今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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十二話 恋!?

 さて、不良、ストーカー両方を退け無事『ifストーリー』であるバッドエンド一巻分を回避してから一週間が経過した。

 俺の変な噂は、銀堂コハクが色々説明してくれたおかげで無事無くなった。校内からは偶に尊敬の眼差しを向けられた。

 

 しかし、二丁拳銃で倒したということまで広まり一部では厨二の疑いがかけられた。

 

「あ! 二丁拳銃!」

「懐には、国語辞典入れてるらしいぜ!」

「ダブルデストラクションっていう二つ名があるらしいぜ」

「絶対に拗らせてるな」

 

 色々あり恥ずかしくはあったが……まぁ良しとしよう。

 

 

 

 しかし、今回の俺の活躍は中々だったのではないだろうか? もっとうまくできたかもしれないが、ベストは尽くせたと思う。俺は凡人だがそれ故の準備をしてきた甲斐があったという物。だが、電動ガンはいらないという事実を発見した。激辛水鉄砲で無双できるので、これからは激辛水鉄砲二丁拳銃スタイルを確立していきたいと思っている。

 

 因みに、あれから、彼女に付きまとうのは止めた。色々理由はあるが、一番はバッドエンドを回避したということ。次に他のヒロインをバッドエンドから回避させなければならないということが挙げられる。

 

 胸糞悪い『ifストーリー』は繋がっている。二巻は、銀堂コハクが殺されてしまったところから始まるのだ。だからこそ次に何かが起こることは必至と言える。色々考えてはいるが、まずは彼女と仲良くならなければならないだろう。

 

 ”火原火蓮”と……。

 

 その為に『魔術学院の出来損ない』というラノベの知識は必須とも言えるだろう。

 彼女が最も愛する作品であり、この世界では超がつくほどの人気作品。アニメ化もしている。

 

 『魔術学院の出来損ない』が一番好きな彼女だが、これだけと言うわけではない彼女は重度のオタクだ。彼女と仲良くなるにはラノベ、アニメ、漫画等をよく知らなければならない。幸い俺はこういったジャンルは嫌いではないし、前世でも好きだったためサクサク読むことができた。

 

 今俺が通っている皆ノ色高校に入学する前から、必要なオタク知識は蓄えていた。彼女と仲良くなる準備は完璧と言ってもいいだろう。後は……俺の勇気しだいといったところだ。

 

 俺は女子と会話するのが得意じゃない。銀堂コハクとは何だかんだ話せたが慣れるまで時間がかかったし、最初は当然だが緊張しかしていなかったんだが、そうも言っていられない。だからこそ、今日の昼休み食堂で食事をしてるだろう彼女に、俺は火原火蓮に話しかける!!

 

 ホームルームが始まる前の時間に『魔術学院の出来損ない』第一巻を読んで知識を復習しながら俺は決意を固めた。

 

「おっ! それって『魔術学院の出来損ない』だろ? 好きなのか?」

「まぁな。佐々本も知ってるのか?」

 

 朝から復習していると前の席から興味深そうに佐々本が話しかけてきた。

 

「アニメ少し見たくらいけどな」

「そうなのか。面白いよなこれ」

 

 これは嘘ではない。確かに火原火蓮と仲良くなるために読み始めたが予想以上に面白かったので、販売されている単行本全部買って即読みしたくらいだ。

 

「ああー、確かに結構面白かったけど……」

「けど? なんだよ?」

「俺はエロ本を眺めたほうが楽しいからな!!」

「だと思った」

「エロ本もアニメ化しないかな?」

「それは、無い」

 

 下らない事を考えている佐々本は放っておいて俺は読書の続きを始めた。

 読みながら、やっぱり面白いなと改めて感じた。

 

 

◆◆◆

 

 あの日、私が子供のように泣いてから一週間が経過した。彼に対するお礼も兼ねて学校の変な噂を解決するために色々話したのだが一部笑いを堪える生徒がいたのは謎だ。

 

 あれから、一切彼は近付かなくなった。話しかけても来ない。登下校は一人でするようになり、少し寂しい……わけではない、ないったらない。もしかして、また近くにいるかと後ろを振り返ってみたりするが、居ない……。彼との接点が全く無くなってしまったことを気にしているわけでもない。

 

 だって、別にどうでもいいから。彼には感謝している。嫌いという感情はないがそれ以上の感情はない、はずなのだが……。

 

 最近は気付いたら目で彼を追っているような気がする。特に意味はないが追ってしまう自分がいる。今は小説を楽しそうに読んでいる。顔にはあまり出ていないが気分がいいのが分かる。

 

 

「銀堂さん」

「は、はい!?」

 

 彼を見ていたらいきなり後ろの夏子さんが話しかけてきたので、少々大きな声を出してしまう。

 

「あ、ごめん。びっくりした?」

「いえ、大丈夫です」

 

 野口夏子さん。私の後ろの席で天然な感じだが、何処か鋭い感覚を持っており、勉学に対する知識はかなりのものだと言うことは入学してからの短い期間でも分かった。

 

「そう? ならいいんだけど。実は銀堂さんに聞きたいことがあって」

 

 私が過剰に驚いたことで彼女に気を遣わせてしまったようだ。最近、彼女とは今まで以上に接する機会が増え、友達とも言える関係に近いかもしれない。

 彼の言葉で私は、もう一回信頼とか友情を信じてみようと思い始めたこともあり、夏子さんとはこの一週間で今まで以上に話した。まだ、完全に信用したわけではないが、悪い人ではないことは分かった。

 

「なんですか?」

「銀堂さん、黒田君の事好きでしょ?」

「え? ええええええ!?」

 

 彼女はいきなり何を言ってるのだろうか!? 何を言ってるんだろうか!?

 そんなわけない。勝手に勘違いしている!!

 

「やっぱり」

「ち、違います!」

「だって、この一週間事ある毎に十六夜君を見てるんだもん。分かるよ」

「勝手に決めつけないでください!!」

 

 からかうように夏子さんは視線を向ける。確かに彼を見てたかもしれないが、それだけで好きとか、そんなのは……ない!

 

「またまた、好きなくせに」

「好きじゃないです!」

「じゃあ、嫌いなの?」

「嫌いでもないですけど……」

 

 あれだけ色々してもらって嫌いなはずはない。救ってもらって庇ってもらって感謝している。だけど、それだけ……。

 

『銀堂さんが誰かを救おうとして動く姿に憧れを持った人がいる、心震わされて勇気づけられた人がいる、どれだけ傷ついても誰かの為に手を伸ばしたあの時の銀堂コハクは誰かに希望を与えたはずだ。貴方のその時の姿は何よりも眩しくて、美しくて、誰よりも優しくて、カッコよかったはずです』

 

 まるで見て来たかのように、私の一番欲しかった言葉をくれた。その時を思い出すと胸がドキドキする。

 

 

 

「好きでもないです……」

「私、こんな分かりやすい人初めて見た。銀堂さん、顔真っ赤だよ」

「え?」

 

 思わず手で頬を抑える。確かに少し熱い……。

 

「これは、違うんです! 朝から熱っぽくって!」

「あ、はい。もうそれでいいです」

 

 何とか誤解が解けて一安心。なんだか生暖かい目で見られているような気がするが、気のせいだろう。

 再び彼に視線を向ける。この時特に意識はしていなかった。自然と向いてしまったのだ。彼を眺めていると、隣から再び生暖かい目が。気づいたときには遅い。顔がさらに熱を持つ。

 

 

「ほら、やっぱり見てる。つい見ちゃうほど好きなんでしょ?」

「ち、ちが。これは、あっちに可愛い鳥がいて」

「言い訳下手糞すぎ」

「本当ですよ! 本当にいたんです!」

 

ニヤニヤされながら見られると恥ずかしい。ああ、まだ誤解が解けていないようだ……。私は恥ずかしくて俯きながらも、また小説を読んでいる彼に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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