今の所、世界の命運は俺にかかっている   作:流石ユユシタ

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次回、外伝投稿します。感想、誤字報告ありがとうございます。


九十六話 美女は幼女になっても可愛い

 朝ベッドで寝ていると腹部に強烈な痛みが走り、ぐえっと言う下水道な声を発して目覚めたら……目の前にツインテールな火蓮の幼女バージョンが……メルの変な薬を飲んだと言う事をすぐに悟った。こういう事はよくあるのだ。ストーリーでも誰かが研究品を飲んでしまったりとかでドタバタする日常回は多数存在する。その中の一つである幼児化というやつだろう。しかし、幼児化にはかなり、悲しい描写も……と考えていると彼女は俺の肩を両手で掴んで揺らす。

 

「遊ぼ!! ねぇねぇ、遊ぼ遊ぼ!!」

 

 

幼い顔つきだがこの時点で相当な可愛さを持っている。大体、幼稚園児くらいだろうか? 将来がルビーレベルになるだろうと言う片鱗がこの時点で分かってしまう。

いつもはツンツンとして振る舞いなのだが、今は活発で元気いっぱいと印象を受ける。彼女は元は子供のころはヤンチャでいたずら好きで我儘。精神も若返っているようだ。普通の主人公ならこういったファンタジー的な状況になると混乱して、もう一回寝たりとか貴方は誰とか聞いたりするんだろうが……俺は違う。

 

 

「火蓮先輩、おはようございます。何して遊びますか?」

 

直ぐに適応をしていく。彼女にそう言うと目をキラキラさせてせわしなく口を開いた。

 

「えっとね、えっとね! おままごとしたい!」

 

何気に古典的だが王道な遊びである。おままごととは可愛いじゃないか。

 

「やりましょう。俺は何の役をやればいいんですか?」

「えっとね、えっとね。十六夜は勇者で私は魔王で。十六夜は魔王である私を倒したんだけど、帰りでパーティーメンバーに裏切られて手柄とられて、途方に暮れたところで元魔王の私に会って、人間に復讐したいって言う理由で私の使い魔になるってところからね」

「分かりました。ですが、その前に着替えとか歯磨きとかしてきくるのでリビングで待ってもらっていいですか?」

「うん! 待ってる!」

 

タタタタっと彼女は俺の上から降りて下の階に走って行った。それっておままごとか? という疑問は何処かに置いておこう。さて、俺も気合を入れて彼女と遊ぶ準備をしよう。

 

 

◆◆

 

 

ある程度身支度を整えてリビングに行くと火蓮が俺の元に寄ってきた。彼女に目線を落として膝を落とすと抱き着いた。

 

「いざよい、えへへ。頭撫でて」

 

思わず可愛すぎて、瞬きを忘れてしまった。その後、彼女の頭を撫でていると今度は他の方向からトタトタと走り声が聞こえて見るとそこには小さくなって銀色の妖精が。彼女も俺にタックルするように抱き着く。

 

「おはようごじゃいます! いじゃよいくん!」

 

噛み噛みだが。可愛さと気品は損なわれていない。髪も艶があってちょっと天真爛漫だがそこが可愛い。ボキャブラリーが低いが可愛いとしか言いようがない。因みにだが昔の彼女はちょっと舌足らずの時があり、興奮して早口になったりすることがある。

 

彼女も幼児化していると言うことは、他の二人もと思ってソファーに目を向けると、幼女化した二人が仲良く座ってテレビでシンデレラを見ていた。ソファーの前の机にはサボテンを置いている。台所には飲みっぱなしの水が入ったコップが四つ。これで幼女化したようだ……恐らく、一日位で元に戻るからそれまで俺がしっかりと見守ろう。

 

 

「いじゃよいくん。ままごとしましょう!」

「ちょっと、いざよいはわたしの使い魔よ!!」

「知らないもん。べぇー」

「カッチーン」

 

いつの間にか俺は使い魔になっていたようだ。コハクはあっかんべぇーをして火蓮を煽り彼女も怒り心頭。二人を抱えているがジタバタ動くのでしっかりと支えないといけない。

 

二人を宥めながらもソファに座る。するといきなりままごとが始まる。俺の腕のなかでコハクが話し始めた。

 

「おかえりなさい、貴方! あっ、私といじゃよいくんは結婚を前提に付き合っていて、一戸建ての家をどうするかと相談する中で今は同棲中と言う設定です」

「あ、分かりました」

「ちょっと、待って! 私はいざよいを拾ってあげて使い魔にしてこれから、ざまぁして、いざよいが私に惚れて使い魔と禁断の恋になるの!!」

「両方、兼任でいきます!」

 

二股を決めたんだ。おままごとくらい両方両立させてやろうじゃないか。それにしても萌黄とアオイは二人で遊んで静かだ。危険な事もしないし、シンデレラを見たり、サボテンを二人で眺めたり……

 

「この子、サボさんって言うの?」

「そう。あーしはサボさんとは十年の付き合いで旧知の仲」

「ええ!? そんなに!? すごーい!」

 

 

小さい頃の萌黄は今と同じで遠慮な感じで世話焼きな性格になる。アオイは素直で運動やゲームが好き。二人共今とそこまで変わらない。

 

「こっちみてください! いじゃよいくん!」

「すいません」

「もう、続きいきますよ」

「はい」

「では……ねぇ、ダーリン?」

「だ、ダーリン??」

「もう、ちゃんとハニーって言ってください!!」

 

彼女の中では色々設定があるようだが流石に……恥ずかしい……ハニーはちょっとな……幼女な彼女にハニー呼びは後で悶える。

 

「あの、もっと軽い感じのおままごとにしませんか? 付き合って一か月で初々しいカップルを俺はやってみたいです」

「いざよいくんがそういうなら……」

 

彼女は元気よく俺の考えを肯定してくれた。コハクに構っていると火蓮がほっぺを膨らませるので今度は彼女の方を向く。

 

「私と使い魔契約をするんでしょ! 感謝してよね。魔王にキスしてもらえるなんて前代未聞なんだから……、やっぱ無理……」

 

彼女は唇を俺に近づけようとするが、恥ずかしくなりやっぱりやめて顔を手で覆った。使い魔契約にキスはつきものだがそれはやったという事にすればいいよな。幼女の火蓮とキスは警察のお世話になりたいと自分から言うようなものだ。

 

しばらく、復讐に燃える勇者を演じつつ、初々しいカップルの二足の草鞋をして二人と遊んだ。すると火蓮は飽きっぽいのでままごとはもうやめて、別の遊びがしたいようだ。コハクはこのまま、ままごとを続けたいようで幼女同士の可愛い喧嘩が始まる。

 

「鬼ごっこしたい! 鬼ごっこ!」

「私はままごとしてたいです!!」

「じゃあ、両方やりましょう!」

「「どうやって?」」

「コハクさんを俺が抱っこしてままごとしながら、火蓮先輩を追いかけて鬼ごっこをするという方向で行きましょう」

「「うん」」

 

 

先ずは火蓮が逃げる役なのでソファから飛び降りて走り出す。しかし、すぐに足を絡ませて転んでしまった。すると直ぐに声が上ずり顔を赤くして泣き出してしまった。

 

「いたぁぁい、びぇぇぇぇん! いたぁい!」

「大丈夫ですか!?」

 

彼女をあやすように抱っこして頭を撫でたり、ゆすったりして彼女の感情を宥める。体だけでなく精神も幼くなってしまっているため普段泣かない様なことでも泣いてしまったり感情が不安定になる。

 

「「「……」」」

 

泣きじゃくる火蓮を抱っこしていると、他の三人と目が合った。コハクと萌黄とアオイ、偶然なのかどうなのか分からないが取りあえず火蓮を優しく抱っこを続ける。すると、コハクがソファから降りて急に走り出す。その一秒後わざとらしく転んだ。

 

「えーん、えーん。いたいです~。えーんえーん」

 

棒読み……だが、こちらを放置するわけにもいかない。もしかしたら、本当に泣いていると言う可能性も無きにしも非ず。二人共、再び抱えてしばらくこのまま。火蓮は泣き止み、コハクは嬉しそうにほっぺをスリスリしていたから所を見計らって、ソファに二人共座らせた。

 

 

◆◆

 

 

 二人はかなりハードに遊んだので疲れて眠ってしまった。犬猿の仲のように見えて心配になった時もあったが眠るときは互いに互いの手を握って気持ちよさそうに寝ている。パワフルな時間だったが俺自身も楽しかったので全く疲れていない。『魔装少女』と接することが出来るのであれば幼女化なんて寧ろ光栄。幼女最高である。

 

 ぜひとも写真に収めたいがそれは流石に不味いのでやめておく。小さくなった萌黄とアオイはここまで何も言わずに静かに遊んでいたがここにきてアオイが俺の服の裾を引っ張った。

 

「どうかしましたか?」

「ゲームしたいんだけど……」

「じゃあ、俺の部屋から最新のゲーム機持ってきますね。萌黄先輩もやりますか?」

「う、うん」

 

萌黄とアオイは幼くなったとしても、特に現在と変わらない。アオイは大人しくて友達を求める。だからこそ、先ほどまで萌黄と一緒に満足げにずっと遊んでいた。萌黄の場合は周りの視野が広くて優しいから多分俺に何かを求めたりはしない。だけど、寂しがり屋なのは変わっていない。

 

そして、この二人はきっと幼かったコハクと火蓮に遠慮していたんだろう。だから、二人が寝た後に遊びたいと言って来た。よし、しっかりと一緒に遊ぼう。俺だって楽しいだろうし。

 

「よし、俺と一緒に遊びましょう」

「わかった」

「うん」

 

テレビ画面でゲームができるように設定をしてコントローラーを渡す。ソファにはコハクと火蓮が寝ているので少し音量を下げてプレイを開始する。ゲームをする前にアオイが俺の膝の上に座った。

 

「座っていい? もう、座ってるけど」

「どうぞ。萌黄先輩も座りますか?」

「ええ!? いや、別に大丈夫……」

「そうですか?」

「うん、それよりゲーム初めようよ」

 

彼女の促されたのでゲームを始めた。内容は画面外にキャラクターを吹っ飛ばす格闘ゲームである。ちょっと、良いところを見せたいと思っていたのだが……アオイが強すぎる。萌黄も学習能力が高すぎる為、俺がボコボコにされた。

 

嵌め技からのコンボ、上投げからの吹っ飛ばし、上投げからの場外吹っ飛ばし。ちょっとセンチになった。

 

でも、楽しそうに遊んでいるから全然大丈夫。そして、遊び終わった後に

 

「あんがと……」

「僕も楽しかった」

 

って笑顔で言ってくれたから結果的にプラスである。自然と俺も笑顔になってしまう二人の不思議な魅力。そこで寝ていた二人が唐突に起きた。

 

「私もゲームやりたい!」

「私もです!」

 

コハクと火蓮も目をパッチリにして体力を全回復。このゲームは五人でも出来るから問題ない。今度こそ良いところを見せてやろうと年上の威厳という物を見せてやろうと、心に決めたのだが……まぁ、スペックが高い五人には勝てず。ボコボコにされた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 初めてだ。四人と一緒に寝るのは。前世ではこんな『魔装少女』を読みながらこんな女の子達が添い寝してくれたらどれだけ幸せかと考えていたことがある。流石に幼女な彼女達なら不純な気持ちでなく、清廉潔白な心境で一緒に寝れるので安心だ。逆に言えば普段の彼女達なら危ないと言う事でもある。この間、コハクと火蓮と寝た時は賢者モードで乗り切ったがあのときなんてマジで手を出しそうになっていたからな。

 

 

 夕食とかお風呂は彼女達が全部自分自身でやった。危ないんじゃないかと心配になったが『ストーリー』でも小さくなっても頭脳や経験は衰えないという描写があったので心配で気が気じゃなかったが彼女達に任せた。その後、寝る時間になるとコハクに怖いから一緒に寝て欲しいと上目づかいで言われたのでこうやって、全員で川の字ででになって寝ている。

 

 

彼女達は皆、気持ちい寝息をたてている。コハクと火蓮は俺の腕に引っ付いて、アオイは火蓮の後ろに引っ付いている。ただ、萌黄だけはなかなか寝付けないようで天井を見上げている。

 

 

 

「寝れないんですか?」

「うん……」

「トイレですか?」

「違うよ。失礼だね。君は」

「すいません……」

「謝らなくてもいいけど……」

「寝れないなら、暖かい飲み物でも飲みますか?」

「いいの?」

「いいですよ。一緒にリビングに行きましょう」

「それならお言葉に甘えて……」

 

 彼女を連れてダイニングテーブルの椅子に座らせて、彼女に白湯を差し出す。彼女は息で少し冷ましながら、少量ずつ飲み始めた。黙ってただ、彼女は飲み続ける。どこか、寂しげな表情で……その理由は何となくだが分かっている。

 

 

 黄川萌黄という人物は非常に愛に飢えている人物である。それは、普段の彼女の行動を見ていれば誰でも分かるだろう。だが、その気持ちの根源にあるのは母への愛と寂しさ。だが、成長した彼女はそう言った思いを無意識のうちに友達への愛、仲間への愛に転換していた。だからこそ、母が居ない事への寂しさや会いたいと言う気持ちがあったとしても他で埋めることが出来る。

 

 しかし、今の彼女はそれが出来ていない。多少は三人が居ることで緩和で来ているがそれでも寂しさの方が勝っている。三人が寝てしまった今この状況は彼女にとってもっとも厳しい状況とも言えるだろう。

 

 ストーリーでも彼女は幼女化したとき一人で夜泣いていた。皆と楽しく過ごしているときは彼女自身も楽しんで、だけど、夜になり一人寝れず昔の母親との思い出を想起していくと寂しさで泣いてしまう。

 彼女はただ黙っていた。だんだんと昔を思い出しているんだろう。特に夜は彼女の中で一番想い出に残っている。怖くても母親がいたから怖くなくて、暖かい、黄金の記憶。

 俺は彼女を抱っこして頭を撫でた。代わりに成るはずはない。それは分かっているが彼女の寂しさとかそう言った事がミジンコほどでもいいから無くなればいいなって思う。

 

 

「……急に何?」

「いえ、特に理由は無いんですけど」

 

こうやって、彼女の母親は彼女を抱っこして左右に揺らして続けた。寝るまで、彼女が寝るまで。すすり泣くように彼女から声が溢れる。

 

「っ……ぅぅ、」

「……」

 

ストーリーでは彼女は一人寝れずにそのまま一夜明けて元に戻るんだ。元に戻った彼女の記憶には残らない。だけど、僅かに心残りがあるがいつか風化するから言う必要もないと……彼女の不思議な経験になる。

 

俺が思うにこの状況の彼女は一人にしないことが大事だと思う。本当なら三人に任せるのが一番なんだろうけど流石に疲れて寝ている三人を叩き起こして一日中起きていると言うのは身体的負担もかかってしまう。ならば、かなり劣るが俺が一日中でも、一週間でも起きて一緒に居ようとという考えだ。

 

俺だって多少は萌黄から信用されている。偶に彼女の足をチラチラ見すぎてジト目が飛んでくるときもあるが基本的に俺は紳士なので大丈夫。

 

「ううっ……」

「……」

 

 

俺は黙って彼女を抱き続けた。その内に彼女も俺の首に手を回して本格的に泣き始めた。

 

 

背中をさすったり、彼女の母親がやったように昔話をしたりする中で彼女は目元が少し腫れているが寝てしまっていた。俺は彼女を布団に寝かしてお腹を優しくポンポン叩き続けた。

 

 

◆◆

 

 

 僕は目覚めた。昨日のことを思い出そうとすると頭が少し、ぼうっとする。何も思い出せない……しかし、自身の体を見ると……裸だった……隣には彼が居て……ええ!? こ、これ!? 事後!?

 

 慌てて周りの見ると皆も裸である。よく見ると服の切れ端みたいなのがそこら中に散らばっている。これはどういうこと!? と、特殊なプレイを5P!? まさかの5P!?

 

 いや、そうではないだろう。これは……そこまで考えて僅かに頭に何かがフラッシュバックする。曖昧な記憶。眼を薄く開いた状態で汚れたレンズ越しに映像を見ているような記憶が頭に中に流れた。彼が……泣いている僕を……これ以上は何もわからない……

 

 これは……。そこまで考えて思いだせる範囲で思い出す。昨日の朝に、アオイちゃんが白湯は体に良いって皆に話して、その健康法を皆でやろうって話して、冷蔵庫の中から水を出して沸騰させて飲んだら……そこからあんまり思い出せない。きっとメルちゃんの仕業だろう。あれほど、冷蔵庫の中に研究私物を入れるなと言ったのに……

 

 そこまで考えて僕は魔装を纏って、皆に慌てて服を着せる。これで寝ている彼が起きても大丈夫だ。僕の隣で寝ている彼の顔を見る。

 

…………思い出せない。思い出せないけど、君が何かしてくれたんだよね? 記憶には残っていないけど、心には残っている。暖かい何か。

 

……なんで? 君はいつも僕を大事にするの? どうして? 嬉しいよ、尊いよ、感動もする。だけど、……これじゃあ、もう……自分で自分を誤魔化せなくなっちゃうよ……

 

 

 

 

 

僕は想いを言い切れない歯がゆさを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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