セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
話数にXがついている(定数でない)ものはタイミングが曖昧な話です。数字は変数の連番であって、値の大きさではありません。
定数のものは小さいものから順番に続いています。
(主に地の文で)過去を解説してばかりのド説明回です。でも今回はできれば飛ばさないでください。
チップ経済みたいなオマケな感じではないので。
七代渡は、生まれついての天才とされてきた。
二本足で立てないうちから、おもちゃよりもコンピュータや歴史書に興味を示した。1歳の誕生日を迎える前、二本足で立ち始めたころには、母親の手伝いで小学校の課程を学び終えた。
ニホンには飛び級制度がある。未就学児でも4歳から利用でき、極めて稀だが、11歳の少年が大学の学士課程を修了した例もある。だから翔は、渡の好きなようにさせてみることにした。渡が4歳になる年に、家庭教師マッチングサイトを利用して、厳しい条件で募集をかけた。
そうして巡り合わせたのが、二階堂哲生だった。当時13歳で、高校1年生。二階堂自身も、3学年飛び級の天才と呼ばれる存在だった。
二階堂は当時から奨学金頼りの苦学生であり、最初は報酬に惹かれて土日の家庭教師を請け負っただけだった。厳しい条件も、金持ちが見栄やなんとなくで設定したのだろうと、たかをくくっていた。
だが、違った。舌足らずだが、既に言葉は達者。教えれば教えただけ学ぶ。特に歴史以外の科目は、事前に全て覚えてきたとでも言うようなペースだった。小卒認定の試験を受けるまでに、高校課程の勉強を始めていた。
翔と二階堂が連携し、渡に小卒認定と中卒認定を合格させた頃には、渡は6歳にして高校課程学習3年目、二階堂は15歳の高校3年生と並んでいた。渡と二階堂が同じ受験勉強をし、教え合っていた。
渡が高卒認定を取得し、二階堂が大学に入学した年から、二階堂の時間が増えた。
同時に、翔が契約を打ち切った。渡自身が進路を決定するまで、大学への入学を急いではいけないとしてのことだった。
それからの二階堂と渡は、単なる年の離れた兄弟のような間柄となった。何の用事がなくともふらっと屋敷にやってきて、二人で遊ぶのが当たり前の日常だった。
二階堂が入学したのは、ニホン人なら誰もが一番と答える大学、東央大学。その中の情報通信学部のISS(情報処理安全確保)学科で、セキュリティについて学び始めた。
ある時そのことを知った渡の言葉に、二階堂は戦慄した。
「兄ちゃん、セキュリティ教えて!」
二階堂もまた天才。講義の内容は完璧に噛み砕いており、渡にそっくりそのまま教えることすらできる。将来の研究のために読み始めた学術書や論文も、渡とならより早く消化できるかもしれない。
そう考えた二階堂は、再び渡のプライベートな家庭教師となることを決めた。報酬がなくとも、渡の部屋へやってきて共に学ぶ。
もはや進学のための勉強ではなかった。ネットワークやセキュリティといった、この世界で最も熱い分野を、知りたいから、先へ進みたいから、学んでいた。
気がつけば、二階堂は学内きってのセキュリティのスペシャリストと呼ばれるようになっていた。周囲の期待が、ハードルが高くなり、それらを悠々乗り越えていった。ルックスも備えていることから、学内にはファンクラブも――本人は迷惑がっているが――できた。
学生の身分でありながら、科学省の研究に従事して報酬を受け取るようにさえなり、現場の最新技術を取り込み、自ら改良し、渡に教えた。
そして今。二階堂は20歳の修士2回生、渡は11歳のよくわからない子供になり――
……
とある昼。二階堂と渡は、二人で焼肉屋に来ていた。
不在の父は仕方ないとして、渡は母を誘ったのだが、一番話をしたいのはあなたでしょうと、逆に気を使われてしまったのだった。
烏龍茶で乾杯し、塩タンを網の上に並べていく。1枚置くごとに、ジュゥ、と控えめな音が立ち、肉の端が僅かに持ち上がって丸まる。
個室の中が、少しずつ暑くなっていく。
「ほんまに生徒に奢らすんやもんな。バレてファンに叩かれてまえ3K野郎」
「今更だろ。タダ飯なんて、お前が赤んぼの頃から何百回と食ったさ」
「それはお父さんの金やろ。事情がちゃうがな」
「じゃあ授業料ってことで」
「それ言われるとちょっと弱い……わけあらへんやろ! 親に請求せえ親に」
渡は言葉では抗議しているが、表情はごく明るかった。研究漬けでしばらく顔を見せなかった兄と、久々に再会できた喜びに満ちていた。二階堂も似たようなもので、はたから見ればやはり年の離れた兄弟のようであった。
「そいで、修士論文はもうええんやんな」
「そうだな。残るスピーチの練習をこなせば、晴れて俺も博士課程入りだ」
「入試通す前提で話すんやめーや」
「お前に言われたくないんだよ」
「いっつ」
二階堂が渡の髪をピンと引っ張り、そういえば、と話を変える。
「お前、ナビってまだあれ使ってるのか? ダサいやつ」
「ベータがダサいのは科学省のデザイナーが悪いんやろ! まあ、まだ
「よく粘るな。ネットワークのアップグレードの話、前に教えてやっただろ? 科学省で聞いた話なんだから、ほぼ確実だぜ」
ネットワーク、電脳世界を成立させる仕組みそのもののアップグレード。定期的に行われるそれによって、通信速度やセキュリティの底上げ改善が行われる。ネットナビもまた、生まれ変わった電脳世界で活動するために無償でアップグレードが受けられる。通常であれば。
渡のナビ、ベータは、元々は渡の祖父・
ネットワーク黎明期に作られた、β版ネットナビ。製品名すらないまま、科学省関係者から僅かな数のインストールメディアが試供品として配布されたものである。
しかし当時、ネットワークのアップグレードが行われた際に致命的な不具合が発覚し、回収騒ぎに。ほとんどが処分される中、将来希少価値がつくと踏んだ昇が、人伝いに所有者を探し出して買い取っていた。
昇は、実際に使うつもりなどなく、致命的な不具合については知ろうともしなかった。渡に珍しく強気にせがまれ、仕方がないと譲ってやった翔も、実際に使っている渡から"特に問題ない"と聞いて、気にしていない。夫婦揃ってネットナビを持たず、電脳世界事情に疎いというのもあった。
β版ネットナビは、アップグレード後の電脳世界において相互認識機能に異常が発見された。科学省による実験の結果、センサーやドアを幽霊のようにすり抜けてしまうことがわかった。
その後すぐ、ネットナビのアップグレードでこの現象は解消されるようになったものの、種々のデメリットを覚悟してあえてアップグレードしなければ、悪用も可能。
この事実は科学省が公開しているネットワークの歴史の片隅に記載されており、渡はネットワークについて学ぶ過程でそれを知り、翔の部屋に陳列されていたインストールメディアをねだったのである。
一方のデメリットは、単に古いことである。
最も顕著なのは、疑似人格を持たないこと。人格を持ったネットナビが開発されたのは後のことで、当時はまだ自律行動は全くできなかった。
自律行動とは、オペレータ不在時の自由裁量の行動という意味ではなく、自分の意思で体を動かすことを指す。
つまり、キーボードやコントローラーといった入力装置から命令を入力して動かすことしかできない。動作の自由度が高い現代のナビに対して、大きく遅れを取る部分である。
渡はこれを逆手に取って、自分の声を使わずに話したり、弱点を補うために様々な動作を特定のコマンド入力に割り当てている。
さらに、ネットワークが進化したその時その時の最新製品でいくら強化を施そうとしても、最新グレードのナビに追いつくことは決してできないという、単純な、性能と拡張性の陳腐化。
デザインが当時の感性で作られていることも、一応デメリットとして挙げられる。
そして、二階堂の見立てでは、通常のナビと同じように使用するのは、金をかけて強化したとしても、今のグレードのネットワークが限界ということだった。
二階堂の知らせは、ベータがもうすぐ、ある種寿命を迎えることを意味していた。
「聞いたけども、便利なんも確かやからなあ」
「犯罪者め。将来の進路はWWWか?」
「人様に迷惑はかけてへん。セーフやセーフ。ってかブーメラン刺さってんで」
「はははは。でも俺はネットナビ持ってないから」
素の関西弁で話しているのと同じように、渡は、二階堂にだけは秘密の一部を打ち明けていた。
二階堂と共に学んだ技術、二階堂に教わった技術でインターネットの国内外を行き来していること、それを利用して小遣いを稼いでいること。
二階堂はそれも知った上で、渡を弟とし、友とし、教え子としていた。というか二階堂自身も、外国の論文のコピーを手続きなしに早く買うなどの目的で、培った技術や渡のベータを利用していた。
お互い様なので、このような会話を軽い調子でするのも、いつものことだった。
だから、この後に二階堂が表情を曇らせた理由を、渡は推し量れなかった。
「なあ、渡。……お前、夢ってあるか?」
「夢って、将来の夢か?」
「そうだ」
「職業ってことやと、まだわからんかなあ。でもとりあえず、長生きしたいな」
「生き急いでるお前の言うことじゃないな」
「はいブーメラン二本目ー」
「ははは……」
自分まで暗くならないようにと言葉を選ぶが、二階堂の笑い声も先ほどとは違い力がない。
「兄ちゃんの夢を聞いて欲しいんか?」
「ああ、うん……そうかもな」
渡は、次の言葉を待つ。ややあってから、二階堂が口を開く。
「……新しい、もっと便利なネットワーク。俺は、それを追求したい」
「アップグレードってことじゃなく、新しい、今と違う形態のネットワークってことか?」
「そうだ。でも、現状を変えるには大きな力が要る。研究自体はほぼ完成してて、なんならすぐにでも使えそうなんだけど、反対者があまりに多くて実現しそうにないんだ」
「
「恥ずかしいな。年下の……弟の前でさ」
「今更やろ。それに、たまにでもそういうところがあって家族って感じもするやん」
「そうか? ……そうかもな」
視線を落とし、儚げに笑う二階堂は、顔を上げて初めて気付いた。網の上の肉を次々に分捕っていく渡の姿に。
「あっ!?」
「だって兄ちゃん取らんねんもん。したら焦げるやろ?」
どのように食べる時間を取ったのか、渡の皿に大量に積まれたわけでもなく、塩タンのほとんどはただただ消えていた。
辛気臭さはどこへやら、二階堂の心は肉を失ったことへの焦りに支配される。
「端に寄せるなり俺の皿に移すなりあるだろ!? あああっ、もう2人前も食ってる!」
「金払うんやからな。当然の権利や」
「なにおう! 店員さん、店員さーん!!」
(よかったー、ずっとツッコまれんかと思ったわ)
個室の外に向かって手をメガホンにし、声を張る二階堂を見て、"帰ったら忘れないうちに、兄ちゃんは元気だったと、両親にも話してやろう"と渡は思った。
10話のアンケートですが、エレキマンが死んだら締め切りとします。ありになったら、方向性について再度問うと思います。
現状プライドのメンタルはギリギリ守られているかもしれないし、どのみち砕け散るかもしれない。
下記アンケートは展開に大きな影響があるものではありません。多少はあるかもしれませんが。
テキトーに直感でお答えください。
渡は俺TUEEEEEを
-
しなければならない
-
してもよい
-
しないことが望ましい
-
してはいけない