今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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六十七話 あと少し

 現在、八月十六日。早朝八時

 

 俺は海原町の彼女の自宅前に居た。今日は運命の日。今日魔族が攻めてくるので……先ずは初手として追加メンバーである片海アオイをいきなり初期メンバーにぶち込むという一手である。

 

 片海アオイが転校してくるのは十一月。火原家が離婚して火原火蓮が赤井火蓮(あかいかれん)になった後である。それをいきなりこの時点でメンバーに入れる事によって大幅な戦力の強化。そして、彼女達の”絆”や”波長”を早期から育んだり合わせたりすることが出来る。

 

 「お待たせ」

 

 彼女の家の玄関のドアが開き、中から彼女が出てきた。かなりラフな格好でパーカーである。彼女は動きやすい格好が好きであり余りオシャレとかに気を遣わない。火原火蓮もそうなのだが、黄川萌黄に二人共オシャレに目覚めようという事で銀堂コハクを入れて四人で買い物に行くなどと言う展開もあった……あれは良かったぞ……

 

「いえ、全然待ってません。それより朝早くからすいません」

「いいよ、あーしも七色町興味あったし」

「そう言ってもらえるとありがたいです。それじゃあ早速向かいましょう」

 

 

 彼女には前回の海原町の案内のお返しに七色町を案内するという提案をしたのだ。後、紹介したい友達もいるという内容だ。しかし、実際はそうではない。気を抜くことはできない……緊張も少ししている。

 

 朝早くから彼女と一緒に新幹線で向かう。チケット代とかはすべて俺が持つ。これはマナーだよな。うん。男だし……それに一応俺って精神年齢は彼女より全然上だし?

 

 最初はバスに乗り、乗り換えて新幹線。更に電車やバスを使う。バスに乗り揺られていると彼女が保冷バッグを出す。

 

 

「朝ごはん食べた?」

「いえ、食べてないですね」

「……おにぎり作って来たけど……食べる?」

「い、いいんですか?」

「いいよ。昆布と鮭とから揚げのおにぎりがあるけどどれが良い?」

「から揚げお願いします」

「はいよ……ん、これ」

 

彼女はおにぎりを保冷バッグからだし俺に手渡してくれた。くぅぅ、片海アオイのおにぎりが食べれるとは……嬉しい。

 

早速頂こう

 

「頂きます」

「ん、召し上がれ」

 

一口頬張る。まだ中の具が出ないので二口。から揚げと米の相性が抜群だ、そこにマヨネーズもあったら不味いわけがない

 

「めっちゃくちゃ美味しいです! ありがたいです」

「そ、……から揚げ好き?」

「はい。好物の一つです」

「へぇ……」

 

彼女は特に表情を変えることなく俺の話を聞いていた。俺は夢中になっておにぎりを食べた。すぐに一つ目を平らげた

 

「……まだあるけど」

「それは先輩の朝ご飯ですよね?」

「あーしは昆布が好きだしダイエット中だからこれ一個でいい。だから鮭のおにぎりも食べて」

 

彼女はラップに包まれているおにぎりを俺の前に突き出した。そこまで言われたら……頂こうかな……

 

「本当に大丈夫ですか? 本当はお腹空いてるんじゃ……」

「いい、昆布だけで十分。だから……これ」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……頂きます……」

 

彼女は俺の食べるところをジッと見ていた。おにぎりの味は凄く美味しい

 

「美味しいです。鮭の油が良く出て米と絡んで……」

「そ……」

 

 その後、彼女は昆布のおにぎりを食べ始めた。僅かに唇が微笑んで見えるのは見間違いのように見えるが……そうではないようにも見える。

 

 

 

 彼女が食べ終わった後はなんてことない会話を繰り広げた。新幹線に乗り換え、電車に乗り継ぎバスに乗車して遂に七色町に到着した。現在の時刻は十一時過ぎ。そこから歩いて町案内を始める。時間をしっかりと気にする。今日は時間を意識しないとやっていられない。

 

「この喫茶店良く行くんですよ」

「何が美味しいの?」

「えっと、ナポリタングラタンとか大きいパフェとか」

「ちょっと興味あるかも」

「お昼はここで食べますか? 奢りますよ」

「……交通費も出して貰ってお昼までは……祭りの時も奢ってもらったわけだしここはあーしが」

「いや。俺に払わせてください。これくらい大したものじゃないです」

「……でも」

「いえいえ、ここは俺が。それじゃあ、ちょっと早いですけどお昼にしましょう」

 

俺達は店内に入る。ここの喫茶店に来るのはもう何度目だろうか? 大分お気に入りしている。

 

「いらっしゃいませ……あ、君また来てくれたのね。んん? えっと……また……違う子……なのね……」

 

 

 店員さんは最初は元気よく出迎えてくれたのだが片海アオイを見ると……え? コイツまた違う女連れてるよ……と言う顔をした。しかし、直ぐに営業スマイルに戻す。

 

 何とも言えない心境の中。一旦席に着く

 

「常連なんだ」

「ええ、まぁ……」

「誰と来たの?」

「と、友達と頼もしい先輩ですかね……」

「そうなんだ」

「は、はい、あ、これがメニューです」

「ありがと」

 

 

 彼女にメニューを手渡す。そう言えば彼女は先輩だからこれからか片海さんでなく片海先輩の方が良いのだろうか?

 まぁ、今は考えなくていいか……

 

「あーし、ナポリタングラタンにする」

「それじゃあ、俺は……」

 

 俺がメニューを眺め注文する品を決めようとした時、店内のドアが開きお客さんが入ってくることを示す鈴の様な音が店内に鳴り響く。

 

「いらっしゃいませー……」

「またパフェ食べに来てしまいました」

「あ、そ、そうなんだ……いや、でも、今はその……いらっしゃいませ……」

 

 

 何やら聞き覚えがある声が聞こえてくる。可愛らしい銀の声が……店員さんの気まずそうで逃げる足跡も

 

「あ、十六夜君! ぐうぜ……ん……ですね……」

「あ、どうも……」

「そちらの方……テレビに一緒に出てた……」

 

 ……分かってはいたが銀堂コハクのようだ。彼女とは今日の午後に片海アオイと合わせようと思っていたのだがこのタイミングとは。銀堂コハク、火原火蓮、黄川萌黄には今日の午後に予定を開けておいて欲しいというメールは送っている。そこで友達と言う事で片海アオイを紹介して皆で仲よくしようという計画だった。

 

遅かれ早かれこういう展開になるのことはなんとなくだが心の準備していたのだが……何というか……気まずい

 

 彼女の気持ちには何となく気付いているし……それなのに他の女の人と一緒に居るところを見せるのはやっぱり……クソだよな……俺って……

 

 しかし、今だけは何としてもやり遂げよう

 

 

「えっと、彼女は友達なんですよ。以前海原町でお世話になったのでそのお礼に町の案内をしていまして」

「ああ、そうですか。友達……友達……だからこその町案内……なるほど……納得しま……す……あ、メールで言ってた紹介したい友達と言うのもその人……ですよね?」

「は、はい」

「なるほど、なる……ほど……」

 

 

 彼女は心臓に手を当てている……そして目をつむった……一息つき目を開く。その後、不安そうに彼女は俺達に聞いた。

 

「も、もしよかったら私も町案内にご一緒してもいいですか? 予定では午後から一緒に遊ぶという事ですけど……私もこの町で押さえて欲しい場所を紹介したいので」

「あーしはいいけど」

「ぜ、是非お願いします」

「それでは十六夜君隣いいですか?」

「どうぞ……」

 

彼女は俺の隣に座ると片海アオイと向き合う。銀堂コハクは黒い笑顔で片海アオイは特に何んとない無表情。

 

「自己紹介しておきますね。私の名前は銀堂コハクと言います。十六夜君と同じ学校に通っていて、同じクラスで仲良しこよしです。年は十六ですよろしくお願いします」

「そう……あーしは片海アオイ。年は今年で十七よろしく」

「年上の方ですか……あの十六夜君とは友達なんですよね? それ以上ではないですよね?」

「?? ああ、うん。友達……でしかないと思うけど」

「そうですか……嘘や勘違いするような言い回しはしてないですよね?」

「何を深読みしてるか知らないけど友達。それ以上でもそれ以下でもない……」

「そうですか。ふぅ、ちょっと肩の力が抜けました……」

 

 

 彼女は片海アオイと会話し一息つく彼女の雰囲気が優しいものになる。心臓に手を当てていた手を下ろした……

 

 その後、彼女はパフェを頼み。俺達は早めの昼食を食べると案内の続きを始める。

 

 時刻は十二時。魔族が来るのは三時。ここから僅かに見えるアウトレットモールの近くに黒い大穴が現れそこから”怪人”が出てきて暴れだす。それを妖精が止める……しかし妖精には止められない。そこで偶然居合わせた三人が魔装を託され怪人を圧倒するというのが流れ。

 

 しかし、ここをいきなり四人にして圧倒的な戦力差でぶっ潰す。安全マージンを確保しながら……

 

 俺はこの後の流れを考えながら道を歩く。銀堂コハクがおススメの場所があるのでそこに行くという感じである。

 彼女のおすすめはあらゆる本が揃っている……本屋らしい……まぁ、この町景色とか物凄くいい所とかはないからな。ここって前に火原火蓮と一緒に来た本屋だな。普通の本屋よりは断然大きく売られている本も豊富。

 

 

「ここが私が行きつけの本屋さんです……たくさんの本がある……場所です……」

「本屋に本って当り前じゃ……まぁ確かに大きいけど……これがこの町の抑えておくべき場所?」

「えっと、そうです……」

 

彼女は気まずそうに答えると小声でごにょごにょ何かを言った

 

「…………だって仕方ないじゃないですか。私はこの町に来て長くないですし……私はただ二人きりにしたくない為にお勧めがあるってでっち上げただけなんですから……」

 

片海アオイには聞こえていないようだが俺は難聴ではないので聞こえてしまう。

 

……心が……痛い……

 

「折角だから見てっていい?」

「どうぞどうぞ」

 

彼女は折角のおすすめだからと中に入って行く。参考書を眺めているとき……

 

「あの、十六夜君」

「な、なんですか?」

「あ、あの女の人は本当に友達なんですよね? いや、疑っているというわけではないのですが、その一応と言うか……」

「は、はい。そのお世話になった友達です」

「よ、良かった。あ、すいません……何度も……ご迷惑でしたよね……」

「いや、その、全然、そんなことはなく、俺の方が申し訳ないって言うか、何ていうか……」

「いえ、私が全面的に悪いです……」

「いやいや、俺の方が……なので気にしないでください」

「は、はい。あ、ありがとうございます」

 

 何と言うかピンクの空間に二人でいるような感じになってしまうがこの後は大事なことが控えている。気を引き締めないと……

 

 十二時三十分か……待ち合わせは一時でそこから五人で過ごして……そのまま……魔族との戦闘……もし俺に『黒騎士』のような力があれば魔族を完全に滅ぼして平和を確保するんだけどな……

 

 

「あれ? 十六夜じゃない」

「コハクちゃんもいるね。皆して奇遇だね」

 

 

 今度は後ろから火原火蓮と黄川萌黄の声がする。どうやら二人も本屋に来ていたようだ。

 

 

「お二人とも来ていたのですか?」

「私はラノベと漫画の新刊を買っておこうと思ってね。後ついでに十六夜に教える為に何か参考書買って教える勉強しようかなって」

「僕は最近、ラノベとか漫画とか興味があるから集合時間前に本屋をうろうろしてたら火蓮ちゃんとバッタリ会ってそこから一緒に……集合時間前に皆揃うなんて面白い事もあるね……あれ? そこにいる女の子ってもしかして……」

 

銀堂コハクと二人が会話している際中、黄川萌黄が大海の青に気づいた。そして火原火蓮も

 

「あ~! あの時祭りに居た子じゃない!! ってことは紹介したい人って、もしかしなくてもこの人!?」

「ええっと、そうです……」

「火蓮先輩大丈夫です。この人は十六夜君の友達でそれ以上でもそれ以下でもないそうですから」

「本当に?」

 

火原火蓮が片海アオイに目を向けた。片海は銀堂コハクに僅かに目を向けると少し遠慮しながら話した。

 

「そう、その子にも言ったけど友達。他にはなんもない」

「そ、そう。ごめんね? 変に騒いで」

「ダイジョブ」

 

 申し訳なさそうに彼女は告げた。互いに未だに距離を測りかねているのが分かる。しかし、

 

「ねぇ! 君は名前なんて言うの!? 僕は黄川萌黄!! よろしく!!」

 

 途轍もないフレンドリー。黄川萌黄がビシッと手を差し出す。こういう時の黄川萌黄は心強い。

 片海アオイが転校してきたときも真っ先に話しかけたのは彼女だ。彼女ならすぐに仲良くなるだろう。他の二人も何だかんだ仲良くなる

 彼女のコンプレックスである目については全員気にしない。そのことに顔には出さないが片海は驚いているだろう。

 

「片海アオイ……よろしく」

「私は火原火蓮よ……よろしく」

「……よろしく」

 

揃ったな……中盤メンバーが。初期からいきなり四人を集めるという暴挙だがまぁ、大丈夫だろう……互いにまだ距離を測りかねている感じだな。

 

「アンタの言ってた友達紹介ってこの三人?」

「そうです。何かめっちゃ仲良くなれる感じがしませんか?」

「まぁ、そうだね……」

 

 何となくだが三人を気に入ったようだ。よし、最初は四人の輪を作るという目論見は達成したな。

 

 

「実は片海さんに町の案内をしているんですけどよろしければ……二人も一緒に行きませんか?」

「勿論だよ!!」

「私は基本的に家に居るからあんまりお勧めとか紹介できないけど……」

「全然オッケーです」

 

 よし、五人で行くことに成功したぞ!! 後は纏まってアウトレットモールから近すぎず遠すぎない安全マージンを確保した距離にいればあちらからこっちにやってくる。

 

 

 「それじゃあね、僕のおすすめの景色の見える高台に行こう!! アオイちゃん!!」

「めっちゃ、グイグイ来るね……アンタ……」

「まぁね!」

 

 片海アオイと腕を組んだ黄川萌黄を先頭に俺達はついて行く。

俺は警戒心を緩めずに行かないとな……時間はまだ余裕がある。

 

スマホ画面を眺めながら歩き始めると服の袖が引っ張られた。振り向くと火原火蓮が小さく袖を掴んでいた

 

「ねぇ、アオイさんは本当に十六夜の友達なの?」

「ッ!! は、はい。そうです」

「そうなんだ。良かった……あ、いや、そのこういうの聞くって彼女でもないのにおこがましいかもしれないけど……その私気になっちゃって……その……ごめん」

「い、いや、謝らないでください!! 何と言うか俺のせいって言うか……だからお気になさらずでお願い申し上げます……」

 

クソ。集中しないといけないのに乱されてしまう。

 

でも……俺ってクズだな……本日二回目……そう感じた。

 

 

「うん……それじゃあ……ちょっと恥ずかしくなっちゃったから……私は萌黄たちの所に行くね……」

「はい……」

 

 

顔が赤い彼女は先頭の二人の方に向かって行った。

 

……今は集中しよう。するとまた袖が引っ張られる

 

 

「十六夜君……ちょっと鼻の下伸ばしてましたね……いや、私がこんなことを言うのもおかしな話なんですけど……ちょっと面白くないです」

「あ、す、すいません……」

「確かに火蓮先輩は可愛いですけど……」

「……すいません」

 

彼女は少し膨れ顔。リスのようだ……そして手を胸に当てている。

 

「まぁ、良いですけど……今は……ちょっと気持ちの整理したいので私も先輩たちの所に行きますね」

「は、はい」

 

一瞬だけ、彼女の雰囲気が変わった。そして彼女は俺から離れ前に四人が並ぶ……

 

俺って好意にはどう答えればいいんだ……今は保留にさせてもらおう……どこまでクズなんだと思うが……何処までもクズなんだよ。

 

でも、前に楽しそうに並ぶ四人を見てこの和を乱すようなことはしたくない……

 

落ち着け。今考えるべきことはこの後攻めてくる魔族の事だ。

 

俺は切り替え上空に意識を向けた。

 

 


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