クエストを受けるにあたって俺達は役割を決めていた。俺とキリト、アリス、イーディスの4人なので男組と女組で別れて戦闘する事になる。キリトが言うには基本的には乱戦では無く、スイッチーーーパーティで戦闘する時、プレイヤーがソードスキルで硬直した場合に他のプレイヤーが硬直時の隙を補って攻撃することーーーを活用してヒットアンドアウェイの戦法が良いらしい。
俺はそこまでの話を聞いてキリトに言った。
「パーティを組まないといけないのか?」
「いや、パーティを組む組まないは自由なんだけど、パーティを組むと自分が敵を倒さなくても他のプレイヤーが倒してくれたら経験値が入ってくるんだ。組んだ人の数の分は分割されるんだがな」
何それめっちゃサボれるじゃん。働かずして経験値が入ってくるって最高じゃね?この世界は実は理想を叶えてくれているのでは・・・・と思っていると俺の心を読んだかのようにキリトが言った。
「言っておくがサボるともらえる経験値は下がるからな。敵モブに与えたダメージが大きいほど経験値も多くなるし」
全然理想的ではなかったわ。戦った方が良いな、うん。戦うのでそんな睨まないでください。
そして2人ずつ、俺とキリト、アリスとイーディスで組むことになった。クエストがある建物に入るとNPCの女性が暗い顔で立っている。そして声をかけられた。キリトが話しを聞くと頭部に表示されている?が!に変わった。
話しとしては女性には小さな子供がいて、病気でその子は動くことが出来ず、市販の薬も効果を示さない為、森に生息している【リトルネペントの胚珠】を薬にして飲ませたら治るのでとって来て欲しいとのこと。そして取ってきてくれた報酬がキリトから聞いたのだが片手直剣の【アニールブレード】らしい。全員で受けることになり、クエストが始まる。
森に移動する間、『スイッチ』と『POTローテ』の実践をやり、森に着いた。固まって戦うとフレンドリーファイヤが起こる可能性がある為に少し距離を置いて戦うことになった。
リトルネペントは範囲攻撃を持つので注意が必要らしい。蔦をムチの要領で攻撃してくるので、掻い潜って交わしながら攻撃を加えて行く。
俺はキリトの方に視線を移す。キリトは見た限りではかなりのSTR型のようで一撃で半分以上を削っている。普通なら極振りはリスクが大きい。それでもキリトは危なげなく戦えている。極振りのステータスでも戦えている理由は恐ろしいまでの反射神経だ。多対1の状況で戦っているが全ての殆ど攻撃を受けていない。俺は速さ極振りなので躱せているのだが。
「ハッ!」
「セイッ!」
アリスとイーディスは絶妙なコンビネーションで敵モブを着実に狩っていっている。アリスがパワー、イーディスがスピードのようでバランスが取れている。
俺は2体のリトルネペントの鞭攻撃を躱して擦れ違いざまに攻撃を加えて行く。基本的にはソードスキルは使わない。硬直が怖いからだ。そしてクエストを受けてからかなりの時間が経った。もう100以上は狩っているのだが、まだ花付きが出ない。レベルも6になってもうちょっとで7に差し掛かった時、あるプレイヤーが来た。
「僕も入って良いかい?」
「良いぞ!独占しているつもりは無いしな!但し、実付きのリトルネペントの実の部分に攻撃を加えないでくれ!」
話しかけてきたのでキリトが攻撃を加えながら返事をする。戦ってる最中で喋ること出来るって凄えな。そしてそのプレイヤーは丁度アリス達の近くで戦い始めた。しかし、なんだか嫌な予感がする。今まで自分が浴びてきた悪意の経験が僅かに頭の中で訴えかけてきたからだ。俺は鞭の攻撃を躱し、剣を振りぬいてリトルネペントを倒したところで一度キリトの方へ行く。
「おい、キリト。あんな簡単に許可してもいいのか?」
俺の言葉にキリトは訝しげに言った。
「良いと思うぞ?別に独占したいわけじゃないし。それにそんなことをしたらフェアじゃないだろ」
お人好しが過ぎる。少しは疑いにかかった方が良いだろうに。俺は思った事を口にする。
「・・・少しは疑った方がいいぞ。もしも妨害目的で罠を仕掛けたり、トチ狂った奴が殺そうとしてくるかも知れないんだから」
大袈裟に言ったが、この世界がデスゲームと思っていない奴が悪ふざけでプレイヤーを攻撃するかもしれない。もしくは愉しむ為にヒールの役を演じて他のプレイヤーを殺そうとするサイコパスがいる可能性がある。此処では現実の法律が適応されないのでそういうことする奴が出てくる筈だ。1万人もいるんだからな。俺の言葉にキリトは緊張した面持ちにはなったが何処か疑っているのか否定してきた。
「妨害目的はあるかもしれないが、流石に殺人は・・・・・」
そう言うキリトから件のプレイヤーを見る。すると、そいつの近くに実付きのリトルネペントが出現する。そのプレイヤーは実が付いてないリトルネペントを倒した後、実付きのリトルネペントを倒そうと斬りかかった。しかし攻撃しようとした部分は実が付いているところだ。俺は走り出す。キリトも気がついたのか声を張り上げて止めようとする。
「おい!止めろーーーー」
その静止は虚しく届かず、俺もタゲを取っていたリトルネペントに妨害されて止められない。クソッタレッ、こんな時に・・・!破裂した実からガスが噴射される。そのガスは周りに充満すると、大量の敵モブが湧き始めた。
「不味い・・・30以上はいやがる」
俺はソードスキル【ホリゾンタル】を放つ。そして敵モブを蹴散らす。実を破ったプレイヤーは逃げた様で此処には既に居なかった。チッ、最初からそのつもりだったか。ガスの効果は自動タゲ取り効果もあるのか不幸にも近い位置にいるアリスとイーディスにタゲが集中してしまったようだ。
「クッ!」
「アリス!く、邪魔よ!」
右からの蔦の攻撃を身体を逸らして避けるも後ろからの攻撃に当たり、吹き飛ばされるアリス。イーディスは助けに向かおうとするが敵モブに阻まれて助けにいけない。俺の身体は弾かれるようにアリスの方へ全速力で向かい出す。進行方向のリトルネペントが入ってきた。左から迫る攻撃を身体を前傾姿勢に低くして躱し、【レイジスパイク】を放つ。ソードスキルの硬直があるが、初期のソードスキルなので1秒もない。吹き飛ばしたリトルネペントはポリゴン化する。俺はそれには目もくれずにアリスの方へ走る。アリスの所には4体程のリトルネペントがいた。
「アリス!しゃがめ!」
アリスは俺の言葉に従い、しゃがむので俺はリトルネペントの背後からレイジスパイクを放って他の奴も巻き込み、吹き飛ばして人1人が通れる隙間が出来たのでアリスの所に入り込む。アリスの隣に立って言った。
「ポーションを飲め。体勢を立て直すぞ」
鞭の攻撃を剣で流しながら会話する。アリスは直ぐさまイエローゲージに入ったHPを回復する為にポーションを飲む。
「分かってます。それで、どうしますかこの状況」
「取り敢えず何体か倒して、隙が出来たらこっからダッシュで逃げるぞ。必要最低限の攻撃、範囲攻撃とかノックバックの攻撃は回避に徹しろ」
「分かりました。ヤハトは撹乱をお願いします。私が攻撃を加えるので」
俺は頷いて、リトルネペント達が殺到して来るので俺はタゲ取りの為に攻撃を加える。パーチカルを放ち、ある程度のタゲを取る。左右方向からの攻撃を俺は跳んで躱しながら攻撃を加えていく。
アリスはパワー型なので2、3回ソードスキルを打ち込んで敵を削っていく。レベルは7に上がった為にある程度の攻撃なら受けても良いので余裕はある。そして俺もゲージを途中まで削ったリトルネペント達を倒す。しかし、タゲを取っていくがやはり攻撃力が足らない所為で時間がかかる。
鞭の攻撃を剣で受け流して、その隙に2連撃ソードスキル【スネークバイト】を放ち、アリスに声を張り上げて言った。
「アリス、スイッチだ!」
「了解!ハアァッ!」
俺はアリスと入れ替えるように突撃してソードスキル【ホリゾンタル・アーク】を放つ。そして一気に残りのHPを削りきった。俺はその鮮やかさに魅入る。
そして、周りにいるリトルネペントは倒し終えてある程度活路が開けたのでイーディスとキリトと合流する。
「アリス、ヤハト、無事?」
「ええ、ある程度の攻撃は受けましたが大丈夫です」
「ああ、お前らも無事みたいだな」
「無事で良かった。取り敢えずホルンカに帰ろう」
そしてダッシュでこの森を抜ける。森を抜けるとフィールドを移ったからか敵モブは来ない。そこは良心的な設定だったようだ。俺達は一息を吐いた後、アリスがポツリと言った。
「あのプレイヤーは一体何のつもりだったのでしょうか・・・」
「さあな。だけど、キリトの言葉を無視して実を攻撃したんだ。しかも最初に実の部分を攻撃したってことはーーーー」
「私達は狙われたってことね」
イーディスの言葉に俺は頷く。キリトは申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「・・・皆、済まない。俺がちゃんとした判断を下していれば」
「・・・・これからは初対面の奴には疑っていけよ。こんなことにもなるんだしな」
アリスとイーディスは俺の言葉に頷く。キリトは頭を上げ、ありがとう。と言った。そしてイーディスは呟く。
「でも、どうして私達を狙ってきたのかな?」
「・・・・推測なんだが、あのプレイヤーは最初からそのつもりでやった気がする。多分デスゲームになった事で治外法権になったこの世界で抑えてきたものが外れたんだろ。狙われたのは偶然だな」
ヒーローが好きな奴のように、悪役が好きな奴もいる。ヒールを演じて注目を浴びたいのかもしれない。事件だって目立ちたかったから起こしたって理由を言う奴もいるしな。
「何も生まないのにこんなことをするなんて理解出来ません」
アリスは怒気を隠さずに言う。イーディスも頷く。キリトは考え込んだ様子を見せた後にこう言った。
「少なくとも、この世界では敵はモンスターだけじゃないって事か。攻略に支障が無いように早めに対策を講じられたらいいんだが」
「・・・その話は追々だな。それよりも花付きのリトルネペントは狩れたか?」
俺はクエストの事に話を移す。アイテム欄を確認する。すると【リトルネペントの胚珠】があった。どうやらあの状況で気が付かなかったが、リトルネペントの中に花付きが混じっていたらしい。
「・・・・私は無かったです」
「俺は持ってる」
「私も持ってるよ」
キリトとイーディスが持っていてアリスは無かったようだ。まぁ、そんな都合良くはいかないか。アリスは残念そうな顔になったが、元の表情に戻してこう言った。
「残念ですけど、また行けばいいですから気にしませんよ」
俺はその言葉に少し考える。そしてメニューを操作してアリスに向けて言った。
「・・・・これ、やるよ」
俺の言葉に対してアリスは驚き、そして首を振って慌てて言った。
「それはヤハトが取ったものでしょう!それにヤハトが助け出してくれたのにドロップ品まで貰うなんてこと出来ませんよ」
「いや、お前の力は攻略に必要になってくる。お前のパワーを強化するのを先にした方がいい。俺の武器は後で手に入れればいいしな」
正直に言えば、俺はスピード型なので攻撃力が余りない。しかしアリスはパワー型だ。武器が強ければ強い程相乗効果が出る。それに此奴は天性の戦闘センスがある。恐らく攻略を牽引していくはずだ。
アリスは納得がいってないのか困ったような顔をするので俺は頰を掻いて言った。
「・・・・あー、その代わり条件がある」
「何ですか・・・?」
「・・・出来るだけ早く妹を安心させてやりたいんだよ。だから強くなってこの世界を攻略してくれ」
その言葉にアリスは驚き、そして真剣そうな顔で頷いた。
「分かりました。必ず果たします」
そしてアリスは胚珠を受け取る。俺達はクエストを発生させているNPCの女性の元に戻る。そしてクリア条件を満たしたので話しかけるとクエストストーリーが進行する。女性は胚珠を薬にして、それを奥の部屋に持って行った。
そして女性は俺達の元に戻ってきた。病気だったであろう子供を連れて。
「すっかり娘が元気になりました。ありがとうございます。お礼として村に伝わる秘剣を差し上げます」
そして俺以外は【アニールブレード】を受け取り、クエストクリアとなった。そして子供が笑顔で言った。
「私の病気を治してくれてありがとう!お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「ッ・・・」
思わず現実世界で待っている小町と重ね合わせてしまう。キリトもアリスも表情は寂しげだった。イーディスも何処か暗い。俺達はクエストを終えると建物を出た。そしてキリトが言った。
「クエストも終えたし、明日には解散だな。3人はどうするんだ?」
その言葉に対して俺はアリスとイーディスを見る。2人は悩んでいる様子だった。俺はポツリと言った。
「・・・・俺はソロでやっていくつもりだ。煩わしさもないしな」
その言葉にキリトは驚いたような顔をした。アリスとイーディスはジッと俺を見つめている。注目されるのはやだなぁ、辛いなぁと思っているとキリトが聞いてきた。
「アリスとイーディスとは行動しないのか?」
「ああ、正直女性2人と行動していると目立つし、それに・・・・」
「・・・・それに、何だ?」
「・・・・いや、何でもない」
ーーーーーーーー縋ってしまいそうになる。とは言えなかったからだ。思い出すのは学校のクラス教室や部室で毎日のように顔を合わせていた2人。関係が上滑りしている状態で、心地良いとはお世辞にも言えない冷え切った空間。俺が黙り込んだのを見て何かを察したのか、キリトは聞く相手をアリスとイーディスに移す。
「2人はどうするんだ?」
「・・・・私はヤハトかキリトに付いて行きたいです」
「私も同意見かな。ヤハト君とキリト君と行動出来たらいくらか安心だから」
何その期待。そんな主人公みたいな属性はないんだけど。俺は口を挟む。
「付いて行くならキリトの方が良いだろう。此奴はβテスターだから色んな情報持ってるだろうし」
俺はちゃっかり押し付けるように言うとキリトが焦ったように言い返した。
「ちょっと待て。流石に女性2人と一緒にいるのはきついぞ」
顔を僅かに赤らめつつ、遠慮の言葉を口にするキリト。そういえば思春期真っ盛りだもんな。するとアリスが口を開く。
「出来れば、私はヤハトに付いて行きたいです。貴方には恩がありますから。それにアニールブレードの借りも出来ましたし、助けになりたいです」
「別に気にしなくていい・・・」
「アリスもこう言ってるし、何より私も恩があるから付いて行くよ」
俺は遠慮しようとするとイーディスが被せ気味に言った。短い間ではあるが分かったことがある。此奴らは頑固でお人好しだ。最早何を言おうにも勝手に付いて来そうだし、押して駄目なら諦めろが座右の銘の俺は溜息をついて言った。
「はぁ・・・、分かった分かった。付いて来るなら別に止めん。ただ前にも言ったが面倒見ないぞ」
そう言うとアリスとイーディスは僅かに顔を綻ばせる。止めろよ、俺と一緒が良いみたいに解釈しちゃうでしょうが。勘違いしない、此奴らは俺に恩があるだけ。恩を返したら離れて行くんだ。八幡偉い子勘違いしない。
「キリトに押し付・・・任せてゆっくりボッチライフを送ろうと思ったのにどうしてこうなった」
誰にも聞こえない程の声で呟く。葉山なら喜んで受け入れるだろうが俺はそんなイケメンな行動は取れない。ボッチの皮を被ったリア充キリトなら取れるだろうが。
俺はホルンカでキリトが取った宿に戻りつつ考えていた。前を歩いているアリスとイーディス、俺の真横を歩くキリトを気にしながら。
宿に戻って俺はキリトの部屋に行き、聞いた。アリスとイーディスは部屋にいる。
「キリト、此処以上のレベリングに適したとこって何処だ?」
「レベリングなら、この先のドールバーナってところの眠りの森っていうところだな。敵の平均レベルは5だから準備して行けばいいと思う」
「・・・・そうか、サンキュー」
この世界ではレベルが高ければ高いほど安全になる。モンスターはもちろん、人からも。それにレベルが高ければ精神的にも余裕が出る。此奴らみたいに俺は天性の戦闘センスは無い。だからせめてレベルだけは高くないと攻略出来ない。俺はそう思いながら、アイテム欄を確認していた。
そして部屋に行こうとした時、ノック音が鳴った。俺とキリトは互いに顔を見合わせる。アリスかイーディスか?そんなことを考えているとキリトがドアを開ける。そこにはベージュのフーデットケープを被った小さなプレイヤーが立っていた。そしてキリトに話しかける。
「やっぱリ此処にいたカ、キー坊」
「お前は、アルゴか!久しぶりだな」
キリトの反応を見ると知り合いらしい。俺は警戒しつつ、キリトに聞いた。
「知り合いらしいが、誰なんだ?」
「ああ、悪い。此奴は情報屋のーーー」
「アルゴだ。よろしくナ」
そう言ってフードを取って顔を見せる。金髪で顔には鼠のような髭があった。この先の未来で長い付き合いになるであろう人物と邂逅したのだった。