整合騎士達と捻くれ者のソードアート   作:ゆっくりblue1

9 / 10
……遅くなりまして、申し訳ありませんでした。もうこの作品覚えている人いないと思います。第九話です。


アリアは続き、コーラスへと

ビュンッと風を鳴らしながら地を駆ける。そして牛型の敵モブを三連撃ソードスキル『シャープネイル』で弱点を突いて攻撃すると、リアルな断末魔を上げながら青いポリゴンエフェクトに還って塵となった。それと同時に自分の周りにレベルアップを意味する光のエフェクトが出た。

 

「…………これでやっと十八か」

 

そう呟き、着ている黒いケープを整えながら、アニールブレードを腰の鞘に納める。未だ第二層で並みの敵モブでは経験値が上がりにくい。優に数百を越える敵モブを処理してやっとレベルを十八に出来た。働かねえのがモットーで効率良く最低限の努力で最大限のメリットを得るのが理想なのに何でこんなレベリングホリックみたいな真似してんだろうな……

 

そんなことを思考しつつもソロプレイをやりやすい様にして、ステータスをAGI寄りに割り振る。これで素早さを上げて誰にも追いつかれないように動ける。これぞぼっちの真髄ってな。

 

第二層に上がって数日間、今の最前線となった此処で、今後楽をする為に必要なことをやっていた。つってもひたすらレベリングしてスキル習得とステ振りをしているだけだがな。

 

「………っと、来たか」

 

他のプレイヤーが近づいて来たので直ぐにその場を去る。今の俺はSAO(ここ)ではちょっとしたお尋ね者になっている。腐った眼とチーターとβテスターを併せたビーターでゾンビーターとかって文字られている。本当にゾンビだったらデスゲームでも生き返れるからな?後、俺はβテスターじゃないんだけど……まあ、あの場でβテスターとか言った所為だけども。

 

俺がお尋ね者になった日の後日、第一層の攻略組のリーダーであるディアベルが死んで、攻略組が二分状態になったというのを隠れて聞いた。一つはあのモヤっとボールが率いることになった"アインクラッド解放隊"こと通称《ALS》。もう一つがリン何とかとかいう見た目がディアベルに似たプレイヤーが率いる"ドラゴンナイツブリケード"こと通称《DKB》。何方もディアベルの意志を引き継いだギルドらしい。

 

リン何とかという奴は知らんけどあのモヤっとボールがβテスターであるディアベルの意志を継ぐのは予想外だった。ディアベルがβテスターだって知ったらどう思うんだろうか………まあ、如何でも良いけど。

 

「…とりあえず、レベルはこれで良いな。んで、今度は必要な武器とかアイテムとか取り揃えておくか」

 

多分現時点の全プレイヤーの中でレベルは俺がトップだろう。これは自信過剰の可能性はあるが、トップじゃなくても同等が数人程度だと思う。その中で回避一択でAGIに極振りをしているんだから、スピードでは俺を勝るプレイヤーは居ないわけである。レベルとステ振りはこの世界の絶対だ。決して裏切りの無い事実。……努力は夢を裏切る事はあっても、自分を裏切る事は無い様に。

 

「……はっ、自分を裏切らないね。何の為の努力なんだかな……」

 

第二層の迷宮区から通常フィールドに在るプレイヤーの生活圏内に向かう中で呟く。……駄目だな。やっぱり一人だと独り言が増える。こんな状態の俺を小町が見たらキモいよごみぃちゃんとかゴミを見る眼で言ってくんのかな…何それ死にそう。戸塚にも引かれたら本気で青いポリゴンエフェクトに還るんじゃなかろうか。

 

「戸塚か……如何してんだろうな。黒鉄宮に行って生存を確認しとくかな」

 

戸塚に川何とかさん、材木座。葉山達グループ、そして雪ノ下達。材木座や葉山達グループは兎も角、戸塚に川何とかさん、雪ノ下達は何故この世界に来ているのだろうな。由比ヶ浜は未だ納得出来そうな想像が出来るが雪ノ下はゲームをする奴ではないはずだ。

 

………いや、俺が彼奴の何を知った気になっている。そんな押し付けの思い込みで何度も失敗しているというのに。

 

だが、雪ノ下達の事だ。葉山も居るし、あの初日の混乱からは脱しているだろう。葉山と雪ノ下を先頭にグループで行動することが今の時点では最善の選択だ。俺みたいなスペシャルなゾンビーターは除いてな。それに、そんなグループが崩壊するような事は全員が危惧するはずだ。葉山が正攻法で如何にかするだろう。異分子が居なければ上手く回るメンバーだしな。

 

そう思って森を走り出ようとした時、僅かな声と断続的な金属同士の擦れたような音が横の方から聞こえてきた。この層には敵モブは牛に、ワスプと言った蜂型、武器は無いし、攻撃手段に金属製のモノもない。しかし迷宮区に行けば大剣を持った半人半牛のトーラスが居る。もしやトーラスが湧く地点が在るのか?

 

………巻き込まれないように迂回しよう。モンスタートレインされれば堪ったものじゃない。幸い《隠蔽》スキルは発動中だ。スピードワゴンはクールに去るぜ。と言わんばかりにその場を離れようとする。

 

しかし、金属同士の擦れた音と声……否、悲鳴が不運にもこっちに接近する方が速かった。

 

「くぅっ!?」

 

十メートル程前に出てきたのは、濃い紫のポニーテールの女性プレイヤー。手には両手斧型の武器の《アイアン・サイス》を持っていた。転げながら出てきたプレイヤー。しかしそんなことが気にもならない程焦っていて、このゲームでの命そのもののHPバーは黄色と赤の間であった。そして、女性が転げながら出てきた場所から唸り声が聞こえてきた。

 

『ブモオオオォッ!!』

 

そして地響きと雄叫びと共に出てきたのは大量のモンスター達。しかもトーラス族が混ざっている。彼奴迷宮区のみに湧くんじゃねえのかよ。

 

「くっ……こんのぉ!」

 

女性プレイヤーは顔を顰めつつも、体勢を立て直して絶対絶命な状況でも諦めないようで、紅いエフェクトのソードスキルを鎌に走らせて、敵モブに向け横へ切りはらう。何体かのモブは吹き飛び、ポリゴンエフェクトに変わるが、それであっても相手は感情のないNPC。怯むことなく、女性プレイヤーに攻撃を加えていく。

 

「く、ぅ……回復が、間に合わない…!」

 

鎌を楯の要領でモンスターの攻撃を防御するが、それでも少しずつHPが削られてしまう。逃げようにも囲い込まれるような状況になってしまい、逃げられない。

 

そんな状況になってしまったのは第二層へ来てレベリングしていた時の事だ。第一層が突破されて、絶望に包まれていたこの世界に一筋の光のニュースが瞬く間に広まった。

 

そのニュースは情報屋の《鼠》の新聞記事によって出回った。その時の記事の写真に女性プレイヤーの知り合いの名前が有ったのだ。その知り合いに会いたくて、必死にレベリングをして、最前線のプレイヤー上位のレベルまで引き上げて第二層に来たのだ。

 

第二層を見て回りながら敵モブを狩って、レベリングを行っていた。

 

しかし、何処かのプレイヤーにモンスタートレインを押し付けられ、逃げながら数を減らす為に攻撃をちょくちょく加えているのだが、如何せん数が減っているようには思えない。

 

ワスプの毒デバフ付きの針攻撃が来たのでサイドステップを踏んで躱すが、サイドステップをする場所に牛型モンスターの突進が来てしまう。咄嗟の事で鎌で受けようとする。

 

その時、運悪く足場の悪さで躓いて防御が出来ずに突進によって吹き飛ばされてしまう。

 

「キャアッ!?」

 

吹き飛ばされて木に叩き付けられた。叩き付けられた衝撃でダメージは無いが一瞬だけ意識が飛び掛ける。そして現実は残酷でNPCのモンスターはその隙を逃してはくれない。立て直す暇も与えず女性プレイヤーを追い込み、取り囲んだ。

 

「……もぅ、駄目かな……………………………………………ごめんね–––––––––––––––––––明日奈(・・・)

 

モンスターに取り囲まれ、最早覆しようの無い絶望に、力無く、逢いたかった知り合いに向けて謝った。女性プレイヤーの紅い瞳から薄らと光るモノが流れた。牛型モンスターが突進してくる。

 

その光景を目にする人物は居なかった、居ない筈だった。その呟きを聴くまでは。

 

『ブモオオオォッ!?』

 

「………えっ……?」

 

自分の命の終わりを思っていた女性プレイヤーは来るであろう攻撃に思わず眼を瞑っていたがモンスターの悲鳴の叫びが聞こえ、来ない衝撃に薄っすらと眼を見開く。すると迫ってきていたモンスターは倒れ伏し、ポリゴンエフェクトを散らして還る。

 

『キシャアアア!?』

 

『ブモオオオォッ!?』

 

そして次の瞬間、モンスターの大群のいたるところから悲鳴が挙がった。何やらダメージを受けているらしい。その状況に混乱していると、微かに緑の光が反射している。

 

「…………ソードスキル……?一体誰が……?」

 

そう女性プレイヤーは呟くと、モンスターの大群のタゲが女性プレイヤーではない誰かに変わり、大群はそのまま離れていく。急転直下の展開に状況を把握出来ずにいた女性プレイヤー。放心して、状況を把握しようと視線を彷徨わせていると自身の足元の前に3個ほどの回復ポーションが置かれていた。

 

「ポーション……いつの間に……」

 

ポーションを恐る恐る手に取る。自身のHPは赤ゲージの十数程度だった。この状況からしてやはり誰かに助けられた。けれど何故わざわざモンスターの大群を肩代わりして、回復ポーションまで置いて行ったのだろうか。よほどのお人好しなのだろうか?そんなことを女性プレイヤーは考えながら、アイテムメニューを開くと自前の回復ポーションを取り出す。そして回復ポーションを飲んで、HPが赤から黄、そして六割程まで回復する。

 

「……折角だし、飲んでおこう」

 

そう呟いて、置かれていた方のポーションを恐る恐る飲む。効果は自前の物と変わらず、状態異常も無かった。HPも満タンまで回復し、それを見た時にふっと肩の力が抜けた。

 

「はぁぁ……助かった」

 

命の危機を脱して、思わず安堵の声が洩れる。今程の危機はこの世界がデスゲームに変わった直後以来だ。あれだけの緊張感を味わう羽目になるなんて………

 

けれど、本当に誰が助けてくれたのだろうか?あれだけ大量のモンスターが居て、一匹残らず攻撃を加えて尚且つ、ソードスキルの光エフェクトが見えるだけで姿を見せない程の敏捷性。少なくとも相手の方がレベルは上で、敏捷性を比較にならない程高い。

 

「………御礼も言えないなんて」

 

唯一の手掛かりになりそうな物は足元に置かれていた残り二本の回復ポーションだけ。それも武具アイテムでも無いので、所有者の名前も出ない。

 

「……残しておこ」

 

もしもこのポーションの持ち主に会ったら、御礼しよう。そう思って、メニューを操作して回復ポーションを保存しておく。そしてこの層の《圏内》である。『ウルパス』へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––

 

––––––

 

–––––

 

「……これで終わり、かっ」

 

そう言いながら黒いケープをはためかせつつ、タゲを奪い取ったモンスターの大群の最後の一匹を橙色の片手剣単発ソードスキル《スラント》によって上段から斬り裂いて、ポリゴンエフェクトに還した。

 

「………っはぁ〜……」

 

モンスターのポリゴンエフェクトが散るのを見送ると、片手剣を腰鞘に納めて大きく息を吐いた。

 

「……何でタゲ奪ったんだろ………」

 

経験値も大して貰えないのに。労力に見合った経験値くらい欲しいもんだ。筋力値をそこまで振ってないからレベル差が有っても、二、三発は打ち込まないといけない。そういった面では敏捷値に極振りのデメリットだ。9:1じゃなくて8:2に割り振り変えようかね……

 

「ポーションを置いてきたが、自前の有ったよな絶対……」

 

………まあ、目の前でポリゴンエフェクトに還られて夢見が悪くなるよりはマシだけど。それに最後に呟いてた言葉の事もあるし、回復ポーション三本程度で済むなら易い。それにしても……

 

「"明日奈'、ねぇ……只の偶然の一致か……?」

 

その言葉が女の名前でこの世界にいるプレイヤーの中に居て、尚且つ本の少しだけ面識がある奴は俺の知る中でもたった一人。だが、あの呟きがこの世界の中の奴じゃなく、現実世界の"明日奈"という人に向けられたのだとする可能性も捨てきれないし、この世界の中でも同姓同名のプレイヤーがいるかもしれない。

 

まあどっちにしろ俺には関係の無い事だろうが…………それはそれとして、サブウェポンを片手剣からダガーに変えてみるのもありかもしれないな。デメリットの攻撃力の低さは攻撃力を手数で補えば、スピードを活かせる。今更ステータスの割り振りは変えられんしな。

 

………アイテム買いに行くか。そう思って足を《圏内》に向けて運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤァッ!」

 

ダッ!と脚を踏み込んで、走る。そして持っている片手剣を構え、牛型のモンスターに狙い澄まし、上段と下段からの十字斬りのソードスキル《バーチカル・アーク》を放つ。それは吸いこまれるように直撃し、敵モブの悲鳴の後に、命を散らした。ふっと息を吐いて、深く被った灰色のフーデットケープの中から周りを見渡す。そのフードからは輝かしい程の黄金色の長髪のサイドテールの髪を覗かせる。

 

「アリスー!ちょっと手伝ってー!」

 

そんな声に反応して振り返るともう一人の紅いフーデットケープと紅い瞳の人物が十数体程の敵モブを剣技を持って捌いている状態で助けを求めてきた。全く、何でモンスタートレインをしているのですか…イーディスは。

 

「タゲの取り過ぎですよ……はぁ」

 

呆れながらもそのまま観ている訳にもいかないので、直ぐに加勢に入って、敵モブを殲滅する。最後の一匹を斬り払い、青い光を放って爆散するのを見送ると同時に息を吐いた。そしてイーディスはフードから灰色のポニーテールの髪を揺らして顔を出しながら謝ってきた。

 

「ごめん。敵モブのタゲ取りの時にソードスキルが当たっちゃってさ」

 

「全く、タゲ取りの時はくれぐれも慎重にして下さいと言ったじゃないですか」

 

私も灰色のフードから顔を出してイーディスを注意する。いくら敏捷値にステータスを割り振っているとはいえ、人海戦術を取られてしまえば逃げ切れないのに。自分達のレベルが十五程あるからまだ対処できる数だったけれど、油断して命を落としてしまったら目も当てられない。

 

「タゲ取りって案外難しいわね……"彼"は平気そうな顔でこれをやっていたのね」

 

「………」

 

「あ、ご、ごめん……考え無しだったわ」

 

「…いえ」

 

イーディスの申し訳無さそうな表情と声にゆっくりと首を横に振る。"彼"という言葉で思い出すのは第一層でこの世界のプレイヤーほぼ全員からの敵意を持たれて、私とイーディスと組んでいたパーティを抜けた眼の濁ったアホ毛と猫背が特徴的な捻くれ者。

 

彼がパーティを抜けてしばらく、第二層が解放されたので、マッピングと階層ボスについての情報クエストを調査していた。もちろんレベリングも忘れていない。

 

彼が居なくなってというものの私たちは戦闘面で、彼がどれだけ重要な役割を担っていたかを痛感していた。彼の行っていた敵モブの絶妙なヘイト管理は私たちには難しく、数の調整などに苦労していた。先程のようにしくじってトレインをしてしまう。

 

…………いや、戦闘面だけではない。彼が居たことで表現が難しいが、たった一ヵ月だが、彼と行動を共にすることが苦ではなかった。むしろ安心感があった。絶対的な根拠がない何となくだが、彼と一緒に居れば大丈夫だと思える。

 

捻くれ者の彼は吊り橋効果だろ。と言うだろうけれど。それでも背中を預けあえると思っていた。

 

第一層で彼が何のつもりで周囲を敵に回す発言をしたのかを彼が抜けた日から考えた。キリトの批判とアルゴの批判を自分が受け持ち、彼らの批判を無くし、それと同時に攻略組に発破を掛ける為だったのだと思う。攻略組が崩壊すれば、この世界から脱出するのは不可能だから。

 

彼が敵になる事で確かに攻略組は彼への対抗心で纏まって指揮が高いとは思う。この手段は効率から見れば最適であると言わざるを得ないかも知れない。けれど最適であっても正しいとは思えない。だからこそ彼に言わないといけない。

 

「……あ、キリト君とアスナだ」

 

そこまで思考の渦中にいた私はイーディスの言葉によって意識を戻してイーディスの視線を追えば、第一層で攻略に協力してくれたキリトとアスナがこちらに向かって来ていた。

 

「よう、アリスにイーディス。久しぶり……って言う程時間経ってないか」

 

「二人が元気そうで良かったわ」

 

「こんにちは、キリトとアスナも元気そうで安心しました」

 

「まあ二人程のプレイヤーがそう簡単にやられはしないだろうけどね」

 

そう言えば二人は少し照れくさそうにしていた。第一層の攻略から二人はパーティを組んでいる様で、最初に会った時とは違い、かなり打ち解けている。まあ、アスナは照れくさいのか否定するが、この世界に夢中なキリトが飛び出す場面で抜群なサポートをしている。

 

攻めはキリトで支援はアスナの安定しているパーティだ。彼がこの二人が攻略を推し進めることになると呟いていた意味が良く解る。恐らくレベルも今は私達に追いついているだろう。

 

そんな事を思いつつも二人と情報を共有した後、話題は変わってキリトが神妙そうな表情で言う。

 

「…アルゴに依頼していた件だが、また空振りだったらしい」

 

「……そう、ですか」

 

「………」

 

キリトの言葉に私は重く言葉を洩らし、イーディスも眉を下げて視線を下げた。アスナも憂鬱そうに息を吐いている。情報屋の《鼠》アルゴへの依頼をしていることとは、ヤハトの捜索である。パーティから抜け、フレンド登録も無い為に《黒鉄宮》の生命の碑での生存確認ぐらいしか手掛かりが得られないので、アルゴに依頼しているのだ。しかし、レベル差も有る上に二人もスピード極振り型のステータスの為、場所を特定出来ても直ぐに撒かれてしまう。

 

彼に会って、言いたい事が山の様にあるが、その願いは未だ叶わないのが歯痒い。そう沈んでいるとアスナが言った。

 

「まあ、沈んでいても仕方ないわ。彼も何処かでふらっとさぼっているでしょうし、居たら縛ってでも取っ捕まえて文句を言えば良いのよ」

 

「縛ってでもって……」

 

「あはは……過激過ぎじゃない?」

 

アスナの言葉に私達は苦笑する。でも確かに彼は目を離せば何処かへ行ってしまう人だ。逃げ足も速いし。とりあえず彼の腕を掴めば簡単だろう。私のステータスなら彼は振り解くことは出来ないのだから。

 

そしてそのまま場の空気を変えようとしたのか、アスナが更に続ける。

 

「そうだ。アリスさんとイーディスさんも良ければ武器素材のアイテムを取るのを手伝ってくれないかしら?キリト君も一緒にやってるから四人でやれば直ぐに終わらせられるだろうし。もちろんお礼はするから」

 

「…丁度私達もレベリングをしていたところですので構いませんよ。イーディスは大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ。ただ少し回復アイテムを補充しておきたいからその後でお願い出来る?」

 

「ええ、もちろんよ。じゃあアイテムの補充に––––「………明日奈?」」

 

アスナが言葉を続けようとして、その後ろから彼女のネームが呼ばれる。ハッとして振り向くと、そこには一人の紫髮を括ってポニーテールにしているイーディスと同じ眼の色合いの女性プレイヤーが居た。

 

ひゅっと息を呑んだ音が聞こえた。その方へ向けばアスナが、呆然とした様子でそのプレイヤーを見詰めていた。顔には驚愕と混乱がありありと出ていた。もしかして知り合いだろうか。そしてアスナは呟く様に言った。

 

「………深澄………?」

 

その呟きの後にアスナはその深澄と呼んだ女性の方に駆け寄り、抱き締めた。

 

「深澄っ!良かったっ……良かったっ……黒鉄宮で名前を確認するぐらいしか出来なくて……生きてて良かったよぉ……」

 

「……ごめん、ごめんっ。明日奈……私、私……」

 

そうして肩を寄せ合い、涙ぐむ二人の方へ行って、キリトが恐る恐る言った。

 

「………あー、ちょっと…とりあえず屋内に移ろう。此処じゃ目立つ」

 

人の視線は今は少ないが、ちらほらと他のプレイヤーが出てくる前に移った方が良いだろう。そんなキリトの言葉に反応して、ゆっくりアスナ達を連れてNPCの飲食店に入った。

 

そして飲食店への道中でほんのちょっとだけ落ち着いたアスナと"深澄"と呼ばれるプレイヤーは隣席、キリトとイーディス、私が対面で座ると、アスナ達のタイミングを見計らってキリトが言った。

 

「落ち着いたなら聞きたいんだけど、君はアスナとパーティを組んでいた……」

 

「………覚えてたんだね。うん。剣士君の言う通りだよ。前はありがとう」

 

どうやらキリトとも面識がある様で、お礼を言って頭を下げる。そして今度は初対面の私達を見て、申し訳無さそうにして言う。

 

「自己紹介が遅れちゃってごめんなさい。私はミト。隣のアスナとはリアルで知り合いで友達なの」

 

なるほど、と頷きつつも私達も自己紹介を行う。

 

「私はアリスと言います、宜しくお願いします。ミト」

 

「私はイーディスよ。宜しく。隣のアリスとはパーティを組んでいるわ」

 

お互いのプレイヤーネームを明かした後に一区切りとする様に閑話休題を抜け、事情を聞きたがっていたアスナが聞いた。

 

「それで、みす…じゃなかった。ミトは今まで如何してたの?」

 

アスナの言葉にミトは気まずそうな表情を浮かべるとゆっくり口を開いた。

 

「アスナとのパーティを解消してからは、一人でレベリングをしてた。そして第一層の攻略会議があったでしょ。それに出席した時にアスナ達を見かけたけど、アスナは剣士君と組んでたし、あの時には声をかけられる勇気もなかったから適当なパーティで組んで第一層の攻略に参加したんだ。でも、攻略の時には出しゃばったら私はβテスターだから疑われてしまう」

 

ミトの言葉に私とイーディスは目を見開く。どうやらミトもキリトと同じ立場だった様だ。

 

「実際、ディアベルって人がああなってしまって、情け無いことに怖気付いちゃってさ。ボスを倒しにアスナ達の加勢出来なくて、βテスターの事で糾弾されて、それでも何も出来なかったことが悔しくて、私に出来る事はこの世界の攻略ぐらいだから、第二層ではもっと動けるようにしようとレベリングを続けてたんだ」

 

膝に乗せている手を拳にして、そう言ったミトの表情は悔しそうな感じの中に怯えと申し訳無さが詰まっているように思えた。βテスターの責任、自分への苛立ち、第一層の攻略での不甲斐無さ、それらが彼女に伸し掛かっているものなのだろう。

 

「別にミトは何も悪くないよ。始まりの街で右往左往しているだけの私を助けてくれたから今の私は此処にいるんだもの」

 

「それに、君は今も攻略を諦めずに戦っているんだ。それだけでも充分だと俺は思う」

 

アスナとキリトの言葉に私とイーディスも頷く。この命のかかった世界で屈せずに前線に出て戦うだけでも壮絶な勇気を要する事だ。私達も彼がいなければ、世界に絶望して今も始まりの街で震えていた可能性だってあるかもしれない。

 

するとミトの強張らせていた身体の力が少し抜けて、表情が少しだけ弛んだ。

 

「……ありがとう。これは必ず結果で返すよ。………借りが増えちゃったかな」

 

ミトの小さな呟きにアスナが反応する。

 

「良いよこれくらいなら。それより借りが増えちゃったかなって?」

 

「ああ……うん、実はアスナに会う前にも他の人に助けて貰ってさ。かなり危ない状況だったんだけど」

 

そう言えば、アスナが慌てて心配するのをミトが大丈夫と宥めると、ふとそうだ。と言って私達全員に聞いた。

 

「私を助けてくれた人にお礼を言いそびれちゃったんだけど、あの時、モンスタートレインにあってたんだ。かなり大量の数だったんだけど、タゲを一瞬で全部外されて助けられたの。そんな芸当、貴方達と同じレベルかそれ以上のレベルが無いと厳しいことだし、第一層の攻略にも参加している人ぐらいだろうけど、そんな芸当が出来る人って知ってる?」

 

そう言われて知っていて且つ、そんな芸当が出来る人物なんて思い浮かぶのはたった一人。そして私達が捜している人物。キリトが言った。

 

「そんな事を可能とする奴は、ヤハトしか居ない。第一層の攻略の時に居たのなら俺の横にもう一人が居た事を憶えているだろ?」

 

キリトがミトに確認するように言うと、ミトは直ぐに納得した。

 

「確かに剣士君と一緒に戦っていた人がいたね……攻略後に敢えて悪口を言って、悪者になった人だったっけ。彼の敏捷も相当だったわ。あの人か…」

 

ミトの呟きに対して、彼の居場所が知りたい私達、特に私とイーディスは情報を得る為に聞いていく。

 

「すいません。貴女が助けられた場所は何処だったか憶えてますか?」

 

「場所?場所はフィールドの森が生い茂ってた迷宮区に近いところだったかな」

 

「どんな格好をしていたかは解る?」

 

「……いや、姿は見られなかったかな。助けられたって解ったのもモンスターのタゲを外されて、ポーションが置かれていたからだから」

 

場所は解っても格好が分からないとなると、目立つことが嫌いな彼のことだ、直ぐにその場から移動しているだろうから、殆ど意味をなさない。その事を理解しているミトはごめんと言うので、気にしないでくださいと言う。

 

「……なるほど、大体の事情は察したよ。アリスさんとイーディスさんはその彼のことを捜しているってことでいい?」

 

事情を察したミトに頷く私達。ヤハトではない可能性もあるが、遠回しなやり方でミトを助けたのは捻くれ者らしい。無茶をしていなければいいけれど……私達の知る彼のことだ。捻くれながらも誰かを助けているのだろう。

 

けれど、誰かを助けている過程で彼が無茶をしてしまうことが往々として有ることは知っている。これからの攻略には彼の存在が不可欠だ。なので、彼の居場所だけでも特定しておきたい。面倒くさがりの彼が攻略をサボらないとは限らないし、私達も言いたい事が山のように有るのだから。

 

「アスナとキリト、武器素材の入手をお手伝いしたら、今度はヤハトの捜索に付き合って頂けますか?」

 

私の提案にアスナとキリトは勿論と言うように頷く。するとミトが口を開いた。

 

「そのヤハト君、私も探すけど、もし良いなら私もついて行っていい?ヤハト君の手掛かり、私は殆ど知らないし」

 

勿論アスナの武器素材の捜索にもアスナが良いなら手伝うけど。と言うのでアスナは嬉しそうに頷く。それを見てキリトも少し微笑みを浮かべている。

 

そして今後の攻略へ向けて私達は動き始めた。

 

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