今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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二十九話 胃痛

 キーンコーンカーンコーン。授業が終わり昼休みを告げるチャイムが鳴る。

 

「授業はここまで。復習忘れるなよ」

 

 さて、ここで体育祭の開催が決定するわけだが、一単色高校の生徒も賛成が九割以上あればいいんだが。

 

 ピーンポーンパーンポーン。放送のチャイムが鳴る。

 

「体育教師の七星です。体育祭の開催アンケートの結果を発表します。早速ですが皆ノ色高校賛成九割。……超えました!!」

 

 パチパチ無言で男子生徒が拍手。女子はハイタッチ。

 

「そして、一単色高校のアンケート結果……九割超えました!!!! ヒャッハーーーー」

 

「「「「うおおおおお!!」」」」

 

 男子達がついに喜びを露わにしたな。女子は普通に喜ぶ。

 

「やるからには勝利以外ありえない。一単色高校をぼこぼこにする気で体育祭には望みましょう。以上七星でした」

 

 教師としてそれはどうなんだと思う。ボコボコって……。開催ができるのは素直に嬉しい。

 

が やがやと教室が祝福ムードになる中、俺の前に銀堂コハクが来た。正直考えないようにしてたのだが、どう反応すればいいのか困る。

 

 お、俺の事好きなんじゃ? と思っていた時とは違い、確定してしまうと、ちょっとこちらとしてもやりづらい。

 

「十六夜君。お、お昼、い、一緒にどうですか?」

 

 火原火蓮と一緒に居た時とはえらい違いだが、こういう風に言ってくれるのは嬉しい。でも、このまま火原火蓮との仲を拗れさせたままでは危険なのではないか?

 どうにかして元に戻せないものか? どうすればいいんだ。一緒に食事なんてしてもお昼が味しなくなり、重力が十倍になるだけ。でも、やらないよりはいいかもしれない。

 

 最初は悪くても話すうちに仲良くなる可能性も……。あるかも…しれない。

 

「そうですね。一緒に食べますか……。あの、火原先輩も誘いません?」

「……私では不満ですか?」

「あ、いや、二人が仲良くなって欲しいなって思いまして……」

「……仲良くですか?」

「ほら、意外とそりが合うかもしれないし・・・」

「……そうですね。私も一回見極めておこうと思っていましたので誘いましょうか」

「う、うん。そうと決まれば早速行こう」

 

 良かった!! ここからちょっとずつ親睦を深めていこう!! 千里の道も一歩からと言う。お互いの良さを知れば本来の『ストーリー』に近い関係に戻るかもしれない!!

 

 

 『ストーリー』では黄川萌黄が結構暴走をして、銀堂コハクを色々エロいことをして、それを火原火蓮が止めるという関係だ。

 

 三人時代の話だが。まぁ、残り二人が来てもあまり変わりなかったが……。

 おっと、脱線した。今はこのことは考えなくていい。

 

 彼女と共に火原火蓮を呼びに行くために席を立つと、教室のドアが開く。誰か来たか察しはつく。

 

「十六夜、お昼いくわよ」

 

 男子達の嫉妬の視線は今は気にするまでもない。彼女にも三人でお昼を一緒に取ることを伝えなければ。

 

 ちなみに、銀堂コハクは普通に冷たい目を火原火蓮に向けている。

 

 

「あの、火原先輩、銀堂さんも誘っていいですか?」

 

 断られるか? だとしても彼女も説得するだけと思っていたのだが、俺の予想の斜め上の行動をとった。

 

「うん! いいわよ!! 人の縁は大事にしないといけないし、コハクも一緒に行きましょう。ね?」

 

 銀堂コハクに向かって笑顔で確認を取る。

 

「……ええ。構いませんが」

 

 おおー。何だこの展開は!! 激熱だな!! おい!!

 

 物凄い良い笑顔で彼女は告げた。これはどういう事だろう。

 

 火原火蓮が銀堂コハクに対して柔らかい態度を取ってくれるのは良いと思うんだが。何で急に? やっぱり未来の魔装少女同士なにか感じ取ったのか?

 

 分からんが、この手を逃す気がない。

 

 

「よし、食堂行きましょう!!」

「うん。三人で行きましょう」

「……」

 

 俺達が食堂に向かって歩き出す。俺を二人が挟む感じになるが、今回は火原火蓮が笑顔という展開。

 

 銀堂コハクも何やら困惑している。

 

「コハクは趣味は何なの?」

「なぜ? そんなことを聞きたいのですか?」

「いいじゃん! 聞かせてよ! 十六夜も知りたいでしょ?」

「まぁ、はい。知りたいです」

 

 今更と言った感じだが、火原火蓮と銀堂コハクがお互いの事を知る機会を逃さない方が良いな。

 

「十六夜君がそういうなら……そうですね。趣味は読書と料理でしょうか」

「そう、得意な事はある?」

「趣味と被ってしまいますが料理でしょうか。後は……特にこれと言ってないですね」

 

 歩きながら二人はずっと話し続ける。と言っても火原火蓮がずっと質問しっぱなしだが。勉強はどのくらいできるのか? 運動はどうなのか? 

 

 ずっと、質問をしていた。食堂で料理を頼み席に着いても続けるので、ちょっとおかしく思えてきた。

 

 会話って感じじゃないような……。質問し過ぎじゃないか?

 

 そして、火原火蓮どんどん不機嫌になって行く。質問の回答が面白くないのか分からないが……。銀堂コハクは弱点と言うか欠点というものは殆どないから、何処か悔しいのかもしれないな。得意な事は特に無いと言ったが、勉強も運動もバリバリ彼女はできる。才色兼備の最強ヒロインというのが彼女なのだ。それに対して火原火蓮は絶望的に苦手な事がある。

 

 例えば、銀堂コハクは料理が得意だが、火原火蓮は全くできない。

 

 『ストーリー』でも料理ができないことを少し恥ずかしがっていた時がある。料理だけは彼女はできないという性質を持っていたため、銀堂コハクに教わるというほっこりする場面があったが、そんな展開になるだろうか? なんか嫌な予感がするんだが。

 

 

 料理できないから教えてよ!! みたいな感じになってくれれば一番いいんだがな。

 

「えっと、それじゃあ次に」

「ちょっと、待ってください」

「な、なに?」

「先ほどから質問が多すぎます。何が目的ですか?」

 

 銀堂コハクが疑惑の視線を向ける。確かに質問が多すぎたような気はするが、そんな怖い顔しなくても……。

 

「べ、別に大した目的は無いわよ……」

「そうですか。でしたら今度はこちらからもよろしいですよね?」

「も、もちろんよ」

 

 徐々に雲行きが怪しくなってきたような気がする。気のせいだよね?

 

「先輩の苦手な事は何ですか?」

「と、特に無いわね。基本的に何でもできるから……」

 

 見栄を張ったな。目逸らしてるし。料理が苦手のはずなんだが。と言うか家事全般苦手だ。

 

「ふーん。家事は得意ですか?」

「も、もちろんよ……毎日やってる……」

「……ふーん」

 

 ニヤリと銀堂コハクが笑った。彼女はそのまま質問を続ける。

 

「毎日と言う事は昨日の夜食も先輩がお作りに?」

「ええ、から揚げ……つくったわ」

「使った部位は何処ですか?」

「ブ、部位? えええっと確か、もも肉だった気がする……」

「味付けは?」

「……マヨネーズ」

「それだけですか?」

「……」

「答えられないって事は、もしかして料理できないんですか?」

「……」

 

 小馬鹿にするように彼女は笑う。そんな煽らなくてもいいんじゃないか? これは拗れるかも……。

 

「料理できないんだ~~。私は基本的に何でも作れますけど、先輩はできないんだぁ~~」

 

 煽りすぎじゃないか。めっちゃくちゃ煽っていくスタイルだな、折角話し合う機会なんだから、何とかして止めないといけない。

 

「ちょっと、銀堂さん流石にその……」

「出来るわよ!!!!」

 

 俺が止めようとすると彼女は大声を上げた。

 

「出来るから!! やったことないだけで出来るから!!!」

「まぁ、やった事がない? そんなんで美味しいものが本当に出来るんですか?」

「出来るから。美味しい料理なんて朝飯前よ!!」

「でしたら、今度食べてみたいです♪ 先輩のお・い・し・い・りょ・う・り♪」

「この!!! クソ女!!!」

「目がキツネさんみたいになってますよ♪」

「五月蠅い。もう、私教室戻る!!!」

 

 

 

 彼女は料理を口に無理やり入れて、怒った足取りで帰って行った。これが嫌な予感の正体か……。

 

 

「フフ。滑稽ですね」

「え?」

「あの人最初から私の苦手だったり、嫌いな事を探ろうとしてたんですよ」

「え? そうなの?」

 

 あの大量の質問にそんな意図があったのか? 銀堂コハクがそう思っているだけかもしれないが、そう考えると納得できるかもしえない。急に仲良くなったし。

 

 何度も質問しても返信が長所ばかりということで若干不機嫌だった。そう考えることもできるな。

 

「そうですよ。でも、結局自分で墓穴を掘った。こんな面白いことがあるでしょうか?」

「どうですかね……俺にはちょっと何とも言えません……」

「そうですか。まぁ、もうどうでもいいですよね。あの人は忘れて二人で楽しく昼食を楽しみましょう?」

「あ、うん」

 

 帰り道のスーパーに胃の薬売ってたっけ? 結局この二人が仲良くなんてすることなく解散してしまったことに軽くショックを受けた。

 

 何とかしなければ。体育祭で挽回するしかない。具体的な策は全く浮かばないが、俺は思考を巡らせる。

 

「あの、十六夜君……」

「どうしました?」

 

 急に優しい声で若干の恥ずかしさを顔に浮かべながら、彼女が話しかける。その感じで火原火蓮とも話してほしかった。

 

「体育祭ってお、お昼持参で、ですよね?」

「そう言えばそうでしたね」

「あの、もしよかったら私が作ってくるので一緒に食べませんか? 一人も二人も大して作る手間は、変わりませんから……」

 

 顔を真っ赤にして言われると、こちらも照れ臭い。正直に言えば、美少女の手作り弁当とか幸運以外の何物でもないのだが。これで火原火蓮と更に仲が拗れたらどうしよう……。

 

「もしかして、嫌なんですか?」

 

 そんな涙目の上目遣いはずるいだろ。許可する以外に道はなくなってしまう……。

 

「嫌じゃないです」

「そうですか!! それじゃあ、十六夜君の好きなから揚げ作ってきますね♪」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺の好きな物覚えててくれたのか。可愛い過ぎるんだが……この子。

 

 

 

 彼女とその後昼食をともにして、昼休みが終わり授業をして放課後になる。

 体育祭の開催が決まり、実行委員も再び活動することが決定し、委員同士で競技の確認などを兼ねて会議が行われる。

 

 眼鏡実行委員長の金子太一がペラペラと説明をしており、皆真面目に聞いてはいるのだが、一名例外が居る。

 

 机の下で本を読む火原火蓮。隣なのでこっそり見てみると

 

『三歳から始める料理の基本』

 

 見返すつもりなんだな。銀堂コハクを。

 

「卵焼きって難しいわね……」

 

 小声でぼそっと彼女が呟く。結局彼女は会議中本から目を離すことはなかった。

 

「それではこれで確認を兼ねて会議を終了します。明日からは本格的な準備に取り掛かりますのでよろしくお願いいたします」

 

 今日は会議だけ、明日からが実行委員が大変になるようだ。金子太一の言葉で他の委員も解散し帰っていく。それは俺達も一緒。

 

 

 会議が終わり部屋を出ると

 

「ねぇ、十六夜」

「どうしましました?」

 

 少し彼女は気まずそうに話しかけてきた。……もしかして。

 

「体育祭って、お、お昼持参だから私が作ってきてあげ、あげるわ。感謝してよ、よね」

 

 嬉しい。素直に嬉しい。だけど、お弁当勝負みたいになると、もっととんでもないことになる。

 

 これ以上拗らせるわけには。でも、銀堂コハクのお弁当だけ食べるのも胃が痛い。

 

「私のお弁当は食べたくないの?」

 

 そんな顔で言われたら……断るなんてできないだろうが此畜生!!

 

「いえ、食べたいと言う感情しかないです」

「やった!! じゃなくて……ふーん。仕方ないから作ってきてあげるわよ」

「お願いします……」

 

 即答してしまったが、あんな顔で言われたら肯定以外の答えはない。だけど、どうしよう……。

 

 体育祭がとんでもないことになるという感情を抱えながら、そして胃を抑えながら俺は肩を落とした。

 

 そして、火原火蓮と途中でまで帰ろうと思ったら、まさかの銀堂コハクが待って居てくれたので、そこからさらに胃が痛くなったのは俺だけの秘密だ。

 

 

 

 


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