今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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五十二話 観光

 彼女の住んでいる一軒家の前で俺は待機していた。この大きい家にほぼ一人暮らしか……彼女の両親は夜には帰ってくるが家に誰もいないは寂しいよな。俺も偶に家が物凄く広く感じる時がある。

 

「お待た」

「全然待ってないです」

 

 先ほどまで彼女は女子高の制服姿だったが、水色のパーカーに動きやすそうな黒のレディースパンツといったラフな装いで家から出てきた。

 

 いやー、映えるな。世界に拡散したい……。

 

 俺がまじまじと見ていると、彼女は少し身を引いた。

 

「え? 何?」

「あ、いや、何でも無いです。それより案内お願いします」

「ああ、うん」

 

 いやー、クール系美女っていいなー。カッコ可愛いなー。

 

 俺は彼女のボディーガードのように横に陣取り、あらゆる方向に気を配りながら歩く。

 

「新手のギャグ? それ? あーしに突っ込んでほしいの?」

「すみません、癖なんです」

「いや、どんな癖? 目つき悪い女とそれを庇うように周りを常に警戒する男って怪しさベリーマックスなんだけど? さっきから通り過ぎる子供たちの目線がつき刺さってヤバいんだけど?」

「これ……ばっかりは……」

「……はぁー、ほどほどにして。じゃないとここで観光案内終わり」

「はい、ほどほどにします」

 

 その後、彼女に五回止められるよう注意されたが、六回目からは何も言わなくなった。

 

◆◆◆

 

 町並みは、都会と田舎どちらに近いかと言われたら田舎に近い。スーパーマーケットやコンビニが数店あり、商店街には店が立ち並び活気に溢れてこそいるが、遠くを眺めると必ず自然が目に入る。

 

「この町は荒事とか起きないからそんな警戒しなくてもいいんだけど……って言っても無意味か」

「はい」

「はいって……メンタル強いね、アンタ」

「いやー、それほどでも」

「マジで強いね。ちょっと尊敬するわ」

 

 彼女の言う通り、確かに平穏そのものという印象を受ける。なんと言うか、町全体に吹く風の心地よさとか……風の違いなんて本当は分からないが、なんとなくそんな感じがする。

 

 偶にすれ違う住人は老若男女問わず優しそうなオーラをしている。オーラなんて本当は見えないのだが何となくそんな気がする……この町で陰惨な事件が起こるなんて考えにくい。

 

「ここが海鮮市場。新鮮な魚を大声で売るとこ」

「いやー、賑わってますね」

「お土産も充実してるからね。この町の人だけじゃなく外から来た人も良く使うから」

「ほぇー。ちなみにですが、この市場にいきなり魚ではなく人間を解体するような狂人はいたりします?」

「いない。その発想するアンタがヤバいと思う」

「この市場はよく使いますか?」

「結構メンタルに響くような事言っちゃったんだけど……ダイヤかよ……使わない」

「そうですか……」

「次行くよ」

「おけです」

 

 ここには気にかかることは特にないな。テレビに映る魚市場のイメージそのものだ。彼女はここを利用しないらしいから、優先して探索する必要もないだろう。放置でいいか。

 

「そう言えばアンタの名前聞いてなかった。あーしは片海(かたうみ)アオイ」

「俺は黒田十六夜です。よろしくお願いします」

「よろ。それじゃ行こうか」

「よろです」

「……」

「?」

「からかってる?」

「いえ、全然そんなことないです」

「そ」

「そです」

「……」

 

 彼女の歩みが少し速くなった。

 

◆◆◆

 

 

 次は、この町の最大の特徴である綺麗な海。

 

「ここが見てわかるように海と人気の砂浜」

「なるほど」

 

 砂浜にはエンジョイ勢のリア充達が多くいた。カップルが追い駆けっこしていたり、小学生達が砂でお城を作っていたり、サーファー達が海に挑んでいたり。

 

「この海には怪しい人は……」

「いない」

「そうですか」

「何でそんなことばっか気にすんの?」

「癖で……これ……ばっかりは……」

「……深くは聞かないでおく」

「それより、この町の都市伝説と言うか伝承とか聞いた事あります?」

「え? あー、何か聞いたことあるような……」

「どんな感じですか?」

「えっと、この町何個か伝承あるらしいけど幽霊が心優しい人間を助けるってやつなら聞いたことある」

「初耳です」

 

 そ、そんな伝承が? こ、これはバッドエンド関係なのか? でも、助けるって言うから大丈夫なのか? と言うかこの町伝承多くね?

 

 詳しく聞いてみよう。

 

「でも、助けるって言っても対価が必要らしい」

「対価ですか……優しい人は無償で助けて欲しいのですが……」

「いくら幽霊でもリターンが欲しいんじゃない? 親切には裏があったりするものだし」

「そ、そうですか……」

「昔は髪の毛とか片目とか取られたって場合もある」

「ええ? 優しい人めっちゃ損してません?」

「所詮伝承だから気にすることはないと思うけどね……」

 

 彼女の表情が少しだけ強張った。心霊が苦手な彼女に聞くのはどうかと思ったが今回は我慢してもらおう。幽霊が人助け……ええ……マジかよ。あんまり心霊系は来るなよ。

 

「まだ、見ていく?」

「もう大丈夫です」

「それじゃ、次行こうか」

「おけです」

 

 

◆◆◆

 

 

 次に彼女と向かった先には何百段と続く階段があった。この上にあるのは神社か何かか?

 

「この先には何かあるんですか?」

「神社っぽい何か。でも古いし小さい。それより上からの景色がいい」

「……何か悪霊がいたりとか……」

「ないよ、あーしずっと此処に通ってるから」

 

 彼女は軽くステップを踏むようにテンポよく登って行く。彼女の背を追っていると、ポケットに振動を感じた。……着信でもあったか? しかし、ポケットに入れた手に触れたのは、スマホではなくビー玉だった。確かに振動している。

 

「此処はやめときましょう」

「え? 景色が絶景であーしの推しなんだけど?」

「ここには悪霊的な存在がいそうです」

「何で分かんの?」

「とある人から貰ったこの悪しき者に反応するビー玉が……」

 

 翡翠色のビー玉が小刻みに震えていることを彼女に確認してもらう。彼女は興味深そうに眺めると、それならと踵を返す。

 

「へぇー、あーしは幽霊とか怖くもないし信じないけどアンタがそういうならここはパスしとく」

「そうしてください」

 

 彼女は早めのテンポで階段を下りる。大分怖がってるな……。それにしても、この神社調べた方が良いかもな。

 

 そのまま色んな所を案内してもらい、彼女を家に送って今日は解散となった。

 

 

◆◆◆

 

 

 今日もいつも通り学校では怖がられた。皆あーしを怖がって避ける。目が怖いって、ひそひそ言っているのも聞こえる。

 

 その帰り道、人に吠えまくることで有名な犬を見かけたとき、同じ年ぐらいの男の子と出会った。

 そいつはあーしを怖がらなかった。……あーしの目を真っすぐ見てくれた。…………久しぶりに同年代と話した。あーしの尖った言い方を気にしているような感じもない……。オカルトの話はあんまりしないでほしいけど……。

 

 奇抜な言動が目立つ変わった奴だけど、一緒に過ごした時間は案外有意義だったかもね……。

 

 ◆◆◆

 

『台風が海原町付近を直撃する恐れが……』

 

 この町の情報を流すラジオ放送を車内で聞き流しながら、気になった事をメモをしていく。

 

 

「それでどうじゃった? 大海の青との交流は?」

「楽しかったですよ。本当ならもっと楽しかったのでしょうが」

「我の方が色々伝承について調べたが大した情報は無かったぞ。怪しい人物もなしじゃ」

 

 現在、占い師と二人で彼女の家の前に停めた車の中にいる。貰ったビー玉を車のメーターの上に置いて、それを時々確認しつつ彼女の家の様子を伺っている。

 

「そのビー玉本当に使えるのか?」

「多分、マジ物です」

「ほう、こんなビー玉がの」

「このビー玉が震えたらヤバい証拠です。何かが近づいてるという感じだと思います」

「そうか、では一旦我が夕食やらなんやらを買ってくる」

「はい、お願いします」

 

 彼女と交代で監視や買い出しを行っている。深夜も時間交代で監視を行う予定だ。あの人滅茶苦茶良い人じゃないか? 全部終わったら高級ハムとかスイートポテトとか謝礼を送ろう。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 翌日。午前七時。占い師さんが隣で爆睡している。

 

 我が母、そして火原火蓮の母である火原孤火奈もそうだけど、この人も結構お年を召していらっしゃる割に見た目が若いんだよね。年齢と見た目が噛み合わないってのは二次元あるあるだけど、実際に見ると戸惑うこともしばしばある。

 

 夜十二時から三時まで占い師が監視し、それから俺に交代して今まで見張り続けた。今日は彼女の登校について行く。観光してたら偶々見つけたとか言い訳して無理やり合流しよう。

 

 ……彼女、女子高……か……視線がきつそうだな……。ま、まぁ今回だけだし。頑張ろう!!

 

――女子高生の物凄いひそひそ話に晒され、さらに片海アオイに軽くキレられたが、何とか無事彼女を学校まで送り届けることができた。

 

――彼女には申し訳ないが、この短い期間だけは耐えてもらわなければならない……。

 

――放課後、謝ろう。

 

 

◆◆◆

 

 

 町長から陰陽師の住所を聞いていたため、彼を探し回る必要はなかった。手土産であるサバの味噌煮は昨日の内にスーパーで購入済みだ。

 

 俺はサバの味噌煮を持って陰陽師の住まいを訪れていた。日陰が沢山あって涼しくて眠りやすく住みやすそうな場所だ。ちょっと肌寒い感じもするが……これくらい普通か。

 しかし家は古そうだな……ギリ人が住めそうな感じはするがゴキブリとか出そうで嫌だな。

 インターホンすらない。鐘があるのでそれを鳴らす。

 

「ごめんください」

 

 声を響かせると中から足音が聞こえてきた。同時にギィギィと木の床が軋む。たったそれだけで、このあばら屋の住人が住居に対してひどく無頓着なのが分かる。古い扉が開いて中から怪しげな男の人が出てきた。髪は長くぼさぼさで、隈に縁取られた目は死人のようだ。

 

 浮浪者と見紛う怪人だが、この人物が陰陽師ということらしい。聞くことを聞いたらさっさと片海アオイの女子校に戻りたい。

 

「シュヒヒヒ、君が夢喰いを気にしているという若者だね、ししシッシし」

 

 ”笑い方の癖”が特徴的すぎる。とりあえずそれは置いておこう。町長が話を通してくれたようで助かる。

 

「あ、これサバの味噌煮です。お好きと聞いたのでスーパーで買ったものですが……」

「ヂュルフウフフ、ありがとう私はサバの味噌煮に目が無くてね。ただ私の場合買い物に行くとこんななりだから色々ね……」

「そうですか」

 

 彼は怪しさを自覚して買い物客に遠慮しているようだ。それより見た目を直した方がいいと思うが、そう簡単に人は変われないのだろう。

 

「それより、夢喰いの事を……」

「べろろろろ、そうだね。ぴゅるるる。夢喰いにあったときの対策を聞きたいんだね?」

「はい、と言うよりもし出てきたら貴方に封印してほしいのですが」

「スルルル、それは無理だね。時代が進むごとに陰陽師全体、と言うより霊的な関係者全員の力はなくなってしまったんだ。イフフフ、妖怪も現代になるにつれて出てきにくくなって退治の必要がなくなったことが原因だね。私も力はもう一切持っていないんんだ」

「マジかぁ……」

「ただ、陰陽術だけが有効手段じゃないんだ、キュルルル。夢喰いは夢の中に入り込むというより自分で作りだした夢の中に引きこんでその中で精神を蝕む感じなんんだ、ペレレれ」

「……」

「夢喰いの作り出す夢の世界はもう何でもありの異世界と言ってもいい。想像したことがダイレクトでその世界では反映する。それがリアルで鮮明なイメージなら尚更効果ありなんだよ。クククク」

「つまり襲われたらその世界内で想像をして夢喰いを乗り切れって事ですか?」

「うーん、まぁ、そうなんだけどそう簡単にも行かないんだよね。まず、昔にこの土地で被害が拡大したのはその世界に引き込まれても誰もその世界で好き勝手しようなんて思わなかったんだよ。”夢の世界”なんて引き込まれたことすら分からない位その世界は良くできている。そして夢喰いは先ず相手を殺す。そうすることでそのイメージが焼き付いて何もできなくなる。恐怖に支配されるわけだね。そしてそこからさまざまな拷問やら何やらをしてその世界から精神を開放し食べて終わり……スルルルる」

 

 そんな能力の敵を物語に登場させたら、どんな演出でも矛盾なく行えてしまう。この妖怪がバッドエンドの黒幕だとすると平穏な町でも凄惨な出来事が起こりうるわけだ。

 

 

「君が言った想像力で乗り切るっていう選択肢は間違ってはいない。陰陽師もまずは夢の中で夢喰いと戦ってその世界から外に逃がれ封印した。ただね夢喰いは想像力が凄いんだ。龍、鬼、大入道などの妖怪を多々作り出せる。昔、陰陽師が外の世界に追い出せたのもそれまで異形と戦ってきた経験があるからイメージがしやすかったということなんだ。プルルルル」

「……なるほど。夢の世界は想像力が全て……」

「夢喰いはその世界で負けそうになると外の世界に逃げるよ。そこを陰陽師は見逃さず封印したわけだけど……」

「夢の世界で不利になると逃げる……」

「おお? 何か思いつきそうな顔をしているね?」

 

 もしかしたらこの方法なら……行けるかもしれない……夢の世界では相手もダメージを負うという前提だが。

 いや、ダメージが入るから不利になると逃げるんだ。だとすると……

 

「一応確認しますが”夢の世界”では夢喰いにも影響はありますか?」

「勿論さ、そうでなければ逃げたりしない」

「成程……」

「もしかしなくても何か対策が浮かんだね?」

「ええ、百パーセントと言えないところが嫌ですが……」

「いやいや、ビックリだね、テラテラテラ」

「その夢喰いが封印されている場所ってあっち方面の沢山階段を登った所ですか?」

 

 昨日片海アオイと行ったが階段の途中で引き返した場所を指す。あそこでビー玉が反応したのだ。

 

「イエス! その通り! あそこに封印してあるよ。大分古くなってるけど」

「あそこから出てくる可能性はどれくらいですか?」

「今の所、確率は高いよ。小さい神社と言うより祠か。木で出来ている古いやつだけど効力が薄まってきてる」

「出てこないのが一番なので封印とかしたいのですがどうすればいいですかね?」

「そればっかりはね……」

 

 野放しの妖怪より封印された状態を相手にした方が楽なはずだ。少なくとも、仕掛けるタイミングはこちらが選べる。

 

「俺一応お札とか買って持ってるんですが」

 

 俺は常備していたお札を見せる。通販サイトのキャッチコピーによると、魔除けと封印の効力を併せ持つ。

 

「これパチモンだね。今力がない私でも分かるパチモンだ」

「クッソ、★ゼロにして最悪なレビューにしてやる」

「全ての物事は上手くいかないさ」

「他に殺す方法はあります? 夢喰い」

「うーん、無いね」

「そうですか」

「悪いね」

「いえ、貴重なお話が聞けました。ありがとうございます」

「いやいや、僕も久しぶりに人と話せて楽しかったよ。フェラララ」

「その笑い方だけは止めた方がいいですね。それでは失礼します」

「バーイ、少年」

 

 陰陽師の家を辞する。奇妙な笑い方をする怪人だったが、彼から得た情報は有用だ。片海アオイの女子校へ足を向けると……

 

「ほほほ、陰陽師には会えたみたいだね」

「あ、どうも……」

 

 このおばあさん、いくら何でも遭遇しすぎじゃないか? このおばあさんが現れるときだけ肌寒いような……気のせいか……? 

 

「それじゃあ、後は任せたよ。ほほほ」

「……はい」

 

 おばあさんはスタスタと腰を一切曲げず去って行った。悪い人ではない感じがするが、本当に人か? なんかおかしくね? 呼び止めようと思ったが気付いたら消えていた。

 ビー玉が反応しなかったから悪しき者ではないということは分かるが、あの人も警戒するべきかもしれない……。

 

 そんなことを考えながら、

 

 ――俺は女子校に向かって走った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 放課後に昇降口で靴を履き替えていると彼女が呟いた。元気がなく雰囲気が重い。

 彼に送ったメールの返信があまりに遅すぎる。丸一日放置されるのはおかしいと思い始めているようだ。

 最初は十六夜を問い詰めてやるって息巻いていたのだが、なんだかんだメールの返信はすぐに来ると思っていたようで、一日無視はかなり彼女に堪えたようだ。

 

 

「結局、返信来ないんだけど。一日過ぎた放課後なんだけど」

「ほ、ほら多分携帯を海に落っことしているんだよ……砂浜で遊んでたらなくしたのかも」

「そう? 何か……忘れられてない?」

「……そ、そんなことないよ!」

 

 火蓮ちゃんは携帯を見て目を細めた。彼女には色々フォローを入れて誤魔化しているけど、そこに気が付いてしまったかぁ……絶対不機嫌になるからそれだけは勘弁だったんだけど……。

 

 きっと彼は忘れてるんだろうなぁ……ちょっとどうかと思うけど……。

 彼女もメールの返信がない理由を電話で聞くことは流石にないようだ。メールの返信をしないからって電話するのは何か重い奴みたいに思われるからね……。

 

 これきっとコハクちゃんもそろそろ気付いて不機嫌になってそう。二人のフォローしないといけないのかな? あっ! でもコハクちゃんの場合は夏子ちゃんっていう同じクラスの気の利きそうな子もいるし大丈夫だよね!?

 

 だったら火蓮ちゃんを僕が……

 

 本当なら彼が気遣うべきことだよね? 彼の事が二人は好きでそれで悩んでるんだから。はぁ~、二人は大好きだけどこういう時の二人ってあんまり関わりたくないんだよなぁ。怖いんだもん。そしてなんというか近寄りがたい。

 できれば今日は帰りたい。でも前に助けて貰ったから元気出してほしい。ここは僕が一肌脱ごう!!

 

「火蓮ちゃん。この後カフェいかない?」

「行かない。そんな気分じゃない」

「まぁまぁ、何か食べれば気持ちがすっきりするかもよ。ね? せっかくだから?」

「……そこまで言うなら……」

「よし、それじゃあ行こ……っ!」

 

 うわぁー、外に歩き出そうとすると物凄い負のオーラを出した銀色の少女が……ええ? 夏子さんは?

 

「あ、あのコハクちゃん?」

「ブツブツぶつぶつ」

 

 ああ、これは聞こえてないね。うん。もう少し大きい声で言わないとダメかな?

 

「コハクちゃん!!」

 

 さらに後ろから肩を掴んだ。彼女は流石に気付いたようで、こちらに顔を向けた。昼休みのノリノリで楽しそうな感じは何処に行ったのか、彼女の顔には影が差し込んでいた。

 

「どうも」

「こ、この後暇かな?」

「ええ、暇ですよ……」

「だ、だったらカフェいかない?」

「いえ、今日はいいです。私は家で無気力に引きこもってますよ……どうせ私ちょっと顔が良いだけですぐに忘れられる放置少女ですから……」

「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな? あのさ、元気ないみたいだし元気出すためにもパフェとか食べに行こうよ」

「どうせ、私なんかに食べられてもパフェが悲しむだけですよ……」

「いやいやパフェは悲しまないと思うよ……」

 

 物凄くネガティブになってしまっている。さっきから腕を絡ませてなんとかここまで運んでいる火蓮ちゃんも元気ない。コハクちゃんも元気ない。

 地獄だ。この絵面は地獄だ。

 

 これ以上見たくないよ。コハクちゃんも無理やり連れて行こう!!

 

「ひ、暇なら僕についてきてもらうよ」

「……」

 

 人形の様な彼女の腕を抱き寄せて無理やりカフェに向かって歩き出す。両手に美女とは僕にとってご褒美なのに……気まずい。こういうの最近多いような……。

 

 

 力なき彼女達と歩き続け、以前四人で一緒に来た喫茶店に到着した。ここのスイーツ、飲み物は凄い美味しいらしい。ネットのレビューによると、元気がないときに此処に来ると元気になるとのこと。それにあやかりに来たのだ。

 お店のドアを開けると前に接客してくれた女性店員が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませー。ってあら、また来てくれたのね?」

「はい、三人でお願いします」

「あれ、前は……ああ、そういう事。それじゃあお好きなお席にどうぞ」

 

 この人物凄い気が利くな。彼がいないのと二人の酷い顔を見て、ある程度事情を把握したみたい。見事過ぎる神対応。僕は店員さんに言われた通り、向かい合う席に場所を決めた。

 

 二人を並ばせて反対側に僕が座る。二人の顔は未だに暗い。

 

「ほらほら、食べて。今日は僕の奢りだよ?」

「食べる気しない」

「私もです」

「でもでもこういう時だから食べて元気いっぱいにしないと!」

「それじゃあ、たこ焼きで……」

「綿あめにします……」

「そんなへそを曲げないでメニューから選んで。ね?」

 

 二人はメニューすら見ずに適当に口にした。ああ、どうすればいいんだろう? そこへ女店員さんがお冷を持ってきた。

 

「お冷になります」

「ありがとうございます」

「「……」」

「何か元気がないようですがよろしければ事情をお聞かせ願いませんか?」

 

 店員さんが心配をして声をかけてくれる。声色は優しさに溢れておりつい相談したくなってしまう衝動にかられそうだ。二人はつい気を許してぽつりと口にした。

 

「メールの返信が……遅いんです……もしかしたら私を嫌いになったのかも」

「私が送ってからもう丸一日経ってるんです……私に興味が無くなったのかと心配になってしまって……」

 

 ズううんと重力が重くなりこのまま押し潰されるかと思いきや!!

 

「ふむ、そのメールの相手は以前一緒に来た彼ですね?」

「「はい……」」

「彼は貴方達に好印象を抱いているように見えたのですが……もしかしたら貴方達を釣っているのかもしれませんね?」

「「どういうことですか?」」

「今、メールが帰ってこなくてモヤモヤして彼が気になっていますね?」

「「はい」」

「それが彼の狙いなのかも。貴方たち二人をモヤモヤさせて自分を意識させようとしてるのかも」

「「!!!」」

 

 きゅ、急に重力が軽くなった……店員さんが凄いのか二人がチョロいのか良く分からないけど……。

 

「今、二人はどう? 彼の事で頭がいっぱいじゃない?」

「た、確かに」

「そうです、いっぱいです」

「それが狙いじゃないかな。でも彼もこういうのに慣れていないから返信時間を計りかねているんじゃないかな? 私なりの推測ですけど」

「そ、そうだったんだ……まぁ、それなら仕方ないわよね」

「十六夜君、テクニシャンです……」

 

 嘘も方便とはこういう時に使うのかな? 偶には嘘も巧みに使わないとだめってお母さんも言ってたな……。

 

「それでご注文は?」

「あ、私はナポリタングラタンとハンバーグステーキで」

「私はチョコパフェとイチゴパフェとバナナパフェと宇治抹茶パフェで」

「僕はココアでお願いします」

「はーい、少々お待ちをー」

 

 店員さんはサラッと注文をメモすると厨房に戻って行った。商売上手と言うのかもしれない。あの人に上手く丸め込まれて二人は……

 

「もう、十六夜君ったら私にアピールしたいなら直接言ってくれればいいのに。そしたら私は……キャッ。私ったら何をはしたないことを……でも、良いかも」

「もう、十六夜の男版ツンデレ」

 

 二人は頬に手を当てて体をくねくねしている。と言うか二人めっちゃ食べない!? 急にお腹が空いたのかな?

 

 

 料理が届くと二人はバクバク食べ進めた。

 

「ハムハム、ごっくん。美味しいぃ」

「はーむ。うーん、アイスが冷た~い、そして甘くて美味し~いですぅ」

 

 幸せそうで何よりだけど、お会計がかなり高くなりそう。この日だけで僕は九千円ほど使った。二人が美味しそうに食べてたからいいけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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