今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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七話 早起き

 早朝五時。四時半で起き銀堂コハクの住むマンションの一階の入り口付近で待つ。少しすると、ほぼ時間通りに彼女は来た。不機嫌そうにしながらも彼女は挨拶はしっかりしてくれた

 

「おはようございます」

「おはようございます。早速行きましょう」

 

 俺は彼女が隣に来るとすぐに歩き出す。彼女は疑惑の目を向けっぱなし。

 

「説明してくれますよね?」

「何をですか?」

 

「なぜ、こんな時間に登校するのか聞いてるんです!!!」

「不良に遭遇しないようにするためですよ」

 

 スタスタ歩きながら事情を説明する。しかし、まだ納得していないようで

 

「早すぎます!」

「そうですかね? これくらいが一番安全だと思いますが?」

「五時ですよ!! 馬鹿なんですか!! 見てくださいよ、人なんてほとんどいませんよ!!」

 

 ぐるりと周りを見回す。確かに、いつもほどの人はいない。まぁ、気にすることではない。

 

 

「お気になさらず」

「気にしますよ!!」

 

 

 彼女との会話をのらりくらりと流しながら、俺達はそのまま学校に着いた。彼女は不機嫌のままだったが……。

 

「一番乗りですね」

「でしょうね!!」

 

 学校は開いていない。大体開くとしても六時くらいだろう。現在の時刻は五時十五分。スマホで確認。

 

「開くまで少し時間がありますね。しかし、いくら何でも流石に早すぎましたね」

「さっき私が言いましたよね!! いくら何でも早いって!!」

 

 彼女をなだめつつ、とりあえず近くのベンチに座る。爽やかな朝だ。早起きも悪くないかもしれない。こんなことは二度としないがな。

 

「これから、毎日早起きしなくてはいけませんか?」

「どうですかね?」

「質問してるのはこちらなのですが?」

 

 

 彼女は、呆れてもう質問する気はないようだ。特にお互いに話すことなく時間が過ぎていく。少しくらいは会話した方がいいのかな? 女性と二人というのはほんのわずかだが緊張する。昨日も二人だったが結構心臓が高鳴っていた。

 

「早起きも悪くないですね」

「そうですけど、貴方に言われると腹立ちますね」

 

 入学三日目。随分と嫌われたものだ。色々あったのは確かだが、一応彼女の為にやっているんだけどな。お礼が欲しいわけではないから別にいいんだけど……。

 

 

 

 会話なんて無い。俺も目を閉じ、彼女も小説を読む。そして、時間が経過し六時になる。

 

「では、行きましょうか」

「そうですね。ずっとここにいるのも嫌ですから」

 

 

 校内は生徒は誰も居ない。教師が数人いるくらいだろう。シンと静まり返り、二人が廊下を歩く音が良く聞こえる。教室に入りお互いに席に着く。俺たちの席は結構離れている。彼女は廊下側の一番前。俺は、校庭が見える窓側の一番後ろ。どうでもいいことだが俺の前が佐々本。

 

 この席順はクラス分けをして入試の成績順になっている。窓側の前から良い順で並んでいる。クラスは、入試成績の結果をバランスよく分けている。つまりクラスで校庭側の後ろというのは俺の成績はほぼ最下位という証だ。

 

 これには訳がある。自身を鍛える為にひたすらに訓練をしてきたため、勉強があまりできなかったという点。とは言え前世の経験もあり多少はできるのだが、入試の日は体調が悪く、まさかの解答欄が一か所ずれていたのだ。

 

 テスト終了一分前に気づいたが時すでに遅し。全部間違ったわけではないが、そのせいで佐々本の後ろという不名誉な席になったのだ。佐々本は頭が悪い。本来なら彼が校庭側の一番後ろだ。しかし、俺が後ろになっている。バッドエンドを回避できればそれでいいので特に気にしないし、これは裏設定で書いてあったので教師くらいしか知らないから馬鹿にされることもない。

 

 まぁ、こんなこと今考えても仕方ないし、どうでもいいんだけどな。バッドエンドを回避できればそれでいい。

 

 さて、こんな事を考えてるうちに大分時間がたったな。現在七時過ぎ。

 彼女はずっと小説。そろそろ、だな。俺は席を立ち教室を出て行く。彼女は特に何も言わない。

 トイレに行くとでも思っているのかもしれないが、そうじゃない。

 

 そのまま学校からも出て行く。学校に登校してから全く授業を受けずに出て行くなど普通じゃないが。

 俺はバッドエンドを回避しなくちゃいけない。この後、ストーカーも控えているのだ。

 

 

 ――とりあえず、不良だけでも完璧に対処しないとな。

 

 そのまま不良に初日会った場所に向かった。

 

 

◆◆◆

 

 

 時刻はもう八時過ぎ。教室にはAクラスの生徒が既に大分そろっている。私はクラスメイト達と親しげに話す。

 

「見て! スマホカバー新しくしたんだ」

「まぁ、凄く可愛いですね!」

 

「私はネイルしてみたんだ」

「まぁ、とってもキュートですね!」

 

 

 余り楽しくはないですね。適当に言葉を返しているが楽しくない。少し言葉を言い換えて話すだけだ。

 

 本当につまらない。こいつらも何かあれば裏切るという考えが、私から離れない。そんな負の心でクラスメイト達と接している私は校庭の一番後ろの席を見た。

 

 

 そう言えば彼はどうしたのだろう? 朝一緒に来て、急に教室から出て行ったと思えば一向に戻ってこない。お花摘みにしては随分長い。一時間位たつかもしれない。

 

 

 もうすぐホームルームが始まるのに何をしているんだろう? 行動が読めない。昨日も散々私に色々やって、今日は朝五時に集合しろ等と言ってくる。

 正直断ってやろうと思ったが、不良から絡まれたところを助けてくれた恩がある。

 

 ……ムカつく。私は、彼が嫌いだ。入学三日目で嫌いになった。

 

 彼と一緒に居るとイライラする。誰かの為に自分を投げ捨てた姿勢。

 そんな人は存在しない。私はもう騙されない。彼にも何か下種な思惑があるはずだ。

 

 だからこそ、彼の目的を知るために二人きりの空間を作った。私は自分で言うのも何だが、かなりの美人だ。そしてスタイルもいい。もしかしたら私に取り入ろうとしているのかもしれない。それを見極めたかった。

 

 結果、分からなかった。一緒に時間を過ごしたが分からなかった。

 すぐに襲ってくる下種か。それともすぐに襲うのが不味いと、もっと親密になってと頭が回る下種か。

 そのどちらかと思ったがどうにも違う気がする。前者ではないなら後者と考えたが、それにしても何か引っかかる。

 

 私に好意を持たれたいようにはあまり見えない。イライラする。それがどんどん膨らんでくる。

 もう思い出したくはない。あの時は私が馬鹿で、失敗して、無駄になったいうことを学んで。

 そこから、納得して、自分をだまして、今の自分を作った。

 これからはこの打算の私で生きていこうと誓ったのに……。

 

 彼を見ると、過去の自分を見ているような気がする。

 何度も何度もその姿を見る。

 

 『こんなにきれいで、カッコいいのかと、理想を見る』

 

 ――それがイライラする。どうしようもなく。

 

 

 もう彼と関わるのは止めよう。これ以上彼と一緒に居ると、私の心が……。これ以上は関わる必要はない。不良の件は今朝の登校で借りを返した。

 

 

 友達と話しながらそんな事を考えていたら、教師である六道先生が教室に入ってくる。

 それを合図にしたように皆が私から離れていく。

 

 

「諸君、おはよう。今日も欠席は……黒田が来てないのか」

 

 先生が彼の席が空席であることに気づく。仕方ない。登校はしたということを言っておくかと思った時だった。

 

「六道先生!! 大変です!!」

 

 他の女先生が慌てながら教室に入ってきた。

 

「何か、あったんですか!」

 

 その慌てように先生は動揺した表情をした。生徒達も何かあったのかと少し騒がしい。

 

「黒田十六夜君が、あの素行が悪い生徒が多いことで有名な天之川高校の生徒達に暴行されて、病院に搬送されました!!! 意識はあるようなのですが……」

 

「っ!!! 分かりました。すぐに向かいます!!!」

 

 慌てて六道先生は出て行った。生徒達にも動揺が広がる。

 それは私にも。

 

 ――何が起こっているのか理解できなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「いってぇ~~~。全身が痛い」

「不良に友達にもう関わるなと言ったらボコボコにされたなんて、今時あるんだね」

 

 病室のベッドの上で、顔の顔面以外に包帯が巻かれている。一応点滴もしている。俺と話しているのは、医者。かなりのベテランで名医っぽい感じがする。しかし、まだまだ若そうだ。

 そして優しそうでイケメン。

 

「体の至る所が打撲。骨折はないけど、まぁまぁ重症だよ」

「あの不良ども少しは手加減しろよ!!」

 

「不良の方は警察で取り調べを受けてるみたいだけど、懲りないだろうね。素行が悪くて有名なんだ。天之川はね……」

「そこは考えてますから」

「?? 良く分からないけど、安静にね」

 

 俺の現在の事情を説明すると、そのまま先生は病室を出て行った。四人一組の部屋だが、俺はカーテンで区切っているので実質一人のようなもの。

 

それにしても痛い。そして怖かった。

 

 教室を出た後、学校を出た俺は不良がいる場所、人が少ない場所に自ら乗り込んだ。

 その後、いったん逃げた。

 その後、人通りの多いところでわざと捕まり、ボコボコにされた。

 

 うずくまって、じっと耐えたが涙が出てしまうほどに痛かった。

 人通りが多いことで、すぐに誰かが警察や病院に通報してくれたので幸いだが、これも計画の内。人通りの多いところで通報されれば、いくら不良でも逃げる。警察が怖くないと言っても少しは何かを感じるだろう。それは計算していた。

 

 一応、誰も通報しない場合も考え、俺も、念のため逃げながら警察に不良に追われていると連絡を入れた。

 

 そして、先ず人通りの多いところに逃げた理由は、人がいない所ではマジで死ぬからだ。バッドエンドでは三日目。銀堂は無理やり陵辱を受けるが、それは人がいない場所。

 

 二日目で運悪く捕まり行為をされ、三日目では不良仲間が総出になって朝から銀堂をつけ狙う。通学途中の道のりの少し人通りがないところで無理やり捕まえるという筋書きだ。

 

 だからこそ、彼女をまず学校に行かせた。流石に早すぎたかもしれないが鉢合わせするよりましだ。

 

 

 そして、俺は何の抵抗もせずボコボコにされたが、それにも理由はある。

 

 ……そろそろじゃないか?

 

 学校にも連絡は言っている。そして、俺のクラスの担任と言えば?

 

 六道哲郎。彼の兄弟は、『血列団』というマジでヤバイ、ヤクザグループの頭領。

 自分の生徒がボコボコにされたとなれば、兄弟の力を借りて無理やり不良を統制するだろう。

 

 『血列団』は、まじでヤバイ。その辺の不良が構成員に会えば、無言で頭を下げるくらいだ。

 これについては、六道哲郎は生徒達に隠している。だからこそ、表立って力を貸してとは言えない。

「『血列団』の力を使って不良をどうにかしてください」等と。

 

 もし言えば、俺が怪しまれてしまう。

 六道哲郎に直接言わず、彼の兄弟に『血列団』の力を使ってもらうには俺がボコボコにされたという筋書きが必要だった……と思う。

 

 もしかしたら直接言っても大丈夫な可能性もあったが、そうでない可能性もあった。

 そうなったら、残りの二人が救えない。

 

 普通に一般生徒として相談する手もあったが、今この現状の方が親身になってくれる。少し嫌な考えだが、同情も誘える。まだ入学三日目。彼はいい教師というのは知っているが、すぐに兄弟パワーを使うとは限らない。彼も人間、誰かれ構わず兄弟パワーを使うとは限らない。

 六道哲郎という人物に確実に彼から兄弟パワーを使ってもらうには、この手が一番であり、そして、

全てのリスクを考え行動した結果、打撲という結末になったのだ。

 これくらいで済んでよかった。亀のようにうずくまり必死に攻撃を耐えながら、どうか骨は折れませんようにと、涙ながらにそう祈った甲斐があった。祈りは届いたようだ。

 

 何やらドンドンと、誰かが走ってくる音が聞こえる。

 

 

「大丈夫か!! 黒田!!」

 

 どうやら、六道哲郎が来てくれたようだ。さて、凄く痛い振りでもしようかな?

 ここまでやったんだ。彼には存分に兄弟パワーを使ってもらわないとな……。


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