでないかと思うが最近の、彼女達は彼の影響を受けているのか行動が速過ぎる。

 

 

彼が居なかったらお前一体何者だ。とか、一体なの目的で? とか絶対に聞いたであろう。

 

あの堕天使は大きなダメージに苦痛の表情をする。特に目が物凄い狂気が宿っていた。

 

 

あの目……似ている……アイツに……思い出したくもない。辛い日々。今でも時折、頭をよぎるほどの恐怖。今の僕の力があればアイツなんて相手にもならない。小指一本で倒せる。

 

だけど……あの恐怖だけは薄れてはいるけど残っている。僅かに足がすくんでしまった。人間や普通の怪人程度ならこの程度の隙なんて意味もない。だけど、今回は今までの上位存在ともいえる。

 

その為、その堕天使から放たれた七筋の光線。細い光の筋が一瞬で広がり、こちらに向かってくる。

 

 

それに反応できたのは……コハクちゃんと火蓮ちゃんとアオイちゃんだけだった。

 

アオイちゃんが短剣を振ると水の十四筋の流水を放つ。それで光を相殺し、さらに残りの七筋で相手の羽に風穴を開けた。

 

清流水剣(ドラゴン・アクア)……彼女の新しい力。彼女は彼との愛を自覚してそれを曲げずに伝えたことが使用のトリガーになったのだとメルちゃんが分析していた。

 

短剣の名前のセンスはどうかしていると思わなくもないが、そんなことはどうでもいい。彼女はとんでもなく強くなってしまった。

 

水を操る。水を生み出す。防御、攻撃が変幻自在。滑らかで速く鋭く、攻撃の予見もしにくい。

 

「水は友達……あーしにはアンタじゃ勝てないよ……」

 

 

格好が和服と洋風の複合系の巫女と言うか、肩が出てちょっと色気のある格好で水を操る彼女は湖の妖精のようだ。

 

恐らく、トレンドには湖の妖精が入ること間違いなし。

 

その後は火蓮ちゃんとコハクちゃんの爆発力で吹っ飛ばす。

 

 

僕はいるのかな? 別にいらないのではないかという心境を思わざるを得ない。あの堕天使は絶対に強敵のはずだ。

 

今目の前であっさり倒されたけど、それは彼女達が力があったから。なかったら絶対に死んでいたと思う。彼がこれまで繋いできた絆とか愛があるから。乗り越えられたのだ。あっさりしてるけどその裏には彼の今までの想いとか、努力とか苦悩とかが絶対にある。

 

それを彼女達も分かっている。そして、そんな一生懸命な彼が好きだから彼女達も隣に立とうと頑張っている。

 

それ故の衝突もある。それでも確実に距離は縮まって行くだろう。きっと、今まで以上に……僕だって……このまま置いて行かれたくない。あの、感覚が戻ってくる。自分と言う存在の疎外感。背だってまだ、コンプレックスだ……。

 

少しづつ、離されている……嫌だ……ようやく掴んだこの居場所を失いたくない。顔には出さないが心がざわつき始めた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 目のまえで絶大な光景で魅せられるとどうにも興奮する。特に大好きな彼女達の絶対的な姿。

 

 

 昔の血が騒ぐ……

 

 

 等と言うわけがない。そんなことは置いておいて……

 

 

堕天使をあっさり倒すなんて……本当なら萌黄が覚醒して、クリスマスの次の日に活躍して倒すはずなんだ。前回もそうだが……本来活躍するメインキャラが中間パワーアップをしてから現れる敵が、その前に現れる。全部逆で出てきているな。

 

 

まぁ、銀堂コハクに関してはあっさり中間パワーアップしてるけど……彼女って一番最後にパワーアップするはず……順序がドンドン変わっているような気がする。

 

このまま行ったら四天王最強の天使もあっさり終わるのか……? 

 

あとは萌黄のパワーアップはどうなるんだろう。クリスマスの日に皆と過ごすことで仲間との愛が強くなるわけなんだが。うーん、本来通りに行くのか? 不安だ、だとするならクリスマスは盛大に行うに限るな。

 

 

異世界から美味しい物でも取り寄せるか。

 

 

最終的に彼女全員が覚醒してパワーアップを遂げれば何とかなるはず。だとするなら俺はクリスマスパーティーを成功させると決めた。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 私の名前は銀堂コハク。普通の女子高生である。顔は良い方だろう、家事万能、スタイル抜群と言った結構高スペックである。自分で言うのもどうかと思うが……火蓮先輩的に言うと良妻系ヒロインと言ったところである。

 

 なので、毎日身だしなみに気を付けて、料理担当の日は気合を入れる。アピールは欠かさない。好感度はいくらあってもいい。100? 200? いやいや、1000は欲しい

 

 彼から私は抱き着いて欲しいのだ。彼は遠慮癖があるのか、嫌われたらと思うのか自分からは接触はしない。好意は感じるがだからと言って安易にはこない。そこが紳士的である……端的に言うと好感度が上がる。だけど、もっと、こう、料理作ってるときに後ろから抱き着くあるあるのシチュが私は欲しいのだ。

 

 まぁ、現実はそう上手くいかない。十六夜君と付き合えるんじゃないかと言う淡い期待が中々かなわず今居るわけである。しかも、二股したいということで難易度が爆上がり状態。

 

 そんな中に聞こえる謎の声。色々展開が加速しすぎではと思うがそんなの関係なしに私はアピールを頑張り続けないといけない。

 

「にゃにゃ……お前を猫にしてやろうか……」

「え?」

 

 

 

また、不思議な声が聞こえる。最近、こういうのが多すぎるような気がしてならない。しかし、次の瞬間には私は猫になっていた。

 

 

「EEEEE!?]

「にゃにゃ」

 

人為的な猫の声が鳴り響く。声の方向を向くと猫、変わった風貌の猫。それが浮いていてクスクス笑っている。

 

「偶にやりたくなる、人間をネコに変えるあの遊び……アタフタするのが見てて楽しいかな……」

「ちょっと、!? 直してくださいよ! 私、夕食の準備が!」

「じゃ、暫く位したら治るからにゃ……」

 

 

そう言って猫は消えていった。あれ、明らかに普通じゃにゃい。魔族とかそういうたぐいの連中かにゃ? あ、そう言えば十六夜君が以前、猫になった時に言っていたやつなのかもしれないにゃ。メルさんに詳しく聞いてみようかにゃ。

 

あ、語尾が変な風になっている。気を付けないと……

 

 

どうしよう。家の中で服がそのままで猫になるってとんでもないことじゃないだろうか……。

 

 

「お風呂掃除終わったわよー」

『火蓮先輩!』

 

リビングに入ってきた火蓮先輩、きっと気付いてくれるはずだ。散らばった服と下着、そこにいる猫。きっと気付いてくれる。

 

 

「あれ? 誰も居ない……コハクが夕食の準備してたんじゃなかったっけ? ん? 下着と服……コハクもだらしない面があるのね」

『いや、無いですよ!』

「んん? 猫ちゃん、どうしたのかにゃ? 迷い込んじゃったの? どうしたのかにゃ? あーやっぱり猫は良いわね……パパが猫アレルギーじゃなかったら絶対に一緒に居るのに……」

『ちょ、くすぐったいっ』

「ほれほれ、ここがいいのかにゃー』

 

 

彼女は私の耳と尻尾あらゆるところをさわさわして頬を緩める。この人、上手……んんっ、あ、んッ……

 

 

彼女が全身をいじくりまわしている。彼女は語尾ににゃをつけているけど誰にも見られてないと思ってるからこんな語尾を付けているに違いない。私だってこの間、あくびをしたら十六夜君が居て恥ずかしかった。誰にも見られていないと思うと人はつい、気が緩んでしまう。彼女もそんな感じだろう。

 

だって、こんなに……

 

 

「にゃにゃは何処から来たんですかにゃ?」

 

 

フニャフニャしてるんだもの。猫の真似して自分の手を猫の手のようにして自分は同類と言うことと、敵ではないとアピールしているんだろうけど、これを見せられても私はどんな反応をすればいいんだろう

 

 

と、そこで部屋のドアが開いた。誰かが入ってきたのだが彼女は閃光のような速さで顔をきりっとして何事も無いように顔を戻した。

 

「あ、十六夜、猫が家に入って来てるわよ」

 

いや、切り替えが速すぎる。さっきまでにゃんにゃん言ってたくせにキャリヤウーマンのようにするのだから彼女は面白い。

 

 

「え? 猫ですか?」

「そうよ、この子よ」

「ヘぇー……この猫、もしかして……」

『流石十六夜君。即座に気づいてくれたのですね!』

 

 

十六夜君、まさかの一秒で看破。十六夜君が何かを言おうとした時、火蓮先輩が十六夜君をソファに座るように促した。

 

 

「十六夜、ここに座って貰っていい? あの、ちょっと話したいことがあるから……」

「え、あ、はい……この猫……」

 

十六夜君は火蓮先輩の雰囲気の押されてソファに座る。私の事は言い出せないようだ。

 

「せ、折角、二人きりになったわけだし……ちょっと、話そうかなって……」

『シャ―!』

「え!? なにこの猫!? 急に怖い!」

『抜け駆けはさせません!』

「ええ? 何なのこの猫……」

「あの、多分、この猫は……」

 

 

十六夜君が色々説明をしてくれた。火蓮先輩は驚嘆して先ほどの自分の行動を思い出し、猫の私に何も言わない様に釘を何度も刺した。そして、準備が良い十六夜君は偽体が戻っても良いように布で私を包んでくれた。だから、特に何事もなかったわけだけど……火蓮先輩はあの時何を話そうとしたんだろう……

 

二人だけで……一体何を……疑ってしまう。何も無いと分かっているけど変に勘ぐってしまう。

 

私が居ない時に二人で何をする気だったんだろう。不安と言う感情が渦巻いている。火蓮先輩が抜け駆けして、十六夜君を持っていったら……どうなるの? 私はどうなるの?

 

そこまで考えて私はそれ以上考えないようした。何だか、思考がマイナスに向かう事が最近多いような……

 

速く、速く、あの人が欲しい……不安と言う感情が押し寄せるたびにそう思う。手に入れば不安がる必要はない。私だって二股でも何でも特別な関係なら何でもいい。でも、それで誰かに取られたと思ってしまう。そんなはずないと頭では分かってる。でも、心が止まらない。

 

 

――無理やりにでも……

 

 

最近の私はオカシイ……。ゆっくり、迷惑を掛けずに……行くって決めた。でも、そのせいで彼を逃したら……

 

 

パチンを両頬を叩いて切り替えである! 十六夜君を見習って元気よくタフに行こう! 私は大急ぎで夕食の準備を始めた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 その日の夜、私は十六夜の元に行った。私をもっと見て欲しいから。ノックして部屋に入る。お風呂上りに男の人の部屋に行くってちょっとためらわれることかもしれないけど……

 

「ご、ごめんください……」

「そ、そんな、畏まらなくてもだ、大丈夫ですよ」

「そ、そう?」

「は、はい」

 

 

想いと伝えようとすると急に顔が強張って、頭が上手い事回らないから不思議だ。十六夜も何か私の変化を感じ取って、意識してしまい互いに緊張している状況になってしまう。

 

 

「あ、あのさ…‥電気消していい?」

「ええ!? あ、はい……

 

 

ぱちんと部屋の電気が消える。目が慣れていないからか不思議と緊張感が薄れる。暗いとちょっと大胆になれるという事が最近になって分かった。

 

月の明かりが部屋を照らす。

 

 

「こ、今夜は月が綺麗ね!」

「ありがとうございます!」

 

 

彼は腰を九十に曲げてお礼を言う。流石、十六夜。こちらの意図を分かってくれる。普通の漫画とかだとこういう事をヒロインが言うとただ同意する人たちとは一味も二味も違う。

 

 

「火蓮先輩!」

「な、なに?」

「月より貴方が綺麗です!」

「――ッ」

 

もう、バカぁッ。ベラボウに嬉しいわよ、この大バカものぉッ。

 

 

「あ、あっそ……」

 

 

つい、あっそで済ませてしまった!! ダメよ。素直になるの。ただ、ツンツンするツンデレじゃなくて、素直に気持ちを伝えられるツンデレになるの!! あれ? ツンデレって何だっけ?

 

 

「わ、私は……その……」

「は、はい……」

「す、すす」

「……」

「好きよ!! 十六夜のこと!!」

「倒置法の告白!! 凄く、嬉しい!!」

 

 

ゾーンに入れ、私。どんなことでも出来るのよ、私。もっとするのよ、告白を。ああ、きたこの感覚、偶にある何でも言えそうなゾーンが。

 

 

「あの、知ってると思うけど好きなの、十六夜が」

「ありがとうございます!」

「多分、十六夜が思ってるよりずっと好き!! 世界で一番貴方が好きなのは私って自信を持って言えるわよ!!」

「……」

 

 

あれ? 流石に言ったことが重かったのかな?

 

と思ったら彼は土下座をした。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

私は腰を下ろして彼と向かい合う。彼は意図をすぐに把握してくれる。分かっているけど全部じゃない。だから、言ってもっと私を知ってもらいたい。

 

 

「私はね……十六夜が思っている以上に十六夜が好きよ」

「そうなんですか?」

「そうよ、多分、一歩間違えたら私、ヤンデレになるわ……」

「ええ!?」

「言っておくけど冗談じゃないわよ。本当にその片鱗を偶に自分に感じるから」

「そ、そうなんですか」

「知らなかったでしょ?」

「知りませんでした。前に冗談でやってたのは覚えてますが、本当にヤンデレの片鱗があるとは……」

「そうなのよ。私、ヤンデレ候補なのよ。あの、だから、もっと私を知って欲しいの。火原火蓮と言う私をもっと知って求めて欲しい……わがままだと思うけど……」

「そんなことないですよ。俺だってもっと知りたいです!」

 

 

私は嬉しくてたまらない。話しの内容が合うし、結構コアな事でも彼とは話ができる。この前も……

 

 

『十六夜のラノベ読んでてあるあるってある?』

『人外転生が結構あっさり人型になるとかですかね』

『分かる』

 

 

 

そして、彼は時折家族の話を聞いてくる。本当なら私のことなんて、私の家族のことなんてどうでもいいのに誰よりも気にしてる。

 

仲が良くてメールもして、この間の休日に三人で出かけた事を話したら自分のこと以上に喜んでくれた。

 

その笑顔も心も何もかもが好きでドンドン好きになってしまって、留まらない。これからもきっと……

 

 

「そうか……俺の知識が全部なわけないよな……」

「どうかしたの?」

「いえ、やっぱり大事な事を気付かせてくれるのは貴方だなって!」

「ど、どういたしまして……」

 

 

 

なんか、良く分からないけどよかったのよね? 感謝してるから。良く分からないけど。

 

 

「もっと知りたい。しかし、どうすれば……」

「で、デートじゃない?」

「からの飛び越えて旅行とかどうですか?」

「い、行きたい! 聖地巡礼とかしたいし!」

「ようし、いつか纏まった休みがあるときに行きましょう!」

「約束よ! 絶対だからね!」

 

 

なんか良く分からないけど旅行の約束が決まった!!!!!! わーい!! まぁ、行くのは先になるだろうけど……でも、これって私が初めてじゃない! メインヒロイン√の予兆!!

 

 

 

「じゃ、じゃあ、今日はお休み。ぜ、絶対の絶対だからね! 旅行! 楽しみにしてるからね!」

「はい!」

 

 

私はそれで満足して部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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