今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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感想、誤字報告ありがとうございます。


今回はどのキャラの需要があるのか気になるので、もしよろしければアンケートで教えてください。



九十四話 マグロ対アジフライ兼キスの天ぷら 後編

 十六夜君と私は一緒に早退して家に帰ってきた。いくら何でもあのままの彼を学校に置いておくのは不味いと判断したからである。現在の覚醒は大体、一日位で治るらしいので本日はゆっくり家で休んでもらい、明日から学校へ行くと言う形にする。

 

「十六夜君、今日はお家で勉強しましょう」

「ふっ、いいだろう」

「制服ではあれなので着替えますね。十六夜君も着替えて、しわにしない様にハンガーとかにかけてくださいね」

「ああ」

 

彼は一旦自室に戻り、私も服が置いてある部屋に向かって着替えを開始する。セーターを着て、下には長めのズボン。上着はちょっとボディラインが出すぎかと思うがこれで取りあえずいいであろう。

 

そして、この後は偶にはリラックスの時間を二人で送ろう。十六夜君は走りっぱなしであるし、メルさんともこそこそ話をしているところもよく見ている。今日はゆっくりタイム。

 

映画見て、宿題を二人でのんびりやって、テレビ見て、おやつ食べて、あわよくばイチャイチャしよう。クフフ……おおっといけない、表情筋よ、仕事をしておくれ。

 

等と考えながらリビングに向かって椅子に座る。十六夜君もパーカーをきてラフな感じを滲み出しながら、何故か眼帯を付けている

 

「十六夜君、なぜ眼帯を……」

「全てに意味を求めないほうがいい」

「おお、何か深いですね……でも、片目だけに負担をかけるのは良くないので外しましょう」

「あっ……」

 

 

私は彼の眼帯を無理やり外す。名残惜しそうに見えるが関係ない。その後、ソファーで二人して隣に座る。

 

私はテレビでロマンチックな映画をつけた。かなり感動する素晴らしい物なので彼にも知っておいて欲しいのだが。しかし、彼は映画ではなく私の方をチラチラ見ていた。

 

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない…………童貞を殺すセーター……」

 

 

前半は聞こえたが後半は何と言ったか聞こえなかった。きっと可愛いとか麗しいとかと言ったんだろうなぁ、うん。ラブラブカップル一歩手前くらいだしね。ほくそ笑みながら映画を見る。

 

最後は結婚のシーン。ジーンと来るな……画面の中には教会で愛を誓いあう二人の口づけで幕を閉じる。色々な困難があった、ドラマがあった、障害も、互いに嫌いあう時もあった、だけど最後には結ばれる二人。

 

こんな風にいつか……私も、私達も……流石に気が早すぎたかもしれない。あまり、考え過ぎると愛が重いと取られかねない。ここら辺にしておこう。

 

「良い映画でしたね」

「そうだな」

 

彼も感慨深い表情で画面の二人を祝福しているように見えた。一緒に居て彼は何時もと変わった態度だが心までは変わっていないことが分かる。映画が終わり余韻に浸っていると彼が私に言いずらそうに話し始めた。

 

「そう言えば、マグロのことはどう思ってるんだ?」

「特に何とも思ってないですよ」

「そうか」

 

 

もしかして、独占欲? 取られたらどうしようって思ってる? 彼は意味もなくこういう事を聞かない。それは知っている。それに異性にそう言う事を聞くってもう、語っているようなものだ。だけど、ついつい、それを言葉にしてほしいから私は聞いてしまう。

 

 

「どうしてそんなこと?」

「全てに意味を求めない方が良い」

「今は求めたいです」

「……」

「ふふ、やっぱり聞かないでおきます。だって、そんな質問をする理由が分からない程、私は鈍くないですから」

 

 

彼はギョッとして目を逸らす。恥ずかしいのか何も言わずに黙りこくってしまった。私も自分でそんなことを言ってしまって少々恥ずかしいので彼の肩に頭を預けて寄りかかった。

 

◆◆

 

 

さて、僕たち二年生組が家に帰ってきた。彼とコハクちゃんが早退したと聞いたのだが、まぁ、こうなっても仕方ないと感じた。

 

玄関のドアを開けて僕たち三人は靴を脱ぐ。

 

「今日、宿題多くね……」

「仕方ないわよ。答え見てパパっと終わらせましょう。今期のアニメが溜まってるし、予定が詰まってるわ」

「火蓮ちゃん、答えは見ちゃダメだよ」

「いいのよ。テストは毎回満点だし」

「でも、ダメだよ」

「そだね。あーしも同感」

 

 

僕たちは廊下を歩いてリビングのドアを開ける。前に一旦、僕たちは停止した。リビングの中から声が聞こえてきた。

 

 

「ふふ、十六夜君、カチカチですね」

「くっ、もういい」

「ダメですよ、しっかりこれはほぐさないと。大丈夫です。きっと、気持ちいいですから。ほら、力を抜いてください」

 

 

……ちょっと待ってぇ。部屋の中でナニしてるの? 火蓮ちゃんも固まった。え? みたいな顔をしている。ちょっと落ち着こう

 

「ねぇ、これって別に変なことしてないよね?」

「……そうに決まってるわ。私達が年頃だから汚れた聞こえ方するだけよ……でも、もし変な事してたら……一生、口聞いてやんない」

 

彼女は冷ややかな声でそう言った。いつもの真っ赤で情熱的な彼女からは想像もできない機械的な声。

 

「ほ、本当に?」

「……やっぱり、一か月にする」

 

 

空気が霧散した。僕たち二人が対応に追われる中アオイちゃんが堂々と部屋のドアに手を掛けて開けようとする。それを僕が止めた。

 

 

「ちょ、ちょっと待とうか」

「なんで?」

「いや、ほら、中でナニしてるか分からないし」

「いや、別にいいじゃん。いつも堂々と入ってるし」

「でも、ヤバいことしてるかもよ!?」

「やばたにえん?」

「そう、やばたにえん!」

 

 

彼女にグイって近づいて彼女の動きを僅かに制限。ふふふ、彼の模倣(トレース)。強気で言ってドンドン自分のペースに持っていき相手の動きを封じると言う御業である。

 

……いけない。厨二的な思考が蔓延している。しかし、僅かに迷った事で隙が生まれてしまい彼女の反論を許してしまった。

 

「ヤバい事ってどんな?」

「え?」

 

 

ピュアの一点集中。

 

「そ、そうだね……えっと。その、変な意味のコリをほぐすって言うか……」

「ちょいと意味わかんない。もっと具体的に言ってくんない?」

「あ、そんなことよりアオイちゃん肌キレイだね。やっぱり白湯が効いてるのかな?」

 

 

露骨に話を逸らしていく。

 

「そう? まぁ、そう言われて悪い気しないって言うか……白湯は良いよ」

「僕も最近、飲んでるんだぁ。そう言えば豆乳も飲んでるよね?」

「豆乳も飲んでる。好きだから」

 

 

チョロい……そこが可愛さでもあるんだけどちょっと悪いことをしている気分になる。この後、どうしようか、部屋の中に行くのもいいけど。もし、変なことしてたら。このままアオイちゃんをずっと足止めと言うわけにも、かと言って開けて中で行為だったら……

 

僕が迷っていると火蓮ちゃんは覚悟を決めたのか、バンっとドアを開けた。

 

そこには、彼の肩を揉んでいるコハクちゃんの姿が。

 

「おかえりなさい……ドアはもっと優しく開けるべきだと思うのですが」

 

そんな、こっちの気遣いなど知らんと言った彼女のほんわかな言葉に火蓮ちゃんが若干怒った。

 

「紛らわしい言い方するんじゃないわよ!」

「何がですか!?」

「コリほぐすとかカチカチとか、気持ちいいとか! 変な言い回しのことよ!」」

「っ! 貴方の頭の中が淫乱なんですよ! 勝手に何想像してるんですか!?」

「普段のコハクの行いのせいよ!」

 

火蓮ちゃんは若干の八つ当たり感があるが……怒っていた。若干、安どの表情も出していたが。この後、アオイちゃんに何故二人が喧嘩しているのかと聞かれたが、髪がふさふさだねという話をしてごまかした……

 

 

 

 

 

次の日、僕たちはいつものように朝食を食べるのだが、彼の表情が死んでいたため何とも言えない空気になっていた。

 

「十六夜君……その、何でもありません……」

 

コハクちゃんもこちらの世界に帰って来て元に戻った彼の絶望の表情に何も言えない様であった。どうやら昨日の記憶は健在のようだ。火蓮ちゃんも言葉詰まって何も言わない。

 

 

「……学校行きたくねぇ」

 

 

ポツリと彼からこぼれたひと言。いつも敬語の彼には非常に珍しい。自分で自分を保てない程、心が折れているんだろう。

 

その後、家を出て学校に向かって皆で歩く。学校へ向かう途中周りからのひそひそ話、様々な視線が降り注いだ。

 

 

「おい、もしかしてあれは」

「良く分かったな。奴が……令和のブラックバスだ」

「なん……だと……」

 

 

「令和のブラックバスだって?」

「俺は、余波のピラニアって話も聞いたぜ」

「確かに話を聞いただけで俺の精神を貪ったが……」

 

 

だ、大丈夫だろうか……彼の表情が……僕たち全員が心配そうな視線を向ける。そこでコハクちゃんがairPodsを出して彼の耳につける。

 

「コハクさん……」

 

彼の感動の声が聞こえる。コハクちゃんはニッコリ笑って、口パクで『私は、どんな貴方も好き』と言った。それに釣られるように火蓮ちゃんも口パクで『私も、それなりに……好き』と真っ赤な顔で言った。それで彼は少し、元気が出たのかairPodsをコハクちゃんに返した。いつもの堂々とした感じに戻った。

 

「十六夜君、良いんですか?」

 

 

こうなると周りの声が聞こえてしまう事を彼女は心配するが彼はフッと笑ってこう言った。

 

「まぁ、俺は皆さんが入れば正直大丈夫です」

「キュン……」

 

 

そこにキュンとするのはどうしてか分からないが彼は元気を出したようでなにより。火蓮ちゃんもちょっとキュンとなっている……

 

 

「きゅん……」

 

 

え? 今の誰? なにやら美しいマーメイドのような声が聞こえたのだが気のせいだろうか。

 

その後、皆で学校へ向かって歩き出した。そこでアオイちゃんがコハクちゃんに聞いた。

 

 

「さっきのしめじイヤホン何流してたの?」

 

airPodsをしめじイヤホンって言う彼女のセンス……素晴らしい。

 

「ああ、あれは火蓮先輩お勧めのアニソンである、『トラディショナル・サイン』です」

「へぇ、やっぱり火蓮はアニソンが好きなんだ?」

「まぁ、好きね。勉強するときBGMとしても使ってるわ。何ていうかテンポが良いって言うか、だけどそのテンポ一つ一つ、そこに重みがあるって言うか。アニメだと大体一分半版なんだけど、毎回見返してもオープニングはしっかりと聞いてるわ。あとね……」

 

 

そこから彼女のアニソン語りが始まった。彼以外彼女の話について行けるものはいなかった……

 

そのまま彼女のアニソン節を聞き流しながら歩いて、学校の校門へと近づくとそこには最近話題のマグロ……だっけ? なんだっけ? とにかくコハクちゃんに好意を抱いている彼が居た。

 

マグロはコハクちゃんを見つけると彼女の元に歩み寄ってきた。それは覚悟を決めた者の眼だった。だが、僕の隣に居る彼には劣る。彼はずっとマグロより強い覚悟があって慈愛溢れる眼だった。一瞬じゃない、ずっとなんだ。真の意味で彼はコハクちゃんが好きであり、それに彼女が気付いたからこそ彼女は彼に惹かれて焦がれた。マグロの行動力は少し彼に似ているところはある……がそれだけ。

 

そして、そこがマグロと彼の最大の違いなんだ。それは。きっとマグロはコハクちゃんに告白するだろう。彼との関係を見て彼女と特別な関係になるのは不可能だと誰でもわかる。だから実らないだろう。

 

「このまま何もできないままじゃ、終われない。昨日の君たちの姿を見て俺は思った。無理だろうって。すぐにでもこの気持ちを伝えたかった。こんなところで申し訳ないと思うが、俺と付き合ってくれ」

「……ごめんなさい」

 

 

コハクちゃんはあっさりと彼の告白を断った。マグロも分かっていただろう。あっさり身を引いた。

 

「そうか。まぁ、分かっていた。だが、このままじゃスッキリしない。だから、黒田十六夜、いや、令和のブラックバスこと、余波のピラニア。俺はお前を超えてやる。ありとあらゆる面でな」

 

クルっと踵を返して彼は学校へ向かって行った。朝から凄いイベントが目白押しだった。何というか、中々気まずい感じになってしまった。特に彼がホッと一息入れている。

 

「安心してください。私は、十六夜君一筋ですから。誰のものでもない、貴方のものです」

「ありがとうございます」

 

彼は照れ臭そうに笑っていた。周りでは女子たちがきゃきゃしている声が聞こえる。

 

「やっぱり、黒鮪君ってイケメンだよね」

「振られてもイケメンって凄いね」

「ああ、これで金親×黒鮪が出せる」

「コハクさんは面食いじゃないんだな」

 

 

やはり、イケメンと言うのは需要があるらしい。それはクラスの女子を見ても分かることである。周りの声が二人にも聞こえたようで彼はちょっと陰になった。それをみたコハクちゃんは彼に声をかける。

 

 

「……私は顔って言うより心が好きです。一目ぼれを否定するつもりもありませんが、やっぱり花がいつか散るように人は老います。その時に、嘗てのように、それ以上に愛せるかというのが大事です」

「確かにそうですね……」

「十六夜君はいつも優しくて大事にしてくれると心から感じます。そんな人がこんなに愛してくれる人が存在すると言う事に嬉しくて、ずっと一緒に一生生きたいって思いました」

「あ、ありがとうございます」

「心はいつまでも色褪せることはないものだと私は思っています。そして、貴方の心はどんな人よりもイケメンです。私はそこに惚れました。ふふ、この理論で行くと意外と私も面食いなのかもしれませんね?」

「っ!」

 

彼女は彼の顔を下から覗き込むようにして、かなり恥ずかしい事を堂々と言った。だけど、この瞬間、この二人にはどうでもよかったんだろう。互いに互いしか見えていない絶対領域。踏み込めないと自覚させられる防壁。

 

しかし、それを破る者がいた。

 

「なに朝からお熱してんのよ!」

 

二人の間に割ってはいる火蓮ちゃん。コハクちゃんは折角のいい雰囲気がぶち壊されたとちょっと怒りの顔。

 

「貴方は毎度毎度……邪魔しなければ気が済まないんですか!?」

「ふん、知らないわ。後輩の事情なんか」

 

 

公衆の面前で朝からキャットファイトが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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