今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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五話 激辛

 俺は銀堂コハクと一緒に帰ることにした。少し緊張するが彼女と一緒に帰るのが一番だろう。

 

「銀堂さん」

 

 俺が話しかけると帰宅途中だった彼女はこちらに振り返る。

 

「何か御用ですか?」

「いや、その、一緒に帰らない?」

 

 凄い恥ずかしい。こんなこと言ったことがない。

 というか一緒に帰ろうなんて、俺が銀堂コハクを狙っているみたいじゃないか?

 

「……用事があるのでまたの機会に、」

 

 そう言うと彼女は帰って行く。そうか用事があるなら仕方ないって……。

 ならないな。俺は用事なんてない事を知ってるし、このままほっとけないし。

 

「途中まででいいですから!」

 

 少し強めにいうと彼女は一歩引いた。その後僅かに考える素振りをして……。

 

「私は、家に帰った後すぐに用事で出かけないといけないので、大分早歩きになりますが、それでもよければ……」

 

「是非!」

 

 何とか着いて行く許可を貰い、彼女の隣を歩く。完全に勘違いされているだろう。

 俺が彼女に気があると。確かにかわいいし、スタイルもいい最高の女性だが手は出せないな。

 流石に、うん。

 

 彼女は少し早歩きで帰って行く。俺も合わせながら周囲を警戒する。右を見た後、後ろを見る。確かここでは絡まれないが、念のためだ。

 

「あの、十六夜君」

「はい?」

「昨日も思ったのですが、周りから凄い見られてますが、恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしくないと言えばうそになりますけど、今はそれより大事なことがありますから」

「そうですか」

 

 かなり奇抜な行動で、彼女からすれば一緒に居ること自体恥ずかしいだろうが、ここは耐えてもらうしかない。その後、急に後ろを向いたりしながら帰って行く。

 

 『ifストーリー』では、不良に会わない為に、道を変えたことで彼女は酷い目に遭うのでここは敢えて、いつも通りの道で行くことにしよう。しばらく歩くと分かれ道がある。昨日は彼女は左に行ったが今日は右に行こうとする。

 

「銀堂さん。こちらの道で帰りましょう」

「どうしてですか?」

「えーと、ですね。最近こっちの道は不良が多いらしいんですよ」

「そうですか。では、そうしましょう」

 

 昨日の事がまだ頭にあるようなので、あっさりと承諾してくれた。

 これで今日は安心だ。っと思っていたのだが。

 

「昨日の、可愛いこじゃん」

「借りはしっかり、返させてもらうからな」

 

 まさかの”イレギュラー”

 本来はこちらの道にいないはずなのにまさかの不良がこちらに居た。俺のせいか? 俺が余計な事をしたからか? しかし、反省は後ですればいい。先ずは何とかして切り抜けないと。不良たちは、指をぽきぽきと鳴らしている。

 

――超怖い

 

 不良はやっぱり怖い。逃げよう。しかし、後ろにも。

 

「お! そいつが噂のかわいい子ちゃんか」

 

 後ろにさらに一人、囲まれてしまった。もしかして、つけられてたのか?

 ここも、本来と違う。この場面は二人のはずなのに、三人。

 

「そうだよ。良い女だろ?」

「スタイルも良いし、最高じゃん」

 

 佐々本のようなキャラだが実際は彼より数段下種の男だ。銀堂コハクも少し怖がっている。

 不良三人に囲まれたら、怖いに決まっている。

 

「先ずは、邪魔な男を蹴散らすか」

「賛成!」

 

 三人がこちらに迫ってくる。このままでは、俺も彼女も酷い目に遭う。

 仕方ない。

 

――あの手で行くか

 

 俺は、制服の胸ポケットに手を伸ばす。

 

「「「……!」」」

 

 何か、凄いものを出すのかと警戒する不良達。俺はゆっくりと片側の一人の不良の方に向かう。

 

「なんだよ」

 

「十六夜君?」

 

「大丈夫。こんなこともあろうかと、準備はしてたんだ」

 

 彼女の手を取って、ゆっくりと近づく。後ろにも気を配りつつ。一人の方に近づき、胸ポケットから手を出す。その手にはピストル、型の水鉄砲。

 

「「「「は?」」」」

 

 全員が意味不明そうに、声を発した。俺は気にせず、水を発射。一人の不良の顔に当たる。

 

「馬鹿か!」

「水鉄砲って、子供かよ」

 

 二人はゲラゲラ笑っているが、

 

「あああああ!」

 

 水が当たった不良は顔を抑えてうずくまる。その様子に不良二人はギョッとする。

 

「え、どうして?」

 

 銀堂コハクも何が起こっているのか分からないようだ。ただの水鉄砲に入っている水に当たっただけなのに、何でこうなるのだろうか? 俺はすぐに彼女の手を取り走る。

 何が起こったのか、分からないままの銀堂コハクを連れてその場を後にした。

 

◆◆◆

 

 

「ああ~怖かった。マジで怖い」

 

 逃げた後、思わず声を出してしまった。不良に水鉄砲を向けて立ち向かうなんて、世界探しても俺くらいだろう。

 

「十六夜君」

「どうしたのですか?」

「あの、どうしてただの水鉄砲が?」

 

 彼女の疑問はもっともだろう。俺が持っているのは、ただの水鉄砲。

 しかし、中身は

 

「この水鉄砲。中の水は、唐辛子とか色んな物をブレンドした喰らうと結構ヤバい奴なんですよ」

「ええ!? どうして、そんな物持ち歩いてるんですか!?」

「不良に絡まれた時の奥の手として、持ち歩いてるんです」

 

 『ifストーリー』の対策の一つ。

”激辛水入り水鉄砲。”

 簡単に持ち歩けて、即効性と破壊力を併せ持つ物を模索した結果こうなった。因みに電動ガンも持ち歩いている。

 

「本当に変わってますね。そのおかげで助かったのでお礼を言いたいのですが……でも、このままだと貴方も目を付けられますよ?」

 

 

 彼女は心配そうに言葉を発した。確かに完全に、俺も目をつけられたが。一応……大丈夫だろう。

 

「多分、ダイジョブですかね?」

「聞いているのはこっちなのですが」

「まぁ大丈夫でしょう。取りあえず帰りましょう」

 

 俺は彼女と一緒に、先ほどとは別ルートで帰る。再び、前後左右を警戒して。

 

「あの、やっぱり、それ恥ずかしいのですが」

「耐えてください」

 

 念のため、あの不良が来るかもしれないから警戒しないと。俺が特別な力とかあればなんとかなるんだけどな……。

 

 何とか再び無事、彼女の自宅に着く。彼女はマンションの十階に住んでいる。

 だったはずだ。このマンションは凄く高い。三十階建てくらいだ。此処までくれば安心なので、マンションの前で俺は別れようとする。

 

「じゃあ、銀堂さん。また明日」

「……少し待ってください。」

「え?」

「お礼もしたいので、上がって行きませんか?」

「用事があるんじゃ……」

「先ほど私の携帯に連絡が来てキャンセルになりました」

 

 元々予定など無かったのだろうが、よくこんなNaturalに嘘をつけるとは流石だ。普通は見抜けないだろう。

 

 しかし、どうしよう。ここは行くべきか?

 女の子、しかもこんな美人の部屋に入るのはモブの俺にはきつくないだろうか?

 前世も彼女なんてできたことなかったし。

 

 止めておこう。挙動不審になって気まずくなるのがおちだ。

 

「えーと、今日は、その……」

 

 俺がやんわりと断ると彼女は少し上目遣いでこちらを見た。超かわいい顔が上目遣いを使うと可愛さの限界を超える。

 

「嫌、なんですか?」

「折角なので上がります!」

 

 

 勢いでお邪魔することになった。

 

 

 

「くつろいでください。今お茶入れますから」

「は、はい……」

 

 ピンク色が基本となっている部屋、いい匂いもして凄いドキドキする。陰キャの俺には、大分キツイ。取りあえずソファーに座る。

 

 彼女は紅茶を入れて持ってきてくれる。

 

「どうぞ、ロシアンティーです」

「ありがとうございます……」

 

 ロシアンティーとか俺なんかとは無縁だな。いつもココアとか子供っぽいのしか飲まないし。

 

 まぁ、折角なので一口。お、意外とうまい。

 

「美味しいですね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 彼女は笑顔で答えてくれた。やはり主人公と言う事もあり、素晴らしくかわいいな。何というかオーラが凄いというか、そんな感じ。彼女は俺の隣に座った。

 

「十六夜君。改めてありがとうございました」

「気にしないでください。勝手にやった事ですから」

 

 彼女は笑顔でお礼を言ってくれるが、本心はどう思っているのだろうか?怪しい、等と思っているのかもしれない。

 

 

「十六夜君は、どうして助けるんですか? 先ほども言いましたがあの不良達は貴方の顔を完全に覚えてしまったと思います。そうなればこれから酷い目に合うかもしれないんですよ?」

「まぁ、何とかなりますよ」

「……変な正義感を持つと、自身が傷つきますよ」

 

 彼女は過去のトラウマを思い出してしまうのだろう。今の俺が過去の自分と重なるのかもしれない。

 何かに向かって行く姿勢が。彼女と違い、俺はそんな大したことじゃない。銀堂コハクが酷い目に遭ってほしくないという気持ちもなくはないが、世界の未来を一番に考えているしな。

 

「お気になさらず」

「……そうですか」

 

 ロシアンティーを再び飲む。少し時間が経過し、俺と彼女の間は沈黙。なんか落ち着かない。

ロシアンティーを急いで飲み干した。

 

「そろそろ、帰ります」

 

 まだ来てから五分くらいしかたっていないが、気まずいので早く帰りたい。

 

「まだ五分しかたってませんよ。もう少しゆっくりしていってください」

「あ、はい」

 

 もう少ししたら帰ろう。

 

 

「十六夜君は、部活に入るつもりはありますか?」

「いえ、今のところは無いですね」

 

「お茶のおかわりありますよ」

「頂きます」

 

 他愛もない話をして、気づけば十分が経過していた。……全然経過してない。

 つまらなくはないが、気まずいから早く帰りたい。

 

 

「じゃあ、そろそろ」

 

俺は立ち上がり、帰るとアピールをする。さきほどから五分しかたっていないが帰ろう。

こんな美人と、一対一はキツイ。

 

「……そんなに、私と話すのはつまらないですか?」

「いや、そうじゃなくて、俺この後用事があって」

「……用事ですか」

「はい」

 

 彼女と同じ用事があるから帰ります手段を使う。今まで時間なんて気にする素振りもなく、散々一緒に行動して用事があるって白々しいにもほどあるが、彼女も用事なんて無いのにあるというのだから、別にいいだろう。

 

「まぁ、それなら仕方ありませんね。本当にあればの話ですが」

「ありますよ……そういうわけで」

 

 俺はジト目で見られ少し複雑な気持ちになるが急いで帰ろうとする。彼女も嘘だと分かってはいるが、自分もしてるので追及はできないだろう。彼女も、見送る為に席を立つ。ジト目が凄い。

 彼女は、俺を気にするあまり足がもつれてしまう。

 

「あっ」

 

 彼女が転びそうになったので咄嗟に支える。本来なら支えられるのだが、俺もいきなりなので上手く支えられず彼女に押し倒される形になる。手に何やら柔らかい感触が、これはいったい? 等と分からない俺ではない。

 顔を真っ赤にした彼女がこちらを見ている。ラブコメのような展開だ。

 

「あ、あ、ああああ!!!」

 

 その後思いっきり、正拳を顔面に喰らった。

 

「あの、何かすいません」

 

 俺は正座してソファーに座っている銀堂コハクに謝る。彼女は未だ顔を赤くして少しこちらを睨む。

 

「私が転んだのが悪いかもしれませんがだからって、どさくさに紛れて、その、大事な所を触るなんて最低です」

「あの、本当に誤解なんです」

「嘘です。あんな偶然あり得ません」

 

 彼女に先ほどから、弁解をしているのだが一向に信じてくれない。

 

「十六夜君。もしかして、貴方最初からこれが目的だったんじゃないんですか!?」

 

「そんなことないですよ」

「今考えれば、おかしかったんです。不良に昨日絡まれた時も、狙いすましたかのように出てきて、今日も貴方について行ったらまたあの不良に会うし。あの人たちと、グルなんじゃないですか!?」

「ち、違いますよ」

 

 彼女からの信用は一切なくなってしまった。元からあるかどうかは分からないが。

 マイナスになったのは分かった。

 

「どうでしょうね。貴方があの人たちを雇って、私にちょっかいを出すように命令した」

 

 探偵のように、彼女は俺の行動を推理していく。

 

「その後。私に取り入って、如何わしい行為に及ぼうとしたと考えれば全部納得できます。あの水鉄砲も本当は、ただの水が入っているんじゃないんですか?」

 

「いやいや、違いますよ! 本当に!」

 

 自身の体を抱きしめるのようにして、俺に疑惑の目を向ける。ここで信用を失うのは不味い。

 

「誤解を一つ一つ解きます! まずこの水鉄砲味わってみてください!」

 

 俺は懐から水鉄砲を出す。

 

「良いですよ。味わってあげます。ただし、もし辛くなかったら、その時点で警察に通報します」

「分かりました。では、口を開けてください」

 

 

 彼女は言われるがまま口を開けた。しかし、これ結構辛いが大丈夫だろうか?

 

「一応言っときますけど、本当に辛いですよ。俺も味見しながら作ったんですけどかなりヤバいですよ?」

「そういう演技はいいです。早く私の口に出してください」

 

 

 俺が不良の仲間と一芝居打ったと思っているのだろう。仕方ない証明の為には彼女の口の中に入れるしかない。

 

 ……なんか、いけない事をしている気分だがそんなことは一切ない。

 俺は、彼女の口に水鉄砲を放つだけなのだから。

 

 なんか、言葉が悪いな……。

 

 

「じゃあ、行きますよ」

「いつでもどうぞ」

 

 俺は彼女の口の中に、軽く水を放った。彼女は、水を舌で味わって。

 

――かあああああ!辛い!

 

 

「ゲホゲホッ。え?辛い! ゲホッ。のどが、熱い!」

 

 口元を抑え、せき込んでしまう。顔も再び赤くなる。大分辛いだろう。作った俺も良く知っている。

 

「水、水!」

 

 彼女は慌てて水道に向かって行く。

 

 よし! 誤解が少し解けたなと、素直に俺は喜べなかった。

 

 

 

 

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