キリトから紹介を受けて、アルゴという女性プレイヤーと邂逅して話を続ける俺達。アルゴは俺がニュービーと知ると感心したような声を洩らした。
「キー坊について行って正解だったナ。キー坊はβテストで最前線を行ってたから、ニュービーのハトっちには大分楽になったと思うヨ」
最前線というのは攻略した階層の中で一番上の事だ。その最前線にいたキリトが案内してくれたお陰で此処までは順調だった。そこで俺は聞く。
「・・・キリトが最前線で行けたのは何処までだったんだ?」
攻略のペースはどのくらいなのかは聞いておかなければならない。目安にもなるし。するとキリトは俺の言葉を聞いて重苦しげな表情になって口を開く。
「・・・・2カ月で行けた階層は7階層までだ。しかもβテストでは死に戻りが出来たからな」
キリトの言葉に俺は思わず言葉を失ってしまった。2カ月で7階層、数学の苦手な俺でもこの計算はできる。仮にこのペースで行けたしても2年4カ月以上はこの世界で閉じ込められたままだ。しかも死に戻りが出来る状態でそのペースだ。
「下手をすると3年、いや・・・・もっとかかるかもしれないのか」
俺の呟きにキリトは目を伏せる。そしてアルゴが静かに言った。
「しかも1度死ねば2度目はないカラ、慎重に動くしかないしナ」
そうこの世界はリトライが出来ない。最初の1層を攻略するのにも相当な時間がかかるだろう。攻略に参加する人数自体も限られるからだ。俺はこの階層の攻略レベルの目安を聞く。
「第1層の攻略した時のレベルは幾つだ?」
「いくつかのパーティでレイドを組んで挑んだ時は5だった。でも何回も死んで攻略法を知った状態でだ」
レベル5・・・今の俺はレベル7だが、レイドを組んで物量戦で挑んでやっと勝てた時の数値だ。安心とは言えない。そしてアルゴがキリトの説明に補足した。
「しかもβテストと動きが今回は違う可能性があるからナ。最低でも今回はレベル7程度はないと厳しイと思うゾ。安全マージンはレベル10以上は必要だろうナ」
安全マージンとは、ゲームで攻略する所の目安のレベルを大幅に超えていて物資も万全な状態のこと。後3も上げねえと行けねえのか。やだなぁ。面倒くさいなぁ。働きたくないなぁ・・・と、思っていると気付いたことがあった。
「そう言えば攻略に出ない奴の身の安全はどうするんだ?」
俺の言葉にアルゴとキリトはハッとなった。攻略する前提で話を進めていたが、そんな奴らは少数だ。大概の場合、《圏内》で過ごしていても不思議ではない。フィールドに出ないプレイヤーはモンスターに襲われたら1発でアウトだ。身の安全を確保する上で狩りの仕方や暮らしていく上でのコル稼ぎは教えていかなければならないのではないか。ちらりと頭に浮かんだのは始まりの街で見かけた雪ノ下達だ。
「そうだな。下層で攻略に出ない人もいるし、どういう風にやっていくのかを教えといた方が混乱することもないから良いと思う」
「最低限の安全を保証すれバ、下層から上がってきてもある程度は余裕も持テルだろうからナ。新聞や本とかで出回せば良イカ」
そう言って2人は早速この世界での過ごし方を本に出そうと計画を立て始めた。ニュービーの俺がいても話しは変わらないので部屋を出て宿の廊下を歩いてフィールドに行こうと決意した。アニールブレードをゲットする為に。
辺りはもう夜だった。不気味に見える森に入るのは億劫だが、生き残る為に必要な事だ。俺はクエストを受けている途中なのでそのまま行っても問題はない。
今回はキリトともパーティは解消しているので経験値は半減されない。装備を整えているのでレベリングも出来る。花付きのリトルネペントは1%以下で出ることは分かっているのでレベリングも兼ねて戦闘技術も磨いておく。
リトルネペントの鞭攻撃を身体を逸らして避ける。そして今の武器【アイアンソード】で袈裟斬りを放つ。そしてそのまま後ろから迫るリトルネペントにくるりと一回転して水平に回転斬りを放つ。
リトルネペントをポリゴン化させて次の敵モブの出現を待つ。そして敵モブが出現する。俺は目を見開く。
「リトルネペントじゃない・・・?」
現れたモンスターは《コボルド・ヘンチマン》。頭部のカーソルは赤黒い色だ。カーソルの色は普通のNPCが緑、敵モブが赤。敵モブのカーソルの色が濃ければ濃い程敵モブのレベルが高い。恐らく敵モブのレベルは7以上。この階層の中では恐らく最強クラスの敵モブ。完全なイレギュラー。
「おいおいマジか・・・こんなの聞いてねえぞ」
数は3体程、正直囲まれたら死ぬ。俺はフィールドを出ようとするが、後ろに振り返るとタゲを俺に向けたリトルネペント5体。然も実付きも混ざっている。
「チッ、マジで洒落にならん・・・」
『グルアァッ!』
早速と言わんばかりに俺に狙いを定めてコボルド達が飛び掛かって来た。手に持った銅の剣を振るってくる。幸いスピードは見切れないほどの速さではない為横に跳んで躱す。しかし、回り込んだのかもう1匹のコボルドが迫って来た。
『ガア!』
「っく、掠った・・・」
剣を振るい落としてきたので体を捻って躱したが少し掠ったようで微量にHPが減る。これが続けばいずれ死ぬのは確実だ。だから・・・・
俺はコボルドから離れてリトルネペントのいる方向にあるフィールドの出口に向かう。幸いスピードでは俺が速いのでコボルトには掴まらない。しかし進行方向にはリトルネペントがいる為に攻撃を回避しつつ、最短で向かわないと行けない。俺は【レイジスパイク】を放ってリトルネペントを吹き飛ばす。僅かに硬直するがまだコボルド達との距離は余裕がある。俺は突っ切って進む。
1体のリトルネペントの鞭攻撃を姿勢を低くして躱し、2体同時に鞭を振るい落としてくるのでジャンプして飛び越える。そして出口に差し掛かった時、俺は僅かに緊張を解いた。解いてしまった。
出口へ僅か2メートルも無い所で入り込んできた影があった。3体目のコボルドが回り込んできたのだ。銅の剣で単発袈裟斬りソードスキル【スラント】を放ってきた。
ガキィイン!
咄嗟に武器で受け止めてダメージは最低限に留められたが、吹き飛ばされたせいでまた出口が遠くなった。俺は何とか着地してコボルドを睨む。どうやっても逃す気は無いようだ。やだ俺、人気者じゃん。・・・・モンスターに群がれるとか誰得だよ。
そんな硬直状態が続いている間に他のモンスターも追いついてしまった。さっさとやることやって帰りたいのにどうしてこうなった。俺はそう思って溜息を吐きながらアイアンソードを構える。
とりあえずスピードで勝っているから撹乱しながら囲まれないように1対1に持ち込んで立ち回るしかない。リトルネペントの弱点は分かっているがコボルドの弱点を探るか。俺はコボルドとの間合いを詰める。
相手は咆哮して、剣を振り抜いてくるが、俺は挙動から予測して迫ってくる剣をAGI極振りのステータスを頼りに躱す。キリトみたいに反射神経お化けじゃないから見てからの回避は間に合わないからだ。
そしてコボルドを思い切り蹴り飛ばす。囲まれるのを防ぐ為である。STR型じゃないので言うほど飛ばせなかったが、1度ではなく3度くらい行えば充分に距離を稼げる。ダメージにはならないようだったが、そこまで気にしていない。
そして1対1に持ち込んだ1体目のコボルドに向かって間合いを詰めて、肩に向けて上から下に剣を斜めに振るう。当たったのでHPが少し減り、吹き飛ばされるが、直ぐに雄叫びを上げて反撃をしてくる。
反撃を潜り抜けるように躱して俺は【スネークバイト】を放つ。1発目は胸に、2発目は喉元にかけて斬りつける。するとコボルドは大きく仰け反った。弱点は喉元か。そして俺はそのまま追撃を放つとHPが3割から4割削れる。それでも直ぐに反撃で剣を横に振るうので剣で弾き返す。すると相手も弾かれるので、その隙に【ホリゾンタル・アーク】を放ち、更にダメージを与える。
そんなやり取りが続き、やっと1体目のコボルドを倒した。そして経験値が入る。俺は何とか攻略法を掴んだので迫る次の敵モブに備える。
そして2体目のコボルドが攻撃を仕掛けてきたーーーーーー
そしてコボルド達やリトルネペント達も倒した。しかし花付きは出て来ることはなく、胚珠は取れなかった。俺は森を出ると、アリスとイーディス達がきた。俺を見ると焦ったように近寄ってきた。
「ヤハト、無事ですか!」
「1人でこの森に行って戦うなんて無茶し過ぎだよ」
「・・・・別に無茶ではないだろ。余裕を持ってやってるよ」
俺は言うとアリスとイーディスは溜息を吐いて、呆れた顔をしたが直ぐに話題を変えて聞いてきた。
「それで胚珠は手に入れる事は出来たんですか?」
俺は否定する様に首を振ると、2人は頷いて言った。
「だったら私達と狩りをしましょう」
「3人でやった方が早いしね」
「・・・・・俺は施しを受ける気は無いぞ。別に無理に俺を手伝わなくてもいいんだが」
俺の言葉に2人はムッとした顔になるが、悲しそうな表情になってこう言った。
「・・・そこまで私達が信頼出来ないの?」
「私達は私達自身が貴方を手伝いたいと思ってついてきただけです」
「・・・別に信頼出来ないってわけじゃないが」
俺はバツが悪くなって顔を逸らす。この2人を見ていると奉仕部での空間と重ねてしまう。それがどうにも苦しく思ってしまうのだ。俺は来た道を戻っていく。アリスとイーディスも黙って後をついて来た。
本当、何でこんなに苦しく思ってしまうんだろうな・・・・俺は内心、溜息をついて泊まっている宿に戻った。
あれから1カ月が経った。俺も紆余曲折がありつつもアニールブレードをゲットすることが出来た。ホルンカを出た後、俺、否俺達はキリトとアルゴから貰った情報にあったトールバーナに来ていた。つっても1カ月前からレベリングに来ているので道もほぼ覚えてしまったが。
この日までに全プレイヤーの内の1/5である2000人が死んだ。主な死因はゲームに閉じ込められてしまった絶望での自殺が多かった。モンスターに殺されたというのもあったが、キリトとアルゴが発行した攻略本のお陰で被害は少ない。ニュービーのプレイヤー達は。問題はβテスターが大勢死んでしまったこと。恐らくはβテストでのアドバンテージがある事で生じた油断でしくじってしまったのだろう。
この世界で貴重な戦力と成り得るβテスター達が少数になったことに残ったプレイヤー達は不安を募らせることになるが、およそこの3日前に吉報が舞い込んだ。
『ボス部屋に到達』。あるパーティーが、この階層の迷宮区のボス部屋までのマッピングを終わらせたという情報が出回った。そして今日、ボスを攻略する為の会議が開かれることになった。
トールバーナの中央は円状に広がっていて階段状になっている。そこに何十人というプレイヤーが集まってきている。俺はその円状の端でボーッとしていた。俺は欠伸をしながら呟く。
「眠てぇ・・・・」
正直に言うと早く帰りたい気持ちで溢れている。現実世界での日にちで今日は土曜日だ。一応ヒーロータイムとプリキュアを見る時間には起きているが、今日はその1時間も前から起きているのでかなり眠い。下手に遅れていざこざに巻き込まれるよりはましだが。そう思っていると隣にグレーのフーデットケープを身に纏ったアリスとイーディスが座ってくる。そして呆れた様子で言った。
「だらしないですよヤハト。これから攻略会議なんですから気を引き締めて下さい」
「本当に朝にヤハト君を起こしに行って正解だったわ。寝坊してそのまま会議をすっぽかしそうだし」
失礼な。流石に寝坊して攻略会議に出席しないなんてことはない。遅れて参加の可能性は高いけどそこまではない。ないよな?俺は2人を見つつ、講義するように言う。
「いや、お前らのレベリングに俺が付き合わされたんだからね?ダラダラ過ごそうと思ったら毎日10時間以上も外に連れ出された挙句、やる事がレベリングって何、お前らは戦闘狂なの?キリトなの?」
俺がそう言うと気まずげに顔を逸らす2人。レベリング10時間以上って労基法やばいよな。キリトから聞いたが凄い時は篭りっきりでレベリングすることもあるらしい。それを聞いた時まじで引いた。レベリングホリックってキリトの為にある言葉だよな。
しかしそのお陰で俺のレベルは13、アリスとイーディスは12と多分全プレイヤーの中で最高クラスの位置にはいる。トールバーナの眠りの森というフィールドでレベリングした結果だ。因みに1カ月前に発生したようなイレギュラーは無かったが。キリトにも聞いたが、そんなことには遭遇した事がないと言われた。高くてもレベル6の敵モブがこの階層の最大らしい。
俺がそう回想していると、中央に青髪の甲冑を装備した如何にもというような爽やかイケメンが立った。そして周りを見渡して言った。
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的にナイトやってます!」
俺は一瞬耳を疑った。声が材木座に瓜二つだったからだ。思わず材木座!?と言いかけそうだった。雰囲気が葉山みたいな奴で声が材木座とか、本当に居たのかと思った。周りのプレイヤーは緊張が解れたのか、ぞんなジョブねえよー。と笑いながら突っ込みをいれていた。
「何が面白いんでしょう?」
「さあ・・・?」
笑う要素がどこにあるか分からなかったのかアリスとイーディスは首を傾げる。俺は感心しながら小さく呟く。
「警戒心を持たせない為にやったことだろうな。まじで葉山みたいなことすんな」
気さくな面を見せることで相手の警戒心を解し、信用を持たせる。そして自分の意見に耳を傾けさせやすくする。イケメンリア充の専用技みたいなものだ。そしてディアなんとかは話しを続ける。
「今日、オレ逹のパーティーがあの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり明日か、遅くとも明後日には辿り着くってことなんだ。第一層のボス部屋に!」
あ、此奴等のパーティーが見つけたのか。偶に迷宮区の方にも入っていたが、レベリング目的であり、マッピングはしていなかった。主に目立ちたくないという理由でだが。
そしてディアなんとかの話がそのまま続けられるかと思いきや割って入る声が聞こえた。
「ちょおー待ってんか!」
声が聞こえた方を見るとトゲトゲした髪の男が立ち上がって声を挙げた。え、何あの髪型、どうやったんだよ。思わず笑いを洩らしそうになるがギリギリ耐える。
ディアなんとかの方へ行くと周りを睨むように見渡す。そして戸惑った様にディアなんとかは聞く。
「えーっと、君は?」
「ワイはキバオウってもんや。ナイトはんの話しを聞く前に1つ言わせてもらわんと気が済まんもんがある!此処にこそこそおるであろうβテスター共になぁ!!」
憎しみの様な感情を乗せて周りのプレイヤー達を睥睨するキバオウ。その言葉に周りのプレイヤー達がざわつき始める。アリスとイーディスも怪訝そうな様子だ。そしてキバオウは叫ぶ様な事を言う。
「βテスター共が抜け駆けして、ニュービーの左右も分からん状態なのに見捨てて死んでいった二千人にや。狩場の穴場、上手いクエストの情報、奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもうたんや!せやろが!!」
その言葉に凍りついた様に場が静まった。アリスとイーディスはキバオウの叫びを聞いてキバオウを睥睨する。
「勝手な物言いですね・・・!」
「βテスターだけに全部の責任がある訳がないでしょ・・・!」
尚もキバオウの主張は続く。
「だからワイはβテスター共に命は預けへん!ちょろまかした装備とコルを置いて、ワイ等ニュービー達に謝罪しない限り協力はせんからなぁ!」
「ぶふっ・・・」
キバオウの主張を聞いてこの場に潜んでいるであろうβテスターを周りのプレイヤー達は糾弾し始めた。俺はその様子を見て、この場にいるであろう全プレイヤー達に聞こえるように吹き出し笑う。その予想外の俺の反応を見て全員の視線が集まる。キバオウは俺をヤンキーみたいな態度で睨んで言った。
「・・・何やワレ、何がおかしいねん!言うてみぃや!」
「いや別に・・・・この場に置いて全くの見当違いな事を言ってたから笑っただけだ」
「何やとぉ・・・?」
俺は、立ち上がって周りのプレイヤー達を見ながら言った。キバオウの主張の粗を。
「キバオウ、アンタが逆にβテスターだったとして9000人のニュービーの面倒を見切れるのか?」
俺の言葉にキバオウは言葉を詰まらせる。俺はその様子を見て続ける。
「それにβテスターはこの世界の先駆者、謂わば貴重な戦力だ。情報も持ってるしボスとの戦い方も知っている。そんな奴等の身包み剥いで、βテスターに嫌われて情報もボスの対処法も教えないって言われてみろ。ニュービーの俺達の中から死人続出だ。誰が責任取る?そりゃあ迫害を言い出した奴、キバオウ、アンタになるぞ?」
その言葉にキバオウは顔を青ざめさせる。大量殺人者の汚名を被りたくはないだろう。人間誰しも重い責任は負いたくないってことだ。そして俺はメニュー画面を操作して本を取り出す。その本はキリト達βテスターが発行した攻略本だ。俺はその本を片手で持って言った。
「・・・・・この攻略本、多分此処にいるほぼ全員が持ってると思うんだが」
「・・・・それがなんや」
「この攻略本はβテスター達の経験が載っているんだよ。これに助けられた奴もいるんだろ。死んだ2000人の800人くらいはβテスターだ。その命の結晶がこれなんだよ」
プレイヤー達はざわつき始める。βテスターの8割が死んでいるとは思わなかったのだろう。俺は最後にこう締めくくった。
「ぶっちゃけβテスターの吊し上げは他所でやってくれ。攻略会議が無いなら俺は帰って寝たいんだよ」
そして場に静寂が訪れる。キバオウは静かに元の席に戻っていった。ディアなんとかが気まずげな空気な中で再び喋り始める。
「・・・βテスターに恨みを抱いている人もいるだろう。でも、此処に居る人達はβテスター達の情報で助けられた人もいる筈だ。この世界を攻略する為に、互いに認め合っていこう。俺の意見に賛同してくれるかい?」
ディアなんとかの言葉にポツポツと拍手が起こる。そして大喝采になった。良いとこだけ持っていきやがったなあのイケメン・・・俺は溜息を吐いて座ると隣のアリスとイーディスが言った。
「少しヒヤヒヤしましたよ、全く。ヤハトも煽り過ぎないでください・・・でも私的にはとても良かったですよ」
「少しスッキリしたよ。ヤハト君、GJ」
その様子に俺は頰を掻いて言った。
「言いたい事をただ言っただけだ」
「「捻デレだ(です)ね」」
「おい、変な言葉作んの止めようね。妹の作った言葉を何で知ってんだよ・・・」
俺はげんなりしていると2人はクスリと笑う。ディアなんとかの話は進んでパーティーの事になった。
「よし、今から2人1組になって3組に集まってレイドを組んでくれ!連携を確認したいから組んだ人と一緒に戦って欲しい」
「・・・・余りますよね」
・・・・まじか、此処に居るプレイヤーは総勢で45人。1人があぶれる。俺達が考えていると声がかけられる。
「おーい、ヤハト!」
そんな声を掛けて近づいてきたのは廃ゲーマーボッチことキリト。そしてその隣に赤いフーデットケープを着たフェンサー。格好的に女っぽい。俺は面倒くさい雰囲気を醸し出して言った。
「・・・・・大声はプロボッチにはキツいから止めろキリト」
「悪い悪い。ヤハト、さっきはありがとな。俺の立場じゃ何も言えなかったし」
キリトの礼に俺は視線を逸らして言った。
「・・・・別に、攻略に支障をきたしたら面倒と思っただけだ。さっさと終わらせたかったしな」
「・・・・そうか。んで、そっちのグレーのフーデットケープを着た2人は?」
「・・・お久しぶりです。キリト」
「1カ月ぶりだね」
2人の声を聞いてキリトは納得し、フェンサーは驚いた様子を見せた。まあ、こんな眼の腐った男の近くに女性プレイヤーが2人いるんだから驚くのも無理はない。自分言ってて悲しくなってきた。止めよ。
「できれば俺達と組んでくれないか?知り合いがヤハト達位しかいないんだ」
「・・・・別に構わんけど、そっちの奴は良いのか?」
俺はフェンサーの方に聞く。するとフェンサーが静かに言った。
「・・・別に構わないわ」
俺は横にいる2人にも視線を持っていく。2人も頷いた。
そしてキリトがパーティー申請を送ってきたので受諾する。そして表記されたのはキリトの名前と《アスナ》と言う名前だった。
「・・・んじゃまあ俺は帰る」
俺はそう言うと、キリトも苦笑しつつ言った。
「面倒くさがりだな。まあ俺も戻るよ、風呂に入ってすっきりしたいし」
キリトの言葉を聞いた瞬間、目にも留まらぬ速さでガシッと言う効果音が聞こえてきそうな感じでアスナがキリトの肩を掴んだ。その様子は鬼気迫るといった感じである。何、キリトの奴早速フラグ建てたのか?
「お風呂・・・ですって?」
「な、何?少し怖いし近いから離れt「お風呂の入れる宿に連れて行って」・・・へ?」
アスナの言葉にキリトは素っ頓狂な声を洩らしたのだった。・・・何このギャルゲーイベント、フラグ回収早過ぎじゃね?
それからキリトと別れようとすると、キリトが『女子との2人きりはきつすぎるからヤハト、付いてきてくれ!』と割とマジトーンで言われ、1回は断るも、5000コル払う。という事を条件に俺はキリトの泊まる宿に付いていくこととなった。するとアリスとイーディスも男性2人に女性1人ではあれだからと付いていくことになった。そして広場から出ようとするとガタイの良いスキンヘッドの黒人に、何故か礼を言われた。そして俺達は宿に行く間、アスナに《スイッチ》と《POTローテ》について実践しながら教えていた。まぁ、教えてるのはキリトなんだけどね。
「ハアァッ!」
緑の流星が敵モブにヒットし、見事にポリゴン化する。刺突ソードスキル【リニアー】を放ったアスナにキリトは感心していたが俺も感心している。スイッチとPOTローテも知らない時点でニュービーだと分かっていたが、そうは思えないほどの正確さと速さのリニアーだった。フェンシングでも習ってたのか?
キリトのレベルは12、アスナのレベルは10。俺のレベルがキリトより上だったことに俺は驚いたが、装備の強化に力を入れているらしいので納得した。キリトは【アニールブレード+6】攻撃力と頑丈さに+3ずつと、バランス良く強化していた。武器には強化回数の名目があり、倒した敵モブから落とされた素材と合成し、強化してポイント振り分けて鋭さ(攻撃力)や頑丈さ(重量)、器用さ(クリティカル補正)を上げるのである。俺はAGI極振りステータスで攻撃力が足りないため、鋭さ+4と頑丈さ+1、器用さ+1と偏っている。
そして、宿に到着した俺達。俺とキリトは部屋に行き、女子3人は風呂に入った。特にアスナは一直線で風呂場に向かって行った。風呂への執着が凄いな。多分INの宿にばっかり泊まってたから入れてなかったんだろうなぁ。俺とアリスとイーディスは風呂付きの宿に泊まっているのでその辺は問題無い。
女性を連れ込んだことにキリトは緊張が凄く、ソワソワしている。まぁアスナの外見は知らんがアリスとイーディスは美少女なので分かる。しかしあれである。緊張しても覗きに行けば即黒鉄宮行きになるし、そもそも覗きに行く勇気さえも無いので緊張するだけ無駄なのである。よって俺はキョロキョロと周りを見てボーっとしていた。あれ、俺が1番無駄に緊張してるんじゃね?こんな時は素数を・・・・1って素数だっけ。と脳内で巫山戯ていると、ふと聞きたいことがあったのでキリトに聞く。
「・・・・おい」
「な、何だ?」
「1層のボスの戦い方やボスの使用武器はどんな感じだったんだよ」
「あ、ああ。1層のボス・・・《イルファング・ザ・コボルドロード》は最初は斧型の武器で取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》と一緒に攻めてくる。取り巻きがいる間はボス自体の攻撃はそこまで激しくないけど、取り巻きの攻撃が激しいから先に取り巻きを倒す。倒した後にボスの攻撃が増すからタンク役のプレイヤーを中心に凌いで、ボスのHPがレッドに差し掛かったらタルワールって言う曲刀でソードスキルを乱発してくるから注意しながら一気に撃破って感じだったかな」
コボルド、弱点は分かっているので攻撃面は大丈夫だとして、重要なのはβテスト時と何か変化がないかどうかだ。まぁ、そこらへんは最大限警戒するしかない訳だが。そう思考しているとコンコンコンとノックが鳴った。もう風呂を上がったのだろうかと思っているとキリトがドアを開ける。
「おっと、やっぱリ此処にいタカ。キー坊とハトっち」
そこには情報屋である《鼠》のアルゴがいた。今更だが、ネーミングセンスがお団子頭のアホの子並みなんだよなぁ。俺は呆れているとキリトが聞いた。
「今日はどうしたんだよアルゴ。ボスの重要な情報とか見つけたのか?」
「違ウ、違ウ。今回はキー坊に他の奴から依頼が来たから言いにきたんダヨ」
キリトに依頼って何だ?キリトも心当たりが無いのか首を捻っているとアルゴが話しだす。
「キー坊の剣を買いたいって依頼・・・・・今日中なら、39800コル出すそーダ」
「さ・・・・39800コルゥ!?」
キリトが叫んだ。俺も驚いて、思わず言った。
「・・・・そんな大金1人じゃ稼ぐの難しいだろ。俺でも2万5千くらいしか持ってないぞ」
俺の言葉にキリトは考える様子を見せて言った。
「・・・アルゴ、クライアントの名前に1500コル出すから、それ以上積み返すか、確認してくれないか?」
「・・・わかっタ」
・・・・ん?名前公表するだけで金取んのか。当事者のキリトにもただで教えるのかと思ったがやはり情報を扱うだけあってその辺りは厳しいらしい。
「・・・・・教えて構わないそーダ」
何が何やらといった顔で、キリトはアルゴに1500コルをオブジェクト化して渡す。
「で、アルゴ、クライアントの名前は?」
「・・・・二人共、もう知ってるハズだヨ、昨日の会議で大暴れしかけたかラ」
そう言って《鼠》は俺の方を見てくる。大暴れってまさか・・・・・
「まさか、キバオウ、か?」
そう言うとアルゴは頷く。反ベータテスターのキバオウが元ベータテスターのキリトの剣を欲しがっている。絶対何かあると、推理するまでもない。
「ん?そういえば何でヤハトも聞いてるんだ?」
「宿に行く間に連絡してキバオウの周辺を調べておいてもらったんだよ。5000コルでな」
情報がないとあるとではこの世界では他のプレイヤーと大きく差が出る。フレンド登録しておいて正解だった。しかし揶揄いにくるのはやめて欲しい。そのキャラは魔王で間に合ってるしな。・・・なんか悪寒がしたからこれ以上のこの話題への考えは放棄しよう。
「キバオウには断っておいてくれ。いくら金を積まれても売る気は無いと」
「わかッタ。連絡しておくヨ・・・ちょっと着替えたいから隣の部屋借りて良いカ?」
っと、ヤバいイベント発生しちゃったよ。この部屋の隣は風呂場なので今は・・・・
「待て、アルゴ。今使用している奴がいるんだよ」
俺の言葉にアルゴが一瞬考える様子を見せた後、ニヤリと口を歪めたのを俺は見逃さなかった。あ、嫌な予感。
「ふーん、わかッタじゃあ帰ル。・・・・と見せかけテ!」
「あ、馬鹿!止めろおおお!」
キリトが捕まえようとするがアルゴは器用に躱し、隣の部屋に入っていった。俺はいち早く窓から脱出を試みる。呆然としているキリトを置いて。キリトはまぁ・・・・良い奴だったよ。そして・・・・
『きゃああああああああーーー!!?』
女子3人の悲鳴が上がってドタドタと音が聞こえてきた。は、早くしなければ俺が社会的に死ぬ。まだマイスウィートエンジェル小町と戸塚に合わない限りは死ねないんだ。窓を開こうとするがガチャンと言う金属音。鍵かかってるうううううう!?
「ぶへ!?」
乾いたバチンという音とキリトの短い悲鳴が聞こえた後、俺の後ろに気配がした。そして底冷えする声がした。
「こっちに振り向いたら・・・・分かるわよね?」
俺は後ろを振り返ることがないようにゆっくり頷いた後、静かに呟いた。某幻想殺しの台詞を。
「不幸だ・・・・・」