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ありがちな都会の風景を持つ街、K県K市を一人の少女夢川空がいかにも重そうな鞄を抱えながら歩いていた。
そんな夢川を誰も彼もが振り返り、二度見する。
膝裏まで伸びた神々しい金髪に、宝石のエメラルドと見紛うほどの美しい緑色の瞳をした愛らしい美少女とすれ違えば誰でも思わず二度見してしまうのは致し方ないことだ。
しかし夢川は周囲の視線など意に介さず、駅前を埋め尽くすビル群を歩き続ける。
そんなビル群の中に、紛れ込む存在するとある雑居ビルへとようやく辿り着く。
『Kソフトワークス』は、その4階にある中堅のソフトメーカーである。
「空ちゃん、またいつもの?」
「はい。いつもの…………ですよ♪」
受付の女性に男であれば一瞬で落とされていたであろう笑顔を向けつつ、エレベーターを使って4階に上がる。
オフィスの前まで辿り着くと同時にこれからの修羅場を想像し、溜め息を一つ。
扉を開けると、一人に社員の声がびりびりと響いてくる。
「中井さん! 佐藤が力尽きました! 水かけても起き上がりません!」
中井さん、中井さんと次々に飛んでくる悪い知らせに中井は怒鳴り散らした後、机に突っ伏した。
(相変わらずだなぁ、中井さん。…………しかたない、手伝おうかな)
「中井さん、生きてますかぁ?」
「今度はなんだぁっ!?」
此度の炎上案件並みに真っ赤に染めた顔をあげると、にこにこと笑顔を浮かべる同僚とは別の見知った相手である夢川だったからか申し訳なさそうに笑みを浮かべ、挨拶をする。
「…………久しぶりだな夢川…………4日ぶり、か?」
「正確には5日ぶりですよ、中井さん」
声がした方向に振り向くと、このなかで唯一正気を保っている人間であり夢川の目的たる人物、倉田翼が立っていた。
「翼くん!」
「あのなぁ…………倉田、いくら従妹だからってほいほい会社にいれるか、普通…………」
「心配要りませんよ、彼女は立派な戦力ですから」
本来高校生である夢川が戦力、この意味を知らない人間からすればどこからか紛れ込んだ異物としか思わないだろう。
「
「我らが救世主がお見栄になったぞぉ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図から一転、文字通り救いの手が差しのべられた市民よろしく涙を流す同僚を軽く無視して倉田は夢川の頭を撫でる。
「いつもありがとう、空。それじゃあ作業に入ってもらえる? 僕はコーディングの主にやってるから」
「わかった。テストの準備だよね」
指示出しとも言えないその言葉から大体のことを察した夢川、テストマシンの確保に向かい、テストを行う人員への声がけを済ませる。
そして、仕様書にさっと目を通す。
「こことここ、記載がおかしいから直しちゃおっと」
彼女の年齢は16歳と、本来なら高校で勉強に励んでいるはずだが誰も文句を言うことはない。何故ならこの場の全員が理解しているからだ。
夢川空は倉田翼の従妹であり、飛び級に飛び級を重ねフリーランスのプログラマーであり、彼の一番弟子だということを。
その光景に安堵したらしい中井は涙を浮かべ、心のなかから二人にこれでもかと感謝の土下座を繰り返していた。
「流石にヤバい案件ばかりに回されてきた、社内の『防衛ライン』とフリーランスの『
そうして全員の意識は作業に固定され、納期という世界の敵へと最後の戦いを挑んでいくのだった。
■■■
古いスピーカーから、調子外れのチャイムが耳に届く。時計は5時を若干過ぎており、表向きの定時の時間を指している。
やりきったという仕事人の顔になりながら持参した荷物のうちの一つ、マグカップを某猫型ロボットふうに取り出し、インスタントのココアをお湯で溶かして注ぎ、倉田に差し出す。
入れたばかりのココアを飲み干し、周囲の視線がないことを確認して夢川は倉田の膝に頭を落とす。
「えへへ、ご褒美ターイム♪」
「まったく、空は甘えん坊だな」
「私が甘えるのは…………翼くんだけなんだゾ☆」
絶体絶命の窮地に陥っていたこの案件に参加してから3日、彼、彼女の奇跡のような手腕と指示出しに嫌な顔一つせず従ってくれたチームメンバーによりなんとか持ち直したのだ。
「よし、納入連絡終わり! 作業完了だ! みんなご苦労だったな、これでもうあとは休んでいいぞ!!」
小躍りする中井を半ば眠り始めた意識のなかで、倉田と夢川は眺めていた。
二人はそのまま、仮眠という名のまどろみへと落ちていく。
結局彼らが帰宅するのは終電直前の時間帯となるのであった。
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時は過ぎ月末の金曜日、命を磨り減らしつつも生還した二人はパソコンの電源を落とし、いそいそと帰り支度を始めていた。
「翼くん。今日は…………分かってるよね?」
「当然。彼処に行かない選択をするぐらいなら自らの命を断ちます」
物騒な会話が繰り広げられるなか、二人とともに死線を潜り抜けた社員たちがやって来ていた。
「どうだ倉田、空ちゃん、帰りに一杯? こないだは世話になったからな、一杯目は奢るぞ? あ、空ちゃんはジュースな」
「すみません、僕たちは…………」
「これからデートなの! だから、今回はごめんなさい!」
「中井さん、この二人のすることといったら」
「そうだったな。仕方ない、今度付き合えよ二人とも」
「「わかりました」」
数分後。
「「残・業・代! いただきました!」」
無人ATMの前で雄叫びをあげている二人、場所によっては普通に通報されていただろう。
残業手当と合わさって、二人の預金残高をはねあげていたのだからテンションがあがるのも無理はないだろう。
すぐさま二人は駅近の大型家電量販店に足を向ける。
「さすが月末、なんとも素晴らしい!」
「サーフェイサーと塗料、フィルターと筆の補充完了であります! 翼団長!」
「よろしい! 空副団長! では、これより我らが自宅に帰還せん!!」
「「ワッハッハッハッハ」」
他の客と店員に怪訝な目を向けられるが、狂気すら感じる雰囲気を前にして誰一人、声すらかけることすらできなかった。
数時間後、倉田と夢川は満面の笑みで店を後にする男女がいた。
本来ならプラモデル談義に花を咲かせるのだが、夢川は晩御飯の話にシフトチェンジする。倉田の仕事を合法的に手伝うためにフリーランスにこそなったが、食事や家事諸々は夢川が一手に引き受けているのだ。
「それで、今日の晩御飯なにがいい?」
「なんでもいいかな」
「昨日の肉じゃがと決定しています!」
「もう決まってるじゃん」
家族トークしつつ横断歩道を歩いていると、真横から光が当てられ振り返る。
ハイビームで近づいてくる車が目に入る。
全く減速せずに迫ってくる車に、もう避けようがないと悟る。
((ああ、せめて家に積まれてるプラモデルと新作のプラモデル作りたかったなぁっ!!))
未練たらたらである。
彼らが最後に残したものは、今あるもの、そしてこれから発売されるであろう数々のプラモデルへの熱い思いだけだった。
「次のニュースです。
本日午後10時過ぎ、K市S地区の住宅街で男女二人が乗用車にはねられました。
被害者は会社員、倉田翼さん(28)。フリーランスの女性、夢川空さん(16)。付近の住民の通報により救急車で搬送されましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。警察の調べによりますと、事故を起こした運転手は乗車前に多量の酒を飲んでおり────────────────」
従妹も好きです。