今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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十六話 恋進!!

 朝から大変だ。こんなことになるとは……。

 

 俺は朝から男子たちから苛立ちのこもった視線を向けられ、ため息をこぼしたくなる。昨日の火原先輩に帰宅に誘われたのが滅茶苦茶嫌だったようだ。気持ちは分かる。もし知り合いが可愛い子と一緒に居たら、俺も中指を立てるだろう。

 だって、俺前世から彼女なんていたことないし……。そんなの見たら普通にムカつくし……。

 

 だから、こういう視線を向けられるのは仕方ないのかもしれない。異性と二人でいれば嫌でも恋愛事に持っていきたくなるのが高校生だ。

 でも、俺には恋愛感情は無い……と思う。

 

 だって、あんな可愛い子と一緒に居れば、嫌でも異性として意識はしてしまう。

 

 前世の年齢とトータルすると明らかに犯罪のにおいがするからなるべく意識はしないようにはしているが、相手が魅力的すぎる。

 

 ちなみに、このクラスの男子達も殆どが俺と同じ非リア充だ。一名だけ例外はいるが、それ以外は非リアである。

 

「おうおうおう、十六夜君はご機嫌良さそうでござんすね」

「佐々本昨日のは誤解だ。ちょっと趣味が合って本屋で話しただけだ」

 

 三下の不良のような言い回しで俺に寄ってくる佐々本。言っても無駄だろうが、一応誤解は解いておかないとな。俺のためにも火原火蓮のためにもな。

 

 

「かぁぁ。流石っすわ、十六夜君。異性と二人で歩いても何もないと? おいてめぇら聞いたか!? 何もないとよ!!!!!」

 

「嘘つくな!!」

「このフツメンが!!!」

「鈍感系装いやがって!!!」

「厨二拗らせ国語辞典野郎が!!!」

 

 

 かなり憎しみが凄い。と言うか最後から数えて二つは本当に止めてほしい。男子達からは憎しみがあふれていた。

 

「罰金だ!!」

「リア充税を取れ!!!」

「そうだ、そうだ」

 

 リア充税か。懐かしいな。『ストーリー』にもそう言う展開があったな。ちょっとしたネタ的な物だったな。まぁ、このクラスで取られたのはたった一人だったが……。

 

 確か他にもイケメン税、スマート税、女子からキャーキャー言われ税、等など多数取り揃えていた。すべて当てはまるのは彼しかいないがな。

 

「ちょっと君たちその辺にしたまえ。はしたないよ。」

 

 この騒ぎには必ず入ってくると思っていた。『魔装少女』の中でも圧倒的に女性人気が高いキャラクター。その分男性読者からは票がほぼ入らないという偉業を達成した。

 

 

 金親元次

 

 彼は金親会社という彼の父が経営する会社の息子であり、幼いころからそれはそれは大層よい環境で育ってきたエリート様だ。身長は百九十越え。イケメン、金持ち、清潔感あり、言うことは無駄にカッコいい。イケメンの要素をこれでもかとぶち込んでいる。

 

 何だこいつ? は? 何だこいつ??

 

「元次!!! お前は関係ないだろ!!」

「そうだ! そうだ!!」

「逆にもっとうるさくなるわ!!」

「すっこんでろ!!」

 

 男子からもヘイトが凄い。金親元次はどの世界でも同性からは疎まれるのだ。それほどのカリスマ性も持つ。

 

「静かに。この教室のレディたちがびっくりしてしまう」

 

「か、かっこいい」

「朝から幸せ」

 

 殆どの女子が目をハートにする。こんちくしょうが、一度でいいから俺もそんなセリフ言ってみたいよ!

 

 

「あああああ!!!」

「またキザなセリフ言いやがって!!」

「こっちはそのセリフにびっくりだよ!!」

 

 お! なんかあっちにヘイトが向いたぞ。このままアイツが全部請け負ってくれれば全部解決だな。俺もムカつくし、よし男子達もっと言ってやれ!!

 

 

「こいつからも税を取れ!!」

「そうだ! イケメン税、スマート税、女子からキャーキャー言われ税諸々合わせて五万だ!!」

 

 高いな。普通だったらこんな調子で税を取られたら破産するだろうが、こいつは次元が違う。

 

 金親元次は懐から財布を出しあっさり五万、いや十万を出しそれを税の徴収箱に入れた。

 

「十六夜。君の分も払っておいた」

「あ、はい。ありがとうございます……」

 

 気前がいいな、おい。アイツからしたらちり紙程度なんだろうけど。男子達が敗北したように全員が膝をついた。女子たちはキャーキャー言っている。

 

「気にするな。十万くらいポケットティッシュの様な物だ」

 

 俺は感謝するべきなんだろうけど普通にムカつくな。金親元次の一人勝ちで朝の優雅な時間はすべて潰れた。

 

 

◆◆◆

 

 

 朝から色々大変だった俺だが、無事昼休みを迎えることができる。食堂にとりあえず向かおうとすると、携帯が振動する。ポケットからスマホを取り出す。

 確認すると、火原火蓮からだ。内容を読む。

 

『昼休み暇? 一緒に食べない?』

 

 交流を持ちある程度の好感を持たれるという目的は、ほぼ達成されたと言っていいだろう。もうこれ以上好感度を上げる必要はないのかもしれないが、誘いは別に断る必要もない。

 

 普通に可愛い女子と食事ができるという時点で俺は喜ばしい事この上ない。しかもあちらから誘ってくれた。俺は一度でも異性から食事に誘われたことはあっただろうか?

 

 無いな。全くないな。

 良し、行こう。

 そう思い食事を共にしたいという内容を返信しようとしたその時、声をかけられる。

 

「黒田君。ちょっといい?」

 

 目線を向けると、野口夏子がそこに居た。『ストーリー』ではこれと言った活躍の場は無かったが銀堂コハクとはそこそこ仲が良かったキャラクターだったな。ビジュアルも結構いい感じ。黒髪ショートで普通の可愛い系少女の位置づけだ。

 

 ただ、彼女色々鋭いのだ。勘が途轍もなく……。一種の『超能力者』でもある。

この世界にはファンタジー要素として、『魔装少女』と『魔族』以外にもさまざま存在するが、その一つが『超能力者』である。しかし、『超能力者』と言っても大したことはない。『魔装』と比べたら天と地の差があり、直接的な能力は存在しない。

 

 『ストーリー』では正体を明かさずに銀堂コハクたちは戦うが、野口夏子だけは正体に感づいていたようだった。

 正体がバレそうになりあたふたする銀堂コハクをよく覚えている。そんな野口夏子が俺に何の用だ?

 

「どうしたの? 野口さん?」

「うんとね。お昼暇?」

 

 女子から同じ日に二度も誘われるだと? モテ期か? 

 転生して二度目の人生で遂に俺にも念願のモテ期が到来したのか?

 いや、落ち着け。ここで取り乱してどうする。草食系男子を演じて、ここは上手く乗り切ろう。

 

 多分、恐らく、いや絶対彼女も俺を食事に誘いたがっている。どうするべきだ?

 火原火蓮に折角誘ってもらった。ここで断って関係にひびが入るのは避けたい。

 

 よし、ここは火原火蓮を優先しよう。

 

 

「えーと、これから火原先輩と食事……」

「良かった! 暇なんだね!」

「え?」

 

 良く聞こえなかったのか? いや聞こえてるはずだ。この距離だし聞き間違えるようなこともないはずだ。

 

「それじゃあ、銀堂さんもつれて三人で食堂に行こう!」

「え、いや」

「いいよね……?」

「あ、はい」

 

 何か一瞬寒気がしたような気がする。まぁ火原火蓮も食事断られたくらいじゃ何とも思わないだろうし、別にいいか。親密度も上がっている。

 

 彼女に断りの連絡を入れておくか。

 

『すいません。先約があるのでまたの機会にお願いします』

 

 送るとすぐに返信が来た。

 

『そっか。それじゃあ仕方ない。また明日ね!』

 

 意外と心を騒めかせるメールを送ってくれるじゃないか。また明日も誘ってくれるとは……こういう積極的な感じに俺弱いんだよな。昨日誘ってくれた時も結構ドキドキしてたんだが、上手く隠せていただろうか。

 

 最後でメッキが少し剥がれてしまったが、それより前はどうだっただろうか。俺はなるべく落ち着いた雰囲気で行きたいのだが、それがいつまでもつかな。一応前世合わせたら結構の年なので大人感は出したい。

 

 俺は一喜一憂しながら携帯をしまい、廊下に出た。野口夏子と銀堂コハクは既に俺を待っているようだった。

 

 食堂に向かって三人で歩く。俺の隣に銀堂コハク、その更に隣に野口夏子。

 銀堂コハクを挟むようにして、足を揃えて歩く。そう言えば、以前のストーカー事件から本当に全く接してないな。同じクラスだから一応毎日会ってるようなもんだが。

 

「そ、そう言えばお久しぶりです。十六夜君」

「あの、同じクラスですよね?」

「そ、そうでしたね……アハハ……」

 

 まさか、忘れられていたのか? 同じクラスだからさすがにそれは無いよな? まぁ、印象に残りそうな顔はしていないが……。

 

「あ! ごめん! 私お弁当だったの忘れてた! 悪いけど二人で食べて。それじゃ」

 

 いきなり野口夏子は弁当を理由に離脱した。ここでいきなり銀堂コハクと二人きり。最近のことなのに何処か懐かしい感じがする。

 

「それじゃあ、行きますか」

「そ、そうですね」

 

 二人で取りあえず食堂に向かった。食堂に着くと嫌でも視線が集まる。昨日は火原火蓮と一緒に居て、今日は銀堂コハクとくれば色んな所でひそひそ話されるだろう。

 

 二人とも校内指折りの美人女子生徒。また、変な噂が立つだろう。これ以上、どんな噂がたつか楽しみだぜ! ヤバい、混乱してるな……。

 

 

「十六夜君は何を食べますか?」

「えーと、カレーですかね」

「じゃ、じゃあ私もそれで……」

 

 二人してカレーを注文した後、席に座り向かい合う。正面から見るとやっぱり可愛いな。以前の登下校の送り迎えで慣れたはずだったが、やっぱり正面から向かい合うと少し緊張するな。

 

「頂きます」

「い、いただきます」

 

 特に会話はなくお互いカレーを口に運ぶ。ここは俺から少し気まずい空気を何とかしようじゃないか。精神的には俺の方が年上だしな。

 

「カレー好きなんですか?」

「は、はい。人並みには」

「そうですか」

「はい」

 

 ……気まずい。会話を拒絶されたと取っていいのか?

 

「あの、十六夜君の好きな食べ物は何ですか?」

 

 拒絶と言うわけじゃないらしいな。あちらからも会話を続けてくれるということはそうゆう事だろう。

 

「そうですね。カレーとハヤシライスとシチューと唐揚げとかが好きですね」

「そうですか。美味しいですよね……」

「銀堂さんは何が好きなんですか?」

「えっと、パフェとか、好きです」

 

 ああ、そう言えばスイーツ好きだったな。結構スイーツを食べてた記憶がある。

 昔の『ストーリー』の内容を思いだしていると、彼女からドンドン話を振ってくれた。

 

「十六夜君はどうして、この学校に進学したのですか?」

「えーと、何となくですかね……」

 

 もしかしたら、この世界が貴方達『魔装少女』がエグイ目に遭って殺される最悪の世界と言う可能性があったから。そうだった時の事を考え、バッドエンドを回避させるために皆ノ色高校に来ました。なんて言ったら頭おかし奴認定されるだけだろうな。

 

「そうですか。じゃ、じゃ好きな教科は何ですか?」

「え? ああ、体育ですかね?」

「そ、そうですか。逆に嫌いな教科はなんですか?」

「英語と数学ですかね?」

 

 面接か? 入学の面接なのか?

 次から次へと質問が来るがどれもなんか高校の入試で聞かれそうな内容ばかり。皆ノ色高校の入試の時、熱がめっちゃあり、苦しみながら面接をした記憶が蘇る。

 

「それじゃあ、次は、その、何と言うか……」

「何ですか?」

「今十六夜君は付き合ってる異性の方はいらっしゃいますか!?」

 

 こ、これはどういうことだ。普通に答えれば、そんな人いないという回答になる。

 だが、問題はなぜこの質問を俺にしたのかということだ。

 

 あ、あれか? 前回の俺の行動で俺が気になっているのか?

 いや、でも、これで違ったら恥ずかしい。そんなレベルじゃない、むしろ死ぬ。でも、銀堂フラグ説あるか?

 

 いや、待て! 野口夏子が一緒に居たじゃないか!!

 つまり、彼女が俺に惚れていて銀堂コハクに頼んで俺について聞いたという説もあるかもしれない。

 

 それなら納得もできる。恥ずかしいから銀堂に頼んで俺に特定の異性がいるか聞いたとか? ああ、どれだ? どれなんだ?

 

 銀堂ルート? 野口ルート? それともただの勘違い? 考えすぎ?

 

 もし、どちらかにフラグが立ってたら、高校生と精神年齢三十歳越えが一緒になるのは少し抵抗があるけど……ワンチャン……いや、ダメだろ。

 

 でも……一度くらい彼女を……いや、ダメだろ。

 

 普通に世間話的な感じで聞いてきた説もあるわけだから、ここは無難にまず答えよう。

 

「いないですね」

「そ、そうですか♪」

 

 あああああ!! その態度やめてくれ!!

 

 なんか思わせぶりな態度っぽいだろ!! 迷わせないでくれ! 

 

 落ち着け。いったん整理しよう

 銀堂ルートなら俺に特定の人が居なくて嬉しいという解釈で良いかもしれない。

野口ルートなら銀堂コハクが野口夏子に良い報告ができるということで嬉しいという可能性もある。

 

 もしただの勘違いなら、俺が勝手に彼女のちょっとした態度に過剰に反応してるということになる。普通にへぇーそうなんだ。的な感じで笑っただけということもありうる。

 

 …………今はいいか。取りあえず無難な俺の勘違いということにしておこう。うん、そうしよう。

 

 これ以上このことは気にしないことにした。

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どうだった? 銀堂さん?」

「はい♪ 本命の質問をするまで少し緊張して遠回りをしましたが、今の所特定の異性はいないようです♪」

「それは良かったね」

「はい♪」

 

 嬉しそうな銀堂の姿を見たら、協力してよかったと思う。まず食事に誘うのが難しいと言うので私が誘った。

 

 昨日あんなに気合満々でからかい尽くす等と言っていたのに、いざ黒田君を目の前にすると何も彼女はできなくなった。顔を真っ赤にして無理無理を連呼。

 

『ごめんなさい……調子に乗ってました……どうか上手く手を回してください』

 

 その後は私が離脱。二人で自然な形で食事に持っていく。

 

 銀堂さんは二人になったら勇気を出して何とか意味深な質問するように言った。さらに、遠回りしてもいいから気持ちを落ち着かせて準備ができたら実行することが大事ということも口添えした。

 

 

「十六夜君も結構動揺してくれました♪」

「それは良かったよ。まずは相手への意識付けからね」

「はい♪」

 

 

 まずは上手くいって良かったね。案外、あっさり付き合ったりしてね? 銀堂さんの美貌ならどんな男子も瞬殺だろうしな……恋の手伝いも直ぐに終わりを迎えそう。だって、銀堂さんだし……。

 

 でも、意外に一筋縄ではいかないという予感が一瞬したが私は気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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