今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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次回から、大海の青ですね……感想、誤字報告ありがとうございます。


四十七話 最速

 テストの日が訪れた。男子達の顔が絶望だったのは言うまでもない。

 一日目、国語、保健体育。二日目、化学、社会。そして、三日目であり最終日、英語と数学である。

 

 一日目、二日目は難なく終了。日に日に男子達の顔がやつれていくのは気にしない。『魔装少女』組は特に気にする素振りなく余裕そうだった。

 

 そして、今日が運命の三日目。今はテスト中。答案用紙にペン先を突きつけている。

 

 テスト最終日、学校からの帰り道で黄川萌黄の『ifストーリー』が始まる。それを回避するために、黄川萌黄に憑いて……ついて行く必要がある。

 ただ懸念事項が一つある。それは、銀堂コハクと火原火蓮が同行すること。二人には関わらないでほしい。二人に火の粉が飛ぶのは許せない。何としても今日だけは関わらないでもらおう。

 

 …………よーし、テストが終わったな。色んな意味で。ここ最近勉強に集中できなかった。バッドエンドが近づいている。それを考えると、どうにも落ち着いていられない。

 

 ここまでいつも通りの日常だった。問題は今日なのだ。些細な偶然が災悪を招く『ifストーリー』が幕を開ける。速攻でぶっ飛ばして四人目の所に向かおう。俺は心に決めてペンを置いた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 ホームルームが終わった。急いで黄川萌黄の下に行かなければ。教室中で涙を流しながら喜ぶ生徒達を尻目に駆け出す。今日は銀堂コハクに構わず、二年生の教室に向かった。

 スーパーダッシュで二年生の教室に到着。教室のドアを開けると……、

 

――二年Aクラスの生徒全員と教師が俺を驚いたように見た。

 

 教壇から連絡事項を伝えていた教師が俺を見て固まる。黄川萌黄を含めた生徒達も困惑。

 

 ま、まだ二年生のホームルームは終わってなかったのか……。

 

「失礼しました」

 

 

 俺はそっとドアを閉めた。数分待つと銀堂コハクが俺に手を振って歩み寄ってきた。

 

「もう、十六夜君。行くなら行くって言ってください」

「すみません」

 

 彼女は僅かに頬を膨らませて不満を露にした。リスみたいで可愛い。ナデナデしたい……。

 今はそんな事を考えてる場合じゃないな。黄川萌黄の全てが掛かっているのだから、もっと集中しないといけない。

 銀堂コハクには申し訳ないが今日は帰ってもらおう。ううっ、良心が痛む……。

 

「銀堂さん」

「何ですか?」

「今日は帰ってください」

「……え?」

 

 彼女は俺の言葉を上手く飲み込めないようだった。見る見る内に顔が暗くなり、絶望を象っていく。

 や、ヤバい、こんな顔見たくない!!

 

「今日だけ、今日だけです! 別に嫌いになったとかそういうのではなくどうしても今日だけ貴方と一緒には居られないんです!」

「今日……だけ……」

「この埋め合わせは必ずします! 約束です」

「……埋め合わせ? それはどのような事ですか?」

「エエと……深くは考えていなんですけど……とりあえず何でも言うこと聞きます」

「……なんでも?……なんでも……なんでも……え!? なんでも!?」 

「はい!」

「えっと、それじゃあ……フヒヒ……いや、流石にダメですよね……」

 

 彼女の顔は一旦晴れやかになったかと思ったら、だらしなく笑い、そこからさらに真顔に戻るという百面相に近い変化を見せた。表情が変わるのはコロコロ魅力の一つであり、是非深堀したいが今は置いておこう。

 

「あの、ですから今日だけは……」

「はい、分かりました……」

 

 消沈した雰囲気は消えないが、俺の覚悟が伝わったようでコクリと頷いた。

 

「……埋め合わせ……楽しみですね」

 

 彼女はにんまりと笑った。

 

「それでは今日は……今日だけ、失礼しますね」

「はい、それでは、また……」

 

 彼女は恍惚の笑みを浮かたまま踵を返した。勢い余って今日だけと言ってしまったが、暫く他の町に行くんだよな……。後で考えよう。

 彼女の背中を見送ってから間を置くことなく、二年生の教室のドアがガラッと開いた。

 

 教師に続いて火原火蓮と黄川萌黄が出てくる。

 

「どうしたの? 物凄い形相だったわよ」

「黄川先輩に大事な用事があるんです」

「え? 僕? 分からない問題でもあった?」

 

 テストで難問に苦しんだとでも勘違いしたのだろうか。そんなことはどうでもいい。今はバッドエンド阻止に集中する。

 

「その前に火原先輩、少しいいですか?」

「え? 私?」

「はい、黄川先輩はそこで一ミリも動かず待って居てください」

「うん、わかった! って、一ミリも!?」

「はい、勝手に動かれると困りますので、例えおしっこに行きたくなっても俺が戻ってくるまで動かないでください」

「何でそう言うことかな!?」

「それでは、火原先輩。ちょっと行きましょう。絶対に動かないでくださいね!」

 

 火原火蓮を教室から少し離れた場所に連れ出した。そこで向き合う。

 

「ど、どうしたの? きゅ、急に二人きりになって?」

「単刀直入に言います。今日は俺に関わらずまっすぐ家に帰ってください」

「え?え?え? な、何でそんなこと言うの? わ、訳が分からないわよ? 何か私不快になるような事言った?」

「嫌いになったというわけではないんです。むしろ先輩には好感しかないです」

「そう、ならよかった……」

 

 彼女は肩の力を抜いて表情を和らげる。俺が彼女を遠ざけようとしていると勘違いさせてしまったらしい。気が動転するほどに焦る彼女には申し訳ないが、今日だけはどうしてもダメだ……。

 

「今日だけ、今日だけです。いつも一緒に居るのに急に関わるなって言うのは失礼だということは分かっています。ですからこの埋め合わせは必ずします。何でも言う事を聞くので今日だけまっすぐ家に……」

「な、なんでも? え? 本当に?」

「はい。本当になんでも」

「そ、そう。何でもか……まぁ、それならいいけど……それにしても十六夜。ビックリしたわよ、急に関わるなって」

「すいません。気持ちが焦ってしまって……」

「何があるの?」

「まぁ、大事な用ですね……」

「むぅ、十六夜って隠し事多いわよね。自室も見せてくれないし……」

 

 この間家に泊りに来たときに部屋を見せてと言われたが絶対に入れなかった。理由は三つある。一つはエロ本がある。二つ目はエロ本がある。三つ目はエロ本があるからだ。

 

 佐々本経由のエロ本が大分貯まっている。量が増えてきたため隠しきれなくなってきた。バレたら気まずいので隠し通す以外の道はない。

 

「アハハ、すみません。まぁ、ミステリアスな方がカッコいいので……」

 

 言い訳としてゼロ点に近い。もっと上手く誤魔化せないものだろうか……。

 

「話す気がないっていうことは分かったわ。十六夜の事だからそれなりの理由はあるんだろうけど、あんまり無理はしないでね?」

「はい、ありがとうございます」

 

 彼女は寂しげに語った。心の中では不安があるのだろう。心配をかけたくないが、俺にはやるべきことがある。

 

俺は彼女とそこで別れた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 黄川萌黄と二人で歩いている。前後左右、東西南北に気を配りながら。帰り道を送って行くと言って彼女と帰路を共にした。

 

「あの、それ止めてくれないかな? 恥ずかしいんだけど……」

「お気になさらず」

 

 この後、二つの災難が降りかかる。まずは元カレとの再会だ。彼が今の恋人を連れて街をぶらついているところにバッタリ鉢合わせる。黄川萌黄とわかるや否や、背丈をバカにしてケラケラ笑ったり告白の物まねをしたり彼氏と彼女そろって煽り立てる。

 

 放っておいても彼女が死ぬことはない。かと言って放っておく理由もない。黄川萌黄を傷つけたクズに何としても謝罪の言葉を口にさせてやる。クククク……。

 

 

 しばらく歩く。子供に指を差されるのは久しぶりだな。客観的に見て奇妙な行動であることは承知の上だが、道行く他人から遠巻きに観察されるのは辛い。

 

「ねぇ、本当に恥ずかしいよ……」

「我慢です」

「そ、そんなこと言われても……」

 

 彼女は羞恥に悶えており、止めるように俺に促す。しかし、俺は止まらない。

 

 同じやり取りを繰り返しながら、さらに歩を進める。

 

 カップルが腕を組んで歩いてくるのが見えた。耳にピアス。アイツだな。約50メートルほど離れた場所にいる。

 事情を知らない部外者なのに一方的に煽ってくる女は間違いなくクズだが、男の方は輪にかけて酷い。奴は女に隠れて複数人と浮気をしている。……今日が年貢の納め時だが。

 

 男が黄川萌黄に気付いた。薄く嗤いながらこちらに近寄ってくる。彼女もあの男を認めた。

 

 そして、クズ男が言葉を発する

 

――前に俺はクズ男の首に腕を回す。

 

 ダッシュで近寄り、男と肩を組んだのだ。クズカップルは俺の行動を理解できずに動転する。

 

「な、何だ? お前?」

「ちょっと、誰このフツメン?」

 

 女に聞こえないよう声を潜める。

 

「…………呉服屋のミカちゃん……」

「な、何言ってるんだ?」

 

 クズ彼氏は状況が分からないないようだ。

 

「……自販機のミミちゃん……」

「え? いや? お前……」

「カーニバルのセイラちゃん……」

「お、おい、お前……なんで、それを……」

「さぁ? 何ででしょう? ちなみに隣の子は自販機のミミちゃんですね……」

 

 浮気相手のあだ名だ。こいつは恐怖を抱いているはずだ。知らないはずの事を知っている男に突然組み付かれたのだから。何を知っているのか、どうやって知ったのか、男にヒントはない。

 

「このことを隣のミミちゃんに言っちゃおっかな」

「お、おい」

「もし、嫌なら……黄川萌黄に謝罪してもらおうか。目の前にいるのは分かっているだろう」

「わ、分かった。する、する。だから……」

「ああ、分かっている。腰を九十度に曲げて謝り、二度と関わらないことを誓えば……橋の下で呉服屋のミカちゃんとしたことも黙っておこう」

「な、何なんだ……お前は……」

「『世界』を知る者……とでも言っておこう。それより早く謝れ」

 

 

 クソ彼氏は黄川萌黄の下に行き、九十度に腰を曲げて謝り、彼女を連れて逃げ去った。黄川萌黄は何が起こっているのか分からずポカーンとしていた。

 昔トラウマを植え付けた男の一人がいきなり謝ってきたのだから、そうなるのも無理はない。

 

 ククク。これがざまぁ展開というやつだな。本来なら色々悪口を言うが、それすら言わせずに退場させ釘を刺す。まさに最高の展開だな。

 

 最速だな。彼氏と出会ってから謝罪させ退場させるまで……

 

”一分二十七秒”

 

 

「……何したの?」

「特に何もしてないです」

「どう考えても何かしたでしょ? アイツって昔僕に……いや、そんなことはどうでもいい。肩組んで耳元で何か言ったよね? そこからあの男の様子がおかしく……」

「アハハ、何か裏を読んでるようですが全然違いますよ。アイツが知り合いと思ったんですけど全然違う人だっただけですよ。それに相手もビックリしたのでしょう」

「いや、いくら何でもそれは……」

「だとしても俺は本当に何もしてませんよ。俺が勘違いしただけです」

「そ、そう? で、でも……ううん、何でもない」

 

 彼女はもう考えないようにしたようだ。そのまま二人で道を歩く。彼女は意を決したように語り始めた。

 

「僕は男が嫌いなんだ」

「そうですよね……」

「分かってたよね?」

「ええ、まぁ」

「……色々あってさ……あの男は僕が男嫌いになる理由の一つで、信じてたのに裏で色々僕の事を言ってたんだ……」

「そうですか……」

「あんまり詳しく知らないけど、自分から謝るような人間だけじゃないということはわかる。君が何かをしたとしか思えない」

「……」

「言いたくないならそれでもいいんだ。でも、ありがとう。スカッとした。あんな九十度に腰まげて謝罪してくるなんてビックリだよ」

「そうですか。スカッとしたなら良かったですね」

「うん、ところでさ……一応僕会話してるわけだから目を合わせて欲しいな……さっきから前後左右を交互に見っぱなしで気まずくて恥ずかしいんだけど……」

 

 俺はいつも通り前後左右、東西南北ずっと警戒しっぱなしだ。真剣な話をしているのにキョロキョロしていては失礼だと思われても仕方ない。しかし、今は次の災悪に備えないといけない。

 

 次は父親か。名前は確か……浅黄黄我(あさぎおうが)だったか……。

 

 バッドエンドに登場するクズは大体頭のねじが外れている。だからこそ、煽って手を出させぶっ飛ばすという手段を取れる。

 

 このやり方で大丈夫だろうかと心配になるときがある。もっといい方法が他にないか? スマートなやり方はないか?

 

 余計な事を考えると判断力が鈍るから今まで考えないようにしてきた。

 不安もある。

 だが、そのまま突っ走ればいいと()()()()を貰っている。

 

 信じて俺は進もう。

 

◆◆◆

 

 

 クズ元カレを撃退した後、前後左右を警戒しながら先行する。黄川萌黄は恥ずかしそうについてくる。何度言っても俺が止めないからもう諦めたみたいだ。

 

 

「……」

「ううっ、凄い見られてる……」

 

 周りからの視線が痛い。彼女は羞恥に身を縮めて頬を赤くする。商店街を抜け住宅街に入る。

 

 ……曲がり角から一人の男が出てきた。俺は咄嗟に黄川萌黄の前に立つ。

 

 背中の黄川萌黄が息を吞んだ。その男は俺達に視線を向けると足を止めた。

 

「う、そ……」

「萌黄か!?」

 

 こいつが浅黄黄我だな。身長は二メートル以上ある。一見優男の印象を受けるが、本性は全く違う。昔は悪かったとか、もう一回やり直そうとか、前向きな言葉を口にするのは最初だけなんだよな。

 

「あの、俺達帰りたいので失礼します。先輩行きましょう」

「う、うん」

「待ってくれ! 昔は悪かった! 萌黄にも黄奈(きな)にも!」

「ほら早く行きましょう」

 

 俺は彼女の手を取ってその場から離れた。そして、黄川萌黄を残して俺は浅黄に近づいた。

 

「…………」

「!……お、お前!!」

 

 会話の時間は二分くらいか。かつての職場から退職してダサいとか、虐待して捕まるのざまぁとか、適当な事を彼に吹き込んだ。ヘイトを自分に向けることに磨きがかかった感じがする。最近、煽りについて研究している。口角を吊り上げたり声のトーンに気を付けたりした結果、『煽りの極意』を身に付けた……気がする……。

 

 そのまま浅黄に背中を向けて、再び彼女の手を取りその場から離脱した。

 

 浅黄はその場から動かなかった。

 

「ようやく見つけたぞ……そして、お前も覚えておけよ……」

 

 後ろから怨嗟の声がかすかに聞こえる。聞き間違いではないだろう。恐らく追ってくる。

 彼女を送り届けた後、まだ近くにいたら好都合だ。大声で馬鹿みたいに煽ってやろう。ヘイトはすでに十分稼いだがな!!

 

 あの男から早く遠ざかるために、彼女の震える手を握り先を急いだ。彼女は放心状態になり動けなかったようだ。

 

 彼女の恐怖は簡単に克服できるものではない。ただの女の子には難しいだろう。

 

 道中、彼女はずっと無言だった。

 

 

◆◆◆

 

 彼女の自宅は二階建てアパートだ。この時点で彼女が浅黄を家に入れると、バッドエンドのルートに入ってしまう。ここまでは順調だ。彼女にはこのまま自宅待機してもらおう。

 

「それでは今日は失礼します。今日の所は先輩はこのまま家に居てください。何があっても出ちゃダメですよ。嫌な予感がするので……」

「……うん」

「それとこのお守りをどうぞ。このお守りがあればありとあらゆる厄災をはね除けると噂のものです」

「あ、ありがとう」

「それを百個です。単純計算で効果は百倍です」

「多いね……ありがとう」

 

 お化けが苦手な怖がりの彼女にいつかあげようと思っていた。なかなか贈るタイミングが見つからず今まで持ち歩いていたお守り百個を渡した。

 

「それじゃあ、また」

「またね……」

 

 さて、彼女は不安に感じているだろうから速攻で片付けようか……。

 

 

◆◆◆

 

 

「それで道を歩いてるところを急に襲われたと?」

「はい、急にナイフですよ。ビビりました」

「前から思ってたけど君事件に巻き込まれすぎじゃない?」

 

 今警察の聞き取りを受けている。相手は毎度お馴染みの人だ。一回目、二回目、そして三回目。何度もこの人と会うと運命的なものを……感じないな。

 あの後、物凄い顔でナイフで襲ってきたので速攻でぶっ倒して警察を訪れた。怖かったが慣れとは恐ろしいもので、前より落ち着いて対処できた。

 

 恐怖よりどれだけ早く片付けるかに頭を使いつつある……。

 

「君さ色々持って歩いてるみたいだね……いや、防犯グッズを持ち歩くのは悪い事ではないんだけど……あまりやり過ぎるのもね……」

「昔から厄介事を引き寄せる性質なのでどうにも準備をしないと落ち着かないんですよ」

「君は死神か何かなのかい? こういうのを言っていいか分からないけど警察内では”七色町の死神”って名前が流行りだしてるよ。あまりに事件に巻き込まれるから」

「そうですか……」

「まぁ、君が関わった奴ら全員頭おかしそうな人間ばっかだから責めるのもお門違いかもしれないけどさ……だとしても、一人目が無職ストーカー取り調べもろくにできない狂人。二人目は永遠に恨みを話し続けて取り調べもろくにできない狂人。三人目は前科ありの暴力殺人未遂者。いや、オンパレードだね」

「そうですか」

「三人目は君が色々言ったって言ってるみたいだけど……」

「さぁ、何のことか分かりません」

「そうかい……まぁ、君は被害者だから……証拠もないし……正当防衛って事なのかな? 一応聞くけど自招防衛じゃないよね?」

「まさか、俺からは何もしてません。あっちが急に襲ってきたんです」

 

 

 俺から手を出したようなものかもしれんが、バレなければ問題ない。実際に手を出したのはあっちだ。俺が煽った証拠もない。さらに、あちらは児童虐待の前科がある。どちらを信じるかと言えば怪しさは残るが俺だろうな。

 

「それじゃあ、もう帰っていいよ。あんまり巻き込まれないでね。言っても仕方ないかもしれないけど……」

「はい、失礼します」

 

 取り調べ終了。これでバッドエンドを回避したことになる。クソ親父は豚箱行きだ!!! これで一安心……ではない。まだすべきことがある。

 

 すぐに動き出さないとな……。警察署の外に出ると一台の車が俺の前で止まった。

 

 そして……。

 

◆◆◆

 

 ピピピピピと目覚まし時計の音が響く。僕は手探りで目覚まし時計を探し音を止める。布団から起きてキッチンに向かう。

 

 昨日はよく眠れないかと思ったがそうでもなかった。久しぶりにクズと超クズに会ってしまった。超クズの時は恐怖で一瞬何もできなくなりそうになった。元父親であり全ての元凶。もう会うことはない。そう思っていたのに会ってしまった。反省のような言葉も口にしたが、あの男は絶対に反省なんかしていない。僕には分かる。

 

 昔を思い出して体が震えた。怖くてどうしていいか分からなかった。でもそんな時彼が手を引いた。

 

 超クズとあったとき真っ先に僕の前に立ってくれた……。

 クズの時も何か色々やってくれたようだ……。

 

 そして、お守りを百個もくれた。一つでいいのに百個もだ。それだけ心配をしてくれたのだろう。昨日トラウマが甦り眠れるか心配だったが……お守り百個のおかげで安心して眠れた。

 

 ベッド中にお守りをまき散らしてその上に寝る。それによって恐怖が和らいだのだろう。

 

 本当に優しくて逞しくて素敵な人だ。

 

 恐らく、超クズはまた僕の所に来るだろう。しかしもう大丈夫。僕にはお守りが百個もあるのだから。

 

 負ける気がしない。いつでもかかってこい。

 

――骨折ってやる……。

 

 そんな事を考えテレビをつけると……。

 

『浅黄黄我容疑者。高校生殺人未遂で逮捕。前科あり!!』

 

 既に超クズは逮捕されていた。高校生……もしかして、彼がやってくれたのか?

 恐らくそうだろう。だとしたら気になることがある。

 

 彼は一体何者? 知りえない事を知っている。行動が余りにスマート……。

 

 気になる。彼の事が……電話しよう。数回コールが鳴ると彼の電話に繋がる。

 

 

「もしもし?」

「もしもし、おはようございます。どうかしましたか?」

「あの、朝のニュースで昨日会った背の高い男が捕まってたんだけど……」

「あ、そうなんですか。そういう事もあるんですね」

「君が何かしたんだよね?」

「いえ、してませんよ」

「嘘つき……今日の放課後ジックリ聞くから……」

「それは無理ですね……」

「なんで?」

 

 何で? 最近は放課後いつも四人でいるのに……。

 

「俺……今、海にいるので」

「はぁぁぁ!?」

 

 唐突すぎる。意味が分からない。昨日まで普通にテストやって超クズを豚箱に入れてくれたと思ったら今度は海にいる!?

 

 何なんだ? 一体どういう思考をしているんだ?

 

 彼の事が何も分からない。でも、知りたい……。どういう経緯で彼が海に行ったのか考えてみた。

 

 …………全く想像できない。彼は一体何者なのだろう?

 

 

 

 


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