私は一体何がしたかったのだろう。修学旅行から帰ってきてから、私は、私達はどうしていけば良いのか分からなくなった。
『貴女のやり方、嫌いだわ。うまく説明出来なくてもどかしいのだけれど、とても嫌い』
そう言って私はその場から去っていった。それからと言うもの、私は彼、比企谷君のやり方を拒絶してから彼とどう接したらいいのかが分からず、由比ヶ浜さんと気まずげに話していた。そしてある日、一色さんと城廻先輩が依頼に来た。その内容は『生徒会長に無理矢理されそうなので如何にかして回避させて欲しい』というものだった。
私は、奉仕部の空気を変える事と、彼が文化祭と修学旅行での嘘告白で蔓延している悪い噂と評価を変える為に生徒会長になろうと決心した。姉さんがやっていないことをやる為でもあるのだけれど。
そして由比ヶ浜さんもどう思ったのかは分からないが、生徒会長になる。と言った。恐らく、私達との繋がりを消さない為なのだろう。彼女はとても優しい。いつも私達を案じてくれる。最初の頃は欠点だと思い、集団の空気に流される子だと断じていたが、少しずつ接していくうちに私達にはない美点だとも思い始めた。奉仕部の空気を元に戻す為に私達は依頼の解決へ動き始めた。
しかし、またもや比企谷君は動いた。動いてしまった。彼は最初こそ、一色さんを応援演説で落とすという自己犠牲に思える方法を提示して私達は却下したのだが、どう言う訳か一色さんを説得してしまって生徒会長にさせてしまった。
どうして?どうして私達には何もさせてくれないの?比企谷君、私達は貴方にこれ以上ーーーーーーーーーーあんなやり方をしなくても良いと証明したかっただけなのに。
依頼を受けたのは私なのに、先に解決されてしまったのが悔しかった。また1人で抱え込ませ解決させてしまったことが悲しかった。そして何よりも彼に私の気持ちが通じなかったことが寂しかった。
依頼が終わった後、彼が部室に来たときに思わず言ってしまった。
『分かってくれるものだと思っていたわ・・・・』
私は失望と落胆の思いを抱きながらそう零した。その言葉を聞いた時の彼の顔は表情こそ変化はなかったが、眼の奥に見えるものが揺れていた。困惑と焦燥だったと思う。私は由比ヶ浜さんと違って感情に疎いから定かではないけれど。
そして奉仕部の空気は変わらないまま空虚な、まるで自分の心に穴が空いたような虚無感を抱いたまま日々を過ごしていた時、休日に平塚先生から学校に呼び出された。問題行為を起こした訳でもないので呼び出される理由は全く想像がつかなかった。
呼び出されたのは何故か保健室だった。そして扉をノックして開けると、私は目の前の光景に驚きが隠せなかった。
「由比ヶ浜さんに姉さん、戸塚君、財津君に川崎さん、城廻先輩、一色さん、それに葉山君達まで・・・・・一体何が?」
私はその場にいる人達の名前を呟き、そして呼び出した張本人である平塚先生に視線を向けて聞いた。
「ああ、今から説明する。君達に来てもらった理由はある依頼があるからだ。陽乃」
依頼・・・?奉仕部部員でもない人まで集めて、一体何をするというの?それに姉さんが居るのも気になるわね。そして・・・・彼だけが呼び出されていないことも。そして姉さんは軽い返事をして私達へ説明し始めた。
「はーい、今から説明するんだけど、先ずこれを見て欲しいかな」
姉さんは後ろの閉まった状態のカーテンを開けていく。するとそこにはベッドの上に置かれているヘルメットの様な物があった。その機械に見覚えがあったため、私達は目を見開いて言った。
「マジ!?これはっべーしょっ!葉山くーん」
「ああ、これは驚きだな・・・・」
「姉さん、これって・・・」
「そう、皆も知っている通り、これは次世代型フルダイブ体験機器『ナーヴギア』だよ」
姉さんが言うには『ナーヴギア』の開発プロジェクトの資金を雪ノ下家が少ない額を支援したのでそのお礼として『ナーヴギア』とそのソフトである《ソードアート・オンライン》を大量に送ってきたらしい。雪ノ下家を繁栄させる為に支援しただけだと思うのだけれど。私はこのお礼の量が些か多過ぎるように思えた。
「で、皆にはこのナーヴギアでソードアート・オンラインを遊んで体験して貰いたいの」
「もちろんこれは依頼だ。内申点などの報酬もある」
姉さんと平塚先生の言葉に集められた人達は驚いた。もちろん私も含めて。それはそうだ、ゲームで遊べる上に内申点まで加算されるなんて、彼がいたら何か裏があるのではないかと間違いなく疑うだろう。
「・・・・そう言えばヒッキーには伝えてないんですか?」
私が彼の事を考えていると丁度、由比ヶ浜さんが聞いた。平塚先生は答える。
「彼にも連絡は入れたが、見ていないだろうな。千葉村の時は小町君に頼んで無理矢理連れて来てもらったが、こんな方法は2度は使えないし、何より教師として使ってはならない方法だからな。私も反省している」
その言葉に私は不思議と納得した。彼が休日を返上してこの学校に来るとは思えない。しかしこの時平塚先生がその言葉に含んでいる本当の意味を姉さん以外の全員が分かっていなかった。
そうして私達は《ソードアート・オンライン》をやることに同意した。一応学校側で私達と判断しやすくする為に名前でプレイして欲しいと言われた。
普段の私ならゲームはしないが、心の整理と息抜きには丁度良いだろうと思ったから参加した。今後の私達の事、そしてこの場にいない比企谷君の事を考えていた私には丁度良かったかもしれない。準備を済ませて保健室のベッドに皆が横たわった時にはサービス開始前の10秒を切った。
10・・・
9・・・
8・・・
7・・・
6・・・
5・・・
4・・・
3・・・
2・・・
1・・・
そして私達はゲームの世界に飛び込んだ。
『リンク・スタート』
目を開くと私達は街にいた。私は目の前に映る光景に思わず声を洩らしていた。此処まで現実世界と相違無いと思わせる程の完成度の物が作れる人がいるとは。そして周りを見ると由比ヶ浜さんや他の人も揃っていた。そしてどんどん他のサーバーもログインして来て人が増えてきた。
「凄いね。本当の現実世界みたいだねゆきのん・・・!」
「ええ、本当に・・・!」
「ふっはっはっはっはー!遂に我の眠らせていた力を解放する時が来たようだなっ!」
「うるさい・・・」
「あはは・・・でもテンションが高くなるのも仕方ないと思うな。だって本当にゲームの世界に飛び込んでいるみたいだもん」
三者三様に感心の声を洩らしていると葉山君が私達に言った。
「じゃあ皆、一旦別れて各々で自由行動を取ろう。そして5時になったらここの広場に集まろう」
私達はその言葉に頷き、それぞれ行きたい所に目指した。私は由比ヶ浜さんと一緒に街を巡り始めた。
そして5時間後、由比ヶ浜さんと色々見て回っていると、私はある異変に気付いた。そのある異変とは街にSAOのサーバーが集まり始めたことだった。そして葉山君達もこの異変に気付いたのか私達の所に合流した。何やら葉山君は焦っている様に見えた為に私は葉山君に聞く。
「葉山君、この騒ぎは一体・・・?」
「雪ノ下さん、落ち着いて聞いて欲しい・・・まずメニュー画面を開いてくれ」
その言葉に私は訝しみながらも従い、メニュー画面を開く。1番下の画面を見てくれ。と言われた為に下に指をスライドさせていく。するとある物が無い事に気が付き、思わず声を洩らした。
「えっ・・・?何故、ログアウトボタンが無いの?」
ログアウトボタンが無ければこの世界から出ることが出来ないということだ。葉山君はやはりと予想していたような声を出した。
「やっぱり雪ノ下さんも無いか。・・・・今日発売されて世界中で期待されているゲームのサービス開始初日からこんな欠陥を残したまま発売なんてしたら大スキャンダルだ。いい加減運営側の説明があってもおかしく無いんだけど」
広場に集まった私達は混乱しながらも運営側の説明が来るのを待っていた。そしてしばらく待っていると急に空が紅く染まって巨大なNPCが現れた。運営側のものなのだろうか。深紅のフーデットケープで表情が伺う事は出来ない。多くの人が混乱しながらも何やら説明があると思っているようで安堵している様子だったが、私は嫌な予感が頭の中から離れなかった。
そしてその予感は的中することになる。まず言われたのは、ログアウトボタンが無い事はこのゲームの本来の仕様だと言う事。外部からの情報は入ってこない事。そしてアバターのHPが0になり、アバターが消滅すると、現実世界でベッドに横たわっている私達の身体もナーヴギアが致死量のマイクロ波を脳に放出して破壊ーーーーーつまり、生命活動を停止されるということ。
そしてフーデットケープを着た巨大なNPC、茅場晶彦は最後に《手鏡》というアイテムを配布して私達はその鏡で元の世界の身体に戻された。と言ってもかなりアバターを似せて作ったのでそこまで変化は感じなかったのだけれど。
「私達、帰れないの・・・?」
やがて理解が追いついたのか、由比ヶ浜さんは呆然とした様子で呟く。そして、私の顔を見て痛々しく、今にも泣き出しそうな顔で聞いてくる。私は目を伏せてしまう。
「こんなの、夢だよ!本当はまだ私達は家で眠ってるんだ」
「結衣っ・・・・」
「そして起きたら明日から学校で皆いつも通りに登校して、授業を受けて、休み時間を過ごして、放課後に部活にーーーーーー」
「由比ヶ浜さん!」
私は見ていられなくなってしまって、抱きしめて由比ヶ浜さんに呼び掛ける。そして、由比ヶ浜さんはまるで風船が破裂したように感情を爆発させた。
「こんなのって・・・・こんなのってないよぉ・・・何で私達がこんな目に遭うの・・・・うぅ、わあああああぁぁぁ・・・・」
そして泣き崩れた。私も含めた女性陣は泣いてしまう。男性陣は俯いて拳を握り締めたり、天を仰いだり、ぶつけようの無い怒りを建造物に手を殴りつけたりした。
さっきの映像に姉さんと平塚先生も映っていた。あの姉さんも顔を手に覆って泣いていた。平塚先生も拳を握り締めて泣いていた。
そして思い浮かんだのは関係性に溝を深めたままの彼ーーーー比企谷君の顔だった。もう、あの濁った目とアホ毛のある顔を見ることも、あの言い合いみたいな会話をすることも、紅茶を飲んでもらうことも、そして、私の想いを伝えることも出来なくなった。
こんな事になるなら、私は弱々しく夕焼けに染まった空を見上げて呟いた。まるで自らの行いを懺悔するように。
「伝えておくべきだったっ・・・・!」
自分達の事で一杯一杯だった私達は気づくことは出来なかった。この騒動に紛れて広場から離れていく4人のプレイヤーに。
広場からでた俺達は前方30メートルを走っている少年ーーーキリトを追っていた。幸いこちらから攻撃をしない限り、敵モブは襲いかかってはこないので見失うことはない。俺は気付かれないように注意しながら暫く走っていると、金髪少女のアリスが聞いてきた。
「如何して彼に声を掛けずに追っているのですか?」
・・・・あ、それはそうか。別に声を掛けても良いじゃん。とアリスの質問に俺は気付いた。そして間を入れず続けてイーディスが言った。
「・・・私達がやってる事ってストーキングなんじゃない?」
そう言われた時、急に前を疾走していたキリトが止まり、此方を振り向くことなく言った。
「いつまで追ってくるんだ?気付かれてないと思っているみたいだけど、《隠蔽》スキルを使ってないみたいだから《索敵》スキルを使って直ぐ看破出来たが」
チッ、悪手だったか。声をかけとくんだったな。俺は慎重に言葉を選んで敵意が無い事と、自分達の目的について話した。
「・・・・ストーキングのような真似をして済まん。俺達はニュービーでな、広場の騒動に紛れて走っていったあんたについて行けば情報が得られると思ったんだ」
その言葉を聞いて此方を向いたキリトは俺達を見て驚いた。キリトは高校生にしては幼げな童顔だった。背丈も成長期の段階か?中学生か。
「あんたはあの時の・・・それに一緒について来てたのは女の子だったのか」
「ああ、申し訳ないが、ついて行ってもいいか?もちろんお前の邪魔はしない」
俺は聞くと、キリトは事情を知って安心したのか心良く返事をくれた。キリトからあの葉山みたいなザ・ゾーンを感じる。しかし、初対面でついて来て良いって言うって此奴はお人好しだな。俺だったら捲いて逃げるまである。取り敢えず自己紹介を済ませた俺達はそのまま走って目的地に向かっている。
俺はこれから向かう場所に武器屋や回復アイテムが売っている店はあるのかを聞いた。ぶっちゃけもう武器を変えないとヤバい。耐久値がレッドゲージの数ドットくらいしかない。
「今向かってる場所に武器屋ってあるか?」
「ああ、それにしても武器屋を探しているってことは耐久値が無いのか?」
「ん、ずっとレベリングしてたしな」
そう言うと、キリトにレベルを聞かれたので4だということを言うと驚かれた。キリトが言うには現時点でβテスターでも5人といないだろうと言われた。キリトもレベル4で、アリスとイーディスはレベル3だった。
そして目的地《ホルンカ》に着いた。俺は武器屋で新しい《スモールソード》と回復薬を限界まで買った。それを済ませると何とキリトが宿を取ってくれた。しかも人数分。此奴、俺と同じボッチみたいな雰囲気出してるのにそんな気遣いも出来るなんて・・・・やっぱ此奴リア充側では?と俺は思った。俺はコルの表示を見てキリトに払おうとする。
「・・・・宿代、幾らだったんだ?」
「良いよこれくらい。この程度なら直ぐに稼げるからさ」
「いや、払わせてくれ。俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はない」
貸しを作ったままは後で面倒な事になりそうだしな。するとアリスとイーディスが呆れたような表情で言った。
「一緒ではないのですか?というか理由が格好悪いですよ」
「普通、『他人にそこまでしてもらう理由はないから』とかなんじゃないかな?」
うっせ、そんなリア充の出来る気遣いをボッチの俺に求めんな。そんなこと出来てたら友達の1人は出来てるわ。そう思いつつ、俺は2人に言った。
「・・・それは置いといて、お前らはフーテッドケープは買ったか?」
俺の言葉に対して2人は怪訝そうな顔をしていたが、キリトは、ああ。と察した様な声を洩らした。俺は説明する。
「・・・いいか?この世界で女性は少ないんだよ。こういうゲームは興味が無い人も多いからな。ただでさえ少ない上に女子高生は更に希少なんだよ。んで変にはっちゃけちゃった男にお前らみたいな美少女は声を掛けられやすいし、最悪の場合痴漢とかもされるかもしれん。だから身に付けといた方が・・・って、どうした?」
説明している途中で急に2人が顔を赤らめながら俯き気味になったので不思議に思って聞くと、2人は何も言わず更に顔を赤らめ、キリトは俺を呆れた顔を向けてくる。
「・・・・何だよ?」
「無意識なのか・・・・」
顔を俯かせている2人を頭を捻りながら見ていると、キリトが咳払いした。
「んんっ!今からこの層で手に入る最強の武器のクエストがあるからそれに挑むけど、どうする?」
此奴、その情報を躊躇いなく開示出来るって本当にお人好しだな。俺は改めて戦慄して、行く。と答えた。2人も落ち着いたのか元の状態に戻って頷いた。そしてキリトは続けて言った。
「武器を手に入れる為に《リトルネペント》って言う敵から1%程度の確率で出現する《花付きリトルネペント》の胚珠が必要なんだが、そこで注意して欲しい事がある。頭に実が付いたリトルネペントの実を壊すと敵モブが大量に出現するから実は絶対に破壊しないでくれ。それと、このクエストで『スイッチ』と『POTローテ』の練習もするからな。じゃあ行こう!」
その言葉に俺達は頷き、クエストに挑む。キリトはこの世界の希望になるかもしれないと俺らしくないことを思いながら。