今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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八十八話 中学時代あるある

 私は至れり尽くせりの一日を送っていた。食べ物が勝手に運ばれて片付けもしてくれてまさに悪役令嬢……ではないお姫様のような待遇。

 

 

火蓮先輩はいつもの百倍優しく、アオイ先輩の美声の読み聞かせと子守唄で童心に帰り気持ちよいお昼寝タイム。正直に言うと風邪なんて既に大分よくなっていると言ったのだがそれでも尽くしてくれる。申し訳ないと思う反面、ちょっとリッチな気分でお嬢様の気分で楽しい……

 

 

そんな事を考えてると襖が開く。こんどは萌黄先輩であった。

 

 

「やっほー、体調はどう?」

「大分、良くなりました。熱も下がりましたし」

「なら、良かった。はい、すりおろしりんご」

 

 

彼女は座りすりおろしりんごをスプーンですくって私の口元へ運ぶ。

 

「本当に色々ありがとうございます」

「いいのいいの、ほれほれ、あーん」

「ぁーん」

「コ、コハクちゃんが頬張って僕のすりおろしリンゴを食べてる……ゴクリ……」

「何を言ってるんですか!?」

「ジョークだよ、ジョーク。萌黄ジョーク」

「意味わかりません!」

 

 

偶にこの人は変態のような気がする。まぁ、分かってはいたんだけど普段がしっかりしてる割にギャップがある。

 

「何か、可愛い子が美味しそうに食べるシーンって一生見てても飽きないよね」

「共感できません」

「あ! 汗かかないといけないから僕が抱き枕になろっか?」

「急にボケ連発しないでください。それよりリンゴください」

「いいよいいよ、どんどん頬張って!」

「その言い方はやめてください」

 

 

まぁ、リンゴは美味しい。リンゴが無くなると彼女が一緒に持ってきた、少し甘い匂いのするジュースを彼女は私に差し出す。

 

「後これも飲んで。手作りはちみつレモンジュース、生姜入り」

「ありがとうございます……美味しい。ありがとうございます」

「よかった」

 

体が芯から温まるジュースでポッカポカである。彼女からはかなりの良妻臭が漂っている……ふと気になった。この人は十六夜君の事をどう思っているのか

 

「先輩は十六夜君の事好きですか?」

「えええ!? 急!? どうしたの!?」

 

何ですか? この慌てようは……

 

「気になっただけです。で? どうなんですか?」

「あ、えっと、普通です……好ましいとは思うけど火蓮ちゃんとかコハクちゃんみたいな感情は無いです……」

「急に敬語ですね……」

「あ、いや、急に変な事言うからミスっちゃっただけだし!」

「急に大声上げますね……」

「っ……まぁ、とにかく特に僕は彼のことなんて、何とも思ってなんかないんだからね!」

「急に火蓮先輩みたいになりましたね……」

「っ!? ……アハハ、じゃあ、僕はこの辺で失礼しまーす。ごゆっくりおやすみくださいませ~」

「ありがとうございました……」

 

逃げるように彼女は部屋から去って行った。まさか……萌黄先輩も……いや、今は考える必要はない。

 

 

その後、夏子さんから連絡が来たのでしばらく話して時間を潰した

 

 

◆◆

 

 

 

再び、襖が開く。今度は……十六夜君でした! スポーツドリンクとエネルギーゼリーとかいろいろ持ってきて入ってくる。私は体を起こして彼と目を合わせる。

 

 

「体調は大丈夫と皆さんから聞いたのですが、一応聞きます。大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですから、そんなに不安そうにならないでください」

 

 

十六夜君は心配そうに私を見る。彼に気遣ってもらえると言う事が嬉しくてたまらない。

 

「すいません、心配をおかけして」

「これくらい大丈夫です! 全く気にしないでください! それより早く横になって寝てください!」

 

彼は私に寝るように言うがすでに今日はお昼寝をしてしまったので中々寝れそうにない。

 

「寝れる、BGM流しますから!」

「あの、お気持ちは嬉しいですが既に今日お昼寝をしているので、これ以上は夜に寝れなくなってしまいます……」

「そうですか……じゃあ、何か出来る事はありませんか?」

「そうですね……じゃあ……あっ! あの、移したら悪いですから。大丈夫です」

「いえ、寧ろ移してもらうためにここにいるくらいですから大丈夫です!」

 

 

どういうこと!? 彼の言った言葉を私は直ぐには理解できなかった。

 

 

「ど、どういうことですか!?」

「風邪って人に移したら治るって言うじゃないですか。だから、移して貰って元気になってもらおうと思って」

「ああ、そういうことですか……」

「ですからお気になさらず。なんなりと言ってください!」

 

では、頼もう! 何がいいか……添い寝? 膝枕とか、でも、普通に手を握ってもらったりなんかして!

 

よし、ハグにしよう! 

 

「で、では……っ!」

 

 

し、しまった! 熱があった状態でお昼寝したから寝汗をかいてしまった……こ、こんな状態では……蒸れたにおいを嗅がせることに……お手手にしておこう。うん。

 

 

「手、手を握ってもらえますか?」

「そんな、寧ろ俺にとってのご褒美です! 逆にいいんですか!?」

「いいんです! お願いします!」

 

 

最近思うが十六夜君からグイグイ来てくれるのがたまんない。そして、手が良い感じに硬い。微熱ってこんなにいいことだったなんて……ありがとう、微熱。めちゃんこ幸せ。

 

こんな優しい人と両想いなら……それだけでいい。例え、二股でも……私は唐突にそう思った。手を握りながら私は話した

 

 

「二股でいいですよ……」

「え?」

「こんな優しくて素敵な人なら一緒に居るだけで私はいいです。ですから、私は認めます」

 

本当にそう思った。そして、彼も笑顔にそれを肯定すると思った。だけど……

 

「いや、今はその話はやめときましょう」

 

彼は私の話を断った。もしかして、私を嫌いになってしまったのかと一瞬恐怖したがそれはないだろう。では、なぜ断るのだろうか?

 

「コハクさん、俺はクズです。どうしようもないです。こんな美人が告白してきたのに二股がしたいと言う。コハクさんも俺をクズだと思いませんか?」

「い、いえ、そんなことは……」

「正直で大丈夫です」

「……そうですね……クズだと思いました。でも、それ以上に私は貴方が好きですよ?」

 

 

確かに最初はクズだとも思った。でも、今ではそこまで……そこまで……いや、ほんのちょっとだけ思う位だ。

 

 

「ありがとうございます。でも、俺は貴方が少し遠慮してる気がするんです」

「……そうでしょうか?」

「貴方が遠慮する必要はないんです。俺が馬鹿でとんでもない事を言ってるだけだから、貴方は何も譲らないでください。俺は後腐れを残したくない。心の底から言える時に言って欲しい……です」

「……」

「それに今日は熱が出て少し、冷静な判断ができていないかもしれない。だから……今日は一旦おいておきましょう! そして、ゆっくり休んでください!」

 

 

この人、損な性格をしていると私は思った。言い方を変えると物凄くメンドクサイともいえる。少しくらい曲げても良いと思う。少しくらい曖昧でも良いと思う。でもそんなことはしない。愛が物凄く強くて暖かい。

 

ああ、ここが好きなんだ……どうしようもなく……

 

 

「そうですね……先ほどの発言はなかったことにしてください。後、今日は一旦休ませてもらいます」

「そうしてください」

「……しばらくこのまま手を握ってもらってもいいですか?」

「お願いします」

 

 

互いの手を握ったまま私達は一言も発さない。普通なら気まずいと思うかもしれないけど、そんなことはなく寧ろずっとこのままで居たいと思う。永遠に続いて欲しいと思う。

 

 

 

しかし、唐突に私のお腹が鳴ってしまった。

 

『ぐぅぅ』

 

現在の時刻はお昼過ぎ。おかゆとすりおろしリンゴだけでは足りなかったのだ……途端にこの部屋の雰囲気が気まずいものとなる。再び風邪がぶり返したように体中が熱い。恥ずかしいぃ……

 

「お腹空きましたよね……」

「い、いえ、べ、別に……」

「萌黄先輩のクラムチャウダーでも持ってきますか?」

 

 

ク、クラムチャウダー!? あさりの風味が効いたクリーミーで無限に食べれるのではないかと錯覚するあの!? しかも、萌黄先輩が作ったのであるなら絶対美味しい。食べなくても分かる。一緒に暮らしていくうちに萌黄先輩の料理の腕は把握している。絶対美味しい。

 

 

しかし、ここで肯定したら……まるで私が食いしん坊みたいな感じに……前に鼻水を流し、こんどは空腹でお腹を鳴らし、最悪だ……わ、私の積み上げてきた、気品のある、清楚で、麗しく、礼儀正しく、愛も重くなく、手頃でおっとり天然感があって、非の打ち所がないお嬢様感が、く、崩れてしまう……でも、お腹は空いてきたし。おかゆとすりおろしリンゴだけで朝昼両方を乗り切るのはきついし……

 

「持ってきます! 俺もお腹空いたので! 一緒に食べましょう!」

「あ、あぅ……お、お願いします……」

「分かりました!」

 

 

空腹には勝てず、さらに同調圧力で思わず頼んでしまった。彼は私がお腹を鳴らしたことなんて気にせず、いつも通り部屋から出て行った。

 

「ぁ、ぁ、あああああああああああああああああ!!!! や、やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その後、最高の雰囲気から最悪になってしまった後悔と、自身の空腹の胃を恨み、大声を出した。

 

 

 

◆◆

 

 

 

そこには、天使が居た。阿修羅と堕天使も。そして彼らは一角であるライオンの敗北を知ったが特に驚きはしなかった。

 

「ふん、やつは四天王の中でも最弱。負けても仕方あるまい」

 

堕天使が言う。そして、次なる刺客は……

 

 

「……」

「阿修羅、貴方が行くのですね?」

 

 

無言で阿修羅が四つあるうちの一つの手を上げる。阿修羅は命を九十九持っている奇怪な生物。戦闘能力も高い。

 

「では、いつでも行ってください」

「……」

 

 

阿修羅は無言でその場を去っていった。すぐにはいかないが準備を整え次第向かうつもりだろう。

 

「お前が行かないのか?」

「私はいいです。私の力は人の精神に入り込み内側から破壊する強力で唯一無二ですが相手の力量がまだ知れていませんから」

 

 

堕天使の疑問に天使は華やかに答える。天使が語る能力、それは、かつて十六夜が倒した夢喰いに近い能力だ。

 

もし、知らずに十六夜に入り込めば……結果は言うまでも無いだろう。両者共に治癒不可のダメージで痛み分けである。

 

「そうか……もし、阿修羅がやられたら俺が出よう」

「ええ、そうしてください」

 

 

彼らはどこか舐めている。自分たちが優れていると勝手に思い込んでいる。だからこそ、彼らの足元に大きなアジフライが……いや、一皮むけて十六夜はその領域ではない。キスの天ぷらだ。そのキスの天ぷらが転がってる事には気づかない。だからこそ、きっと彼らはそれを踏みつけ滑り盛大に転ぶだろう。

 

その時は近い。

 

 

 

 コハクの調子が良くなって二日たった。彼女は微熱で風邪の引き始めに直ぐに対処できたのが功を成したようだ。そして、リビングで俺は再び……彼女に二股について告白してみようと思った。一昨日はなんとなく彼女が遠慮して折れた感じがしたからやめた。そして、熱で心が弱っている可能性もあった。大分、熱も下がり冷静になっているからしっかりとした判断ができそうだし、この間、取り消しとは言え二股を認めるといったから真っすぐ告白したらともしかしたら心変わりがあって、完全に認めるかもしれないと思ったのだ。

 

 ――というわけで

 

 

「コハクさん付き合ってください」

「ごめんなさい」

 

まぁ、こうなるのは分かっていた。何回振られるんだ俺は……

 

「……正直、私は認めてよかったんです。でも、貴方があまりに素敵だから二股するには惜し過ぎます。独占したいんです。だから、今の所は私は二股を認めません」

「そ、そうですか……」

 

くっ……滅茶苦茶可愛い笑顔で言ってくれるじゃないか……俺は推しの押しには滅茶苦茶弱いと言う事を改めて知った。

 

 

 

 

 その日の、夕方。俺は自宅のベランダで夕日を眺めていた。黄昏ているわけではない。色々考えているだけだ。

 

そして、ふぅーとため息を吐き……

 

 

「いや、恥っずいわぁぁぁぁっぁあ!!!」

 

 

俺は大声を上げる。それも仕方ないのだ。夕日が俺を照らす。ハードボイルドではない、ただのキスの天ぷらである俺を。

 

 

「あんなイケイケでアタックとか恥ずかしい!! そして、言葉選びのセンスよ! 中学生か!! もっとカッコいい言い回しあるだろう! 火蓮への告白とか訳分らん感じになってたし! 異世界あるあるで告白とか意味わからないし!!」

 

最近の自身の奇行について振り返り、そして、恥じる。最近の自分は可笑しいと分かっており、行動も奇抜さが目立ち、挙げればきりがない。

 

 

「って言うか、あんなにガンガン行こうぜじゃないんだよ。ハズカシイにもほどがある、しかも、何回振られてるんだ!? デート中に雨を魔装技でぶっ飛ばすとか発想が中学生か!?」

 

 

そして、ここで思い出したくもない前世を思い出す!!

 

 

「ああああああ、中学の授業中にテロリストが攻めてきたらどうしようとか考えたの思い出したぁぁぁぁ!!」

 

負の連鎖である。恥ずかしい記憶が芋づる式にどんどん出てくる出てくる。

 

 

「銃口さえ見てれば避けられる!! 机を盾にしよう!!! 手の甲で銃弾を弾こうとか考えてたぁぁぁぁぁぁぁ!! なんで今思い出すんだぁぁぁっぁ!!!」

 

 

頭を抱えて恥ずかしさで全てが真っ赤になる。しかし、吐き出せば何気に清々しささえ覚えるのは不思議である。

 

「ふぅ、明日からも二股を目指そう……」

 

 

一度、気持ちをリセットして俺は再び歩き出す。これから先に何があろうと、止まらない。恥ずかしくても真っすぐアピールすることはやめない。不器用な俺に出来る事を精一杯やるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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