整合騎士達と捻くれ者のソードアート   作:ゆっくりblue1

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第十話です。


不穏な影は何処までも続く。

デスゲーム開始から一カ月以上が過ぎた。第一層の攻略成功が知らされた後、攻略へ向けての希望を見出した攻略に参加していなかったプレイヤー達が徐々に安全な《圏内》を出て、フィールドに足を踏み出し始めた。

 

この世界のシステムを把握出来ていない者は攻略の先駆者達が生んだ攻略本が無料で提供された為にそれを基に今後この世界での生活を学んで、モンスターとの戦い方やシステムでのやり取り、金銭面でのやりくりを行う。

 

そして、ソロで生き抜く者、パーティを組んで堅実に行く者へとプレイヤーの選択肢は二分化していた。

 

それは私達も例外ではなく、現実ではあり得ない程に当たり前になってしまった死の恐怖と戦いながらこの世界と向き合っていた。

 

第一層の死刑宣告とも思えるこのゲームをデスゲームに変えた開発者の茅場により、私達総武高校から参加した生徒全員は混乱と恐怖にしばらく支配され切ってしまうことになった。

 

まず由比ヶ浜さんはショックで二週間は宿の個室で閉じこもり、葉山君のグループの女子達、特に三浦さんは葉山君から離れなくなり、離されればパニックに陥ってしまう状態になり、それを見て海老名さんもケアにほとんど時間を割かざるを得ない状況になり、男子も生活のやりくりの為にコルの工面に四苦八苦していた。

 

そして後輩の一色さんも同じくショックを受けてしまい、城廻先輩がケアを請け負ってくれたが、やはり前の様子までは中々回復していない。

 

不幸中の幸いなのは、弟妹の居る川崎さんのケアを戸塚君と材木座君が懸命に頑張ってくれたのと、川崎さんの精神力が想像よりずっと強く、回復してコルの工面に三人で奔走してくれている事だ。自分の事で精一杯でしょうに、支えになってくれるのはありがたく思う。

 

そして私、雪ノ下雪乃と葉山グループのリーダーである葉山君はこのグループでの生活状況について報告し合い、それぞれのケアを行いながらコルの工面について集団で泊まれる格安の宿で話し合っていた。

 

「……そろそろコルの残金が苦しくなってきたわね……幸いゲームの中だから餓死は無いけれど、食事を取れないのはかなりのストレスになるわ。もう少しいい狩場でないと。私達だけでは賄いきれなくなる」

 

「ああ、そうだね。でも第一層の最効率の狩場はもうかなりのプレイヤーが占拠していて真面に入れないし、しかもチームとはいえ俺と雪ノ下さんでレベル4…その次に戸部達と川崎さんと材木座君と戸塚君がレベル3で、姫菜と城廻さんといろはがレベル2で、結衣と優美子がレベル1だ。レベルが五以上の敵に遭遇してしまえば厳しい」

 

「…そうね。連携もまだまだレベルが上の敵を相手するには厳しいもの……でもせめてこの集団のモチベーションの維持だけはしておかなければこの状況で知り合いの離脱や離反は深刻な問題になるわ。特に由比ヶ浜さんと三浦さんにはそれは避けたいわね」

 

今の私達の状況を説明すると、《圏内》の外のフィールドに出ているのは由比ヶ浜さんと三浦さんを抜いた状態でパーティを組んで戦っている。しかし積極的にモンスターと戦うのはもちろんNGで、集団で囲い込み、3体以上出現した場合には徹底が鉄則となっている。集団行動が得意ではない私も独断行動だけは絶対に取らないことを意識している。此処で誰か一人でも減ってしまえば瞬く間にこの集団で保ってきたぎりぎりの精神状態は崩壊してしまう。

 

”攻略組“以外のプレイヤー達は私達と同じ難所に陥っているのだろうけれど、それは逆に言えば、誰しもが躓く難所で拱いたままでいてしまえば私達はこのゲームが終わるまでずっと“攻略組”には追いつけない事への裏返しだろう。

 

どうにかしてこの状況を打破して、私達全員の戦力の強化をして最前線に行けるようにならないと…現実世界には戻れない。まだまだ私にも葉山君達にもやり残したことがあるのだから。

 

そう思いながら、今後の活動について思考を加速させていると、私達がいる宿の一室に慌てた様子で一色さんが入ってきた。

 

「た、大変ですっ!大変ですよっ!!雪乃先輩、葉山先輩っ」

 

「……慌てた様子で如何したのかしら?一色さん」

 

「如何したんだ?いろは」

 

このSAOでは本名は御法度ではあるけれど、そんな注意をする事も憚られる程に必死な表情の彼女はノックもなく入室した途端、手に持っている一枚の新聞の記事の切り抜き机の上に広げた。

 

「この新聞を見てください!」

 

その新聞は情報屋の《鼠》発行の物だ。そう言われて私は葉山君と怪訝に顔を見合わせて、一色さんの言う通りに新聞の記事の切り抜きに注目する。そして書かれた大見出しに二人で驚きの声を挙げる。

 

「なっ!!『第一層を踏破!?』これは、確かな情報なの?」

 

「“見えた希望の一歩”…これが事実なら本当に希望が見えてきたかもしれない…!!」

 

「何時もの情報屋さんの関係者さんが興奮したようにタダで他のプレイヤーにも配布していたので本当だと思います!」

 

私の言葉に一色さんは頷く。これは直ぐにこの場にいない人を呼んで情報共有する必要があるわね。

 

そう考えた私達はこの場にいないグループの人達を呼んですぐさま事情を説明した。

 

「え…やった!凄いよゆきのんっ!!大ニュースだよ!」

 

「これは喜べることだね…まだまだだけど、現実世界に残して来た親と弟妹達にも逢える可能性も出てきたよ」

 

「まだまだ絶望するには早いってことっしょ!隼人!結衣!姫名!戸部含む男共!あーし等も負けてらんないね!」

 

「確かに良いニュースだね。でも良い結果だけでは済まないか……ディア×キバの片方欠けちゃうなんて…」

 

「マジっベーしょ!これはパーティ開くべきじゃね?」

 

「それな!」

 

「だな」

 

「わぁ…!これはアインクラッド?の全プレイヤーも喜ぶねぇ!はるさんにも伝えたいよ」

 

「凄いよ。攻略組の人達、僕らも頑張って追いかけないとね!ね、材木座君!」

 

「けぷこん、けぷこん、戸塚氏の言う通りであるな!我もさっき他のプレイヤー達がお祭り騒ぎしていた様子を拝見したが、これは納得であるな!」

 

反応はそれぞれだけれど共通しているのは歓喜。

 

その情報がもたらした影響は、私達全員の士気も大きく高める着火剤として作用する。この事を励みにして私達も少しでも早く行かなければ…

 

すると不意に材木座君が新聞のある一面を見て驚嘆の表情と声を出した。

 

「なっ!?これは…!?諸君等、此処を観ろ!」

 

そう言いながらその記事の一面のフォト機能で撮られた画像を指すので私達も見てみる。その画像は第一層の迷宮区のボスフロアで、ボスが倒された後の所を撮ったものだろう。

 

レイドパーティを組んだプレイヤー達の歓喜している。その中心に位置する一見では私達と同年代に見える少年少女達。

 

黒ずくめの片手剣使いの美男に、流れる亜麻色の長髪と赤いフードが取れたケープが特徴の刺剣を持つ美女、美麗な容姿と黄金色の長髪が特に印象的な片手剣を鞘に納める美女、その隣にいる灰色でポニーテールで括った長髪が特徴的な片手剣使いの美女。

 

彼等が中心に位置するということはボスを倒したのも恐らく彼等。けれど今のところ材木座君が驚くほどの要素がこの画像があるとは思えない。

 

材木座に疑問を聞こうとして、画像の切れ目に写っている人物を見て私は息を呑んで呟く。

 

「……ひ、き、がや君…?」

 

『えっ!?』

 

切れ目の方に写っているなので、姿が完全に見えている訳ではないが、特徴的な癖毛とその眼に映るモノを腐食させそうな眼が充分に見える程には、はっきりと写っていた。

 

「ひっ、きー……?何で……」

 

私と同じように呆然と呟く由比ヶ浜さん。それを見て三浦さんや海老名さんが心配して寄り添う。戸部君達が騒いで、一色さんに黙らせられた。

 

他人の空似はこれほどにあの男の顔つきと一致しているのであり得ない。何故彼がこの世界にいて、攻略組と同じ所にいるのか、彼もトッププレイヤーの一人なのか幾重もの自問自答を繰り返す。

 

如何して貴方が此処にいるの…?また貴方は無茶をしているの?また私達を置いて自己完結で問題に向かっているの?

 

比企谷君を見て言い表せない感情が溢れでる。その様子を葉山君が複雑気に比企谷君の写っている所と見比べていた。

 

……あの男が此処にいるのであれば、ちゃんと話さないといけない。私と由比ヶ浜さんの本音を、依頼で来た一色さんの生徒会選挙後には言えなかったから。

 

しっかりと向き合うのだ。また奉仕部……いえ、私と由比ヶ浜さんと彼のあの心地良い空間に作り直すこと。そして全てちゃんと話し合いを終えたら私は彼に……

 

そう私と由比ヶ浜さんはお互いの顔を見る。その眼には今までにないものがあると私でも分かる。

 

衝撃、呆然、疑問、彼がこの世界に囚われていたという事実への動揺、此処に居る私達と合流出来ていない事への寂しさ、また彼が先に行っているという哀しさ。置いて行かれたという心細さ。

 

…けれど、彼がいるという安心感、また彼に会うことへの渇望がそれらを上回って由比ヶ浜さんの眼の輝きを灯していた。そしてその眼で私を見つめた彼女がゆっくりと呟く。

 

「…やろう。ゆきのん、ヒッキーに会ってまた三人でちゃんと話し合うの。そして奉仕部で、ヒッキーの帰りを待っている小町ちゃんに報告しよう!」

 

その言葉には今迄のどの言葉よりもずっと強い決意が宿っていた。

 

……やっぱり由比ヶ浜さんは強い人だ。揺れることはあっても断固とした決意をした時の彼女はどこまでも真っ直ぐで、誰よりも行動力がある。彼女は意志が弱いと謙遜するけれど、この時が彼女の真骨頂だろう。

 

「……そうね。ちゃんとあの男と話し合って、また三人揃って現実世界に帰らなければ、小町さんも哀しむでしょうし。あんな男でも待ってくれている人は少なくともいる訳だから」

 

「うん…此処で燻っている訳にはいかないもん。私にはママもパパも、ゆきのんにもお母さんやお父さん、陽乃さんがいるし!」

 

「……驚いたわ由比ヶ浜さん。貴女、燻っているなんて言葉知っていたのね」

 

私が驚いた様子で言えば、由比ヶ浜さんはそれくらいは知ってるよ!と少しムッとした表情で突っ込みを入れると、そのやり取りに私以外の人達もおかしそうに笑う。

 

久しぶりにこの世界で何気ないやりとりが出来た気がする。そのきっかけになった張本人に再会するために私達は今迄よりも更に気を引き締めて、この世界に立ち向かう。

 

 

そして第一層の攻略後から更に時間が経って、私達のレベルが平均七と同じラインまでに上がって私と葉山君がレベル九に。由比ヶ浜さんと三浦さんと川崎さん、材木座君が八

に到達して、そろそろ今の最前線である第二層に進む事を検討している時期の事。

 

私達の連携の取りやすい陣形やコルに関しての財政面の確認を行っていると、葉山君のグループである戸部君が自信のある様子で切り出した。

 

「ちょっち意見と言うか提案があるんだけど言って良いべ?」

 

「何だ?カケル」

 

そう葉山君が話を聞く姿勢になった事で全員の注目が戸部君に集まる。

 

「だべ、ちょい俺っちさぁ、とっておきの情報をゲットしてさぁ。ハヤト君達にも言っとこうかなって」

 

「とっておきの情報?」

 

「ああ、ビッグもビッグっしょ!今の俺っち達に必要な凄えもんよ!街を歩いてたらさ––––––」

 

「……能書きが長いわ」

 

重要な情報を関係の無い前置きまで話されてはこの状況でされては非常に困るのだけれど。

 

そして戸部君の言葉遣いによって非常に分かりにくい説明になったので、自分なりに理解しやすい要約をする。

 

戸部君が街を歩いてレベリングやレアなアイテムがあるフィールドエリアの情報を探していると、ある男性プレイヤーが声を掛けてきて、コルに困っていて使わずに余った回復ポーションなどを買って欲しいと言ってきたという。

 

そのポーションは通常NPCが売る相場の価格よりも高かったのだが、男性プレイヤーが本当に困っている様子だったので、回復ポーションを買うと男性プレイヤーは喜んで、情報屋にも出回っていない貴重な情報を教えてくれたらしい。

 

曰く、好奇心で第一層の迷宮区の奥の方にまで行った所、第一層には私達のレベルで挑むには丁度良いレベル上げが出来そうな敵が出現したというのだ。レベル六の男性がチラッと確認して直ぐに引いたら余裕で逃げられたので、挑んでみては?と言われたらしい。

 

その情報がどれほどの正確性が確保されているかが分からないわね。御礼と言われたとしても信用していいかどうか…

 

「……その男性プレイヤーから貰った情報を信用できるかしら?」

 

「…ああ、御礼とはいえ、もう少し裏付けが欲しいな」

 

私の呟きに葉山君が同意する。川崎さんや材木座君、一色さんも頷く。すると三浦さんと由比ヶ浜さんが言った。

 

「でも高値のポーションを買わせといて嘘は無いっしょ。あーしは何かはあると思うけどね」

 

「そーだよ。普通に親切心かも知れないよ?」

 

…三浦さん達の意見も否定出来る根拠がない。私は戸部君に男性プレイヤーのどの様な印象を受けたか聞けば、戸部君の様な騒がし…軽……気さくな印象だったらしい。それでも見落としているような違和感があるのだけれど、そこまで思考して戸部君が言った。

 

「あー、でも証拠っつーか、その人が直接に案内してくれるって言ってたから何も無い訳ではなさそうだべ?」

 

「そうなのか?カケル、フレンド登録とか、連絡手段はあるのか?」

 

葉山君が聞けば、戸部君はあー…と苦笑しながら返す。

 

「それがさー…その人は他のプレイヤーにもこの情報を知られて狩場を他のパーティに占領されたら勿体ないって言ってっから、明日の昼になったら迷宮区の入口で待っていてくれるってよ」

 

戸部君のその言葉に、男性プレイヤーの言葉が一定の根拠が存在する可能性が出てきた。その言葉にも私の違和感を消すものではない。

 

けれどもその思考の途中で葉山君が言った。

 

「…とりあえず分かった。ポーションを買った御礼としてわざわざ対価でその情報を教えてくれたんだ。皆、ひとまずそのプレイヤーに全員で会ってみないか?」

 

そう提案する彼に私は待ったをかける。

 

「待って頂戴。対して検討する時間を取らずに判断するのは悪手ではないかしら?」

 

「けれどユキノ…下さん、俺達のレベル的にもレベリングが出来れば第二層の最前線に直ぐに向かえるし、俺達全員のレベルだったら大抵の敵モブは倒せる。備えとしてポーションなど出来るだけポーションを用意していけばいい」

 

「……」

 

その言葉に反論しようにも、自分が感じたのはタダの違和感。反論するには葉山君の言葉以上の理由が必要。

 

言い淀んでいるとグループの三浦さん達が葉山君を支持した。

 

「あーしはハヤトの意見にさんせー。つーか、ユキノシタさんが不安っつーなら、それこそ何かあれば、案内人の奴を叩き潰せばいいっしょ」

 

「うん、ゆきのんならレベルも上だから出来るよ」

 

その言葉に海老名さんや川崎さん、材木座君以外がうんうんと頷く。……三浦さんにそう言われるとは思わなかったわね。

 

その言葉により私は違和感を抱えつつも、葉山君の意見に従う事にした。

 

 

 

 

そして当日、私達は陣形と装備を念入りに確認して時間になって全員で迷宮区に行った所、戸部君の言う通りに男性プレイヤーがいた。

 

その男性プレイヤーは曲刀…所謂シミターを装備していて、軽鎧を着込んでいる。近づいて来た私達を見て言った。

 

「おお、昨日の御礼のお約束を覚えてくれたんすね!こんな大所帯だとは想像してなかったっすけど…!初めまして、自分のネームはモルテって言います。よろしくっす」

 

戸部君の言ったように気さくな印象であるが、何処か胡散臭さがある。外見からして年上だろう。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

葉山君が微笑んで応対する。その間に私はモルテと名乗ったプレイヤーの挙動を観察する。特に怪しい仕草があるわけでもないけれど、このプレイヤーに対しての違和感が増してくる。

 

「おお〜、イケメンっすね。周りの皆さんもルックスが高い人が多いなぁ。こりゃ有名になりそうっすね」

 

そう言われると何人かは照れるような反応をするが、私を含めた何人かは警戒しているままだ。

 

「やっぱり自分は信用されてないみたいっすね…まあ仕方ないっすけど、とりあえずは約束通りレベリングに良い狩場に案内しますよ」

 

そう雰囲気は余り残念そうにしていない彼は先導役に立って迷宮区に入った。

 

 

 

「…」

 

 

 

迷宮区に入ったのは私達の方針上ほとんど無く、奥まで行くのは全員が初めてだ。攻略組が攻略後に公開した迷宮区のマップは見たが、一致させるのには時間がかかる。迷宮区には他のパーティもちらほら居た。

 

そして私達は大きなフィールドがある大扉の前にまで案内された。そして案内役の人は言う。

 

「此処っす。自分が敵モブを見たのは」

 

此処は……と案内された場所について思考をしていると戸部君が言った。

 

「おお〜、此処にレベリングに良いモンスターがいるんだべ!モルテさん!案内してもらってありがとうございまーす」

 

「お手柄だな」

 

「それな」

 

「アンタもちゃんとやれば出来るんじゃん。ちょい見直したよ」

 

「カケル先輩も意外とやる事やってたんですねぇ」

 

勇足で大扉を開こうとする戸部君の後に続くように大岡君や大和君、三浦さんと一色さんが着いていく。如何やら御礼の事を完全に信用したらしい。

 

「ははは…そんな急いで扉を開けなくても。改めてありがとうございました。モルテさん」

 

「いえいえー、約束事ですし、じゃあお邪魔にならないうちに自分は行きますね」

 

そう言って踵を返してモルテさんは広間から去ろうとする。その時の表情は全て見えなかったけれど、口角が上がっていた気がした。

 

その時に強烈に嫌な予感がしたので私は呼び止めようとしたが、その前に戸部君達が大扉を開いて入って行ってしまい、それを追うように葉山君を先頭に由比ヶ浜さんや川崎さん、海老名さん、材木座君に戸塚君、城廻先輩も着いて行ってしまう。

 

駄目…この部屋に入っては駄目。けれど間に合わない。私はモルテさんを呼び止めるのを諦めて私以外が入っていった大扉が閉じていく隙間に飛び込むように入るしかなかった。

 

入る時にひゅうっと風が吹いた気がしたけれど、扉の動きによるものかしら…

 

そして、ギイィィ…ガチャンッと大扉は閉まりきると同時に暗闇に包まれていた広大な通路状の部屋に灯りが点いて窓枠のステンドグラスが輝く。

 

そしてその奥にいたモンスターを見て私達全員が呆然と絶望、後悔に呑まれてしまうことになる。

 

「あ、あ……あれはっ……!」

 

「そ、んなっ……、有り得ないっ!!」

 

その事実と向き合わされると血の気が引いて身体中が震えて、身の毛が弥立つと同時に奥にいる巨大な体躯と鋭い眼光で私達を射竦め、咆哮を挙げた。

 

『グオオオオオォォォッ!!』

 

そのモンスターのネームは数日前にアインクラッド上の最大戦力の攻略組が死闘にて犠牲を出して屠った筈のフロアボスの《インファング・コボルトロード》とその取り巻き達だった。

 

その咆哮を合図として、取り巻き達こと《ルインコボルト・センチネル》が私達に殺到してきた。ボスの方はその場から動かない。

 

案内役の男がMPKをする為に私達を案内したという事が理解出来てしまったが、動機が分からない…

 

けれども不幸中の幸いか。最初から違和感などで案内役の男を警戒していた私は呆然としている葉山君達よりも早く冷静な思考を取り戻せた。

 

落ち着きなさい、雪ノ下雪乃!罠にかかってしまったけれどまだ間に合うわ。ボスが動かないということは攻略組の攻略過程と同じ可能性が高い。

 

攻略組と同じ方法を取れば未だ…そう思いながら第一層のフロアボス攻略された後の公開情報を脳を冷静に回転させながら刺突剣を抜いて声を張り上げる。

 

「全員武器を取って陣形を組み直して!!罠だったけれど此処の攻略法はわかっているのよ!攻略時より人数は少ないけれどレベルは適正。落ち着いて各個撃破するわ」

 

「そうだ。雪乃ちゃんの言う通り、落ち着いて対応するんだ!」

 

私の声に続けた葉山君の声で皆武器を取って陣形を組み直して、取り巻きのモンスターと激突する。

 

「はあぁっ!」

 

上段から振り下ろしてきた棍棒を身体を逸らして避けながら、突きを見舞う。すると取り巻きの身体がのけ反った。瞬間的にボスに目を向けてもボスは動かない。

 

やはり攻略法は同じ可能性が高い。取り巻きの攻撃も余裕を持って躱せるから落ち着いて撃破は可能ね。

 

「「「でやああ!」」」

 

「「「はああっ!」」」

 

「「「やああっ!」」」

 

他の人も冷静さを取り戻せたのか、分断して取り巻きの攻撃を上手く躱しながら、陣形を整えて連携しながら攻撃を上手く加えられている。

 

『グギャアッ!』

 

時間を要したが、敵の動きに身体が慣れていくと発動したソードスキルを叩き込んでいき、何とか取り巻き達を倒す。が、ここまでは前座ね。

 

取り巻き達を倒した事が合図となってボスが片手斧と盾を手に動き出した。その様子を見て全員が硬直するが、私は再び言った。

 

「恐れないで!後にはどちらにせよ引けないのは同じ!ボスの動きを落ち着いて見て。葉山君!」

 

「嗚呼!防御力が高い戸部達は持ってる盾で攻撃を捌いて、ボスの攻撃の硬直後に一気に戸部達以外がソードスキルを叩き込むんだ!!絶対単独で行動せずに、攻撃を受けた離脱してポーションを飲んで回復してくれ。残りはフォローしながらタゲの分散!」

 

『おう(うん)!』

 

両手剣を構え直した葉山君の指示に硬直から立ち直った由比ヶ浜さん達は再び陣形を組み直し、戸部君達はタンク役として動き始める。私を含めて慢心の色は一ミリも無い。

 

『ゴアアッ!』

 

狙い通りボスが戸部君、男子達に間合いを詰めて攻撃を加え始める。戸部君達は吹き飛ばされない様に人数で固まって盾で攻撃を防ぐ。しかし表情は辛そうだ。

 

「ぐぅっ…お、おんもっ…隼人君達、今っしょ!」

 

斧による叩きつけを武器や盾で防ぎ、攻撃の隙間を縫って間合いを詰めてソードスキルを戸部君達タンク役以外が一気に叩き込む。

 

『はあっ!』

 

『グオオ!?』

 

ボスの悲鳴と同時にライフゲージが一気に削れていく。そして最後に攻撃を加えた人間に狙いが移る。狙いは三浦さんだ。

 

「ちょっ、こっち!?」

 

距離を置いた三浦さんに間合いを詰めるボスを見て、葉山君がフォローをしにソードスキルで攻撃を加える。

 

すると狙いは葉山君に変わり、葉山君は後ろに飛ぶと言う。

 

「皆、スイッチだ!」

 

葉山君に狙いが移ったので、私達は入れ替わる様に突貫するとボスにソードスキルを加える。

 

『グオオオオオ!?』

 

先程よりもダメージが大きく、心無しか悲鳴の大きさも増しているように思える。

 

そしてライフゲージと神経をすり減らしつつもボスの動きに慣れた私達は一本分になるまで減らす。私達はポーションの回復で七割以上は有る。

 

しかし、真の正念場はボスの行動が変化してからだ。ボスが雄叫びを挙げた後に片手斧と片手盾を放ると、背中の巨大な刀に手をかけて、突進のモーションに入った。

 

「ッ全員、距離を…」

 

『グルアァッ!』

 

取って。と言う間もなく、強烈な向かい風の衝撃が身体を打って、ボスが猛然と間合い刀を紅く刀身を輝かせ横へ薙ぎ払う。

 

「「「うああっ!?」」」

 

「戸部、大岡、大和ぉっ!」

 

タンク役を担っていた三人が軽く吹き飛ばされる程の攻撃に葉山君が声を荒げてフォローに向かう。その他の人もフォローに向かうが、ボスは狙いを変えて一色さんに眼光を向けた。不味い…!

 

「ひっ!?」

 

「させない!」

 

一色さんに接近していくボスの背後に向けて駆けながらソードスキルを放つ。

 

『ギアァ!?』

 

不意の一撃でボスはのけ反ったが、反撃として攻撃した私を睨んで刀を持っていない腕で叩きつけてくる。

 

「あああ!」

 

「雪乃ちゃんッ!」

 

「ゆきのん!!」

 

直撃はしなかったけれど、ボスの叩きつけの衝撃に吹き飛ばされて私のライフゲージが半分以下に削れていく。

 

そしてボスは壁辺りまで吹き飛んだ私に狙いをつけた。けれど攻撃を受けてしまったことで身体が痺れて金縛のように動かない。これはスタン攻撃…!

 

『グルルッ……』

 

動かない私を見て抵抗が出来ないことを悟ったように獲物のトドメを確信して唸って嘲る。そして巨大な太刀の刀身を輝かせてソードスキルを放つ振るおうと急速に接近してくる。

 

「…ッ!!」

 

『雪ノ下(さん)ッ!!!』

 

「雪乃先輩!!」

 

「雪乃ちゃんッ!!!」

 

そう皆が悲鳴を挙げてボスに攻撃を加えようと接近するけれど、明らかに間に合わない。その事を嫌でも察したのか、由比ヶ浜さんの絶叫が響く。

 

「ゆきのーーーーんッ!!」

 

その悲鳴が響く中でも容赦無く、ボスは私の眼前に迫って太刀を振り下ろした。

 

 

振り下ろされる死への一撃がやけにはっきりと見えるけれど…電脳世界で走馬灯は見ないようだ。…ごめんなさい皆。

 

ごめんなさい、姉さん。すみません、平塚先生。

 

ごめんなさい、由比ヶ浜さん。……ごめんなさい---------

 

「……比企谷君…」

 

そう呟き、迫る死に思わず目を閉じる。

 

その瞬間、強い風が吹き抜けると私は謎の浮遊感に包まれて風に飛ばされた感覚に陥った。

 

 

 

ガシャアアアアンッッ!!!と太刀の叩きつける音が響いた。

 

…………

 

………

 

……

 

 

 

…………太刀を叩きつけられた筈なのに衝撃を受けた感覚が無い。

 

「ゆきのん!」

 

「ッ」

 

聴ける筈が無い声が聞こえてきて慌てて目を開く。すると由比ヶ浜さんが涙目で私を呼びながら回復ポーションを飲ませようとしていた。

 

「んぐっ」

 

ポーションを飲まされて赤ゲージ寸前のライフゲージが戻っていく。そして向こうを見て他の人がボスと戦っている。ライフゲージが九割以上に戻って由比ヶ浜さんが涙目のまま言った。

 

「良かった…ゆきのん。本当に」

 

「私は……」

 

あの状況からどうやって……私を誰かが助けたのは間違いないけれど、このパーティであの状況を打開出来る程のステータスは誰もいない筈。

 

『グゥオオオオオオ!!』

 

ボスの悲鳴が響くので眼を移せば赤ゲージに突入していた。加勢に行かないと。思考を一度止めて再び私は武器を手に取って死闘の決着の為に向かっていく。

 

そして…直ぐにボスの断末魔が響き、青い粒子となって消失した。

 

消失して私達は歓喜の声を挙げる人と神経をすり減らして上がっている息をへたれこんで整える人と反応はそれぞれだけれど、共通しているのは安堵だった。

 

「やったね、ゆきのん。私達、ボスを倒したんだよ!?これで私達も最前線へ行けるよ!」

 

喜びを表す様に抱きついてきた由比ヶ浜さんを受け止めながら頷き、私はホッと息を吐いた。

 

けれども私が無事だったのは何故?そう思って辺りを見ようとしてひゅッと風切音が聞こえて、その方向を見てもあるのは、部屋のオブジェクトだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……彼奴等だけでボスを倒せるとはな。センスの塊過ぎるだろ。攻略組に来るの早すぎだわ」

 

そう呟きながら歓喜の声を背に階段を全力で駆け上がって第二層へ移動する。

 

紺色のフーデッドケープを揺らして溜息をついた。ゲームの仕様で現実と違って風が吹いてもフードの中を晒されないから助かった。

 

ばれないように部屋の角の隅のオブジェクトの影に隠れていた上にパーティだからか知らんが《看破》スキルを持っていないのもあって見つからずに済んだ。

 

雪ノ下を運ぶ時もステータスの関係上、見えない速度で走って離れたから見えてないだろうし、運んだ雪ノ下を見つける直前まで全員がボスの方に釘付けだったからその間にまた端の隅まで走って離れたおかげで誰にも悟られることもなかった。直ぐに見つかるように由比ヶ浜の横に運んだのがギリギリだった。

 

それにしても雪ノ下の無茶をシスコンの魔王が観たら卒倒しそうだ。そんな姿を見てみたい気もするが、(物理的にも社会的にも)殺されそうだからやっぱ良いか。後由比ヶ浜にも。あれ多分しばらくゆる百合らしく、くっ付き続けるんだろうなぁ。

 

遠い目になりかけるも思考を再び切り替える。懸念すべきことが出てきたからだ。

 

フロアボスの再出現、そしてMPK、否PKを意図的に行うプレイヤーが存在すること。隠れて聞いていたが、モルテだったか。そう遠くない内に攻略組の障害になることは容易に想像出来る。

 

「……とりあえず《鼠》に依頼しておくか……」

 

はあ…面倒な事しか起きんなぁ。働きたくないのに…せめて攻略に集中させて欲しいもんだ。

 

まぁ、攻略の障害は現実世界への帰還の障害だ。つまり小町との再会の障害なら、動くしかない。

 

「モルテ……ね。こっちも地道に探るしかないか」

 

そう呟き、着いた第二層のフィールドを駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下達がイレギュラーな戦闘を行う前の時刻に、キリト達も武器強化詐欺事件の解決に動いていた事を俺は知らない。

 

そしてその次の日に第二層ボス攻略が始まる。

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