今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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五十四話 最恐

 三日目の夜。車に乗り牛乳でアンパンを流し込みながら片海アオイの家を監視していると占い師が唐突に奇声を上げ始めた。

 

「おおおおおお、来た来た来た!!!! 凄いの来た!!!!!」

「つ、ついに占いが?」

「そうじゃ……ああ、今回は……うむ。悪霊が目覚めそれが青を飲み込む。本当なら悪霊をもうちょっと封印できたらしいが台風によって神社が壊れそれによって陰陽師の封印が解けるらしい。封印が解けてから大海の青が死ぬまで全て一日の出来事じゃ!!」

「ナイスです!! めっちゃ役に立ちます!!」

「まぁの!! ハハハ!!!」

 

 やっぱり悪霊系だったか。だとするならばやるべきことは決まっているな。神社に出向き”夢喰い”をぼこぼこにするという行為だ。台風が来るのは天気予報では明後日の出来事。だとするなら決着をつけるなら今日にすべきか?

 

「この悪霊、夢喰いは大海の青に前から目を付けていたらしいの」

「……なるほど」

 

 彼女はあの怪しい神社から景色を眺めていた。そして夢喰いは女子の魂が好きな変態だからか。

 封印されていても外の景色は見えるのか……まぁ、あるあるな感じはするが……ありふれた設定のために化け物に目をつけられるとは、彼女にとっては大迷惑だな。

 

「それでどうするのじゃ? 今日にするのも有りじゃが……」

「今日にしますか……」

「いや、明日にするべきじゃ」

「なぜ?」

「お主は大分疲弊しておる。今日はしっかりと休み明日に全力をかける方が良いじゃろう。リラックスをしとけ」

「そうですね。全力を尽くすなら明日ですね……」

「今日はお主は寝ろ。万が一に備えて我が深夜全てを監視してやる。それなら心配事もないじゃろう」

「そうですか……ありがとうございます」

 

 完全に疲れをとって明日に賭ける……。目を閉じると俺は……すぐに……。

 

◆◆◆

 

 四日目。俺はスッキリと目覚めることができた。

 

「起きたか……」

「ありがとうございます。行ってきます」

「うむ……任せるぞ」

「はい」

 

 よほど疲れが溜まっていたようで、彼女はプツンと糸が切れたように寝息を吐き始めた。現時刻は七時三十分。車から出て歩き始めると後ろから肩をとんと叩かれた。

 

「おはようございます」

「おはよう。散歩してんの?」

「まぁ、そんなところですね」

「ふーん、今日は付きまとわないんだ」

「流石に三日連続で朝付きまとうのはダメかなって」

「一日も二日もダメだけどね」

「アハハ、そうですよね」

「? 何かあった?」

「別にないですよ。それより祭りがそろそろ始まりますね」

「……三日後だね、でも台風で準備できるか分からないからもっと先の可能性もあるって」

「へぇー」

 

 

 そこからある程度彼女と歩き途中の分かれ道で別れる。彼女は学校に俺は神社っぽい封印場所に。

 

「それじゃ、俺はこっちですから」

「そ。……放課後どうする? また案内する?」

「ああー、どうしましょう……いや、ぜひお願いします」

「おけ。それじゃ」

 

 彼女は軽く手を振るとすたすた歩いて行った。俺が生きて帰ってきたら彼女には観光案内をしてほしい。安心して彼女が観光案内を味わえるならそれはとんでもないご褒美だ。これを心の支えにしよう……。

 

 

◆◆◆

 

 天高くと言う程ではないが、そこそこ長い階段を登る。百段、二百段、三百段と上がると、そこには小さい神社っぽい祠があった。

 周りには大きく立派な樹木が生い茂り僅かに太陽の光を遮断する。祠を調べると古い扉に三枚のお札が貼られているのが分かった。少し不気味さを感じポケットに手を入れるとビー玉が揺れていた。

 

 扉に貼ってあるこれが封印のお札? これを剥がせば夢喰いが出てくるのだろうか? おそらくそうなんだろうが……心を落ち着けていると

 

「ほほほ、封印を解くつもりかい?」

 

 後ろからいつものおばあさんの声がする。いつも唐突に現れるな。絶対人間ではない。が、悪い存在でもないだろう。後ろを振り返らず俺は聞いた。

 

「ええ、前から気になっていましたが貴方は幽霊的なあれですか?」

「ほほほ、どうかね」

「色々助けてもらってありがとうございました。対価が要りますか?」

「私はね、この町の子供たちの笑顔が好きなんだ。それを見られなくなるのが嫌なだけなんだよ。それがずっと見れれば後は何もいらないさ」

「……そうですか」

「ほほほ、後は頼んだよ。私にはどうしても敵わない存在だからね」

 

 声がしなくなり後ろを振り返ると誰もいなかった。声が聞こえたのは幻聴だったと思ってしまうほど、この場は静けさに支配されていた。

 

 さてと、ぶっ飛ばすか。

 

 お札を三枚引きちぎると、古びた祠が揺れ始めた。そしてゆっくりと扉が開く。祠の中には腐った肉のような茶色の像が収められていた。大きさは全長一メートル。思ったよりは小さい。

 

「グハハッは。遂に出てこれたぞ!!」

 

 汚く、醜い声。聞いているだけで虫唾が走る。

 

「人間、感謝するぞ。封印を解いてくれるとはな。ククク、もう少し長く封印されているはずだったが最高だ。ここにきて俺に運が回って来たぞ!!」

「そうか、それでお前はこれからどうする?」

「グアハハ。まずはこの陰陽師が守ったこの土地に住む人間を全て俺の餌にしてやる!! 前から美味そうと思っていた人間もいるしな!! あの女の魂は清らかだ。ぐちゃぐちゃに壊して食ってやりたい!!」

「そうか。ちんこの考えそうな低能な考えだな」

「ああ? おい人間、俺様は寛大だ。封印を解いたお前は見逃してやってもいいと思っていたんだ。謝れ。そうすればお前だけは助けてやろう」

「ちんこに下げる頭などない。それより口が臭い。黙れ、金玉が腐った匂いがする」

「いいだろう!! 余程死にたいようだなァ。俺の世界にお前を引きずり込んでぐちゃぐちゃにしてやろう」

「ぐちゃぐちゃ五月蠅い。もっとスマートに言えないのか? 後、口が臭い」

「殺す、殺す。開け”夢の世界”」

 

 夢喰いから黒い影が伸びて俺を包む。黒い影が消えるとそこに広がっていたのは砂漠だった。永遠に続くと思われる果てなき空と砂漠……。

 

 あまりに現実味を帯びていて確かに言われなければ夢とは分からないだろう。

 

「グアハハは!! 後悔しろ人間!! 手始めに龍に噛み砕かれろ!! 龍にかまれて全身から血液が噴出し、咀嚼されれば関節があらゆる方向に曲がり死より辛い!!! がハハハ!!」

 

 空に龍が現れた。蛇の様な体つき色は緑で血のような目。口からは唾液が垂れ俺を食おうとしているのがすぐに分かった。龍は大きく口を開けて俺の方に……。

 

 

 

◆◆◆

 

 夢喰いはご満悦だ。何百年か振りに外に出ることができ、そして再びあらゆる人間の苦痛が聞けるからだ。十六夜に逃がすと言ったがあれも嘘で本当は逃がすと言って安心させた後に地獄に叩き落とすつもりであった。

 

 しかし、十六夜が煽ったことですぐにでもこいつを殺すという思考に至った。この世界ではただの人間は何もできない。陰陽師も最早いない。

 

 自分の思うがままの世界を夢喰いは感じていた。現代は動きにくい。が、それくらい良いと思っていた。ここから先は自由。自由。自由。

 手始めにこの人間の精神を折り廃人にしてやるつもりで龍に飲み込ませた。龍は大きな口を開け十六夜を飲み込む。

 

「クハはは!! 一回殺した程度では物足りない!! 何度も苦痛に……」

 

 愉悦。それを感じていたがふと違和感に気づく。龍が苦しそうに吠え始めた。

 

「どうした? 何が……」

 

 理解が及ばない。この世界は自分の思うがままのはずなのに、龍が命令にない行動を見せたからだ。

 

――龍の腹から黒い極光が放たれた。

 

 それにより大量の血があふれ出し雨のように砂漠を濡らす。

 

「な、なにが」

 

 緊急事態に夢喰いは焦りだす。こんなことは一切考えていない。どういうことか考えていると頭上から声が響く。

 

「フッ、何が起こっているか。全く分からないようだな」

「なに!?」

 

 そこには黒いマントを靡かせ、黒く長いマフラーを首に巻き、さらに黒い鎧を纏っている十六夜がいた。手には黒く禍々しい聖剣を握っている。

 

「一体何が!!」

 

 何が起こっているのか分からなかったが異常な事態であるのは違いないため、夢喰いがこの世界からの逃亡という選択を取ろうとした、その時

 

――夢喰いはサイコロステーキのようにバラバラにされた。

 

 

「じゅあわわ」

「ふっ、つまらないものを切ってしまったな」

「我ああガガガ嗚呼あああ!!」

 

 悲鳴にならない叫びを上げる。この世界では自分もダメージを負うため、切られれば痛いのは当然なのだ。急いで自身に修復のイメージを施す。ゆっくりと再生していき元の象のような体型へと戻った。

 

「こうなったら逃げて……!!」

「既にこの世界は俺の支配下に置かれている。俺の魔法、世界縛りによってな」

 

 夢喰いはその宣言を信じられなかった。しかし、現に自分が外に出られない。自分が作った世界なのにもかかわらずだ。この時夢喰いには疑問しかなかった。嘗ての陰陽師すらこの世界ではここまでの力を発揮できなかったからだ。それなのにこんな冴えない人間がどうして、と。

 

「なぜ!? なぜただの人間がこの世界で自由に力をふるえる!? あり得ない!! こんなことはありえない!!」

 

 夢喰いの当然の疑問。それに十六夜は鼻で笑った。

 

 

「ふっ、いいだろう。冥土の土産に聞かせてやる。嘗て俺はヒーロー、英雄といったものに憧れていた。雨の日に傘を差さず剣のようにして振り回し、プールに入ったときは空中浮遊をイメージしたり色々なことをして圧倒的な存在を目指していた。

 そこで、とある自作の存在を自分で作り上げそれを目標にトレーニングをしようという考えに至った」

 

「それによって出来たのが今の俺の姿。黒を基調としたデザイン。装備全てにあらゆる能力が宿っている。この存在の名までは考えてはいなかったが

 

 名付けるならば天衣無縫で天下無双で質実剛健な正義戦士(ぼくのかんがえたさいきょうのひーろー)と言ったところか……」

 

 あり得ない。常軌を逸している。が、それが事実。今目の前で起きているのだから信じるしかない。ここで夢喰いに更に疑問が沸いた。

 

「……何だと……だとしてもそれだけでここまでのイメージが……」

「その通りだ。この話には続きがある。昔から妄想を垂れ流して生きてきた俺だが流石に小学生に入る前には現実を知ってしまった。そこで俺は妄想することが極端に減ってしまった」

「だとしたらなぜ!?」

「だが、あるとき一冊の本に出会った。そこには夢が詰まっていた。俺はその本を読むときには脳内でシーン再生し続けた。それだけではない、読んでいない時もひたすらにその本の事ばかり妄想するようになった」

 

 

「お風呂、授業中。電車通学での僅かな時間。降りてから学校に行くまでの時間。暇さえあれば妄想、妄想、妄想。それを繰り返しているうちにいつしか俺の妄想力は現実となんら変わらない程に極まっていた……名づけるならば……

妄想現実(ドリーム・リアリティ)とでも言っておこう」

 

 

 頭がおかしい。この人間は頭がおかしい。夢喰いはそう思い、そして後悔した。こんな人間を夢の世界に招き入れてしまったことに対して……。

 

「さて、そろそろまたバラバラにしてやる。現実に戻ったら俺は何もできないからな。この世界でお前を殺す」

「ま、まて。俺はまだなにもしてない。お前に多少の危害を加えようとしたがなにもしなかったんだ、み、見逃してくれ」

「ダメだ。お前は外に出たら好き勝手暴れる。俺はやられたらやり返すという男ではない。やられる可能性が一パーセントでもあるならやられる前にぶっ飛ばすというのがポリシーだ。故にここで死ね……」

「くそがあがああが!!」

 

 夢喰いが咆哮した。そこからあらゆる妖怪、化け物が大量に生み出される。しかし、それを十六夜は豆腐を切るように切って行く。

 

「ちょうどいい、俺の装備について説明しよう。まず俺のつけているマフラーいや、

魔フラーは自身の攻撃力を五億倍にする」

 

 夢喰いは一歩下がった。生み出した化け物達を盾として展開する。しかし、十六夜はなんてことないように歩いて近づいてくる。

 

「そしてこのマント。これは自身の攻撃力を一億倍にして、一秒毎に体力と魔力を全回復するという性能だ」

 

 聞けば聞く程意味が分からない。言葉が変わっているため十六夜の言うことを全て夢喰いが理解したわけではない。しかし、化け物だということは分かった。

 

「そして、この鎧だが防御力無限。魔法攻撃完全無効。俊敏五億倍」

 

 さらに近づいてくる。目の前にいるのは自身の常識を超えた化け物。だが殺らなければ自分が殺られる。夢喰いは覚悟を決めつつあった。

 

「そして、この剣だが攻撃力を百兆倍にして必殺技を発動できるという代物だ」

 

 次々と異形の化け物を生み出す。逃げれない。だったらアイツを殺して出るしかない。

 例え妖怪であっても覚悟を決めた者は強い。死を意識しそこから這い上がった夢喰いの想像力は限界を超えていた。

 

 そこからは死闘、死闘、死闘。一体何時間戦ったか分からない。もしかしたら一日経っているかもしれない。そう夢喰いは思い始めていた。だが死を意識した夢喰いは強く次第に目の前の黒騎士を追い詰め……ついに……。

 

 日本刀を持った亡霊剣士は十六夜の頭を刺すことに成功する。約十万体以上の化け物を生み出し続けた夢喰いが疲労していた。だがやり遂げたのだ!! 

 十六夜の頭、そこから血があふれ出した。つまり勝ったのだ、あの化け物に。

 

「クククク、あははははは!!! 勝ったぞ!!! あの化け物に!! グアハハはっはあ!!!」

 

 戦闘時間はここまでで一日以上経過していた。夢の世界と現実では時間の流れが違うが、精神的疲労は同じ。疲れ切った夢喰いは歓喜、ただ歓喜した。

 

「これでここから出られる。そして人間どもを……!!」

 

 出られない。この世界から。あの化け物を倒した!! だが出られない!! 何故だと疑問を抱くと

 

 ザクザクザク。どこからか砂の上を歩く音が聞こえてくる。それも一つじゃない。数千、いや、数万。嫌な予感がして後ろを振り返ると

 

 先程の黒騎士の軍隊がこちらに向かって歩いてきた。太陽が鎧を照らし光る。夢喰いにとっては悪魔の光に見えた。

 そして、そこで夢喰いの心は折れた。

 先程、一体倒すのにどれだけの労力を費やしたか……それが数万。勝てるはずがない。殺される。絶望、絶望、絶望。

 

「言い忘れていた。俺は分身できるんだ。もっとも本体の俺の百分の一以下だがな」

 

 一人の黒騎士が呟いた。あれが本体なのだろう。しかし、もう夢喰いには何かする元気も力も残っていなかった。

 

「さて、全員で大魔法である超絶放射(インフィニティドラグーン)を放つとしよう」

 

 全ての黒騎士が片手を突き出し、そこに魔法陣が展開される。そこから高熱のレーザーが何万と発射された。それによって夢喰いは完全消滅する一歩手前まで来ていた。

 

「最後は大々的に殺してやろう。この俺の奥義でな……」

 

 十六夜が聖剣を空に掲げた。暗黒の光が集まり、そのまま空へと飛翔する。

 

「さらばだ。ドラゴニックストリーム・ジ・アブソリュート・オーバードライブ・スピリチュアル・ヘカトンケイルダイナミック・オーバーレイ!!!!!!」

 

 十六夜が大声を上げると更に聖剣の光が強くなっている。夢喰いに抵抗する気力は全くないが、それでも十六夜はオーバーキルをするつもりだ。

 

 

「フューチャリング・カオスインフィニティ・コスモスタナティス・オブ・エクスカリバー」

 

 この技の名前が長いのには理由がある。作った時期が幼過ぎたため名前のセンスとか英語の意味とかよく分からず適当にそれっぽい名前をぶち込み、なんか技名長い方がカッコいいという下らない理由である。

 

「ビーフ・オア・チキン・エレメンタリースクール・ジュニアハイスクール・オルタナティブ・ストライク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 黒き光。いや太陽が全てを包み込み夢喰いはそこで完全に消滅した。塵すら残さず……封印されてから何百年と地上を夢見た化け物はこの世界では一日。現実世界のタイムで僅か

 

”一時間”ほどしか生存できなかった。砂漠に放たれた太陽は全てを燃やし尽くした。そして十六夜は一言呟いた。

 

「俺の”ドラゴニックストリーム・ジ・アブソリュート・オーバードライブ・スピリチュアル・ヘカトンケイルダイナミック・オーバーレイ・フューチャリング・カオスインフィニティ・コスモスタナティス・オブ・エクスカリバー・ビーフ・オア・チキン・エレメンタリースクール・ジュニアハイスクール・オルタナティブ・ストライク”に抱かれて消えろ」

 

 こうして十六夜は四つ目のバットエンドを回避したのだった。


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