今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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大海の少女
四十八話 海原町


 

 青い綺麗な海。そこから獲れる新鮮な魚介等が特徴の素晴らしい町。それがこの海原町(うなばらちょう)だ。自然が溢れて空気が美味い。

 

 こんな素晴らしい所に来るなら観光で来たかった、と思ってしまっても悪くないだろう。

 

「ふぁぁぁ、眠いの……」

「そうですか」

「この町は魚介類が美味な事で有名らしいの。何か食べたいものじゃ。マグロとかアジとかアワビ、ホタテ……じゅるり……どうじゃ食べてみとうないか?」

「アンパンと牛乳でいいです」

 

 現時刻は七時三十分。とある女性と二人きりで車内にいた。とある高校の前に張り込んで登校する生徒達の様子を伺っている。

 

 先ほど黄川萌黄の電話を受けた。ニュースで父親が逮捕されたことを知ったのだろう。報道されたとしても俺は匿名のはずなのに、どうして電話を寄越したのだろう……。まぁ、いいか。気にする事でもない。

 

 

「しかし、こんな朝早くから高校の前に車を停めて監視とは……恐れ入るの。登校している学生が怪しむような視線を向けておるぞ?」

「気にする事でもないでしょう。それよりアンパンどうぞ」

 

 アンパンの封を開け隣にいる女性に差し出す。それと牛乳。朝飯はコンビニで買ったものだ。

 

「アンパンと牛乳とは……まぁ、いいんじゃが……」

 

 彼女はアンパンを食べているようだ。すると意外にも満足したような表情を見せる。

 

「いけるの。最近のコンビニは進歩しとるの」

「そうですか」

「お主、全く我の話を聞いておらんな……」

「聞いてますよ。コンビニがすげぇって話ですよね」

「まぁ、そうじゃが……話とは耳だけで聞くものではないじゃろう? 目と耳と心で聞くもの……なのだが……さっきから東西南北見渡して全く我を見ていないではないか……お主のそれは話を聞いていないと同じじゃ」

「そうですね」

「……」

 

 

 隣にいる彼女はがっくりと肩を落とした。四人目の発見が優先なのだから、彼女に構っていられない。

 

 視界を横切る生徒達の流れの中で、一人の少女が目についた。ショートヘアーだが前髪だけ長く伸ばして片目を隠している。目付きは鋭い。瞳は澄んだ海の色をしているはずだ。

 

――片海アオイ

 

 彼女は少しガラが悪いギャルヤンキーに見える。周りの奴らは勘違いして少し怯えているが、本当は違う。

 

 四人目を初めて見た。可愛いじゃないか……。ちょっと強面な感じが良いんだよな。

 

 彼女がこれからエグイ目に……。許せんな。

 

 だが、何が起こるか全く知らない。今までファンタジー要素は一切なかったが、これからも同じとは限らない。ファンタジー物だったらどうしよう……。

 

 念のため、お守り、聖水、お札などを買い揃えておいた。効果の程は疑わしいが準備するに越したことはない。この車の後部座席に積んでいる。

 

 だからと言って安心はできないだろう。仮に何かしら効果があるとしても、そもそも必要となるかすら分からないのだ。早く詳細を知りたかった。

 

「まだ、出ないんですか!? 遅いですよ! 占い!」

「そう言われてもの。結果はランダムじゃから……」

「そこを何とかしろよ! それでも占い師か!?」

「急にどうした!? 怖いぞ!? お主!?」

 

 彼女は”占い師”であり『超能力者』である。能力の発動条件を満たすために、彼女にここまで足を運んでもらった。

 

 発端は体育祭の日に遡る……。

 

 

◆◆◆

 

 

 占い師の存在は俺の行動予定に大きく影響した。想定外の強力な味方をどのように活用するのが最善か考える必要に迫られた。

 

 二人のお弁当対決の時も頭の片隅で考えていた。黄川萌黄との初顔合わせの時も……片隅で。

 

 そして、午後の実行委員の仕事が始まる前に考えをまとめた俺は、占い師に電話をかけた。

 

「もしもし?」

「聞こえておる、頼み事じゃな?」

「そうです、その頼み事なんですけどお願いしてもいいですか?」

「構わん。言ってみよ」

「はい……それでは今すぐ……それは無理か……明日、海原町に行って片海アオイと言う女子高生の顔を拝んでください。恐らくその町に一つしかない女子高に通っていますのでよろしくお願いします。顔を見た後は直ぐに占いを始めてください。そしたら一旦帰ってもいいです」

「ちょ、ちょっと待て、速すぎ……」

「その後は俺の指示があるまで占いに徹してください。そして、俺の高校の中間テストが終わる数日前に連絡しますからに車で俺を迎えに来てください。そのまま海原町に向かいます。一緒に来てもらいますから、その辺はよろしくお願いします」

「速すぎるわ!!! 我の話を聞け!!! 全く訳が分からんわ!!!!」

「そうですか……」

「そうじゃ、分からん。速すぎて聞こえんぞ」

「そうですよね。それじゃあ、メールで送ります。そこに細かい日程なども載せておきますのでよろしくお願いします」

「う、うむ」

「言っときますけど全て俺の言うとおりにしてくださいね? 頼みを聞くって言ったんですから責任は取ってください。それでは失礼します」

「お、おお。了解じゃ」

 

 そこで一旦俺は電話を切った。急いでメールを送り、詳細を彼女に伝える。

 彼女の能力には波がある。占い結果が分かるまでの期間と結果の具体性がランダムなのだ。

 

 それでもデタラメを吹き込まれるよりはましだ。

 

 むしろ気を付けなくてはならないのは、結果ではなく過程の期間だった。少しでも早く占いを始めたいので、占いの条件である「対象者の顔を見たことがある」を早めに達成してもらいたい。

 

 間違いが起こらないように俺も同行したかったが、黄川萌黄との不仲問題にかかりきりだ。彼女だけで行って貰おう。

 

 片海アオイの特徴を細かく説明すれば、彼女を知らない占い師でも見つけられるはずだ。彼女の容姿は頭一つ抜けて良く、良い意味で特徴的だ。さらに念を入れて写真を撮ってきてもらい間違いないか俺が確認する。

 

 

 これで占いの結果が出れば片海アオイのバッドエンドが回避しやすくなるぞ!! 

 

◆◆◆

 

 そんな考えだったのだが一向に占いの結果はでない。俺に関する占いなら間を置かずすぐに結果が出るのだがな……。

 

 昨夜俺を基準に占ってもらい、少し先の未来で四人目を救うのが見えたらしいが詳細は分からず終い。ちなみに黄川萌黄のバッドエンドは回避できていたらしい。

 もしかしたら俺経由でバッドエンドの詳細を掴めるかと思ったが、そう上手くはいかない。

 やはり本人の運命は当事者を占って見るしかないだろうか?

 

 占いは不安定だから良く分からんな。

 

「まだ出ないんですか?」

「出ないの」

「うーん、パワーストーンでも食べれば出やすくなりますかね?」

「それだと、出るのは占いではなく腹を下して出るとんでものない物じゃ!」

「一回試してみませんか?」

「そんなんで出るわけないじゃろう!? 発想がぶっ飛んでおるな!?」

「それじゃあ、俺の買ってきた聖水を飲んでください。何か神秘的な力で効果があるかもしれません」

「まぁ、それなら」

「取りあえず五リットルくらいお願い申し上げます」

「腹下すわ!! 申し訳ない程度に丁寧に言ってもそんなには飲めんぞ!!!」

 

 

 まぁ、万が一の時に運転者が腹下して動けないと困るな。このままでは、占いの結果が出ないことも想定しないといけない……。

 もう宛にしない方が良いかもしれない。出たらラッキーくらいで考えておこう。仕方ない。片海アオイと仲良くなり守護霊ポジにつくしかないな……。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 私の名前は野口夏子。どこにでもいる普通の女子高生だ。

 

 いきなりだが朝から校内は騒がしかった。特に私たちの教室である一年Aクラスが……。

 

「おい、朝のニュース見たか?」

「絶対黒田」

「アイツ巻き込まれすぎじゃないか?」

「死神……なのか?」

 

 テレビでは高校生としか言っていなかったのに、ニュースに出たのは黒田君と皆確信しているらしい。決めつけはよくない、黒田君がニュースの高校生と決まったわけではないのだ。

 

 証拠なんて何もない。それなのにみんな決めつけてる。

 

 全く、皆噂に惑わされすぎだ。現代人に求められているのは情報を鵜呑みにするのではなく見極めること。それをみんな忘れている……全く、全く仕方ないな……。

 

 …………まぁ、私も黒田君だと思っているんだけど……これはあっちに置いておいて。

 

 問題は私の前の席にいる銀堂さんだ。朝から落ち着きがない。ずっと頭を抱えてぶつぶつ呟いている。

 

「十六夜君大丈夫ですか? 大丈夫ですよね? ……………………あのニュースの犯人……もし、十六夜君に何かあったら……」

 

 うわぁ、見てはいけない物を見ている気分だ……。彼女は黒田君を心配して細い声でしみじみとした雰囲気だった、その次の瞬間彼女は犯人に怨念をかけるように声を発した。

 

 これは……見てはいけない奴だ……クラスメイトの皆も大分ビビッてるな……銀堂さんをチラチラ見てる。……それくらい雰囲気がヤバい。

 

「あの、銀堂さん……落ち着いて」

「ブツブツぶつぶつブツブツ……」

 

 あっ、聞いてないね。これは。彼女はしばらくそのままで、私が話しかけても彼女には届かなかった。

 

 黒田君が学校に来ることはなく、彼女は時折彼の席を見て……ブツブツブツ一人で話している……。

 

 暫くすると担任である六道先生が教室に入ってくる。

 

「席にツ……」

「先生! 十六夜君はどうして学校に来ないんですか!?」

 

 速い!! 先生が席につけと言う前に彼女は立ち上がり声を少し荒げて問う。先生は少し難しい顔をしている。

 

「うむ、黒田は今日は欠席だ。風邪をひいたらしい」

「で、でも、今日の朝のニュースで……何かあったのではないのですか!?」

「何もない。朝のニュースは俺も見たが黒田とは一言も言っていない。憶測で話すような事でもない。黒田は風邪だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「わ、分かりました……」

 

 

 銀堂さんは渋々再び席に着く。そして再びブツブツ……独り言。そんなに気になるんなら電話すれば……あっ、連絡先持ってないんだっけ?

 

 

「ブツブツぶつぶつ……」

 

 ふぅーここは私が励ますしかないだろうな。これは後でジュースだね。黒田君?

 

 

◆◆◆

 

 朝から僕は火蓮ちゃんとの素晴らしいコミュニケーションをとっていた。彼女は朝の登校中に彼に会えなかったので萎えていた。

 

 彼女は知らないようだから、彼が海にいることを伝える。

 

「ええ!? 十六夜が海!?」

「そ、そうらしいよ。か、顔近くない? 嬉しいからいいんだけどさ……」

「わ、私にそんなこと一言も……」

「僕も朝聞いたんだよ」

「何で?」

「え? あ、電話かけて……」

「…………」

「な、なに?」

 

 彼女は僕をジッと値踏みをするように眺める。な、なんだろう? ちょっと怖いかも……。

 

「……気のせいか」

 

 彼女は小声で何かを言ったが僕には聞こえなかった。その後彼女はその視線を解き、いつものような少し強気な視線に戻った。

 

「何で電話したの?」

「えっと、朝のニュースが気になったから……」

「ニュース?」

「見てないの? このニュース」

「朝は寝坊して見れなかったのよ」

 

 僕はスマホにニュースを表示して彼女に見せる。彼女はそれを見ると目を大きく開く。

 

「こ、これ十六夜じゃない!」

「一応匿名だから絶対と言うわけではないと思うけど……僕もそう思う」

「どどどどど、どういう事!? こここここ、これは!?」

「落ち着いて火蓮ちゃん。朝電話したら結構大丈夫そうだったから命に別状とかないんじゃないかな」

「そそそそそ、そうね。いいいいい、命に別状はないなら、しししし、心配いらないわよね……」

「全然落ち着いてないね」

 

 彼女は急いでメールを作成し始める。カタカタと携帯を叩く音が聞こえる。彼女はメールを送った後も落ち着きがない。

 

 席に座りながらずっと机の上に置いたスマホと睨めっこしている。そう簡単に返信は来ないと思うけど……送ったばかりだしね。

 

「まだ来ない……まだこない……まだ来ない……まだ」

 

 あっ、これ僕の苦手な奴だ。ちょっと怨霊っぽいセリフ回しで心霊的なものが思い浮かんで怖くなってしまう。や、やめて欲しいかも。

 

「火蓮ちゃん、それちょっと怖いんだけど……」

「まだこない、まだこない、まだこない」

「ヒぃ! こ、怖い! お願いだから話聞いて!」

「何? 今、忙しいんだけど? 用事なら後にしてくれない?」

「急に辛辣すぎない!?」

 

 彼女は唐突に辛辣になり対応が氷のように冷たくなった。今日の火蓮ちゃん情緒不安定過ぎない?

 喜怒哀楽があって可愛いのが火蓮ちゃんだ。けれども今日の彼女は、悲しみから疑惑、そこから幽霊。アグレッシブが過ぎる。

 

「で?」

「いや、そのまだ来ないってやつ止めてくれないかなって思って」

「ああ、そういうこと。分かったわ」

「ありがとう」

「返信、返信、返信……」

「それもやめて!!」

 

 結局怖い。


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