今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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四十五話 お泊まり2

 

 『魔装少女』の三人を家に泊めるというファンであれば夢のまた夢の様な展開になった。緊張しすぎてソワソワが止まらない。

 

「夕食はどうしましょう?」

「私が作るわよ」

「あ、僕も手伝うよ」

 

 三人が夕食の相談をしている。時刻は六時三十分を過ぎている。大分お腹が空いてきた。

 

「火蓮先輩は無視するとして萌黄先輩はどのくらいお料理できますか?」

「ちょ、無視は酷くない?」

「僕は一通りできるよ」

「それは頼もしいですね。二人で協力して作りましょう」

「私も居るわよ!」

「火蓮先輩は料理が得意では無かったと思いますが……」

「フフフ、あれから特訓に特訓を重ねてカレーが作れるようになったのよ!!!」

 

 どうだと言わんばかりに胸を張りドヤ顔で宣言する。銀堂コハクは言葉を詰まらせた。

 

「そ、そうですか……意外ですね。カレーが作れるようになってたんですか……」「フフフ。言ったでしょ? 日々進歩するって?」

「でしたら三人で作りますか?」

 

夕食を三人で作ることが決まり、彼女達は互いに頷き合う。何という贅沢だろうか? 『魔装少女』の初期メンバー三人のスペシャル料理。いくら金を積んでも足りないくらいの価値がある。

 

「十六夜君、何か食べたいものはありますか?」

「そうですね。何でもいいですかね?」

 

 ポテトチップの海苔塩味をご飯に混ぜてマヨネーズを入れたものでも、彼女達の料理なら五百万円出してでも喜んで食べるだろう。端的に言うと、どんなものでもありがたい。

 

「何でもいいが一番困るんですよ?」

「そ、そうですか?」

 

 た、確かにそうだな。三人がリクエストした料理を振る舞ってくれるなんて、俺って幸運だな。

 

「では、カレーでお願いします」

「十六夜君、いつもカレー食べてませんか?」

「確かに十六夜はいつもカレー食べてるわね」

「僕が観察してた時もずっとカレーだった」

「いえ、偶にハヤシライスとかシチュー食べてますよ?」

 

 カレー好きは否定はしないが、毎日カレーを食べてるというわけじゃない。

「同じような物じゃないですか。十六夜君栄養のバランスを考えてください」

「あ、はい」

「全く……家では普段何を食べてるんですか?」

「まぁ、色々ですかね? から揚げとか春巻きとか……」

「……ちょっと、失礼します」

 

 何を感じ取ったのか、銀堂コハクが冷蔵庫の中を覗き込む。ドアポケットにはケチャップやマヨネーズなどの調味料が並び。内棚には麦茶と水のボトルが幅を利かせている。

 

「……」

 

 次に野菜室を開く。付け合わせ野菜としてキャベツの千切りとキュウリを保存してある。俺はあんまり野菜を食べないから、空間にずいぶんと余裕がある。

 

 最後に冷凍室を開く。こちらには冷凍食品がギッシリと詰まっていた。冷蔵室はスカスカで冷凍室はギッシリの方が効率が良いらしい。銀堂コハクはジッと観察していた。

 

「……」

 

 彼女は目を閉じて空を仰いぐ。それから俺をジッと見た。

 

「十六夜君。もっと健康に気を遣いましょう」

「え?」

「野菜が全然入っていません。上は多少の調味料とウインナー、ベーコンといった加工食品。下は冷凍食品のオンパレード。食べるのが悪いというわけではありませんが、おそらく十六夜君はこれしか食べていないのでは?」

「そ、そうです」

「加工食品ばかり食べていると体の健康状態が崩れます。もっと、バランスよく手作り料理も食べないといけません」

 

 彼女以外の二人も同意を示した。

 

「そうね、十六夜もっと気を遣わないと……まぁ、私はパパにバランスのいい手作り料理を作ってもらってるだけだけど……」

「コハクちゃんの言うとおりだよ。加工食品の食べ過ぎは良くないね」

 

 火原火蓮は後半の言葉をモニョモニョと濁したが、二人とも心配してくれていることは伝わった。俺は一人暮らしで料理もあまりしないから、簡単に食べられる食品に必然的に手を出すことになる。

 

「今日は私が献立を立てます。しかし、この食材ではバランスの良い食事は作れません。作り置きもしたいので現在食材が足りません」

「そ、そうですか」

「今からスーパーに行って食材を買いましょう」

「マジですか? もうすぐ七時ですが……」

「……食材を買いましょう」

「あ、はい」

 

 ゆ、幽霊とかが怖いんじゃなかったのか?

 

「あの、幽霊とかは……」

「四人も居れば寄ってこないでしょう。さぁ、早い所スーパーに行きましょう」

「そうですか」

 

 

 彼女の迫力に気圧されてスーパーで買い出しすることになった。

 

◆◆◆

 

 

 買い物客は多くなかった。客層は、仕事帰りの社会人が多く見受けられる。そんな中、俺達は野菜売り場を物色していた。流石にこの時間に高校生はいない。このメンバーを見られたらまた変な噂が立つところだ。俺の噂については諦めているが、彼女たちにまで火の粉が降りかかるのは避けたい。

 

「この野菜は色が悪いですね」

「コハクちゃんこっちのいい感じじゃない?」

「そうですね、それにしましょう」

 

 野菜を見る目のある二人が次々と野菜をカートに乗せていく。俺と火原火蓮は何もできず置いてけぼりだ。

 

「……やっぱり、私って女子力低い?」

「そんなことは無いですよ」

「そうよね……低くないわよね……」

 

 彼女は口惜しそうにそう告げて、俺と一緒に二人の後についていく。手持ちぶさたな時間が続く。二人は今度は肉を見てテキパキとカゴに入れる。その様子を見た火原火蓮はがっくり肩を落とた。

 

「うう、二人について行けない……」

「先輩、気にしないでください」

「で、でも」

「前にも言いましたがやっぱり萌えですよ。先輩の料理下手とかを気にしてモンモンする感じがとんでもない萌えなんです。これはあの二人には出来ない先輩だけの特別な魅力です」

「そ、そうだったわね。うっかり自分の属性の利点を見失ってたわ……ここで多少のリードを見せられても他で挽回できるわよね。ありがとう十六夜」

「いえいえ、自分の属性を分かってもらえて良かったです」

 

 属性とかメタ発言だが、彼女なら問題ないだろう。彼女は機嫌良さそうに俺と二人の後をつける。その時、お菓子コーナーから一人の男がヌッと現れた。

 

「あ、六道先生お疲れ様です」

「ああ、黒田……と二年の火原か……」

「あ、はい。ど、どうも」

 

 火原火蓮は体をこわばらせて目をキョロキョロさせた。初対面では六道先生相手に緊張しない方が難しい。彼女はシュンと小さくなり俺の後ろに隠れた。

 

「黒田、ネットの事だが閉鎖になったそうだ」

「あ、そうなんですか」

「犯人は分からないが今度学校側からのお便りを全学級に配布する。とりあえずはそれで様子を見ることになる」

「色々すみません」

「気にするな。お前が謝る必要はない」

 

い や、貫禄あるな……しかし、彼のカゴの中にはシュークリーム十個、プリン十個、生クリーム、アイス、ホットケーキミックス。見た目に反して可愛らしい。彼は甘党なことは『ストーリー』にも記載されていた。この事実を知らなければ、本人の見た目とカゴの中身のギャップに驚きを抑えることはできないだろう。

 

「それでは俺は帰るぞ。また明日学校でな」

「はい、さようなら」

「さ、さようなら」

 

 火原火蓮はずっと俺の後ろで縮こまっていた。六道先生が見えなくなると、彼女はいつもの調子を取り戻す。

 

「あの人、甘党なのね。何というか意外ね……」

「ああ、確かに初見だとそう思うでしょうね」

「何その言い方?」

「気にしないでください。ちょっとミスりました。それより二人を追いましょう」

「ああ、うん」

 

 話してるうちに二人との距離が開いてしまった。俺達は急いで彼女達を追いかける。

 

◆◆◆

 

 

「ああ!! もう、危ないですよ!!」

「うっさいわね!!」

「手が切れないか心配なんです!! 包丁返してください!!」

「出来るから!!」

「お、落ち着いて……二人とも危ないよ」

 

 夕食のメインディッシュはトマト煮込みのロールキャベツらしい。他には、きんぴらごぼう、ヒジキ、チヂミを作ると言っていた。ソファーから眺めると、三人の立ち姿は絵になるな。

 

 出来るまで何も言わず座っていてくれと告げられている。料理の出来が楽しみだ。……喧嘩している二人を止めなくていいのだろうか。

 

「だったら私が手を抑えて教えますから暴れないでください。手が切れたら大変ですから」

「え、あ、そう? じゃ、じゃあお願いしようかな?」

「はぁー、本当はやりたくないのですが怪我されても困りますから仕方なくやるんですよ? それに、十六夜君の家のキッチンを貴方の血で汚すわけにはいけないですから」

「あ、うん、サンキュー……」

「当たり前ですが猫の手にしてください。知ってると思いますがニンジンは固いですから押すように切るんです。こんな感じに……」

「……そう」

「感触を覚えてください。貴方の包丁使いは危なっかしいですから」

「うっ! パパにも言われた……」

 

 心配する必要はなかったかな。銀堂コハクは後ろに回り両方の手を添えて教えている。

 

 ニンジンを切り終えると、豚肉とニラを切って行く。暫くすると全ての食材を二人は切り終えた。黄川萌黄はその間にトマト缶を使ってトマト煮を作っていた。

 

「今度はキャベツにタネを包みます。手伝ってください」

「うん……ありがとうね?」

「お礼を言われるすじあいはありません。貴方の為ではなく十六夜君に迷惑をかけないためにやっただけです」

「そう……だとしても勉強になったありがとう」

「……包み方を教えるのでよく見ておいてください」

 

 

 お? ここに来て一気に二人の距離が縮まったんじゃないか? 最近よくギスギスした雰囲気になったが、何だかんだ二人の距離が縮んでるのかもな……。

 

「こうです」

「こう?」

「合ってます。その感じで包んでください」

「おけ」

 

◆◆◆

 

 

 

 テーブルに料理が並び、いい匂いが漂ってくる。トマト煮のロールキャベツ、きんぴらごぼう、豚肉の入ったチヂミ、ヒジキ、お味噌汁、白米。滅茶苦茶豪華じゃないか。

 

「美味しそうですね……皆さんありがとうございます」

「気にしないでください。お泊まりさせていただくのでこれくらい当然です」

「そうよ、気にしなくていいわよ」

「二人の言うとおりだね」

 

 早速頂こう。

 

「食べていいですか?」

 

「「「召し上がれ」」」

 

「頂きます」

 

 ロールキャベツにかぶりつく。トマトの酸味と溢れる肉汁がたまらない。

 

「うめぇ」

「それは良かったです」

「そうね」

「そうだね」

「味付けは萌黄先輩なんですよ」

「凄く美味しいです」

「お口にあったようでなによりだよ」

 

 テレビ映した方が良いかな? 会話とかも増えるし。

 

「何かみたいの有りますか?」

「いえ、特には……」

「私もないけど」

 

 とりあえずテレビをつける。おどろおどろしい映像が流れる。

 

『都市伝説シリーズ』

 

「夏子さんが良く面白いって言ってる番組ですね」

 

 銀堂コハクが番組を見て呟く。俺はあんまりこういうの好きではない。彼女が見たいならこのままでも……と思ったが、黄川萌黄は苦手だったな。怖さに悶えるシーンは可愛いくて萌える。彼女の萌シーンを見たいという気持ちもあるが、……嫌がっているのを無理強いすることもない。

 

「あ、すいません。見たいって言ってるようなものですね……でもこういったのは苦手な方がいると思うので他の番組にしましょう」

「私は気にしないわよ」

「あ、その、ぼ、僕も気にしないよ……」

 

 嘘だな。俺も苦手だし、ここは一肌脱ぐか……。

 

「すいません。俺こういうの苦手で……」

「そうなんですか!! すみません、すぐに他の番組にしてください!」

「可愛いところもあるのね、十六夜」

「アハハ、苦手なら仕方ないね! さっさと回して、回して!」

 

 チャンネルを回してトークショーを映す。それを見ながら三人と夕食を共にした。世界一有意義な時間だった。

 

 

◆◆◆

 

 

 お風呂が沸いた。三人を先に入れるべきだろう。パジャマは俺の母のものを貸す。

 

「お先にどうぞ」

「しかし、一番風呂は十六夜君の方が……」

「お客様ですからお先にどうぞ」

「そうですか? ではお先に失礼します」

「悪いわね」

 

 男が入った風呂は抵抗あるだろう。当然の判断だ。

 

「悪いね。寝巻まで貸して貰って……」

「黄川先輩もあまり恩を感じなくていいんですよ? これくらい」

「僕の場合は特に色々あったわけだし」

「それくらい大したことではいないですから。それよりお風呂どうぞ」

「ありがとうね」

 

 

 三人が風呂場に入った。『魔装少女』の入浴シーンでは、黄川が暴走して抱き着いたり触りまくったりするのを火原が止める。今回はどうなんだろうな……。

 

 

◆◆◆

 

 

「ちょっと、アンタ……大きすぎない?」

 

 私はつい声に出してしまった。私より一つ下のくせに生意気なほど大きい。いや、私より大きいのは分かってはいたが、流石にこの年でこの大きさは反則じゃないか?

 学校指定のワイシャツを脱ぎ露わになった彼女の下着姿。白いブラを使っているが問題はそこに収められているとんでもない兵器。谷間の線が長い事、長い事。

 

「まぁ、そうかもしれませんね……」

「コハクちゃんってF?」

「いえ、Eです。でも、最近このブラもきつくなってきました」

「ほぼFなんだね……何というか……触っていもいい?」

「そ、それはちょっと……」

「一回だけ。ほんのちょこっとでいいから……」

 

 萌黄が親指と人差し指で少しだけとアピールする。そういう萌黄は黄いろの下着をつけている。こ、こいつも中々大きい。せ、線が結構長い……。

 

「ええ? ……本当にちょこっとだけなら。まぁ、良いですけど……」

「それじゃあ、失礼して」

 

 萌黄がコハクのを手で掴んだ。その後、驚愕の顔をする……。

 

「何……これ……やわっこくて、ほんのりあったかくて……大きい餅を持ってるみたい……」

 

 何度も掴んだり離したりを繰り返す。そ、そんなに凄いんだ……。

 

「あ、あの、もういいですよね?」

「……」

「あの、返事を……」

「!」

 

 萌黄は今度は両手で揉み始めた。たわわを揉みしだく。

 

「んあっ! あ、ん!」

「こ、これはしゅごい、しゅごいよ」

「話が、ちが、んっ!」

「止めなさい!」

 

 ぱちんと萌黄の頭を叩く。流石にこれはやりすぎだと思う。止めなくてはいけない。

 

「少しって言ったのに、話が、違います……」

「ご、ごめん。つい……」

 

 コハクは力なく膝を床に着けるも、両腕を交差させて上半身だけは守る。萌黄は素直に謝罪したが、目線は名残惜しげに胸元に残している。

 

 揉んでるの見て確かに柔らかそうだと思った。指が肌に沈んでしまうかと錯覚したほど……。

 

「もう、変態さんは嫌いです」

「うう、ごめん。でも、何かコハクちゃんに変態って言われてもあんまり不快感はないのが不思議……」

「その辺にしときなさい。脱衣所で騒いでないで早くお風呂に入りましょう。十六夜が後に控えてるんだから」

 

 私がそう言うと、二人ともいそいそと着衣に手をかけた。

 

 

◆◆◆

 

 

 バスタオルを上半身に巻いて私達は十六夜の家のふろに入る。浴槽の蓋を取ると湯気が立ち上り室内の温度が少し上がったような気がする。

 

「ねぇ、コハクちゃん、もう一回だけ、もう一回だけだから。ね?」

「嫌です」

「萌黄、その辺にしときなさい」

「でも、凄いんだよ? 触り心地が? もう、虜になったちゃう感じなんだ」

「そ、そんなに凄いの?」

 

 と、虜? ちょっと気になるわね……女の萌黄でもこんなになるってことは相当なんだろう。男だったら一体どうなるんだろう?

 

 その時、十六夜の顔が浮かんだ。そして、とんでもないイメージも。

 

『あん♡ 十六夜君激し過ぎます♡』

『我慢できないよ。はぁ、はぁ』

『狼さんになっちゃいましたね♡』

『うう、ぎ、銀堂さん』

 

 いや、そんなことはないだろうけど、起こるはずないだろうけど……け、研究の為にも……。

 

「ちょっと、失礼するわね」

 

 私は彼女の胸に手を伸ばす。ガッと掴むと……頭を鈍器で殴られたくらいの衝撃だった。私も自分のを触るときがあるが比べ物にならない。餅だ。これは餅だ。

 しかし、正月に食べる餅とは次元が違うほど柔らかい。そして、沸々と怒りと言うか嫉妬と言うか複雑な感情が私の中に湧いてきた。

 

「あ、貴方まで……」

「火蓮ちゃん……どう? 触り心地は?」

「……餅。とんでもない餅」

「だよね!? とんでもないよね?」

「ムカつく、ムカつく」

「な、何なんですか? 貴方達は? こ、後輩の胸を揉みしだいて……」

「私をムカつかせた罰として暫く揉みまくる……」

「な、何ですか!? その罰は!?」

「じゃあ、僕は依存させた罰として揉む」

「どんな罰ですか!? お二人ともおかしいですよ!」

 

『嗚呼んん、ちょっと、あ、嗚呼、嗚呼ん、らめええええええっ』

 

 彼女の甲高い声が風呂場に響き渡る。反響する声が私たちを刺激する。しばらく彼女はされるがままだった。

 

◆◆◆

 

 全員が体と髪を洗い終え、湯船に身を沈めている。

 

「悪かったわよ。今度ジュース奢るから機嫌直しなさい」

「僕は揚げパンを奢るよ」

「そんな問題じゃありません!! 女性同士だからと言ってセクハラにならない訳ではないですからね!」

「ごめん」

「ごめんね」

 

 コハクが大分不機嫌になってしまった。されるがままになった後の彼女は体が火照りエロかった。その後、怒りの形相。謝っても中々許してくれない。

 

 

「ば、罰として貴方のも触らせていただきます」

 

 コハクはビシッと私に指を向けた。

 

「嫌とは言わせません! ほら、万歳してください!」

「さ、流石にそれは……ちょっとハズイ……」

「関係ないです、さぁさぁ万歳してください!! じゃないと警察です!! 万歳するまで許しません」

「わ、分かったわよ」

「火蓮ちゃんのも僕揉みたいかも……」

 

 

 私は両手を上に掲げた。バスタオルで隠れているが、手を使えないと無防備になったような気がする。とても恥ずかしい。お風呂に入っているのだから体温が上がるのは当たり前だだけど、さらに熱くなる気がした。

 

「それでは失礼しますね。言っときますけど私が良いというまでそのままですから……ね!」

「ふぁえ、あん!」

「なるほど……A、いやB? うーん、大分小振りですがBはある……のでしょうか?」

「も、もっとやさし、んんん!」

「貴方の指図は受けません。暫く恥ずかしさとくすぐったさに悶えて頂きます」

「もう、だ、だめ」

「萌黄先輩、腕が下がってきているので抑えてあげてください」

「うん、分かった」

「ちょ、ちょっと萌黄」

「ごめん、その姿は萌えるからもっと見たい」

 

 

 

 腕が押さえ付けられて抵抗できない。

 

「フフフ、さぁ、お仕置きタイムスタート……」

 

『ら、らめめめめっめめぇぇぇっぇぇっぇ』

 

 

 今度は私の甲高い声が室内響き渡ることになった……。

 

 

 

◆◆◆

 

「はぁ、はぁ。や、やり過ぎよ」

「フフフ、イーブンですよ。さて、最後は……」

「ぼ、僕? 良いよ。バッチこい!」

 

 コハクの目に晒されても、萌黄はあんまり嫌そうに見えない。と言うか喜んでるんじゃないかな? その気配にコハクは数秒悩み、妙案を思いついたようでにんまりと笑った。

 

「萌黄先輩への罰が決定しました」

「何? コハクちゃん?」

「私の話を聞くだけです」

「そ、それだけ?」

「はい」

「ちょっとコハク流石に贔屓が過ぎるんじゃない?」

 

 コハクと私は犬猿の仲と言っても過言ではない。しかし、ここまで罰の重さに差があると、ちょっと文句を言いたくなってしまう。

 

「贔屓ではありません。ちゃんとした罰です。それでは萌黄先輩よく聞いてくださいね? 途中で話を聞かなかったり、耳をふさいだりしたら最初からやり直しです」

「え? あ、うん。分かったけど一体何を……」

 

 コハクは雰囲気を少し暗くして話を始めた。

 

「これは私が親友の夏子さんから聞いた話なのですが……」

「え? も、もしかして……」

 

 コハクの雰囲気と話の入り方から怪談であることを察してしまったらしい。萌黄が怖い系が苦手だってコハクも気付いていたのね。

 

 まぁ、都市伝説の番組を見たときの反応で誰でも分かるか。

 

 

「小学校の裏の墓地に……」

「た、タイム!! 何で僕だけ!? 揉んでよ!! 僕の胸を! 火蓮ちゃんより大分揉み心地は良いから!」

 

 ほほう、言ってくれるわね。萌黄……。

 

「コハク続けて」

「勿論です」

「ううう」

「萌黄先輩、罰はしっかり受けてもらいますからね? でないと永遠にこの話を貴方の前で話し続けます」

「ひ、ヒィィ……」

 

 

 この後、萌黄はお風呂なのに顔を蒼くして震えながら話を聞き続けた。コハクはかなり根に持つタイプということが良く分かった。

 

 

◆◆◆

 

 

 今頃三人は何してるのかなぁ……入ってから結構経つと思うんだが。俺は時計を見た。もうすぐ十時を超える。入ったのは九時だから一時間くらい。女の子なら普通なのか?

 

 そこら辺は良く分からないが、三人が仲良く入っているなら良しとしよう。リビングのドアが開き、パジャマ姿の三人が戻ってきた。

 

 銀堂コハクはほくほく顔でエロい。ツインテールにしていない火原火蓮はコハクのようなロングヘアーだ。黄川萌黄は……どうした? 顔が尋常でなく蒼いんだが……。

 

「ごめんなさい、十六夜君。長風呂してしまって」

「悪かったわね。十六夜」

「いいんですよ……それより黄川先輩は……」

「気にしないでください。ちょっとお話しただけですから」

「そうなんですか?」

「そうです」

「ああ、そうですか……」

 

 その事に触れてはいけないのか? 少し聞くくらいならいいだろう。

 

「大丈夫ですか? 黄川先輩?」

「……ダイジョブに見える?」

「いえ……見えません」

「だろうね。まぁ、気にしなくていいよ。ううう、眠れるかな、今日……」

 

 察した。大方怖い話でもされたのだろう。ええっと、どうするべきか?

 

「十六夜君、萌黄先輩のこれは罰なんです。私もかなりの事をされたのでイーブンなんです。十六夜君は気にせずお風呂に入ってください」

「ああ、そうですか……」

 

 

 そう言えば、暴走した黄川先輩に怖い話でお灸を据えるという話が『ストーリー』にあった。まぁ、これは何だかんだ仲良くなっている証とも言えるから良いかもしれないが……今日眠れるか?

 

 黄川萌黄は心霊系が大の苦手。それはチャームポイントでもあり弱点でもある。そこを突かれたようだ。

 

「ささ、十六夜君お風呂にどうぞ」

「はい、それでは……」

 

 俺はお風呂に向って行った。黄川萌黄は大丈夫か?

 

◆◆◆

 

 お風呂に入った。

 

 彼女達が入ったお風呂……べ、別に何とも思ってないんだから!! 

 

 ……キモいな。さっさと入って上がろう。

 

 

 髪と体を洗い湯船に念入りに浸かった後、風呂場を出た。

 

 

◆◆◆

 

 

 時刻は十一時近い。もう良い子は寝る時間だ

 

「三人は客間を使ってください。布団三枚敷いてあるので」

「何から何まですみません」

「ありがとうね」

「……どうも」

「あそこの部屋です」

 

 その後、少し話をして三人を部屋まで送った。

 

 

「それではおやすみなさい」

「また、明日ね」

 

 二人は部屋に入って行く。黄川萌黄も続いて入ろうとする。

 黄川萌黄大丈夫か? フォローしておくか。良い睡眠をとれないと健康に関わるらしいからな。

 

「黄川先輩ダイジョブですか?」

「ダイジョブだよ」

「あの、この家にはお化けとかいませんよ。俺ずっと一人暮らししてますが心霊現象は一度も起きてません」

「そう、なんだ」

「それとこれどうぞ」

「これは連絡先?」

「メールと電話番号です。夜おトイレ行きたくなったら怖くて先輩は一人で行けないと思うので連絡してください」

「な! 何言ってるの! そ、そんなことないから。し、失礼だよ!!」

「そうですか、ではその連絡先はいりませんね」

 

 俺が彼女に渡した連絡先のメモに手を伸ばすが、彼女は取られまいと手を引いた。

 

「い、一応、貰っておくよ」

「そうですか。それではおやすみなさい」

「お休み……」

 

 

彼女はちょっと不機嫌そうにしながら部屋の中に入って行った。さてと、俺も二階の自室に行くか……。

 

◆◆◆

 

 

 深夜。寝ている俺にスマホが鳴った。

 

 そこに書いてあったのは

 

『起きてる? 起きてるなら、言いづらいんだけど……部屋の前まで来てくれないかな?』

 


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