今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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 感想、誤字報告ありがとうございます。寒くなってきたので、皆さん、コロナウイルスは勿論ですが体調管理には気をつけてくださいね。


百九話 ともだち

 がやがやとクラスメイト達の声が聞こえる。クリスマスが近づいてどうするか予定をたてたり、関係なくバイトだと嘆いたり、色んな声が聞こえてくる。だけど、僕にはどうしても何かが引っかかってしまった。

 

 

 どうしても、昨日の夢が心に重くのしかかっている。でも、それはきっと起こりうることだと思う。クリスマス……今年は皆で過ごそうと思っていた。でも、皆を優先するべきだろうか。皆の恋路を一番に考えたら居ない方がいいんだろうか。

 

 

 普段、ここまで悩むことなんて無い。なのに、昨日の夢からどつぼにはまったようにただ、()()()()()()()()()()

 

 

 魔族を倒したら? 世界を救ったら? この関係は終わってしまうのか? もし、終わったとしたら僕は一人の道を歩き始める。

 

 

 

 昨日の夢のように。ただ、一人で……寒くて、寂しい。周りのみんなはクリスマスとかで盛り上がっているけど。

 

 

 

「萌黄どうしたの?」

「え? あ、なんでもないよ……」

「何か、元気が無いように見えるけど……」

「うん、実は……肌荒れが気になってね!」

「いや、十分綺麗だけど?」

「あ、そう? 元気出た!」

「……本当にどうしたの?」

「何にもないけど?」

「……なら、いいんだけど」

 

 

 

火蓮ちゃんが僕を気遣ってくれた。顔に出ていたのかもしれない。気を付けないと。学校は充実してて、家に帰っても楽しくて仕方ない。この想い出があれば十分だ。それ以上なんていらない。

 

 

「ほら、席に着けー」

 

 

女の先生が教室に入ってきた。授業開始の挨拶をして、教科書を開いてノートに板書を開始する。軽く聞き流しながらただ、なんてことの無い授業を受ける。

 

一年の終わりが近づいているから、教室の温度がいつもより低い。暖房が暖かい風を送っているがそれでも冷える感じは消えない。だからだろうか。周りの一部の生徒が毛布を膝に掛けているのは。特に意識もせずに外を眺めていると曇りの空から白い結晶が降ってきた

 

先生がそれに気づいて……

 

 

「うわぁ、降ってきたよ。寒いし、明日の朝、車の運転が怖くなっちまうよ」

 

その先生の言葉に一部の生徒が反応する。

 

 

「寒いのは独り身だからっすか?」

「ああ? 成績堕とすぞ?」

「今年は彼氏できたんですか?」

「できんな」

「一人ってどんな感じですか?」

「そうだな……一言でいうと寂しいに尽きる。だから、音が欲しくてテレビを意味もなくつける」

 

 

 

……なんだか、夢の内容と似てる。多分、僕も一人の孤独を紛らわすためにテレビはつけるだろうな。

 

「ちょいちょい、萌黄」

 

後ろから冬美ちゃんの声が聞こえてくる。

 

「どうしたの?」

「放課後ちょっと空いてる?」

「あ、うん」

「映画見に行かない?」

「……いいね。僕も行きたいな」

 

 

 

何だか、気持ちを切り替えたい気がする。変に顔に気持ちを出してしまうと皆に気を遣わせてしまう。

 

 

「じゃ、そういうことで」

 

 

彼女はそう言うと普通に授業に戻った。あっという間に時間は過ぎて放課後になった。

 

 

「ごめん、僕ちょっと冬美ちゃんと映画行ってくる」

「分かったわ」

「うん。それじゃあ、あとでね」

 

 

 

火蓮ちゃんに一言告げて僕は彼女と映画館に向かった。雪が降りつもって、靴下が少し濡れる。肌寒い。

 

 

「いや、寒いね。うちは結構耐性有る方なんだけど。今年は格別かも」

「そうだね。今年は寒いような気がする」

 

 

映画館につくと意外にも人が多くいて、制服デートをしている何人かが見えた。

 

 

「リア充消えろ……」

「ちょっと、聞こえてるって!?」

「けっ」

 

 

彼女のリア充嫌いは本当に凄いと毎回思う。

 

「何見る?」

「うちはね、最近の流行りのラブコメ映画を推す」

「じゃあ、それにしよっか」

 

映画一覧のパネルを見ながらチケットを買おうと列に並んで購入し、ポップコーンを買って飲み物を買ってラブコメ映画のやるシアターに入って行く。周りにはカップルだらけ……

 

 

「これって、僕たち場違いなんじゃ……」

「いや、ダイジョブ、寧ろ邪魔する位の気で行かないと」

「ええ……」

 

 

 

まぁ、席が端っこなだけ良いかもしれないけど。因みにこの映画は話題も話題。すれ違い系最終的ハッピーエンド作品らしい。

 

 

映画では盗撮などは禁止と言う広告が出る。

 

 

「うちこれが何気に好きなんだ」

「僕も好きだよ」

 

 

始まった。

 

 

ああ、テレビでよく見る人だー。

 

 

 

等と言う軽い想いは映像が流れると吹っ飛んだ。素直になれない女性はすれ違いの果てに諦めて、そこで恋が終わると思った時に男性が来て添い遂げた。正直に言うと面白いと思った。これは所詮創作だとそう思っても感情移入をしてしまった。

 

 

シアターから出る。と彼女が歩きながら話しかけてきた。

 

 

「いやー、結構面白かったー」

「そうだね」

「……気分転換できた?」

「え?」

「いや、何かちょっとだけ顔が変な感じがしたからさ。女の勘ってやつだけど。まぁ、うち以外も何となく程度には感じてると思うけどさ」

「……」

「萌黄はさ、もっと素直になった方が良いと思うよ」

「別に……僕は」

「男が嫌いだって?」

「ッ、う、うん」

「関係ないと思うけどな。性別とか。萌黄が好きなったのがアジフライ君で性別がたまたま男だった位だと思うよ」

「……」

「分かってると思うけどね……あっ」

「??」

 

 

彼女は話してる途中で何かに気づいて足を止めた。

 

「じゃ、うちはこの辺で」

「え? ここで?」

「うん、バイビーベイビーまた明日」

 

 

彼女は走って帰ってしまった。彼女を見届けていると外の景色も目に入る。僕はそれを見て驚いた。外はもう、大雪と言ってもいいくらいだったからだ。雪の一つ一つの大きさが映画を見る前とは段違いでそれが深々と降り積もって行く。

 

 

「大雪だ……」

 

 

これは帰るのが大変だと思う。絶対靴下びちょびちょは確定だし、頭もびちょびちょ。きっと体温も低くなって凍えてしまうだろう。帰ったら頭から雪を払って……夢の景色と今目の前の景色が重なる。

 

 

映画館から出ると真っ白で人が歩いてく。自分の前を通り過ぎて僕と同じように一人で頭を濡れないように手で覆う人も見えた。

 

 

「萌黄先輩」

「――ッ」

 

その名前を呼ばれた時、胸が跳ねた。そこには傘を持っている彼だった。

 

「さぁ、この傘をどうぞ!」

「どうして、ここに?」

「映画館に行ったと火蓮先輩から聞いて、雪が降ってきたので傘を届けに来たからですかね?」

「そう……なんだ……ありがと……」

 

 

 

彼から傘を受け取ると一緒に帰路を歩く。愛おしくて、夢と重なって、これが現実でもいつか幻想になってしまうと思うと悲しくてどうしようもなくなってしまう。目尻に涙が僅かに溜まっていく気がする。

 

 

「何か、ありましたか?」

「どうして?」

「いや、何となくです……何となく、貴方がいつもと違う気がして……」

「そんなことないよ」

 

 

 

彼は僕に足幅と歩くスピードを合わせた。それすらも嬉しくて悲しくなってしまう。これが幻想になってしまう……

 

 

いやだよ、そんなのいやだよ……気付いてよ。君から言って。無理にでも手を引いて。

 

 

 

「俺は萌黄先輩の事は全部分かってるつもりでした……でも、きっとそんなことないって最近気づいて、だから、話してくれませんか? 貴方が悲しい顔をしてるのを見るのは何より耐えられないんです」

「……なんでも……」

「聞かせてください。どんなことでもいいです。些細な事でも大それたことでも、俺に出来る事でも出来ない事でも、言ってください」

「……」

「貴方が心配なんです。一人で抱えてしまうあなたがどうしても放っておけない。俺の我儘ですけど、笑ってずっといて欲しい、魔族を倒した後でも、十年先でも、百年先でも。聞かせて欲しいです」

「―――ッ。ぼ、僕は……」

 

 

 

 雪が積もっていく真っ白な世界で彼と僕は向き合っていた。ただ、何もない真っ白で二人の世界。彼が真っすぐ見てくれた。それは幻想では無くて現実で。その先を考えてくれていることが嬉しくて。

 

瞳から涙が落ちてしまった。隠そうとしていたけど無理だった。

 

 

――抑えられない、もう後戻りも誤魔化すことも出来ない

 

 

複雑でバラバラだった感情が一つとなって、彼に向いた。傘をそこに投げるように置いて彼を抱き寄せてしまった。

 

 

「――好きだよッ、君がッ、黒田十六夜が好きなんだ」

 

 

 

彼は傘から手を離してしまった。強くなっていく雪の中で僕達の頭に雪が溜まって行く。彼の体をこれでもかと抱きしめて彼の次の言葉を待った。

 

 

「ッ! あ、え……俺も好きです」

 

 

彼は驚いたようで言葉に詰まったが僕の目を見ると、何かに気づいたのか、直ぐに真っすぐにそう言った。

 

 

「それは、どういう意味で?」

「異性として一人の女性として、友達としても、尊敬できる人としても……好きです」

「本当に?」

「はい……」

 

 

涙が溢れて止まらない。不思議と大雪で気温も低いのに暖かい。僕は彼に抱き着いたまましばらく動かなかった。このままがいい。時間の感覚が分からなくなるくらいにぬくもりに浸っている。

 

 

こんな場所で何をやっていると思われるのかもしれない。だけど、どうでもいい。この時間だけは、この時だけはこうしていたい。

 

 

「君は、ずっと僕の側にいてくれる?」

「俺は居たいと思っています」

「そっか……」

「俺だけじゃなくて、コハクさんも、火蓮先輩も、アオイ先輩もそう思っています」

「そうだよね……」

「一人にはしませんよ。彼女達も俺も」

「ありがと……」

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

帰り際の小学生に指を差されてごちゃごちゃ言われたので流石に抱き合うのはやめた。

 

「君は……その、自分でこういう事を言うのも、恥ずかしさの極みなんだけど……僕のことが好き、なんだよね?」

「はい」

「えっと、でも、多分、皆も好きだよね?」

「はい。ですから、その、全員と付き合えないかなって、その、思ってます……」

「だよね……」

 

 

僕のことやっぱり好きなんだ。ど、どこが好きなんだろう? 

 

 

「つ、つかぬこと、お伺いしますが、僕のどこら辺が好きなのでしょうか?」

 

 

しまった。突然敬語を使ってしまった……

 

 

「ぜ、全部ですかね」

「あ、そうなんだ……いつから、その……」

「……それは難しいですね……でも、多分、最初からですね、あの、言いにくいんですけど、ずっと好きでした……あの、それで最近、アオイ先輩からも好意を向けられて……それで、その、理想を考えるようになって……」

「理想?」

「あの、全員と付き合えたりしないかなって……こっそり思ってました……すいません……」

「あ、そうなんだ……」

 

 

 

じゃ、じゃあ、僕の事を狙っていたって事!? う、嬉しいけど……恥ずかしい。

 

 

それと好きな所って全部って言ってたけど……心も体もってこと? 

 

心を好きになってもらったのは嬉しいけど身体的に好意を持ったとか……僕であり得るのかな? 

 

身長は彼より高いし……胸部は、その、結構、彼好み? とか、そんなことがあるのかな?

 

それとも足? 生足がエロいってよく、火蓮ちゃんに言われるし。あれ? ちょっと待って!?

 

もし、身体的にも好意を持ったのだとして、その先はどうなんだ!?

 

お、男の子って()()()()()()()()をしたいって聞くし、特に彼なんて毎日、超絶素敵な女の子達と過ごして、ぜぜぜぜ、絶対に、た、溜まってるだろうし……

 

 

彼女になったらそういうことも!? 足で、エッチなこと!? あ、いやでも、まだ一応付き合ってないし……

 

 

そもそも、四股!? この問題はどうするの!? 現代だとこういった事は認められてないし。重婚なんてもっての外。

 

そもそものそもそも、コハクちゃんたちが四股を認める!? いや、絶対に認めないよね!? 

 

僕、個人としては……彼と一緒なら何番でもいいし、皆と一緒だと楽しいし賛成と言う立場なのかもしれないけど。表立っていきなりハーレムを作ろうなんて言えるはずないし。

 

 

「あの、萌黄先輩大丈夫ですか? 百面相してますけど」

「ダイジョブ!」

「そう、ですか……あの、全員と付き合うって事に関しては何とも思わないんですか?」

「僕は良いと思う。賛成かな?」

「え? マジですか!?」

「あ、うん」

「ありがとうございます!」

「ちょ、こんなとこで土下座しないで!!! ほら、ご近所の人達が凄く見てるんだよ!!」

「もう、本当にありがとうございます。。おでこの骨が砕けるくらいの土下座をします!!」

「そんな、雪に顔を打ち付けないでよ!!」

 

 

僕は急いで彼を起こして土下座を止めさせた。

 

 

「フフッ」

 

 

思わず、幸せの笑みを抑えきれず笑ってしまった。これから先にどんなことがあるのか分からないけど、それでも、僕はこの人と歩んでいいんだと思うとどうしても嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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