いつも、感想。誤字報告ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
十二時まで女子校の前で待機していたが、校内の様子に変化はなく、手掛かりを掴めなかった。こうなったら伝承に詳しいという町長に行くしかないかな……。
近くに見覚えのある車が停まった。占い師が帰ってきたのだ。俺はドアを開け、用件だけを話す。
「すいません。ここしっかり監視しといてください」
「い、いきなりじゃな……」
「と言うわけでお願いします。もしなんかあれば連絡お願いします」
「う、うむ。テンポが速すぎぬか?」
よし。図書館に行って文献を見てみよう。それから町長を訪ねてみる。アポイントなしで会ってくれるだろうか。
◆◆◆
「ううっ、返って来ません……」
「まぁ、まだお昼だから……」
「で、でも遅くないですか? 三時間以上返事が来ないんですよ」
「そ、そう言うときもあるよ。スマホの充電がないのかもしれないよ。それとも水の中に落として壊れたりしたのかもよ」
「そうですよね! 何か訳があるんですよね!!」
「うん、そうだと思うよ。あ、ごめん私そろそろ委員会に行かないといけないから」
「私に付き合ってくれてありがとうございます。頑張ってください」
「うん。またね」
夏子さんはお昼休みを委員会の集まりに費やすようだ。今日私は誰と昼食を食べよう? 十六夜君も夏子さんもいない……。
そこで、教室の扉が開く。
「あっ、やっぱり十六夜いないんだ……」
「だから火蓮ちゃん言ったじゃん、今日は海に行ってるからいないって」
私が今一番嫌いな人ランキング第一位の火蓮先輩と萌黄先輩だ。二人とも十六夜君を探しに来たんだろうけど……ちょっと待って、海って何だろう?
「あの、萌黄先輩海ってどういうことですか?」
「え? ああ、何か彼は海にいるみたいだよ」
「それをどうして萌黄先輩が知ってるんですか?」
「ひぃ、ちょ、ちょっと怖くない?」
「そんなことないですよ? それよりキリキリ吐いてください」
「いや、ただ電話で聞いただけで……」
「何故? 電話番号を?」
「そうよ、萌黄キリキリ吐いて」
「ひぃ、二人してぇぇ!!」
「ここでは話しづらいですか? でしたら屋上に行きましょう」
「そうね、行くわよ」
「ちょ、なんでこういう時に限って協力するのさ!!」
私と火蓮先輩で彼女の腕をロックして屋上に連行した。彼女の事はあまり好ましくはないが、こういう時だけは何故か物凄く共感できる。
◆◆◆
何故か僕は二人に屋上に連れていかれた。この二人はいつもバチバチやり合っているのに偶に物凄くかみ合うときがある。僕は救われたのだから変だとは言わないんだけど……
「それで何故十六夜君の連絡先を?」
「そうよ、吐きなさい」
二人は静かに尋問を開始した。屋上で美女二人に挟まれるのは僕的には凄く嬉しいのだが……嬉しいはずなのだが……恐怖しか湧いてこない。空は爽やかな青のはずなのに黒い雲に覆われていると錯覚してしまう。
「あの、彼から渡してきて……」
「え? 十六夜君から?」
「どういうこと? いつの間にたぶらかしたの?」
「ち、違うよ。そ、その僕に気を遣ったんだと思う……困り事があったから彼が仕方なく僕に連絡先を言ったんだと思う……」
「本当ですかぁ?」
「体に聞かないといけないわね」
「ええ!?」
彼女達はいきなり僕を押し倒して馬乗りになった。そして、両腕をロック。
「ちょ、ちょっと急すぎない!?」
「脇くすぐりの刑に処します」
「ええ!? なんで!? 本当の事言ったのに!?」
「私より先に連絡先を貰っていたのが気に喰わないです」
「完全に八つ当たり!?」
「私は萌黄が嘘を言っている可能性を示唆して仕方なく脇をくすぐるわ」
「ええ!? 嘘なんてついてないよ!?」
「口では何とでもいえるんですよ」
「そうよ、そうよ」
二人は捕食者のように指を脇に近づける。嬉しいような怖いような……。
「それでは取りあえず十分耐久でいきますよ?」
「早めに本当の事を言う事ね」
二人の影が僕を覆った。
『ちょ、アヒ、いいいいい。あはっはは、や、やめて! くすぐったいからぁぁっぁ』
とりあえず十分耐久した……。
◆◆◆
「はぁ、はぁ、はぁ、ひ、酷いよ。はぁ、もう、じゅ、十分はやり過ぎ……おかしくなりそうだったよ……」
「すいません。萌黄先輩」
「悪かったわね」
「全然悪く思ってないね……」
二人は一切悪く思ってないようで、謝罪をしているが気持ちが込もっていないのはすぐに分かった。僕は今肩で息をしながら腰を下ろして呼吸を整えている。二人も楽な姿勢で座ってはいるが僕とは違い余裕の表情だ。
「あの、結構ガチできつかったんだからね? 最初はちょっと良い感じかなって思ったけど後半からはマジで変な気分だったんだから」
「申し訳ございません。全く、これっぽっちも気づきませんでした」
「悪かったわね。全然、微塵も気づかなかったわ」
「うそつき!! 絶対気付いてたでしょう!? 途中から二人とも楽しそうだったもんね!? 凄いニヤニヤしてたじゃん!!」
「ええ? そうですかぁ?」
「うーん? 私も分からないわねぇ?」
二人は首をかしげて互いにアイコンタクトしながらとぼける。
「ううっ、二人ともまだお風呂の事根に持ってるの?」
彼の家に泊ったとき僕は二人に対して結構物凄い事をした。コハクちゃんを好き勝手にして火蓮ちゃんを拘束した。まだそのことを根に持っているのだろうか?
「全然持ってませんよ」
「私も持ってないわ」
「そ、そう? いや、根に持ってなかったとしてもあれは酷いよ。限度があるよ……」
「ごめんなさい萌黄先輩。揚げパン奢りますから」
「悪かったわね。萌黄の悶える姿が可愛いかったからもっと見たくなっちゃったのよ」
「いや、絶対悪いと思ってないし、絶対根に持ってるでしょ!? ニヤニヤしてるし!?」
この二人絶対根に持ってる。
「まぁ、萌黄先輩が十六夜君をたぶらかしてなくて安心しました」
「そうね、良かったわ」
「それにしても何故十六夜君は海にいるのでしょうか?」
「十六夜の行動は私達には測れないから考えても仕方ない気がするけど……未だに連絡が返ってこないのよね」
「私もです」
急に二人の雰囲気が重くなった。なんだろう、情緒が不安定過ぎる……。
「ですが、私の親友の夏子さんが十六夜君は大丈夫と太鼓判を押してくれているので命に別状はなくピンピンしてると思います」
「なんでそんなことわかるの?」
「夏子さんの勘は物凄く当たるんです。百発百中、外れたことはないんです」
「何それ? 超能力?」
「本人は勘としか言っていませんがどうなんですかね?」
「まぁ、どうでもいいか。命に別条がなくてぴんぴんしてるなら。それより問題は何で私達に返信をしないのかってことよ」
「萌黄先輩だけ事情を知っていたということは先輩にだけ返信をしたということです。まぁ、時間が合わなかったということもありえますが……」
「どうなのかしら? 本人に聞きたい所ね……」
「ええ……面と向かって直接……」
「そうね……帰ってきたらまた十六夜の家に集まりましょう?」
「それは良いですね……」
「「フフフフ」」
いやいやいやいや。怖い怖い怖い怖い。何なのこの二人? 可愛くて僕は大好きなんだけど偶に本当に怖い。
で、でもこれって僕が電話したからややこしくなってるのかな……
いや、僕のせいじゃないな、うん。
はぁ、今日はいい天気だな~。僕は青い空を見渡した。澄んで気持ちのいい空のはずなのに遠くに雷雲が見えた気がした。
◆◆◆
時刻十二時十二分。図書館に到着した。ありふれた内装ではあるが設備はまだ新しくて綺麗だ。目的の本を探し出すのに時間がかかりそうだったので司書に尋ねることにした。
「あのー」
「なんでしょうか?」
返却された本を本棚に戻している女性職員に話しかける。彼女は眼鏡を掛けており知的な印象を抱かせた。
「この町の伝承とか伝説とかの本ってあります? 特に”夢喰い”って言う妖怪? 怪異? その辺は良く分からないのですが……」
「ああー、見たことはありますが……何処だっけな……少々お待ちください」
「はい、わざわざありがとうございます」
心当たりがあるようだった。高校前で話した年配の女性によると、夢食いへの関心が薄れているとのことだったので、すぐに文献に行き着けるのは幸いだ。数分後、職員は一冊の古書を持ってきてくれた。物凄い年季が入っているな……。
「こちらですね。大分傷んでいるので扱いは十分気を付けてください」
「はい、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。仕事ですので」
彼女は笑顔でそう言ってくれた。良く出来てるな。本を受け取ると座れる場所を探す。館内には年配の方が少しいるだけだった。平日の昼飯時という理由もある。
さて、早速机の上に本を広げる。古い……かすれて読めないところもあるぞ……。
ええっと……
『嘗てこの土地に妖怪あり。夢を喰らい、人の精神を喰らい、魂を喰らう。数多の人々が身を残して死に至った……滅亡しかけたこの土地を救ったのは一人の陰陽師。封印を施しこの土地を救った。その功績をたたえ後世に伝えるべくこの土地にて催しを毎年行う……』
うむ、うむ、ほほーー。この本……くっっっっっそどうでもいいな。
肝心なことが書かれていない。俺はどうすればこの妖怪に勝てるのかを知りたいだけで、祭りの由来を調べているわけではない。大筋はあのおばあさんからすでに聞いていたし、それに俺は伝承とか興味ない。
どこにも対策が載っていない。クソ。無駄足だな!!
はぁー、しょうがない。急いで町長の所に行くか。
「おや、やっぱりここに来てたんだね」
「あ、どうも」
先程のサンバイザーを被ったおばあさんだ。腰が全然曲がっていない姿勢の良さ。健康の証だな。
「どうだい? 望みの情報はあったかい?」
「いえ、ありませんでした。俺は”夢喰い”の倒し方を知りたいのですがこの本には載っていなかったですね」
「そうかい、だったら町長の所に行くんだね?」
「はい」
「だったら饅頭を持っていきな。あの町長は気難しいが手土産を持っていけば一発さ。いつも老人会じゃ気難しさが目立ってるんだよ。水泳教室の時もみんなして気を遣ってね。だから素早く話を聞きたいなら手土産は必須だよ」
「なるほど、ありがとうございます。それでは……」
「ちょっと待ちな」
「はい?」
色々教えてもらったのに愛想よく対応できず気が引けるが、俺には時間はあまりない。下校時刻までに情報を集めておきたかった。急いで町長の所に行きたい……。
「”夢喰い”の倒し方が知りたいんだったね?」
「ええ、まぁ……」
「絶対とは言えないがね。目には目を歯には歯をと言う言葉がある。もしかしたら夢喰いに対抗するには『夢』かもしれないね」
「?? どういうことですか?」
「ほほほほ、私にも良く分からないね。なんとなくそんな気がするというだけだよ」
「そ、そうですか。すみません。俺急ぐので」
「ああ、すまないね。止めてしまって」
「いえ、謝る必要はないですよ。ありがとうございました。助かります」
俺は急いで館内を走った。そしたらスリッパを履いていたため足がもつれて転んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい、先を急ぐので」
先程の職員が俺を心配してくれる。クソ、少し血が出てるな。転ぶなんて俺も疲れがたまっているのかもしれない。
「……大分お疲れの様ですね」
「ええ? そうなんですかね?」
「はい、あまり無理をなさらぬように」
「ありがとうございます。失礼します」
忠告を聞かずダッシュでその場を後にする。
「館内は走らないようにお願いします」
「あ、はい」
――俺は早歩きに切り替えた。
初対面の人に疲れを見抜かれるなんて、自覚はなかったが疲れた顔をしているのかもしれない。
まぁ、片海アオイさえ救えれば俺がいなくても「魔装少女」の物語は良い方向に進む。頑張ろう。
ああ、でも全部終わったら今まで頑張った分、そしてずっと気を張ってた分が一気にきそうだな……。
俺は饅頭屋に向かって走った。
◆◆◆
「すいません。饅頭ください!」
「おお、いらっしゃい。見ない顔だな」
元気の良さそうな店主さん。話してる余裕はない。
「一体どこか……」
「これください!!」
「ああ、わ、分かった」
「はい、一万で足りますよね!!??」
「え、あ、うん、そうだな……」
「釣りはいらねぇぜ!!」
「おお、毎度あり……」
俺はそこからダッシュで町の役場に向かった。現時刻は一時四十二分。学校が終わるのは大体三時だから急がないと……。
図書館で大分時間を使ってしまった。急いで町長さんの所に向かわないと……。
俺はこの町を再び駆け抜ける。今度こそ実用的で間違いない情報が手に入るといいんだが……。
俺は不安と微かな希望を胸に抱いた。