今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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二十三話 オーバーレイ

 坂本典礼を豚箱にぶち込んだので、今日は安心して一人登校。昨日の夜に火原火蓮から色々ありがとうという内容のメールが届いた。  

 

 なぜ坂本が危険と分かったの? という質問には勘と言っておいた。

 これで厨二疑いは晴れたかな……。

 

 すたすたと歩きながら昨日の出来事を思い出す。合同会議を合わせてわずか二日という怒涛の展開だが、大体計画通りで確かにバッドエンドは回避された。それによって坂本は捕まったので学校同士どうするのか?

 

 

 自身と同じ制服を着た生徒達も周りに沢山いて、坂本が捕まったという話をしている者もすでにいる。今日の朝のニュースでも俺の名は出てなかったけど坂本は出てたからな。体育祭自体がどうなるかは分からないが結局誰も何ともないんだからやるだろう……やるよな?

 

 

 皆だって楽しみにしてるはずだ。こういう学校行事はワクワクするし、俺だって楽しくやりたい。

 

 ――みんな楽しいか……

 

 

 火原火蓮は『ifストーリー』では全く楽しくなかったんだよな。このころには坂本の毒牙にかかっていたし、家族の仲についての悩みもあったりで、一切笑いが無かった。今はどうだ? 坂本はもういないし、本来よりは絶対に楽しいはずだが、心の底から楽しめるか?

 

 皆で楽しく体育祭できるか?

 

 ……一回話を聞いてみるか。何ができるは分からないし、何が変わるかもわからない。でも、彼女が楽しく体育祭ができるようになってほしい。『ストーリー』の内容には関わりすぎるのも良くない。だけど、彼女には笑ってほしい。幸せになってほしい。

 

 今日の実行委員が終わった後、彼女から話を聞こう。俺は学校の校門をくぐり、下駄箱で上履きと履き替える。すると、隣の下駄箱からなにやら生徒同士の声が。

 

 

 

「おい、見たか朝のニュース?」

「合同体育祭をする一単色高校の教師がうちの生徒を襲ったけど返り討ちに遭って捕まったやつだろ?」

「そうそう、一体だれが捕まえたんだろうな。」

「またアイツじゃね?」

「ダブルディストラクション・オーバーレイ?」

「そう、銀堂さんも守ってストーカー捕まえたって前も言ってただろ」

「厨二も捨てたもんじゃないな」

 

 

 さて、今日も一日頑張るか……。

 

 

 

 教室のドアを開けると、大体揃っているクラスメイト達が疑惑の目で俺を見ていた。席に着くと前に座っていた佐々本が俺に話しかける。

 

「朝のニュースで一単色高校の教師を撃退したのお前だろ」

 

 そこまで決めつけるか? 俺なんだけどさ。

 

「いや、違うぞ」

「嘘つくなよ。もう学校中お前だって決めつけられてるぞ」

「……知ってる」

 

 ニュースで俺を匿名にしてるのに意味が全くない。

 

「坂本典礼だっけ? なんか昔の恨みがどうとかニュースで言ってたけど色々濁してあったから良く分からなかったんだけどお前ならよく知ってるんじゃないか?」

「いや、全然わからん」

「流石に知らないか。知り合いが巻き込まれると何となく気になっちまうんだが」

「気にするな」

 

 何処となく心配をしてくれているのだろう。偶にこういう良いところがあるから人気なんだよな、こいつは。

 

「まぁ、無事って事実だけでいいか」

「その通りだ。結果良ければ全てよし」

 

 だけど、その心遣いがありがたい。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ホームルームは六道先生からニュースの件についてと今後の体育祭について報告があった。

 

「本日、体育祭を行うか議論が行われる。どのような結果になるかはまだ分からないが明日か少なくとも明後日までには最終決定がなされる」

 

 

Aクラスにはやりたいと思う生徒が多いため、自然と顔が暗くなる。ある程度の説明を受けた後、佐々本がここで手を挙げた。

 

「もし、中止ならその日はどうなるんですか?」

「……通常授業だ」

 

「そ、そんな……」

「じゃあ、いつ俺達は彼女を……」

「作ればいいんだ?」

「普通に授業したくねぇ……」

 

 

 打ち合わせしたかのように言葉が繋っているな。最後に関してはちょっと違うが。ちなみに俺達がやるのは綱引きなんだが。綱引きでどうやって女子に良いところを見せるつもりなんだ?

 

「では、これにてホームルームは終了だ。それと黒田少しいいか?」

「はい」

 

 このタイミングで呼ばれると、やっぱりと言う声がチラホラと聞こえる。もう諦めました。

 

◆◆◆

 

 

 廊下を六道先生と歩く。校長室に向かっているらしい。

 

「すまんな。あの場で言うと色々勘ぐる者が出てくると思ったのだが……既にお前だと言うのが学校中に広がっていてな。何故か分からんが校内新聞も出来上がりつつあるらしい」

 

 校内新聞は知らなかった!! と言うか誤魔化す意味もなかったから生徒の前で堂々と俺を呼んだのね。この学校の情報網どうなってるんだよ。

 

 

 

 

 校長室に入ると、うちの校長先生ともう一人知らない爺さんが居た。もしかして一単色高校校長先生かな?

 

「失礼します。一年Aクラスの黒田十六夜を連れてきました」

「おお! 君が黒田君か!!」

「あ、はい」

 

初見ではなく初対面のおじさんは、俺の名を聞くと慌てて立ち上がった。

 

「一単色高校の校長先生だよ」

 

 うちの校長先生が紹介してくれる。やっぱりそうか。もう見た感じ校長先生といった感じだもんな。

 

「いや、本当に申し訳ない。まさか我が校の教師がこんな不祥事を………するとは……」

 

頭を下げる校長。どうしようか。別に謝ってほしいわけじゃないけど、もしかして賠償金とかとれる? 欲しいゲームがあったんだよな。本とか。

 

 漫画にラノベ、ゲーム。いやいやいや、流石にそれはダメだろう。でも三万せびるくらい良くね?

 

 

 俺は一単色高校の校長先生に疑問を告げる。

 

 

「あの、体育祭はどうなりますか?」

「そうだね……中止の可能性もあるだろうね」

「それ、何とかなりませんか? 皆楽しみにしてるんです」

「……どうだろうね。私個人では何とも」

「当事者の俺が何ともなかったんですから良くないですか?」

「うーん……それは」

「お願いします!!!」

「……出来る限り開催の意見は出していくけど、絶対の保証はないよ」

「それでもいいですから!! 取りあえずやってください」

 

 何とかして体育祭は開催したい。皆が楽しみにしてるんだ……それに俺だって授業はしたくない。

 

「分かったよ。やるだけはやってみるよ」

「ありがとうございます」

「何度も言うけど絶対ではないよ」

「分かってます。例え開催できなかったら俺が直接テレビに出てあることない事言うだけですから、心配しないでください」

「凄い心配なんだけど!!!」

 

 

 

 

 と言うわけで校長室を後にした。合同体育祭はやってほしい。両校の生徒はやりたい奴も多いだろうしな。

 

 

 

 

 教室に戻るときには結構暗い意見を持ってる生徒が多かった。体育祭を何気に楽しみにしてたため、心にはどこか影のようなものが差している。

 

◆◆◆

 

 その日は俺が興味深い目で見られたり、体育祭についての不安が校内に残っていたりして全体的に空気が悪かった。実行委員も今日は休みでいいらしいので、余計に中止の方向に話が進みつつあった。

 

 放課後は火原火蓮に用事があるので携帯でメールを送り呼び出した。

 

 

 

 

「あ、先輩」

 

 俺は校門の前で火原火蓮を待って居て、彼女が来ると軽く手を挙げた。彼女は来るといつもより硬い笑顔。

 

「ごめん。待った?」

「いえ、特には」

 

 彼氏彼女のやり取りに聞こえるが、全くそんなことはない。並んで歩き始めるが、彼女は何時もより元気がない。

 

「昨日はありがとうね。十六夜が居なかったらどうなってたか分からない……」

「いえ、大したことでは」

「ううん。すごいよ。ちょっと羨ましい……。あんなに勇気があって……」

 

 なんかあったな。坂本が捕まった事で何か心境に大きな変化があったのか? とりあえずどこかで話を聞こう。俺だって全部分かっているわけじゃない。

 

「そうですかね。それで……その、何と言うか」

 

 畜生!! 女の子を誘ってどこかの店に入るってどうやるんだよ!! わからんねええよ!!  手汗が出てきた。緊張感が俺を支配する。

 

 

「どうかしたの?」

「えーと、今日はあのですね。何処か寄って来ません?」

「そんな気分じゃないから遠慮しとく」

 

 振られてしまった。どうしようか、今日は止めとくか? それとも無理にでも誘おうかな。迷惑かな?

 

――でも、なんか悲しい顔をしている彼女をほっとけない。

 

 

「そこの喫茶店に行きましょう!!」

「話聞いてた? 今日はそんな気分じゃ……」

「とりま、入りましょう。それでもだめなら帰っていいですから!!」

「ええ? ちょっとだけなら……」

「良し!! 行きましょう!!」

「本当にちょっとだけだからね」

 

 

 近くの喫茶店を適当に指名してそこに入って行く。中にはあまり人が居ない店だが、落ち着いた雰囲気のいい店。木目が見える店内で向かい合う席に座る。何か注文をしないと店の人に失礼なのでメニューを眺める。

 

「俺が奢るので何でも頼んでください」

「そう、じゃあ遠慮なく選ばせてもらうわ」

 

 互いにメニューを眺める。一度でいいから女の人にここは俺が奢ると言ってみたかったという俺の願望が軽く叶ったことに少し喜んでいたのは俺だけの秘密だ。

 

 

「私は決めたわ」

「じゃあ、呼びますね。すいませーん!!」

 

 俺が呼ぶと店員の人が俺たちの席に来てくれた。

 

「ご注文ですか?」

「はい。俺はブラックコーヒーで……」

「私はオレンジジュースで」

「ブラックコーヒーとオレンジジュースですね。少々お待ちください」

 

 店員が去って行くと俺は話を持ち出す。

 

「あの、先輩」

「どうしたの?」

「なにか悩みはありませんか?」

「どうしたの急に」

「なんか悩みを持った顔をしていたので、相談に乗れればと」

「……無いわ。なにも」

 

 

 嘘つけ。チョット溜めがあった。それに俺には悩みがあることは分かっているんだ。この時点でここまで彼女が表にそれを出してるのはなぜか良く分からないが。

 

 

「何でもいいので話してください」

「だから、無いっていってるでしょ」

「いや、無いような顔じゃ……」

「無い!」

 

 ビクッと体が震えてしまった。強い瞳が俺を射抜く。だが何処かに寂しさを抱いていた。

 

「……そうですか」

 

 彼女が問題が無いと言うなら別にいいかと思ってしまいそうになるが……彼女はそれを認められないんだ。家族が仲が悪いのを認めて、それを相談したらもう引き戻せない。成功したらいいが、失敗したら一気にこの先に待つのは破滅。

 

 それならば、この多少に違和感があるこの現状でいい。崩れていても、多少のひびが入っていても、このまま家族の形が保てるなら。

 

 

 でも、それじゃあこの先に待つのは結局破滅だ。それじゃあダメなんだと言う気持ちが俺に湧いた。

 

「あの、本当に何も無いんですか? なんでも相談に乗ります。例えば家族の問題とか……」

「っ!! だから悩みなんて無いって言ってるでしょ!!」

 

 彼女が大声を発することで、店内の僅かな客の視線が俺たちに向いた。一気に踏み込み過ぎたか……もっとゆっくり行くべきだったか。

 

「すいません。でも、俺先輩の事が心配で」

「うるさい。何も無いって言ってるでしょ。……もう帰る」

 

 彼女は懐から千円札を出して机に置いた。

 

「ご馳走様」

 

 そのまま彼女は出て行った。

 

「やっちまった……」

 

 俺が後悔していると、店員さんが少し気を遣ってくれながらコーヒーとオレンジジュースを持ってきてくれた。

 

「えっと、ご注文の品になります……あの、元気出してください。女なんて星の数いますから」

「はい、ありがとうございます」

 

 店員さんが去った後、コーヒーを一口。苦い。目の前には誰も居ないがオレンジジュースが置いてあるのが少し寂しい。

 

「カッコつけてブラックコーヒー頼んでる場合じゃなかったな」

 

 これからどうしましょう。俺は頭を悩ませて考えるが、特にいい案は浮かばず。頼んだコーヒーは物凄く苦かった。

 

 

 

 

 


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