駆け出した俺たちに向けて、《イルファング・ザ・コボルドロード》が吠えて、手に持っている刀『野太刀』を振り落としてくる。俺たちはそれぞれ横に跳んで太刀による攻撃を躱した。そしてキリトが大声で言った。
「AGI型のヤハトとイーディス、アスナはボスを撹乱させてくれ!絶対にソードスキルの攻撃は受けるなっ!!STR型の俺とアリスで捌いて重い一撃を入れる!」
『了解!!』
キリトが言った言葉に俺たちは頷く。バランス型で恐らくはレベルは10を超えていたであろうディアベルがたった3撃で殺られたのだからスピード型の耐久力が無いイーディスとアスナ、そして特に俺はソードスキルを受けてしまえば一撃で終わる。俺は、静かにこの場において最速の自信があるスピードでボスに間合いを詰める。
ビュウッと風を切る音を立てて、俺はボスの膝に向けて三連撃片手剣ソードスキル【シャープネイル】を青いエフェクトと共に放つ。
「グオオオオオオ!?」
攻撃は直撃して、苦痛で悲鳴の様な雄叫びを挙げるボスに向かってイーディスとアスナが【パーチカル・アーク】と【リニアー】を放って追い討ちをかける。そしてボスが反撃として太刀でソードスキルを使おうとしてくるので、俺達はキリト達と入れ替えるように後ろに跳ぶ。
「スイッチッ!」
「「ハアアァッ!!」」
アリスとキリトが飛び出してボスがソードスキルで攻撃を放つ動作をする瞬間に【ホリゾンタル・アーク】を放ってソードスキルをキャンセルさせる。ボスは体勢を崩して膝を付くので、俺は前に出て突進型ソードスキル【ソニックリープ】で攻撃を加えておく。
ちらっと後方を見ると、未だディアベルが死んでしまった事を受け入れられていない様子で、キリト達の他のプレイヤー達は動き出さない。戦わないんだったら退避するかぐらいしてくれませんかね・・・・ボスのライフは後1ゲージの七割くらいか。ヒットアンドアウェイ戦法が通用する間は良いが、せめてタンク役が欲しい。かなり神経使うし、しんどい。働きたくないのになぁ。
そのままボスは体勢を整えて太刀を振るうので俺は後ろに跳んで躱す。そして横から回り込んで攻撃を入れてタゲ役を受け持つ。そして俺は大声で言った。
「タゲ役はやってやるからキリト達はその間に攻撃しろ!」
その言葉にキリトとアスナは驚き、アリスとイーディスは悲鳴の様な声を漏らした。
「そんな!無茶だ、ヤハト!」
『ヤハト(君)!?』
大丈夫だ。俺のスピードはキリト達の中でも最速だ。ボスの攻撃を受けるな。と言われるならば防御ではなく回避すれば良い。敵モブに捕まらない様に紙装甲にしてまでステ振りしたのだ。今使わないでどうする。多分ボスの攻撃では捉えられない。俺はゲーム特有の疲労のない事を利用してボスの周りを駆け回る。ボスの背中をキリトの方へ向ける様に立ち回る。
「ヤハトの為にも早く終わらせるぞ!!」
キリトがそう言い、一斉にボスの無防備な背中にソードスキルを直撃させる。一斉に攻撃を直撃させた事で一気にボスのライフが削られ、五割と四割の境目まで来た。これなら行けるとそう思った。
しかし、まるでその油断を待っていたかのように、ボスが動き出した。飛来する太刀を躱すが、予想外の速さで切り返しが来た。俺は何とか反応して剣で受けるが、吹き飛ばされる。その光景を見てアリスとイーディスが悲鳴を挙げる。
「「ヤハト(君)ッ!!」」
そして駆け寄ってくる。しかし運悪くボスの攻撃射程内に入ってしまった所為で死を運ぶ凶器が2人に振り落とされようとする。俺は思わず今後は絶対に出さないと言えそうな程の大声で言った。
「馬鹿野郎ッ!!俺のことは良いから後ろに退がれええええ!!」
しかし咄嗟の行動に人が反応を切り替えることが出来る訳もなくアリスとイーディスは後ろに跳ぶことも出来ずに硬直する。2人に確実に迫る『死』を見て俺の頭は真っ白になった。
・・・・やめろ、これ以上俺の自分勝手に2人を巻き込んで絶望したくないんだよ。二度とあんな思いを味合わせられたくないんだよっ・・・・
小町、母ちゃん、親父、戸塚、材木座、川崎・・・・・由比ヶ浜、雪ノ下。彼奴らと同じで此奴ら2人も大切なんだよ。だから、動け、動いてくれよ、俺の身体。こんな所で動けないなんて
「っ!ぉぉぉおおおあああああ!!!」
まるで雄叫びの様な声で身体の硬直を打ち消して立ち上がる。そして駆ける。今までの中でこれ程、一分、一秒、一瞬が長く感じられたことはなかった。
走る。疾る。そして2人を抱え込んでボスの飛来する太刀を躱す為に飛び込んだ時に脚に太刀が触れかけそうだったが、無事に躱してボスの攻撃は地面に当たりガシャアアンと轟音がやけに響いた気がした。
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・い、生きてるか?」
俺は体力を消耗していないのにも関わらず息切れしながら呆然と俺に押し倒されている2人に問いかけるが、反応が返ってこない。俺は申し訳ないと思いつつ、2人の頰を叩く。
「ハッ!ヤハト(君)!!大丈夫(ですか)!?」
俺は2人を放して起き上がると漸く2人が反応を返したので俺はすぐさま武器を持ち直してボスの方へ向いて言った。
「とりあえず話しは後回しだ。まだボスは死んでないからな」
今はキリトとアスナが持ち堪えてくれている。俺はボスの間合いを詰めようと動き出すが、その時、アスナがボスの攻撃によって吹き飛び、追撃されかかっていた。やばい!キリトが叫んでボスの攻撃を逸らそうとしているが間に合わない。俺もこの距離ではどうしようも出来ない。そしてアスナに攻撃が当たろうとした時、何者かが間に入って攻撃をガードした。
「グッ!遅れてしまって申し訳ない!いつまでもダメージディーラーのアンタ等に壁役張られたらタンク役の名が廃る!!ボスの攻撃は俺たちで何とかするからアンタ等は攻撃に専念してくれ!」
ボスの攻撃を受け止めたのは最初の攻略会議の時にお礼を言ってきたスキンヘッドでガタイの良い黒人がリーダーであるパーティーだった。アスナは礼を言って下がり、俺はキリト達と合流する。
「ヤハト達とアスナ、無事か!?」
「ああ、何とかな・・・・タンク役が動き出してくれて助かった」
正直、動き出してくれなければこの中の1人は確実に死んでただろう。キリトが頷く。そしてアリスとイーディスが俺に言う。
「ヤハト、今後絶対あんな無茶だけはしないでください!次はいかなる理由があっても許しません!!」
「お願いだからヤハト君は自分の身を大切にして欲しいの。君が死にそうになった時、本当に怖かったから・・・・」
「・・・・・すまん」
アリスとイーディスに懇願されて俺は素直に謝る。俺が勝手にやった事に2人を巻き込んでしまったのだから当然だろう。キリトとアスナも頷く。そしてキリトが言った。
「とりあえずタゲ役はタンク役がやってくれるから俺達はその間にソードスキルを叩き込むんだ!」
『了解(おう)!』
そして再び五人でボスに向かって駆ける。
「フッ!」
「「ハアアァッ!!」」
最速である俺が最初に【ソニックリープ】を加える。そしてボスの仰け反った背中に回り込んだアリスとイーディスが同時に【ホリゾンタル・アーク】を放つ。
『ガアアアアアアアアッ!!?』
「セアアッ!」
「ヤアアッ!」
そして苦痛で雄叫びを挙げるボスに向かってキリトとアスナが抜群のコンビネーションで【パーチカル】で切り上げ、【リニアー】でその間を補う様に突き、【スラント】で振り下ろし、切り裂く。ボスのゲージはレッドの数ドットにまで削られる。後一撃入れられたら終わる。しかしボスは最後の最後で悪足掻きにディアベルを殺したソードスキルである【辻風】を放とうと飛び上がる。狙いは・・・アスナかっ!
あそこまで飛び上がられたら届かない。俺はアニールブレードを逆手持ちにして、槍投げの様な動作を取る。それと同時にキリトが黒人の背を使って跳んだ。
「終われええええ!!」
そして俺の投剣ソードスキル【シングルシュート】とキリトの【ソニックリープ】が同時にボスに決まり、ボスはそのまま青いポリゴンエフェクトとなって爆散した。
・・・・・・終わったのか?俺の目の前には電子文字が空中に浮かんでいる。その文字は《Congratulation》と《Last attack bonus》だった。そしてその文字の意味を理解した瞬間、俺の身体の力が抜けた。
『オオオオオオオオッ!!!』
他のプレイヤー達の喜びの雄叫びが耳をつんざく程鳴り響く。俺はその場で座り込む。
終わった・・・今日はもう働かねえぞ。一生分働かされたしな。そして座り込んでいるとアリスとイーディス、アスナ、そしてキリトが合流して俺に話しかけてきた。
「お疲れ様です。ヤハト、今日は活躍しましたね」
「本当にね。危ない場面もあったけど、とりあえずお疲れ様」
「ヤハト、ありがとな。お前が行動してくれなかったら俺もヤバかったかもしれない」
「・・・・お疲れ様、ヒヤヒヤさせられたわ」
「・・・・・おう、お疲れさん」
素直に労いの言葉を受けとった。此奴らが居なかったらボスの撃破は不可能だったろうからな。そして今度はタンク役を担っていた黒人がこっちにやって来た。改めて見るとデカいな。
「Congratulation!見事な指揮、そして剣技だった。この勝利はあんた達のものだ」
俺達に向けてのお礼に各々頷くなどの反応を返した。ボスを倒すことは出来た。でもレイドを纏めていたディアベルが死んだのはかなりの痛手だ。彼奴にリーダーとしての素質があったから途中までは何事もなく順調にいけたのだ。助けられるなら助けたかった、なんて甘い考えが一瞬俺の頭を過ぎった。その時。
「何でや!何でなんや!!」
喜びムードをぶち壊す様な怒りの篭った声が響いた。その声に歓声は止み、その声の主へとこの場にいる全員が視線を向けた。
「何でディアベルはんを見殺しにしたんや!!」
関西弁で怒りの声を挙げるディアベルを慕っていたキバオウ。『見殺し』と言うワードに困惑の声が挙がり始めた。・・・・まずいな。
「あの黒い坊主はボスの武器が違うことを知っとったやないか!何で見捨てたんや!!」
その言葉にキリトへと注目が集まる。ディアベルが死ぬ直前、キリトはボスの武器がタルワールと言う曲刀ではなく刀である野太刀と気づき、後ろに跳べ。と指示を出したのだが、レッドゲージのボスを攻撃しようとしたディアベルは止まらずに、そのままソードスキルが直撃したのである。しかし、レッドゲージのボスの武器がβテスト時と違う事は警戒していたが、直前まで誰も気付かなかったし、キリトに非はないと俺は思うのだが。
しかしキバオウのキリトに対しての糾弾は止まない。女性陣はキバオウを睨めつける。
そしてその言葉は波紋の様に浸透していく。どんどんキリトを責める空気が出来上がる中、キバオウは更に激昂して言った。
「違うことを知っときながらディアベルはんを見捨てたんや!ワイ等に詫び入れろやッ!!」
『情報を隠してるなんてヤバいだろ・・・』
『分かってながら見捨てるなんて最低じゃねえか、人殺しだろ』
そんな声が上がり始める。・・・・正直に言えば、此奴等はディアベルが死んだ責任をキリトに押し付けたいだけだ。なので同調して責任の矛先を発言力の弱いキリトに押し付ける。
ああ、全くもって反吐がでる。少しも自分に責任があると思わず、自分は正しいと思う傲慢さが。まるで鏡を見せられている。修学旅行で正しいと思い込んだやり方をして、彼奴等に否定された様に。
感情論には感情論でしか決着が出来ないと体育祭の時に学んだ。今回も感情に寄る決着でしか解決しない。
ーーーーーーー悪い、雪ノ下、由比ヶ浜。やっぱり俺はこのやり方しか分からない。
「・・・・k「はぁー、お前等馬鹿なの?」!?」
キリトが何か言い始める前に俺はワザとらしく溜息を吐いて言った。その言葉に全員が俺に視線を向ける。
「何やと・・・・もういっぺん言うてみぃやわれえ!!」
キバオウが俺の挑発によって怒りを爆発させる中、俺は変わらずに言った。
「・・・・何度でも言ってやるよ。馬鹿じゃねえのか?そいつの悪口を言ってる奴。此奴に見殺しにされた?見殺しにされたって言うなら何であの時お前等が助けに行かなかった?」
その俺の言葉に一瞬言葉を詰まらせる。集団の中で行動している奴の行う事は責任の分散だ。皆で頑張ったけど出来なかった。だから仕方ないと。責任の在り処を分散させ、結果からくる罪悪感や悔しさを分散させる。そうすることで何時も通りにまた行動していく。今回はたまたまキリトが生贄にされた。意見が通されずらい人間の方が責任を押し付けやすいからだ。
「で、でも其奴は刀の事を知ってたじゃないか!最初から言っておいてくれれば・・・」
俺はまた溜息を吐く。そしてその言葉を言ったシミター使いにこう返す。
「事前情報がこの一回限りの戦闘で全て揃っているわけねえだろうが。気付いたのは本当にディアベルが動き出した直後だ。そして此奴は後ろに跳べ。と指示していたにも関わらず、ディアベルが後ろに跳ばなかったからだ」
レッドゲージに入れば敵の戦い方が変わるのはこの場にいる全員が分かっている。あの時ディアベルはタンク隊が前に出て確実に防御すべきところを敢えて単独で攻撃しようとした。それはつまり何かを狙っていたと言う事だ。そして心当たりもあるが、死んでしまった人物に死体蹴りの様な事はしても仕方ないので敢えて口には出さない。
「あんた達が責めて良いわけはない。何故なら行動に移すことが出来なかったんだからな」
キバオウは悔しげに顔を歪めながら黙り込む。感情論でしか決着が付かないと言ったが、その感情論の綻びを突いてやれば良い。そうすることで行き場のない感情は自分のところに帰ってくる。しかし、それはあくまで相手の理性が残っていた場合だ。
「だったら情報屋の《鼠》の情報は殆ど意味が無いじゃないか!!俺達はその情報を元に行動してるんだぞ!!」
シミター使いは論点をずらしにかかる。どうしても自分の責任とは思いたくないようだ。その言葉に女性陣がキレかかる。
「貴方、本当にいい加減に・・・!」
激昂しかけた女性陣を俺は手で制す。感情論を感情論で返せば泥沼化する。なので出口を作って流してやればいい。俺は言った。その言葉を。
「《鼠》の情報は俺が脅して独占してたんだよ。俺はβテスターだからな」
その言葉に全員が固まる。キリト達は何を言っているんだと言う顔だ。俺は続ける。
「まあ、だから刀である攻撃を知ってたし、あんなに冷静に戦えたんだよ。此奴等は俺が利用してただけだ。あんまりにもあんた等が滑稽だからネタばらしした訳だ。んじゃ、アクティベートしておいてやるからさっさと第一層で待っているプレイヤー達に言ってこい。『私たちはβテスターのおかげで攻略出来ました』ってな」
そう言って俺は呆然となった空間を抜ける。これで良い。キリトに行ったヘイトとアルゴに行くであろうヘイトを回収する為にキバオウを黙らせたが、こうすればキリトやアルゴに意味のない悪意が向けられる事は無いだろう。彼奴等がいれば攻略は進む。
そして俺は重い足取りで階段を上っていく。その後ろから階段を駆け上がってくる足音が複数。俺は剣に手をかけておく。そして駆け上がってきた人物達が声をかけてくる。
『ヤハト(君)!!』
俺は声の主が分かったので剣に手を掛けるのはやめて振り向かずに言った。
「何の用だ?アクティベートならしておくって・・・」
「何であんな自分から敵になるような言葉を言ったんですか!」
アリスのその言葉に俺は一瞬階段を上っていく足取りを止めかけた。しかし、俺は静かにこう言った。
「・・・・・これが一番効率が良いからだ」
「ふざけないで」
そう言うと今度はイーディスの怒声が聞こえた。
「効率が良い?確かに効率は良いかもしれないわよ。だけど、そんな方法で解決していたら、何時かアンタは押し潰れるわよ」
「・・・はっ、俺はボッチだ。一人で行動していくなんざ当たり前だし、今までもこうやってきた。悪意には慣れてんだよ。この程度の事は」
その言葉にアリスが俺の腕を掴んで言った。
「ヤハト・・・私は貴方に前に言いましたよね、一人で抱え込むな。と」
俺は答えない、答えられない。しかしアリスは続ける。
「貴方が、独りでいることに慣れていたとして、悪意を背負い込むことが出来ているとしても・・・・私達はその方法が最善だとは思いません」
「・・・・・」
「ヤハト君、君が悪意を受け持って誰かに恨まれるのに慣れていてもね。君のことが大切な人にとってはとても辛いよ」
イーディスの言葉が俺の臓腑を削った。平塚先生に言われた言葉を思い出す。
「もちろん私達にとってもそれは同じなんだよ」
分かっている。それはもう重々承知している。でも、誰かが貧乏くじを引かなければならないのだ。そしてそれを此奴らに押し付けるわけにはいかない。此奴らと攻略組のスムーズな連携を通させるかによって
今後の動きは大分と変わる。βテスターに負けるわけにはいかないと、奴等は必死になるはずだ。そしてモチベの上がった状態で攻略に挑めばクリアまでの速さは増しに増す。
そう考えて、俺はメニューを開いて《パーティーを離脱しますか?》の欄の下にあるYesを押した。
「・・・・・俺はパーティーを抜ける」
『!?』
その言葉に驚愕したのか声を出せないアリスとイーディス。そして駆け上がって付いて来たであろうキリトとアスナ。俺はそのまま続けて言った。
「お前らの所為で一人で悠々自適に送るはずだった生活がパーだ。やりたくもないレベリングにも付き合わされるし、戦闘は足手纏いのお前らを俺が尻拭いしなきゃで散々だったよ」
俺は振り向いて、冷たく、うんざりした様子で言った。胸がズキリと痛むのを感じながら。
「礼も良いって言ってんのに押し付けようとしてな。いらんって断んのにどんだけ気遣ったか」
悟られるな。俺はヒールらしく此奴等を嘲う。
「正直に言ってやる。俺はお前らが鬱陶しくてしょうがなかった」
「だけど、俺もボス戦までは不安だったから仕方なく組んでたが、そんな必要はなかったわ」
そこまで言うとキリトが俺のところまで肩を怒らせながら来て、胸倉を掴んだ。
「ヤハト、お前ッ!」
「はっ、おいおい暴力に頼んなよな。そっちから仕掛けたんだ。こっちも正当防衛でやるぞ?」
俺のにやけ面にキリトの顔が悔し気に歪んで、俺はキリトの手を振り払い、そのままアクティベートのために全力で駆け上がった。
その間にフレンド登録させられたアリスとイーディス、そしてキリトの連絡先を消した。キリトにはあるメッセージを残しておいた。アルゴは・・・・一応、置いておくことにした。
これで良い。これで俺は攻略組の敵になった。1人は気楽でやりやすい。他人に気を遣わずに済むからな。やはりボッチが最強なのが証明された。
俺が勝手にやった事に彼奴等を巻き込んで悪意に曝すわけにもいかない。それに、今回の戦いで分かった。俺は彼奴等に依存していたのだと、このままでは危ないと判断した。
・・・・彼奴等を死にかけさせたしな。
だから、独りでいい。俺はアクティベートを済ませて、第二層の入り口に入った。
その時の水晶に映っていた俺の顔は目が更に腐っていて、頬に水滴が付いていた。