今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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六十三話 もう一人

 俺はタオルを腰に巻き正座していた。パジャマに着替えてソファーに座る彼女達の顔は羞恥と言った感じ。大体の状況を説明した。

 

 流石に今回は土下座するしかない。いや、今回もか……

 

「妖怪に猫にされてしまって事故とは言え申し訳ございません」

 

俺は深々と頭を下げる。と言うよりは土下座だ。

 

「十六夜君顔を上げてください。そ、そそのびびびび、ビックリはしましたけど……十六夜君に非はありませんから」

「そそそ、そうね。ね、猫になったなんて信じられないけど……この状況を見る限りそうとしか信じられないわね……あの制服も十六夜のだったのね」

 

 二人は顔を真っ赤にしながらも仕方ないと納得をしてくれる。しかし……

 

「あ、あんなものを……僕、あんなものを……彼の体中を弄って体に密着させて……」

「ちょ、ちょっと萌黄先輩!! 忘れようとしてるのに言わないでください!! 恥ずかしいんです!!」

「そそそ、そうよ!! 言わないで!!」

「だって、忘れろって言ってもあそこまで触って弄ったんだよ!! 無理だよ!! あれ全部彼の体だったんだよ!!」

「止めてください!! 思い出してきたじゃないですか!!!」

「あの、お風呂のあれだって一生記憶に残っちゃうよ!!」

「萌黄、止めなさい!!!!」

 

 三人で今までの事を思い出し羞恥の海に沈む。この後三十分はこのままだった。俺に非が無いと思ってくれたようで特にこれ以上はお咎めなしだった。

 

「十六夜君。お父様の着替えがありますからそれを着てください」

「ありがとうございます。その色々すいません」

「十六夜君が悪いんじゃないと思うんです。その猫が全部悪いんです。それよりもうその話はやめてもらっていいですか? 色々……恥ずかしさで死んでしまいそうです、から……」

「そ、そうですよね……」

 

先程の告白の様な火原火蓮とのやり取りを思い出す。これから俺はどう接して行けばいいんだ? 

 

火原火蓮と黄川萌黄はソファーに座り未だに羞恥に顔を染めている。俺だって恥ずかしいわ!!

 

「取りあえず大分時間も時間ですし、寝ましょう……十六夜君も一緒に……」

「いやいや、それは……ソファーを貸していただけませんか?」

「だ、ダメです!! お、お客様ですから!!」

「いやいや、若い男女が寝るなんてあってはいけません。今日の所はソファーで寝かせてください」

「そ、そうですか? それなら……あの、なんでそんなに目線を逸らすんですか? なにか私が不快な事をしてしまいましたか? 猫の時に触り過ぎたのが不快だったんですか?」

 

 

彼女が心配そうに見るがただ彼女達の好意を聞いてただ単にドキドキしているだけである。こんな経験初めてだ……

 

「い、いえ、なんでもないです。そ、それより早く眠りましょう。明日も学校ですから」

「はい……何かあったら言ってくださいね。お二人共もう寝ましょう」

「そうね……」

「ううっ……」

 

 赤と黄は恥ずかしさに目を逸らして寝室のほうに向かって行く。寝室に行く火原火蓮をつい見てしまう。火原火蓮を意識してしまう……マジでこのままだとラブコメが始まってしまう……しかも精神年齢がおっさん並みの俺がJKを意識するというとんでもない物語が……

 

 とりあえず、今日は寝よう。俺は銀堂家のソファーに横になった。

 

 

◆◆◆

 

 

 眠れない……俺には刺激が強すぎた……時刻は深夜だ

 

高次元の感触が忘れられない……ソファーの上で横になりながらぼぅーと目を閉じる……。そこにある声が響く

 

 

「にゃにゃにゃ、猫の生活は満喫できたかにゃ?」

「お前……戻すタイミングに悪意があるんだよ」

「にゃにゃにゃ偶然にゃ。お前の運が悪いだけにゃ。いや良いと言った方が良いかにゃ?」

「俺はもう疲れた。どっか行ってくれ。妖怪とかは好きじゃないんだ」

「勿論。もういくにゃ。ただ奇妙な人間が集まっているなと思って気になっただけにゃ。人間とは惹きあう生き物だにゃ。特にあのお前の手籠めにしている三人のメス」

「メスとか言うな。あと、手籠めも言うんじゃねぇ」

「にゃにゃにゃ、奥底にあるオーラの強さが他の人間とは違う。勿論お前もにゃ」

「俺も? 俺みたいなモブにオーラが?」

「お前自身が異端な人間だと気づいた方が良いにゃ。お前のオーラはあの三人に匹敵するほどにゃ」

「まさか、俺に隠された力が……」

 

俺は自然と片目を抑えてしまう。失われし童心がこういった形で呼び起こされるとは……

 

「妖怪にはそういったのが分かる奴もいるにゃ。さて、久しぶりに人間の滑稽な姿が見れて面白かったにゃ。特にあのお前のメスたち」

「メス言うな。と言うか見てたのか。戻すの絶対わざとだろう」

「わざとじゃないにゃ。おっと長居し過ぎたにゃ。そろそろ帰るにゃ。人間のメスと戯れも見れたし満足にゃ」

 

 猫はふっと消えた……オカルト系は嫌いなんだよ。もう二度と来ませんように。

それにしても俺に特別な力ね……

 案外『魔力』とかあったりして……でも、あってもそれだけじゃ意味ないんだよな……

 

 これからどうしたものか……『魔力』があるなら……でも変に関わるのもな……色々考えるがどうするべきか答えは出ない。変に『ストーリー』に関わるのもなどと考えていると寝室のドアが開いた。

 

「あの、十六夜君。起きてますか?」

 

 銀堂コハクの声が聞こえる。部屋は暗いため顔は良く見えない。

 

「はい」

「そうですか。何か話し声の様なものが聞こえたので気になったのですが……眠れませんか?」

「いえ、もう少しで眠れそうです。騒がしくてすいません。ちょっと電話してたもので」

「そうですか……それならお休みな……十六夜君少しお話をしてもいいですか?」

「は、はい。大丈夫です」

 

彼女は俺の隣に座った。何となくだが彼女の全体像は見える。

 

「一つ謝りたい事があって」

「何ですか?」

「最近の私が貴方に酷い仕打ちを……」

「そ、それなら気にしなくていいですよ。本当に」

「それでも一言だけ、すいませんでした。迷惑を沢山おかけしたと思います」

「本当に大丈夫です」

「ありがとうございます……あの身勝手なお願いですが相談にも乗って頂けませんか?」

「いいですよ。俺でよければ」

「……あの、私の中にもう一人の自分がいるような気がして……」

「……」

「中学の時に虐めにあってから時折、良く分からないんですけど……こんな荒唐無稽な話だれにもしたことないんです。でも、今日人が猫になるというあり得ない事象を目にして私にも何かあるのかなって……それで猫になった十六夜君に聞いてもらいたくて」

「……そうですか」

「信じられませんか?」

「いえ、信じます。何か俺に出来る事があれば……」

「ありがとうございます。ただこの話を聞いて欲しかっただけですから大丈夫です。それに前の貴方の言葉で私は既に救われていますから……あ、でも十秒……だけ手を、に、握ってくれませんか?」

「は、はははい」

 

 緊張しすぎた俺はたどたどしさを残しつつも彼女の手を取った。暫くすると彼女は手を離す。何故か名残惜しかった。いつも感じる感情とは別の感情を俺は感じた

 

彼女はソファー立ち寝室に向かう……

 

「十六夜君ありがとう、それとおやすみなさい」

「あ、あの」

 

俺は彼女を呼び止めてしまった。

 

「何かあればまた言ってください。どんな些細な事でもいいので」

「ありがとうございます」

 

 彼女は寝室に戻って行った。

 

◆◆◆

 

 

 

 眠れない。私は外を見た。雨が降り出して雨音が聞こえる……

 

隣には萌黄とコハクが寝ている。私は今までの自分を変えようとしている。もっとゆっくりで良いと……だけど、ふとママが言っていたことを思い出した……

 

 

最近家族の仲が良くなって色々ママと話してるときに……

 

『好きになればなるほどに思い人との接し方が分からなくなるのよね……態度がドンドン冷たくなっちゃう。それをあの人と貴方と十六夜君が溶かしてくれたのだけど』

『……』

『火蓮も私に似てる所があるから……正直に言うのが一番よ。覚えておいてね』

 

 

 私にもそんな日が来るのか……十六夜との接し方が分からなくなる時が……一瞬だけ不安が浮かんだ。だがそんなことはないと私は首を振り布団をかぶる。

 

 次第に雨音で私は眠りへと誘われた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 僕の中で二人は友達……だったら彼は? 友達? 良く分からない。彼を二人は好意的に思っている。二人が好きなら協力をしたい。

 

 二人の幸せな顔は好きだから。でも、何かが引っかかるような……

 

今日は眠れない……お化けが怖いわけでも無いのに……ただ瞳を閉じているとリビングで誰かが話している音が……彼の声だ。電話でもしているのかな?

 

暫くすると声が止み隣で誰かが……コハクちゃん? 火蓮ちゃん?

 

目を薄っすらと開け、シルエットでコハクちゃんだと分かった。彼女は寝室から出ると彼の元に行き話を始めた。コッソリドアに耳を当てて聞いてしまう……

 

数分の会話だった。

 

そして、彼と彼女は手を握り

 

『何かあればまた言ってください。どんな些細な事でもいいので』

 

 彼は彼女に真摯で想いが乗った言葉を残す。今までとは違う……彼の言葉に乗る想いの何かが……僕にはわかってしまった。

 

そして、その時胸がチクリと針で刺されたように痛んだ。気のせいだ。

 

 彼女が戻ってくる。僕は急いで布団をかぶり瞳を閉じる。彼女の気分が良い鼻歌が聞こえてくる。

 彼女が嬉しい心境なら僕だって嬉しくなるはずなのに……今はそんなことなかった……

 

 

 雨音が聞こえる……もう、眠れる気分じゃなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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