お風呂から出た女性陣に俺達男性陣は説教されていた。アルゴはいつの間にか逃げていた。俺にも悟られぬ様に逃げるとか、もしかしたら彼奴は俺以上のボッチの可能性が微レ存?そんな思考をしていると顔を覗き込まれて栗色の瞳に冷たく睨まれる。
「・・・・本当に反省しているのかしら?」
「・・・いや、俺は一応止めた立場なんだけど。怒るならアルゴに怒ってくれ」
いや、正直なとこ期待もしてたよ?俺も一応健全な男子高校生だからな。ていうか何気に此奴・・・・アスナの顔を初めて見たけど、此奴も相当ルックスのレベル高いな。
「・・・・・まぁ、何も見られてないから今回は不問としてあげるわ。でも、次はないわよ?」
次とか想定してねえよ。ていうか俺は元々キリトに頼まれてきたから一緒には絶対いないと思うんだがな。
そして俺は正座から解放された。因みにキリトは見てしまっているので現在も正座中だ。ぶっちゃけ俺は見てないのに何で正座させられたのか。
俺は部屋を出て外で待機していたアリスとイーディスと合流した。2人はアスナほどは怒っていない。羞恥はしているよな?余りにも肝が座りすぎじゃないのん?俺は不思議に思ったので聞いてみた。
「・・・なあ、2人は怒ってねえのか?」
俺の問いに2人はアスナの阿修羅如きの顔を思い出したのか、苦笑していた。そしてアリスが言う。
「彼女みたいに身体を見られた訳ではないのであそこまでは思ってませんよ。元はと言えばあの情報屋の《鼠》が悪いんですし」
アスナの様に身体を見られた訳ではないので大して気にしていないらしい。運が良いというかなんと言うか・・・・。そして2人を見ていると先程の出来事の所為か、2人の身体を想像してしまった。そんな様子から見抜いたのかイーディスがジト目になって言った。
「顔赤いけど、もしかして私達の裸を想像したんじゃないの?」
「・・・い、いや?しょ、そんな事ないじょ?」
詰問された動揺のせいで思わず噛んでしまった。アリスとイーディスが俺をジト目で睨むので俺は閑話休題と言わんばかりに話題を変える。
「っと、それはそれとしてキリトから第1層のボスの攻略法を聞いたんだが」
俺がそう言うと2人は真剣な表情になる。そしてキリトから聞いたことをそのまま伝えると、2人は少し考えた後に口を開いた。
「ふむ、私はパワー型なのでスピード型のヤハトとイーディスにボスや取り巻きを撹乱してもらった方が良いですね」
「分かった。私達は先ずボスじゃなく取り巻きのコボルドを倒す方が優先しよっか」
イーディスの言葉に俺は頷く。正直ステータス的には高い方だが、リスクを考えるとボスよりは取り巻きの方が倒しやすい筈だ。それに・・・・
「俺はさっきの件でヘイトが集まってるから取り巻きを押し付けられそうだしな。まぁ、ボスを倒したい訳じゃないし楽だからいいけど」
「・・・・そうですね」
「あー、まぁ想像つくなぁ。あのキバオウって人に、出しゃばるな。って言われそう・・・」
2人は苦笑しながら言った。あの捻れた正義感とプライドの所為であのもやっとボールみたいな髪型になったんじゃ・・・・・ともかくあのもやっとボールには絡まれないようにしとこ。怖いし、うるさいし、後怖い。
そして俺達が軽い確認を終えた後にやっとキリトの説教が終わった。キリトに俺達の取った宿に戻ることを伝える。するとキリトが辛そうに顔を歪める。大方アスナと2人きりになるのが辛いのだろう。しかしアスナを無理には追い出せない様で困っている。アスナはお風呂付きの宿があるなら出て行くと言っていたが、近くにそんな宿はないし、有ったとしても満員だろう。
部屋の中にいてアイテムの整理をしているとキリトが不思議そうに聞いた。
「なあ、何でヤハトは2人といて平気そうなんだ?」
俺がアリスとイーディスと一緒にいるのに平然としているのが疑問だったらしい。俺は苦笑して言った。
「・・・・平気って、んな訳ねえよ。俺だって男だしあのレベルの容姿は緊張するに決まってる。俺としても1人で行動したいしな。でも、色々借りも出来ちまったんだよ。アニールブレードのゲットするのも、料理も食わせて貰ってるしな」
最初は断ったのだが、案の定2人の押しに押し切られてしまい、アニールブレードの入手手伝いや料理を作って貰っているのだ。断固として断ろうとしたら本当に悲しそうな顔をされるので困る。よって渋々行動を共にしている。断じて楽ができるからそうしてる訳ではないぞ?断じて。最近では目覚ましの役割も担っているので健康的です。・・・・はぁ、本当レベリングに毎度毎度付き合わせんのは勘弁して欲しい。働くのはごめんだって言っても聞かねえしなぁ」俺が溜め息を吐いているとキリトは胸やけしたような様子だったので俺は聞く。
「おい、どうした?」
「・・・何でもないよ」
そして攻略の時の立ち回りをキリトに言うとキリトもそう思っていたらしく、賛成した。そして俺達は自分達の泊まっていた宿に戻った。
宿に着いて、アリスの部屋にて昼食を取る。料理スキルは全員取っているが、熟練度はアリスが一番高い。と言ってもイーディスとの誤差はあるが、ほとんど同じなので変わらない。俺はマッカンを再現する為に取ったスキルなので料理という点では余り使わない。
ソードアートオンラインの料理の仕方は現実と違ってかなりプロセスが簡略化されているので短時間で済むが、その代わり不味くもないし、物凄く美味しい訳でもないという、とても不思議な味になるのだ。その理由は分かっている。俺はテーブルに並べられているアリスが作ったコロッケ(不思議味)を咀嚼して飲み込んだ後に言った。
「・・・・これ、コロッケなんだが、やっぱり不思議味になってるなぁ」
その声にアリスは何処かムッとした様子を見せる。何でムッとしてるのん?そしてアリスが言った。
「・・・・仕方ないでしょう。此処には現実世界の塩や胡椒と言った調味料が無いのですから」
「そこらへん茅場晶彦って適当だよねー。もうちょっと凝って欲しかったよ」
イーディスは頬杖を突いてぶー垂れながらコロッケを食す。女子がそんな不貞腐れた様子で良いのか?と思いつつ、アリスに、こら、肘を突いて食べるのはマナーが悪いから辞めなさい。と注意されているのを尻目に俺はコロッケと付け合わせのポトフを食べて言った。
「まあ、この世界では攻略がメインだからその辺は手を抜いてもおかしくねえだろ」
そして黙々と食べ終わって、宿の部屋に取り付けられている簡易キッチンの流し台で皿を洗った後、俺は自分の部屋でダラダラしていると、登録しているフレンドリスト(関係的にフレンドとは言わないが)にあるアルゴからメールが届いている事に気づく。
『次の攻略会議で段取りと攻略日を決めるらしイ。次は明後日ダ』
そう書かれている内容を確認して、分かった。と返信しておく。俺はメニュー画面を閉じると目を瞑って思考に意識を落とす。
この攻略が今後の攻略に大きく影響することは間違いない。成功するか、失敗するか・・・・不安分子が少しあるが、今はそれを考えても仕方ない。今は問題はそこでは無いと思っているからだ。
それは、今回の攻略で死人が出る可能性があること。絶対な安全は保障されて無いのでどうしようもないのだが、そこでは無くて攻略に参加するメンバーを牽引する奴とそうでは無い奴とでは及ぼすであろう影響力が全く違う。村人Aが死んでも『ふーん、可哀想だね』で終わりだが、レギュラークラスの人物が死んだら号泣してしまうのと同じだ。小学4年の時、劇の時に俺が死人の役やって見向きもしなかったのに、急遽メンバー変えて矢島がやったら大号泣になった。勝手に死人役に組み込んだ中川は絶対許さん。
そんな訳で攻略もそうだが、攻略の主要になるメンバーは生かさなければならない。攻略速度も遅くなるしな。
誰も死なない様に動くのが一番だ。だけど現実は、て言うか茅場が作ったこの世界は甘くない筈だ。だからいやらしい設定を施してる可能性は充分ある。だから・・・・
「覚悟しなきゃいけない・・・・誰か死ぬ可能性を」
働きたくないが、最低限の働きはしないと支障をきたす。目立ちたくねえが・・・・。そこで雪ノ下達のことを思い出す。
まだ、俺は誰かが死んだ時にそれを受け止める覚悟が出来ていない。覚悟をしないと総崩れした時に死人が出る。その上での敗走は避けないといけない。
帰るために、帰って彼奴らと話し合って・・・・・次に進むために。この攻略を落とす訳にはいかない。
そう考えていると、夕食を食べる時間になった。夕食のシチューを作ったイーディスに怪訝な顔をされる。
「ヤハト君、顔が険しいけどどうしたのよ?」
俺はハッとする。どうやら顔に出ていたらしい。俺は、何でもないと言った。そしてシチューを食べ終えて部屋に戻る。
風呂に入る気にもならず、寝具の準備をして寝ようとするとコンコンコンとノックが鳴った。俺はゆっくりと扉の方へ向かい、静かに扉を開けると。
「ヤハト、入っても大丈夫ですか?」
「・・・・なんか用か?」
攻略の時の考えが頭から離れず、苛立ってしまい思わず低い声で尋ねてしまう。・・・・何やってんだよ。アリスは別に何も悪いことはやってないのに。そんな俺に対してもアリスは凛とした様子で続ける。
「いえ、何やら思い悩んでいる様子に見えたので相談に乗ろうと思いまして」
「・・・別に悩んでないから良い。俺はもう疲れたから寝る」
そう言って俺は扉を閉めようとするが、アリスではない別の手がドアノブを掴んで止める。俺は睨むように視線を向けた先には真剣な表情のイーディスが立っていた。俺は何だよ、と言い掛けるが、その前にイーディスが言った。
「攻略の事で悩んでる、違う?」
図星を突かれ、思わず黙り込む。その隙に部屋の中に入り込まれた。
俺は追い出そうとして2人の肩を掴み掛けるが、キリトに『女性の身体に触れたらハラスメント警告がされるから注意しろよ』と最初に会った時に言われた言葉を思い出し、咄嗟に止める。俺は溜め息を吐いて寝具の敷き布団の上に胡座をかいて座る。
アリスとイーディスも近くに座る。そして静寂な空気が流れ、物音すらしない中、アリスが口を開けた。
「ヤハト・・・・攻略の事で何を思い詰めているんですか?」
「・・・・別に俺は悩んでないって」
「では、何でそんなに苦しそうな顔をしているんですか?」
俺の言葉をアリスは遮る様に言う。力強いまっすぐな瞳に思わず言葉を詰まらせる。そして続け様にイーディスが言った。
「何か悩んでいるんだったら話して欲しいんだけど。私たちも力になれるかもしれないよ?」
アリスとイーディスの姿勢に思わず、あの奉仕部の2人と重ね合わせてしまう。俺は拳を強く握りしめて言う。
「・・・・どうして、そこまでやるんだよ」
俺は此奴等に違和感があった。命の危機を助けたからと言って一緒に付いてきたりするならまだしも、クエストの手伝いや食事を振る舞う事までする必要は無いんじゃないかと。恩を着せるためにやった訳でもないし、礼もいいと言っているのに。しかも俺は男子で此奴等は女子だ。離れるのが普通の筈だ。
その言葉に対してアリスがゆっくりと答え始めた。
「・・・・・最初は恩を感じて付いてきたのは確かです。ですが」
「一緒に行動するにつれて貴方の捻くれた性格の中にある優しさや何やかんや言って私達の用事に付き合ってくれる気遣いの良さを知っていく内に恩義なんて関係なく貴方に付いていきたいと思ったんです」
・・・・俺は別に優しくない。唯自分のためにやっていることを勝手に他人が判断しているだけだ。
「・・・・・俺は別に優しくなんてない。お前の思う様な奴じゃない」
アリスの言葉を否定するとイーディスが言った。
「ヤハト君がそう思っていても私達は貴方に付いていきたいと思ったのは事実。困っていたら助けたいと思ったの。だから何に悩んでいるのか教えてくれる?」
「・・・・・」
怖い・・・誰かを信用するのが。信用して裏切られる事ではない。裏切られて勝手に自分自身が失望することが。そう思っているとアリスが俺の手を両手で包んできた。俺は思わず身を引きかけるが。
「ヤハト・・・・貴方が私達を遠ざけようとしているのは分かっています。そして誰より責任感が強い事も」
「ーーーーーーそれでも私達は貴方をもっと知りたい。近くにいて助けになりたいんです」
『今は貴方を知っている』という言葉を重ねる。雪ノ下が文化祭の終わりに奉仕部で言った言葉だ。俺は顔を上げる。そしてアリスの宝石の様な蒼眼と視線が交差する。そこには雪ノ下の様な凛とした瞳があった。ーーーーーいや、違う。アリスは雪ノ下ではない。肩を叩かれ、叩いたイーディスの方を向く。イーディスの紅眼に見つめられる。
「でも、ヤハト君は直ぐに距離を置こうとするし、こっちから行くことにするよ」
『待たないでこっちから行くの』文化祭の時の由比ヶ浜の言葉だった。由比ヶ浜の様な人を包める優しい瞳だ。ーーーーーいや、違う。イーディスは由比ヶ浜ではない。
攻略で死ぬかもしれない。それは分かっていた。俺はーーーーーーー俺は、雪ノ下と由比ヶ浜を重ねていたこの2人が、死ぬかもしれないという考えが頭をよぎってしまって情け無くも恐かったんだ。
「・・・・・・俺は、攻略で誰かが死ぬ可能性があるのを考えていたんだ」
だけど、2人は雪ノ下や由比ヶ浜ではない。遠ざけたかった。どうしてもあの言葉が頭の中で響く。
『貴方のやり方、嫌いだわ』
『もっと人の気持ち、考えてよ』
俺のやり方でいつかこの2人を傷付けて、やり方を否定されて・・・・自分自身に絶望するのが怖い。俺ではこの2人は守りきれない。だからこの2人を戦いから、俺の前から遠ざけたかった。
俺は考えていた事をダムに塞き止めてあった水を放出するように一気に話した。そしてアリスとイーディスは呆れたような表情で言った。
「ヤハト、貴方が私達を守らなくても自分の身は自分で守ります。それに、私達はパーティーを組んでいるのだから支え合うのが当然なんですから」
「正直、ヤハト君は何でもかんでも自己完結しすぎだと思うよ?負わなくて良い心配も全部一緒くたにして、ちょっとは肩の荷を下げたら?自分を大切にしなよ」
解らない。俺は自分自身でどうにかすることしか知らない。他人に頼るやり方を知らない。それでも足掻いて、何とか答えを得ようとしてこうなったのだから。
俺が2人の言葉に返答を窮していると、ふと抱きしめられる。俺は驚き、抵抗しようと身体を捩ろうとするが、その前に頭を撫でられる。
「ヤハト、貴方が怖がるのは分かります。私だってヤハトやイーディスが居なくなってしまったらと思うと、とても怖い」
「だけど、その怖さは1人でどうにかしようとしたら駄目です。そんな事をしたら貴方は壊れてしまうから・・・・・それを見る方がもっと怖い」
何でお前が怖がるんだとは言えなかった。アリスの何時もの凛とした絵画のような美しい微笑みでは無く、今にも消えてしまいそうな、儚い微笑みだったから。そしてイーディスが言った。
「それに、ヤハト君にも
その言葉で想い出されるは平塚先生と陽乃さんと家族・・・親父、母ちゃん、カマクラ、そして小町の顔だった。
『お兄ちゃんが真剣にアリスさんとイーディスさんの身を案じるのは小町的にポイント高いけど、その2人の気持ちを信じてあげる方が小町的にもっとポイント高いかな?』
小町は此処には居ないが、此処に居たのならそう言われるような気がする。平塚先生は励まし、陽乃さんは揶揄いそうだな。
俺は僅かに頰を緩めて小さく言った。
「・・・・・そうだよな。ーーーーーーありがとう」
そしてその言葉を言った瞬間に今までずっと思考し続けて疲れたのか、急激に眠気が襲ってきて瞼が重くなった俺は眠るのであった。
声がしなくなったヤハトの様子を不思議に思い、見てみると静かに寝息をたてていた。緊張の糸が切れたのだろうか。
「ヤハト?・・・・眠ったみたいです」
私はヤハトをゆっくりと横にして寝苦しくならないように寝かせる。するとイーディスがヤハトを見ながら微笑んで言った。
「・・・・・こうして寝顔を見るのは初めてだけど、ヤハト君って中々イケメンだよね」
イーディスの言った言葉についてヤハトの規則正しい寝息を聴きながら考える。ヤハトは普段は濁った眼と捻くれた言動も相まって近寄りがたいが、目を瞑っていると世間一般のその辺のイケメンよりはずっと顔が整っている。それに髪に生えている主張気味のアホ毛は愛嬌があって可愛い。ヤハトの顔を見ていると、イーディスがニヤニヤしながら私を見て言った。
「んー?アリスったらヤハト君を凝視して、見惚れちゃってるのー?」
「ち、違っ!貴女がヤハトの事をイケメンと言ったから考えていただけで・・・・!」
「しーっ、あんまり声を大きくしたらヤハト君が起きちゃうから静かに」
唇に人差し指をもって来て注意してきたイーディスに、私は今のヤハトの状態を思い出して口を噤む。私達の声に反応せず眠り続けるヤハトに安堵して再び小声で話し始める。
「・・・・本当、ヤハト君は色々抱え込んでるよねぇ。危なっかしくてかなわないわ全く」
「私達を遠ざけたい様子だったみたいですが、ヤハトは独りにしたら駄目です。直ぐに無茶して、それを他人には隠そうとしますから」
この1カ月でパーティーを組んで行動していってヤハトという人の成りが分かってきた。
「この人は楽したいと言う癖に戦う時は前線気味ですし、タゲ取りで敵の囮になって引き付ける役を何も言わずともします」
「かと言って私達が前に出て攻撃を加えていくと動きやすいようにさりげなくサポートに回るし、そのサポートも絶妙だからね」
面倒くさい、ダルい、休みたいと毎日言って、狩りに行く時も消極的なのにいざ戦いになったらしっかりと役目を果たすどころか私達よりも危険な敵と戦う役回りだったり、撤退の時は『俺は負ける事については最強だし、危険だったら敏捷極振りだから直ぐに逃げるぞ』と言っているのにいつの間にか私達が撤退するまでの間、時間稼ぎをしたりと、言っている事とやっている事が真逆なのだ。本当に捻くれ者だと思う。
ヤハトは他人を疑っているのに困っていたらまっ先に助けに行ける人なのだ。そして助ける為には手段を選ばない。それが、自分自身を危険に晒しても他人を助けるのだ。
「本当、危なっかしいよ。そして・・・・・助けたくなっちゃう」
「・・・・ええ、ヤハトには幸せになって欲しいと思いますよ」
少しは他人よりも自分自身を優先してその身を大切にして欲しいものだ。死んでしまえば、リセットの効かないデスゲームなのだから元も子もない。私は少し悲しく思いながら寝ているヤハトの頭を優しくゆっくり撫でる。そしてそこで会話は切れ、ぼんやりと窓の外から映る月の光だけが私達を照らす。
するとイーディスが欠伸をして、眠たげに口を開く。
「ヤハト君を見てると眠くなってきちゃったなぁ・・・・もう此処で寝ようかな」
「え、それは流石に・・・・」
「別に大丈夫だと思うよ?ヤハト君は寝てるし、もしも途中で起きても1カ月も近くに居て行動しているのに手を出すどころか遠ざけようとするぐらいだもの」
イーディスの言葉に私は考える。倫理的に考えて年頃の男女が同じ寝床で寝る事は良い事ではない。しかしヤハトは女性を襲うような人ではないのも確かである。この1カ月が良い証拠だ。私は悩みながらも、ヤハトの事が心配で近くにいたいという思いの方が強く、静かに装備を外して薄着の白いワンピースになる。イーディスも灰色の半袖の服と黒い半ズボンになった。そしてイーディスがメニューを操作しながら言った。
「アリス、ヤハト君に対してのハラスメント警告、外しといた方が良いよ」
「・・・そうですね。一々出現しても面倒ですし、解除しましょうか」
そして私とイーディスはハラスメント警告がでるシステムを解除して、ヤハトを挟むようにして寝転ぶ。幸い詰めれば布団には3人とも入れる。少し心臓が高鳴るが、時間が経つにつれて眠気が来るので私は言った。
「では、おやすみなさい。イーディス」
「ええ、おやすみなさい。アリス」
そう就寝の挨拶をして、ヤハトの頰をゆっくりと撫でながら言った。良い夢を見られるように願いながら。
「「おやすみ。良い夢を見て下さい(ね)ヤハト(君)・・・・」」
そして私達の夜は過ぎていった。
八幡の現状ーーーー
今作の設定は生徒会選挙とクリスマスイベントの間の期間に起こった話なので八幡の本物についての話や平塚先生のアドバイスを聞いていない状態であり、尚且つ奉仕部の空気が悪い中、デスゲームに巻き込まれました。アリスを雪ノ下、イーディスを由比ヶ浜に重ねていた八幡は、意識的に2人を遠ざけようとしますが、逆に無意識に2人を心の支えにしていたのでなんだかんだ一緒に行動しています。そしてアリスとイーディスに諭されたお陰で重ね合わせていた2人ではなく、2人そのものを信頼し始めます。しかし、過去を言ったわけではないため、八幡の想いを2人は知らない上に八幡は生徒会選挙のことがあったとは言え、自分より他人を優先し過ぎることは当然あり、状況が悪いと自分に悪意を向けて集団を纏めようとするのは直ってません。