今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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 今回はあんまり上手く書けませんでした。多少のぐだりは勘弁してください……


四十三話 繋がり

 

 

 昨日は厳しく説明を要求されたものの、黄川萌黄の勘違いを正すことができた。それは良かったのだが……。いくら何でも俺にラッキースケベ起こりすぎじゃないか?

 

 もしかして、俺って『超能力者』? この世界では野口夏子の『直感力』が『超能力』に該当するように『ラッキースケベ』も『超能力』に該当するんじゃないか? 変な事を考えた。忘れよう。

 中間テストの最終日まで後一週間と数日。もう余計な波風を立てないようにしたい。二度とラッキースケベは起こさない。

 

 一人通学路を歩いていると、銀堂コハクが隣に来て挨拶をする。まだツインテールだった。いや、可愛いから最高なんだけどね?

 

「おはようございます。十六夜君」

「おはようございます」

「……」

「?」

 

 彼女は何かを期待するようにジッと目を見た。え? 何だろう?

 

「まぁ、そうですよね……そんな都合のいいことないですよね……」

 

 不意に衝撃を感じ、視線が虚空を彷徨う。脇道から誰か飛び出したのか。相手は俺とぶつかった勢いで倒れた。あちらから来た感じがするが一応謝罪を……知り合いだった。

 具体的には食パンを咥えて火原火蓮だ。

 

「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ!!」

「あ、すみません」

「……それだけ?」

「慰謝料とかはちょっと……」

「いらないわよ。はぁ~まぁ、そんな都合のいいことないわよね……」

 

 俺は火原火蓮の手を取り起こすと三人で歩き始める。二人が喧嘩しそうになると上手くなだめながら……。

 

◆◆◆

 

 

 それは、放課後の銀堂コハクの一言から唐突に始まった。

 

「十六夜君。勉強会をしましょう」

「勉強会?」

「はい、もうすぐテストですよ。勉強はしておかないといけません」

「ああ、うん。どうしようかな……」

「しましょう! 勉強会! 仕方ないから私が教えてあげます!」

 

 グイッと顔を覗き込んでくる。あ、可愛い。

 

「それには及ばないわ!」

「また、貴方ですか?」

 

 火原火蓮が仁王立ちしていた。ツインテール美女二人である。

 

「私、テストは教科書一周すればほぼ満点取れるし天才だから私に任せなさい」

「私だって授業聞いてれば満点なんて余裕です」

 

 そう、この二人学力は高い。と言うか『魔装少女』は全員滅茶苦茶勉強できる。最低でも八十五点という驚異的な成績を誇るのだ。

 

「貴方は二年生でしょう? だったら一年のテスト事情に入って来ないでください」

「学年なんて関係なく、勉強できる方が教えたほうが良いに決まってるじゃない。その方が十六夜の為と思わない?」

「一理ありますが今回のテストの分野なら私の方ができます」

「いいえ、私の方ができるわ」

「け、喧嘩はダメですよ……」

 

 

 二人の言い争いの間に入りつつ下駄箱に向かっていると、前を歩く黄川萌黄がこちらを一瞥して、すぐ目を逸らす。その目は物をねだる子供のようだ。寂しそうに肩を落とした姿はとても小さく見える。

 

 ……最近の出来事で疎外感を覚えたのかもしれない。このままではいけないだろう。彼女達の距離が離れていくことは勿論だが、黄川萌黄が孤独になってしまうのはもっとダメだ。と言うより俺が嫌だ。

 

 どうする? 何か気の利いたことを言いたいが……男の俺がどうこう言っても響かないと思う。でも、この二人なら? 運命を共にする彼女達なら何とかできるかもしれない。まず話す場を整えなくては……。

 

「勉強会やりましょう。黄川先輩を入れて四人で」

「え? 四人ですか?」

「私は十六夜と二人でやりたいんだけど?」

「四人で!! やりましょう!! 俺の家で!!」

「え! 十六夜君の家で!?」

「そ、そう!? ま、まぁそれなら……」

「それじゃ、四人目を連れてきますね!!」

 

 走る、追い越す、止まる、振り返る。そして、帰ろうとする彼女の前に通せん坊するように立ち塞がった。彼女は目を見開く。

 

「な、なに?」

「これから俺の家で勉強会やるんですけど是非来てください!!」

「わ、悪いけど予定が……」

「来てください!!」

「いや、予定が……」

「どんな予定ですか!?」

「そ、そんな強気で来る?」

 

 強気な誘いに彼女は少し狼狽えた。良心の呵責を感じるが、ここは押し切る。彼女は小心者である上に、今は俺に対して若干の負い目もあるはずだ。このまま攻めれば彼女は必ず折れる。

 

「それって、どんな予定ですか!?」

「あ、えっと、ば、バイトがあって……」

「終わるまで待ちます!」

「で、でも終わるのく、九時くらい……」

「では、勉強会は夜十時から泊まり込みで!」

「む、無理! 君男でしょ!? その家に泊るなんて無理!!」

「実は銀堂さんと火原先輩を俺の家に泊めようと思ってます」

「はぁ!? ダメでしょ!? 若い男女が!?」

「そのままエクスカリバーしようと思ってます」

「何!? エクスカリバーって!?」

「あ~、二人の好感度が高いからあっさりカリバーかな~?」

「あっさりカリバー!? 良く分からないけどダメでしょ!? 良く分からないけど!!」

「誰か止める人いないかな? このままだと二人がカリバーになるよ……誰か、止める人が……ハッ!」

「わ、わざとらしい……」

 

 とりあえず俺の家に来てもらおう。彼女は一人きりで寂しいんだ。他の女の子と違うことの孤独を埋められるのは、俺ではない。男の俺では不快しか与えられない。ならば、無理を通してでも胸の内を晒せる人と触れ合わせる。

 

「良いんですか? あの二人が俺の魔の手に落ちても? 先輩が俺の家に来ないと……グフフフ」

「げ、下種……分かったよ。行くよ」

「よし、では行きましょう」

 

 少し離れたところで待って居る二人に勝ち誇った顔を見せる。

 

「と言うわけで四人で俺の家に向かいましょう」

 

 ぐずる黄川萌黄を引きずって行く。

 

 

◆◆◆

 

 

よくある二階建ての一軒家。明るい黄色と穏やかな茶色の外壁。俺の自宅である。さて、三人を家に入れる前に――

 

「ちょっと、待っててください。五分、いや十分」

「分かりました」

「いいわよ」

「……」

 

 大急ぎで部屋の片づけを敢行する。あんまり散らかっているわけではないが清潔感のある部屋の方がいいだろう。

 

 エロ本は戸棚に隠して……多少のごみを拾って、消臭スプレーをして……よし、完璧。

 

 玄関を開けて三人を呼び込む。

 

「お待たせしました。どうぞ、普通の家ですが……」

「は、はい。お邪魔します……」

「ここが、十六夜の家……」

「……」

 

 黄川萌黄以外の二人は緊張と好奇の入り交じった面持ちでキョロキョロと観察する。黄川萌黄の複雑な表情からは上手く心境を読み取れない。

 

 三人をリビングに入れる。ダイニングテーブル、ソファー、テレビ。あまり面白みのない一般的な部屋だ。

 

「あっ! 俺お菓子買ってくるの忘れてました。買ってきます!」

「いいわよ。気使わなくて」

「そうですよ」

「いえ、俺が食べたいので三人でちょっと待っててください」

 

 俺はリビングから出ていった。

 

 頼む。

 

◆◆◆

 

 

 僕たちはダイニングテーブルの席について彼を帰りを待った。僕の隣に火蓮ちゃん。向かいにはコハクちゃん。

 押しに押され、つい来てしまった。彼女達にエロいことをすると脅されたけど、おそらく嘘だろう。

 

 そして、僕の嘘もバレていた。本当は来たくなかったけど、色々粗相した負い目もあり実質的に選択権はなかった。正直、もう帰りたい。近くにいるはずの二人が遠く感じるから。それがどうしようもなく寂しい。

 

「なんか落ち着かないわね……」

「ええ、ぞわぞわします」

「萌黄はどう?」

「何とも言えないかな……」

「そう? っていうかアンタ大丈夫? 何か元気が無いように見えるけど?」

「確かにそうですね。萌黄先輩大丈夫ですか?」

「うん……大丈夫かな?」

 

 孤独が辛いことをうまく隠せない。違和感を誤魔化しきれなかったみたいだ。彼女達には秘めたままでいたかったが、この空間はひどく居づらい。

 

「……萌黄どうしたの?」

「何でもないよ?」

「……本当に?」

「うん」

「でも……」

 

 

 二人が心配してくれている。気分が悪いと言って帰ろうかな? ここに居ても辛いだけだし……。

 

 仮病で帰ってしまおうと決めた瞬間、火蓮ちゃんのスマホが鳴った。彼女はスマホをジッと眺めた。何が届いたのか良く分からないけど、僕はもう帰ろう。

 

「あの、体調が悪いから僕は帰ろうかな……」

「そうですか……送って行きましょうか?」

「ありがとうね。コハクちゃん。でも、大丈夫だよ」

 

 僕は席を立つ。この場から早く離れたいという思いに支配されていた。でも、ここを去っても寂しさは埋まらない。ここから離れても、離れなくても一人。

 取り繕った笑顔で部屋のドアに向かって……

 

「待ちなさい」

 

 

 火蓮ちゃんだ。

 

「萌黄、座って」

「ごめん、体調が悪いから今日はもう帰るね……」

「座って」

「いや……でも……」

「少しだけだから、座って」

 

 彼女の強い瞳に僕は逃げるという選択肢を失った。もう一度席に腰を下ろす。彼女と目が交差する。

 

「何か、悩みとかない?」

「え?」

 

 

 いきなりどうしたのだろう。唐突に始まるお悩み相談。でも、彼女はふざけているわけではなく真面目だった。

 

 本当は……言ってしまいたい。

 

「何かあるんじゃない?」

「えっと、特にないかな……」

 

 嘘。あるんだ。本当は……。でも、言えない。

 

「本当に?」

「うん、無いよ」

 

 言って、もし、それが肯定されたら……。悩みなら常にあった。

 

”ズレ”

 

 他の女の子との違い。分かっている。でも、言われたくない。彼女に『ズレ』を肯定されたら、壊れてしまうかもしれない。

 

 何より、一番怖いのは

 

”拒絶”

 

されること。

 

 独りにはなりたくない。離れているけど、これ以上離れたくない。さらに孤独が加速するのは耐えられない。

 

「そう……それで悩みは何なの?」

「え?」

「それだけ辛そうな顔してたら分かるわよ」

「だ、だから無いって……」

 

 次の瞬間、彼女は僕の頬を両手でつかみグイと顔を無理やり近づけた。

 

「あるんでしょ?」

「いや、無い、よ」

「言わないとこのままキスするわよ」

「ええ!?」

「しかも、舌入れてかなりディープな凄いやつ」

「いきなりそんなこと言われてもな……」

 

 これって、彼が無理やり悩みを打ち明けさせたやり方と同じだ。彼女はジッと目を見続けた。彼女の視線は逃がさないと言わんばかり。

 

「言って。言うまでずっとこのままよ」

「あはは、ないんだけどな……」

「そう、だったらこのままね」

「アハハ、困ったな」

 

 彼女はいつまでもそのままだった。すぐに解放してくれると思っていた。でも、ずっとそのまま。

 

 一時間。

 

 二時間。

 

 彼女は強い瞳をずっと僕に向け続けた。僕も逸らすことができず、お互いに瞬きすらできなかった。その結果、二人とも涙が溢れてくる。それでも彼女はずっと、ずっと僕を見続けた。コハクちゃんも多分ずっと見ていると思う。見ていないから分からないが……。

 

「そ、そろそろ帰してくれない?」

「無理よ。言うまでずっとこのまま」

「何でそこまでするの?」

「色々あるけど一番は萌黄の辛さが分かるから……ほっとけないの」

「どういう事?」

「一昨日話したけど、私は十六夜に悩みを相談して解決したって言ったでしょ? その悩みって何年も前からずっと抱えてた。誰にも言えず不安とか焦り、恐怖を抱えるってすごく辛いと思う。私がそれを感じてたから……今日の萌黄を見てたら自分を思い出した。だから、ほっとけない」

 

 言ってもいいの? 言ってもいいのかな? どうなのかな? 肯定されないかな?

 ズレテイルことを……。

 

「どんな悩みを持っているか分からない。でも、言わないと始まらないわ。怖いと思う。でも、そこから一歩踏み出さないとずっとこのまま」

「……嫌だよ、怖いよ。このままでいいよ。僕は……」

「分かるわ。言っても今以上に辛い結果になりそうで、踏み出したくない気持ちは。でも信じて。私を。どんな悩みも孤独も受け入れるから」

「本当に?」

「うん」

「絶対に?」

「約束する」

 

 怖い、怖い、怖い。でも、彼女になら言ってもいいのかな? こんな僕でも受け入れてくれるのかな?

 

 言ってもいいのかな? 彼女はいつまでもずっと僕を見続けてくれた。

 

 

「僕は背が……高い、そして男に対して、偏見を持ってる……」

 

「……でも、他の女の子はこんな……背が高くないし、僕みたいな考え方もしていない。だから、その、他の女の子と違う別の存在のような気がして……それが寂しくて、孤独で……辛かった……」

 

 涙が少しずつ溢れてくる。

 

「僕って ”ズレテイル” かな?」

「そんなことないわ。コハクもそう思うでしょ?」

「はい……」

 

 コハクちゃんも肯定してくれた。あれ? コハクちゃんも泣いている。

 

「人ですから差があるのは当たり前です。体も考え方もこの世界に同じ人は一人としていないでしょう。皆違って皆良いと言う奴です。萌黄先輩は全く、これっぽちもズレてはいません。私が保証します」

「勿論、私もね」

「ありがとう……」

 

 二人からの言葉は想像以上に響いて孤独を埋めてくれた。暖かい気持ちが溢れてくる。

 

「これからは寂しいときは言いなさい。離れても、電話くらいならしてあげるから」

「電話私もしますよ。萌黄先輩。連絡先交換しましょう」

「うん!」

 

 良い雰囲気になり、全員が泣いている。

 

「コハクも泣いてるのね」

「二人が瞬きもしないで見つめ合っているので、私もしようと思って」

 

 一緒の事をして、一緒に泣いて。それが嬉しいんだ。

 

 その時、どこからかすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「ヒック、グスッ……」

 

「あれ、この声って? 十六夜君?」

「やっぱり居たのね……」

 

 火蓮ちゃんがリビングのドアを開けると、顔面を涙と鼻水でぐちょぐちょにした彼が露わになった。

 

「十六夜、買い物に行ったんじゃなかったの?」

「ヒッグ、し、心配でぇぇぇぇぇぇ、よ、様子見てたらぁぁぁぁぁ、感動的なぁぁぁぁ展開なってぇぇぇぇぇ」

「はいはい、ありがとね。十六夜も心配のメール送ってくれて……」

 

 メール? どういう事だろう?

 

「火蓮ちゃん、メールって?」

「十六夜が萌黄の様子がおかしいから相談に乗ってあげてほしいって。自分は男だから不快にさせてしまうから私に頼んできたの」

「そう、なんだ」

「そうよ、十六夜にもありがとうって言ってあげて」

 

 顔がぐちゃぐちゃの彼。そうか、彼も心配してくれていたのか。彼はやっぱり今までに会った男とは違うのかもしれない。

 

「ありがとう」

「いぇぇぇぇぇぇぇ、ダイヨウぶですぇっぇえぇぇぇ」

「十六夜、言語がとんでもないことになってるわよ」

「十六夜君は本当に優しいんですね」

「二人が言う ”さすいざ” って言うのがちょっと分かった気がするよ」

 

 この場に居る全員が泣いている。嬉しい時にはあまり泣かない。

 

――でも、この雰囲気はどうしようもなく気に入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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