今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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四話 とある少女の過去

 昨日は特に何事もなく彼女は帰宅することが出来た。送った後は直ぐに別れ俺も帰宅した。

 

 現在は授業中だ。カリカリと板書をする音が響く。眠そうにしている生徒や寝てしまっている生徒もいる。

 

「え~ここは」

 

 教師は授業を説明していく。その途中で、キーンコーンカーンコーン

 授業終了の合図が鳴る。

 

「今日はここまで、復習をしとくように」

 

 教師が教室を出て行くと一気に開放感が広がる。この後は昼休みなので浮足立っていた。

 

「十六夜。昼どうするんだ?」

「学食に、行こうと思ってる」

「俺も行っていいか?」

「いいぞ」

 

 佐々本と一緒に教室を出て行く。学食は物語でも描写があったのを覚えている。

 カレーが絶品で美味しそうに食べるキャラたちが描かれていた。

 

 食堂に着くと既に生徒達が多く見受けられた。俺たちは食券を買い受付に提出した。

 

「この学校美人多いな!」

「声が大きいぞ」

 

 少し視線が集まる、俺は気まずいので目線を逸らした。カレーを貰うと、佐々本と席を探す。彼もカレーを頼んでいた。席はチラホラと空いているので適当に席に着く。

 

「頂きます」

「いだたきます」

 

カレーを二人して、食べ続ける。

……美味い。星三つくらいの美味しさ。

 

 物語で美味しそうに食べていたので気になっていたが、ここまでとは。

 折角幸せな気持ちで食べているのに佐々本が水を差す。

 

「なぁ、あそこにいる人超可愛くね?」

「カレー食えよ」

 

 そう言いつつも、超が付くと気になってしまう。後ろを指していたので振り返る。

  

 目を向けた場所に居たのは、炎のような少女だった。

 

――火原火蓮、か

 

 この世界の運命を背負った、魔装少女の一人。紅蓮のような長髪をツインテールにしている。瞳も綺麗な紅い色。確かに、超が付くほどの美人という名が似合う。

 

「お! お前も見惚れたか」

「見惚れたって訳じゃないけど」

「嘘つくなよ! あんなに見てたのに!」

 

 かなりの大声で言うので、再び視線が集まる。

 

「おい、声がデカい」

「そうか?」

 

 多分周りにはガッツリ聞こえていたであろう。二回も大声で変な事を発したのでいきなり変なイメージが絶対ついたと確信した。二人で話していると、バンっと誰かが机に手を置いた。かなり大きめの音なのでびっくりして、手の主を見る。

 

 綺麗な黄金とも呼べる、ショートヘアーと瞳。顔立ちもとんでもなく整っている。

 そして、身長が凄く高い。180センチ近くあるだろう。

 

 彼女はただ不快そうにこちらを見ていた。ごみを見るような目で……。

 

「ねぇ、さっきからうるさいんだけど」

「あ、ええーと」

「……」

 

 佐々本は彼女に言われたことにびっくりしているようで上手く言葉が出てこない。

 俺はうるさくしてないので黙って知らないふりをした。彼女は、火蓮同様、超が付くほどの美人だ。

 

 それもそのはず、彼女も魔装少女の一人。

 

”黄川萌黄”

 

 彼女は、男嫌い女好きという性格。理由は、過去に色々あるのだが……。

 彼女は、佐々本がうるさいと言うだけでなく、不快な男が馬鹿みたいに大好きな女の子の容姿だけを語っていることに苛立ちを覚えたのだろう。

 

「皆、君たちのせいで不快になってるんだよ。まわりの迷惑を考えたら?」

 

 たち?俺も入っているのか?

 とんだとばっちりだな。それにしても、美人が怒るとこんなに怖いんだな。

 迫力がとんでもない……。

 

「すいません」

 

 佐々本が項垂れながら、謝罪を口にする。佐々本が謝罪すると、黄川萌黄は今度は俺単体を睨みつける。

 

「君は?」

「すいませんでした……」

 

「気を付けてね。ほんっとうに、不快しかないから」

 

 

 顔を不快に染めたまま、彼女はその場を去って行った。彼女の友達と思われる女子生徒の元に戻り、俺たちの事を愚痴っているように見える。佐々本と俺はカレーを食べた後、黙って食堂を逃げるように出て行った。

 

 

 超が付くほどの美人である、黄川萌黄にあそこまで言われた佐々本はそこから大分元気がなかった。

 

 授業も心ここにあらずと言った感じだった。まぁ、どうでもいいのだが。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 放課後になると銀堂コハクは真っ先に用事を理由に帰って行く。俺は急いで彼女を追う。

 佐々本は落ち込んだままだが、明日には元に戻るだろう。

 

 『ifストーリー』二日目。彼女は昨日とは違う道で帰っている。これなら普通は大丈夫と思うかもしれないが、実は不良どもは彼女の家を既に把握しているため自宅近辺で待ち伏せているのだ。

 

 

 

 

 ここからエグイ話になって行く。先ずは不良二人組に無理やり路地裏に連れていかれ屈辱を受ける。心身に多大な影響を受けた彼女は、誰にもこんなことは話せない。

 その次の日の朝。噂を聞いた不良仲間達十人ほどにも、集団でエグイ目に合う。

 ここから、ドンドン人数が増えたり写真にとられたりするが、彼女は誰にも相談しない。

 

 親には、迷惑をかけられない、という理由。年頃であるという理由もあるだろう。

 なら、学校の友達、教師には? と思うが……教師にこんなことを相談はしにくい。

 そして学校の友達には彼女は絶対に相談しない。

 

 

 

 

 

――友達という存在を彼女は信用しない。

 

 その理由は、彼女の中学二年生にある経験だ。彼女には、中学の時ある親友がいた。

 

 仲が良く、毎日話したり、一緒に登下校したり、絆を深めていた。

 

 だが、ある時転機が訪れる。

 彼女の親友がいじめられていたのだ。同学年のスクールカーストトップに。

 

 彼女はそれを知り、立ち向かった。誰かの為に、自分の為ではなく。

 勇気を振り絞って、恐怖にぶつかって行った……。

 それによりいじめはなくなった。ゼロになったのだ。

 

 だが、今度は彼女が標的になった。前から気に食わないのも理由に合ったのだが、

生意気な銀堂コハクに、非難が集まる。スクールカーストトップ達が徹底的に

彼女に嫌がらせを始めた。

 

 必然的に周りも、いじめっ子たちの味方をする。彼女を庇ったら今度は……。

 その風潮が広がり、誰も彼女を庇わない。いじめはエスカレートし、根も葉もない噂もたつ。

 

 彼女は、男好きで誰でも簡単に股を開く、援交をしているなど。

 彼女は苦しくて、親友に救いの手を伸ばした。

助けてほしい、と。

 

 だが、手は握られなかった。苛めっ子達は彼女の親友も取り込んだ。

 

 

 彼女の味方は誰一人いなくなった。助けたのに、手を取ってもらえなかった。

 

 あの時、私は勇気を出したのに親友を助けたのに。

 見返りが欲しかったわけじゃない。

 でも、親友ではなかったのか?

 なんで一緒になって私をいじめるのか?

 

 その葛藤の末、彼女はある考えに至る。

 

 親友なんて、友達なんてあてにならない。信用できない。

 自分が不利な時だけ都合よく、助けを求める信用できない存在。私が、馬鹿だった。

 変な正義感を出すべきではなかった。

 

 誰かの為に行動すると自分が傷つく。あの時は、無意味な事をした。

 

 もうあんなことはしない。打算で生きていこう。

 私は友達なんて、親友なんて二度と信用しない。

 

 その心境のままいじめをきっかけに彼女は転校した。転校先の中学ではいじめはなかったが、大きな傷のせいで彼女は心の扉を閉ざしてしまい、あくまで外面だけで行動するようになった。

 笑顔を振りまくが誰にも心は許さない。

 このことが解決するのは、大分先。

 

 彼女を取り巻く現状と過去が最悪エンドに向かってしまう。

 誰かに助けを求めない、求められない。

 彼女の悲しい結末。

 

 俺は何とかしてこの物語を変えないといけない。その為には……。

 俺は作戦を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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