今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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魔装一歩前
五十八話 両親


 ある日、私のスマホに一本の着信があった。画面を見るとお母さまと言う事が分かる。

 

 

「もしもし? お母さまですか?」

「はい、そうですよ」

「えっと、何か?」

「コハクさん。貴方が以前言っていた黒田十六夜と言う人物について聞きたいのです」

「い、十六夜君の事ですか?」

「そうです、以前にも言いましたね? 付き合うべき男性は慎重に選べと」

「十六夜君は凄くいい人です!!」

「私もあの人も貴方の事が心配なのです。今まで男性とのかかわりが殆どなかった貴方が急に運命の人だと言ったのには驚きました。コハクさんは見る目がありますが万が一と言う事もあります。一度その彼と話せる機会を設けてください」

「そ、そんな急に……」

「それではお願いしますね。私も物凄く興味があるんです。優しくて紳士でコハクさんを一番に考えてとんでもなくラブラブしている貴方の()()さんにはね」

「い、十六夜君は多忙ですから……き、厳しいかもしれません……」

「でしたら私達でそちらに向かいます」

「あ、で、でも」

「それでは失礼」

「あ、お母さま!? お母さま!? き、切れてる……ど、どうしましょう!?」

 

 

お母様とお父様が来る!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ど、どうしましょう!? 何かアドバイスをお願いします。夏子さん!」

「ごめん、もう一回説明してくれる……」

 

私の名前は野口夏子、華の女子高生。もうすぐ期末テストが近づいてる中親友である銀堂さんからある相談を受けていた。

 

「で、ですから、私のお母様とお父様が私に会いに来てしかも十六夜君に会わせろって!!」

「しかも、黒田君とラブラブカップルだって言ったと?」

「はい……」

「何で言ったの?」

 

彼女の両親はどうやら物凄く厳しいご家庭らしい。彼女が一人暮らしをしているのも彼女を立派な大人にするためだとか。でも親からすれば心配は当然なので良く電話はするみたい。

 

「えっと、見栄を張ってしまったというか……十六夜君の良いところを沢山お母様に言っていたら彼氏なのかと聞かれてどうせ……そうなるのでいいかなって」

「あ、そうなの?」

 

あら、理由がとんでもなく可愛い。可愛いけど……どうしてそんなこと言っちゃうの? 恋愛はポンコツか……そこも可愛いけど

 

「でもさ、だったら正直に言えばいいんじゃないかな? お母さんに嘘でしたって」

「あの、そうなんですけど……私のお母様は……その、とても厳しくてとても怖くて……嘘の報告をずっとしてたってバレたらお尻ぺんぺん……百発……」

「高校生でそれはないんじゃないかな?」

 

 

彼女は顔を蒼くしている。そんなに怖いなら最初から本当の事を正直に言えば良かったんだろうけど。彼女の苦手な物が一つ分かって嬉しいような気も……

 

「いえ、お母様ならやりかねないです……お母様は嘘が途轍もなく嫌いで……お尻がお猿さんになって……その後お説教ですぅ」

 

彼女は頭を抱えてガクガク震えている。自分で招いて自分で困ってるよ……

本当なら正直に言えばいいんだけど彼女は怒られたくない。さて、どうしたものか……

 

「つまり、嘘がバレて怒られたくないって事?」

「そ、そうです! 何とか誤魔化したいのでいい訳を考えてください! お願いします! お母様だけは! お母様だけは!」

「ああ、うん。じゃあ本当に付き合っちゃいえば?」

「それができたらもうしてますよ!! 私の妄想では既に付き合ってデートを十回くらいしてるんですから!! でも、妄想では上手くいくのに現実では上手くいかないんです……」

「だよね……うーん……」

 

まぁ、彼女が直ぐにでも黒田君と付き合えれば私が協力もする必要もなかったし、それを求めるのは酷だよね……でも、何かこのままじゃじり貧な感じがするんだよねぇ? 黒田君と銀堂さんを結ばせるのが私の目的。

 

これは上手く使えば何か変化を起こせるかも……本当は正直に言うのが一番なんだろうけど

 

「だったら、黒田君に協力してもらえば? お母さんを誤魔化したいって」

「そ、それじゃあ、私が嘘つきの女の子になってしまうじゃないですか!? 嘘つきは嫌われてしまうかもしれません! そもそもそんなウソを他の所で言ってたとバレたら引かれてしまうかも……」

「大丈夫だよ。嘘は女の特権だし、引かれるかも知れない嘘はさらに嘘で誤魔化せば問題なし」

「……そうなんですか?」

「嘘を上手く使える女の子はモテるよ」

「……うう、じゃあいいです」 

「あ、うん、えっと先ず黒田君には両親に見栄を張って彼氏がいると言ってしまったと言うんだ」

「は、はい……」

 

 彼女は顔色を少し暗くする。嘘をつこうと思ってつくのは彼女は得意じゃない。なんとなく無自覚の内に使うときはあるけど、明確な意志と目的を持って彼女は嘘をつかない。でも彼女は嘘をもっと覚えるべきだ。上手く使えば最高の武器になる。

 

「銀堂さんさっきも言ったけど嘘を巧みに使える女の子はモテるよ。銀堂さんは少し素直過ぎるところもあるし嘘を学ばないと! 黒田君を落としたいなら!! 覚悟を決めて!! 悪い女になる覚悟を!!」

「は、はい……悪い女……」

「そう、悪い女。あざとい所とか見せたりわざと困ったり……えっとどこまで話したっけ……そう黒田君にまず嘘つくでしょ? そして両親に会ってもらい誤魔化す。これで決まり!!」

「本当にそれでいいんでしょうか?」

「いいんだよ! それにこれはチャンスでもある」

「……チャンス?」

「嘘で恋人のふりをしてもらうんだよ? そこで沢山アピールできるよ? もしかしたら本当の恋人になるかもよ?」

「私が嘘を上手く使えば?」

「うん、勿論。全部正直に言っても彼は協力してくれると思うけどこっちの方が良いと思う。私の勘だけど」

「……分かりました」

 

彼女は僅かに考えると何か意を決したように覚悟を決めたようだ。

 

「それじゃあ、先ずは黒田君に頼んでみないとね? 言いづらいなら私が」

「……いえ、私が行きます」

「そう?」

「はい」

 

彼女は緊張しているのか顔がこわばっているが深呼吸をした後、ゆっくり彼の席に向かって行った。

 

◆◆◆

 

 俺が七色町に帰ってきてから二週間近くたつ。その間に中間試験の結果が張り出された。一年の一位は銀堂コハク、二年の一位と二位は火原火蓮と黄川萌黄。俺は七十位くらいだった。

 

 夏休みから『ストーリー』が始まるからな。まだまだ時間がある。その前に学校のイベントの一つである。期末テストがある。今回もそこそこでいいかな?

 

「あの、十六夜君」

「どうしました?」

 

銀堂コハクがなにやら複雑な顔をして俺の席の前に来る。どうかしたのか? 大分深刻そうだが

 

「頼みがあるんです」

「なんですか?」

「ここでは頼みづらいので……屋上で」

「はい、分かりました」

 

彼女と共に屋上に向かう。彼女からの頼み事……ま、まさか告白とか!? いや、でもそれで火原火蓮との仲が抉れたら……

 

そうだ、まだやること残ってたな。二人のギスギス感を完全に治したい。偶に仲がいい感じがするけど『魔族』との戦いの中でそれが急に発生したらとんでもないことになる。

 

そんな事を考えていると気づいたら屋上に着いていた。屋上には俺達二人しかいない。青空が綺麗に見える下で彼女と向かい合う。こ、告白をやんわりと躱すには……えっと……

 

「私凄く困ってるんです、十六夜君、助けてください、」

「何でも言ってください」

 

 

彼女が困っているなら助けよう。告白と勘違いしたことは恥ずかしいが……

いや、大分恥ずかしいな

 

「あの、私両親によく連絡するんですがその時に見栄を張って彼氏がいると言ってしまったんです……それで両親が会わせろって……言うんです」

「えええええ!?」

 

銀堂夫妻と言えばとんでもなく厳しくて怖い人たちだよね? 銀堂コハクは苦手な事は少ないがその中で最も苦手なお母様。それが来る!?

 

『ストーリー』でもその厳しさは良く語られていた。その夫妻が……

 

「それで私のお母様は嘘が物凄く嫌いでもし嘘とバレたら私……私……」

 

彼女はしくしく泣き始める。こんなに怖がってたかな? 泣く程に……

 

「な、泣かないでください」

「十六夜君私に協力してくれませんか?」

「嘘の彼氏ですか?」

「はい、嘘の彼氏。一時期でいいので……じゃないと……私、怖くて……」

「うーん……だったら俺が一緒に謝りますよ」

「え?」

「嘘って人なら誰しもつくと思うんです。無自覚につく時、意思を持ってつく時、本当の事を言っていたのに実は嘘だった時。細かく言えばもっともっと沢山のパターンがあると思います。人生に何回嘘をつくのかって聞かれたらもう数え切れません。だから、嘘を嘘でごまかすくらい大した問題じゃないですし、それも良いと思います」

「……」

「でも、銀堂さんの親は銀堂さんを心配してるわけだから……嘘つく人を選ぶって訳じゃないけど正直に言った方が良いような……怖いなら俺も一緒に謝りますし。それでどうですか?」

 

彼女の両親は厳しいがそれにはしっかりとした理由がある。まず一人暮らしの理由は彼女を立派な大人にするための修行。だが中学時代の事もある為彼女の事は物凄く心配している。だからこそ定期的に連絡をしているんだ。

だから、俺にはその二人に嘘をつくことは出来ない。

 

「あ、あ、あの、そ、その」

「どうかしたんですか?」

「ご、ご」

「?」

「ごめんなさぁーい」

 

彼女は泣き始めた……どういうことだ?

 

 

 話を全部聞くと彼女は……俺の事を両親に良く報告をしているらしくその過程で俺を彼氏と言ってしまったらしい……屋上のフェンスで彼女は体育座りしながらゆっくりと語ったのだが

 

それを聞かされると恥ずかしいな……

 

「あの、すいません……私は」

「気にしないでください。それより両親はいつ頃くるんですか?」

「今週の土日に私のマンションに来ると……言っていました」

「だったら俺もその時に謝るので、どうですか?」

「は、はい、お願いします」

 

高校生でお尻ぺんぺんは可愛そうだし……そもそもこんなイベントなかったし俺のせいかもしれないしな。

 

「い、十六夜君、嘘ついてすいませんでした」

 

彼女は未だに瞳に涙が残る中深々と頭を下げる。そんなに謝らなくても……誰でも付くのが嘘だから。

 

「良いですよ。俺も嘘とかつきますし」

「そ、そうなんですか? えへへお揃いですね……」

「そう、ですかね?」

 

 

彼女は少し元気を取り戻したようだ。……彼女の両親怖いんだよな……

 

 

 

◆◆◆

 

 

「成程……そうなったんだ」

「はい、ごめんなさい。折角アドバイスをくれたのに」

「うんうん、私の方こそごめんね。余計なアドバイスだったと思う」

 

 私は銀堂さんから事の顛末を聞いていた。なるほどね。そうなったか……ちょっと急ぎ過ぎたな。まだ一年生なんだからゆっくりしていってもいいよね。

高校生活はまだまだ始まったばかり、そして未来には何かとんでもない事があって一気に状況が変わるかもしれない。

 

 ちょっと失敗したな。でも黒田君らしい答えと言うか馬鹿真面目過ぎて少年漫画かよと突っ込んでしまいそうになる。だけど彼女には悪いことしたな。

 

「いえ、とてもいいアドバイスでした。嘘はただ使うんじゃだめと言う経験も得られましたし十六夜君の良さも更に知れたので……」

「そ、そう」

 

彼女の雰囲気が何処か変な感じがするような気がするけど気のせいかかな?

 

「十六夜君……益々欲しくなってしまいました……どんな手を使っても……フフフ」

 

怪しげに笑う彼女は舌なめずりをする。その時の彼女は魅惑するサキュバスのように見えた……

 

「ぎ、銀堂さん?」

「あ、はい。何ですか?」

 

気のせいか? いや気のせいじゃないと思うけどやっぱり潜在的な女性の能力は段違いなのかもしれない……

 

私が話しかけると彼女は先ほどまでの色っぽい感じは何処かに行ってしまいいつもの華のような彼女に戻る。

 

「ああ、えっと……」

「何ですか?」

「……黒田君のことだけどもっとゆっくり行ってもいいかもね。私も焦り過ぎてたかもしれない。高校生活はまだ始まったばかりだしさ。一歩一歩積み重ねていこう?」

「はい、着実に行きましょう」

 

私ももっと完璧な作戦を考えないとな……ゆっくりだけど着実にいけるような……作戦か……意外とほっとくのが良かったりして……

 

 

◆◆◆

 

「なぁ十六夜聞いたか?」

「何がだ?」

 

席に座っていると前の席に座る佐々本が俺に話しかけてきた。その表情は少し焦りの表情。

 

「今年の夏休み。六道先生が主催の……」

「精神強化合宿……」

「そうだよ! それがあるらしい。去年もあったみたいだけどあまりの辛さに上級生が一人も参加しないらしい……」

「それで……?」

「それでさ俺その事実を知る前に適当に言って参加するって言っちまったんだ」

「ご愁傷様です」

 

六道先生の精神強化合宿はとんでもなく辛い。お寺での修行の様なメニューを一泊してこなす。青少年の育成という名目なのだが余りの辛さに殆ど参加する者はいない。

 

 佐々本が知らずにノリで参加しAクラス男子を巻き込むというのは『ストーリー』にもあったな……俺は絶対参加しない。

 

「おい、頼むよ! 今他の奴らにも頼んでるけどなかなか集まらないんだよ!」

「あ、そう」

「なぁ、頼むって!! エロ本良くあげてるだろう!!!」

「馬鹿、声デカい!」

 

 

クラスメイト達は皆話していて聞こえていないがこれ以上話していると聞こえてしまうかもしれない。仕方ないな。

 

「分かった! だから黙れ!!」

「よっしゃ!! それじゃあ、俺は他の奴のとこに……」

 

佐々本は他の男子の所に頼みに行った。


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