セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
「正解! さすがは渡だな。これだけのヒントでその発想ができたのは、お前が初めてだ。お前を教えてきた立場として、嬉しいよ」
(当たり前や。自分自身が、そういう世界で生きてきたんやからな)
マイク越しに、二階堂の拍手の音が聞こえてくる。
今日ばかりは二階堂に褒められても、渡は全く嬉しくなかった。
(この世界でそれは……絶対に許されへん。兄ちゃんの夢は絶対に叶わんし、叶えさせたらあかん。そうしようとするだけで、もうどうしたって、敵になってまうやんか)
"バトルネットワーク ロックマンエグゼ"という物語の世界観。それを壊すことは、その世界観の中で生きることを宝とする渡にとって、絶対に許せないことだった。誰かが傷つくからという正義感ではなく、自分の生きる世界を奪われたくないという、ごく個人的なエゴだった。
その自覚があるからこそ、それを向ける対象が二階堂であるという事実に、手紙のショックに続いて再び、頭がくらくらし始めた。
「誰でも全ての機能を使えるように、なんて考えるから、余計不便になるのさ。必要とする人間が、必要なだけ使えばいい。今のPETやネットナビについての教育よりは嵩張るだろうが、逆に言えばそれを職にできる人だって増える。世の中はちゃんと回る」
「そうやな。その形のネットワークなら、通信効率だけを極めていける。人間の生活を便利にするという意味で、確かに画期的なネットワークや」
この世界ではな、と心の中で付け加え。渡は、ここまでの会話にふと違和感を覚えた。
「……ところで兄ちゃん。そのナビ、さっきから何で黙っとるんや?」
「色々試したんだが、これが一番使いやすくてな。プリインストールされた疑似人格プログラムは破壊してあるんだ。ベータと同じように、コントローラーで動かせるようになってる」
「……なんやと? なんでそんなことした。使いやすくって? 道具やからか?」
「わかってるじゃないか」
「
まるで参考書や論文の内容を解説するかのような二階堂の話しぶりに、渡の声のトーンが一段上がる。二階堂が敵となる事実、二階堂を敵とせねばならないショックが、二階堂の主張を否定することへの抵抗をなくしていく。
それは兄弟喧嘩のような昂り方ではなく、渡の中で二階堂の定義がただの敵に傾いていく。
「わかったんはな、仮にも人格を持つネットナビやプログラムくんを、兄ちゃんがただのモノ扱いしとる
「なら、お前は違うっていうのか? ネットナビを金儲けや犯罪の道具に使っているお前が?」
「最初っから人格のないベータと、持ってた人格を破壊されたアイロニーはちゃう。それを抜きにしてもな、ベータやなくて、ベータ以外のネットナビを見てきた上で、ちゃう言うとるんや」
「……お前は、人間とネットナビの友情だの絆だのを肯定してるってことか」
ふう、とため息をつく二階堂。
「俺と同じ、ネットナビを道具として見ている者同士だと思ったんだけどな。これは完全に、アテが外れたらしい」
「それに兄ちゃん、ナビは持ってない言うてたやんか。あれ嘘やったんか?」
「ああ、半分はな。WWW団員としてしか使ってないから、私生活じゃ、ああ答えるしかなかったんだ。悪かったよ」
「……待てよ、WWW団員として? 兄ちゃん、そのナビ
「無能な同僚の尻拭いさ。もうこの際だから言ってしまうと、水道局のアクアプログラムと林業プラントのウッドプログラムを盗み出したのは俺だ。ベータのような幽霊体質があるわけじゃないが、こいつもセキュリティ突破に特化したカスタマイズを施してあってな」
(そんなことあるか!?)
ゲームのストーリーで明かされなかった、ウッドプログラム奪取の犯人。渡が色綾まどいの犯行を阻止したにも関わらず行われた、アクアプログラム奪取の犯人。その両方が二階堂という事実は、予想の遙か外側だったという意味で、渡にとってまたも衝撃的だった。
「でもあの日の官庁ビルにどうやって入っ……! そうか、兄ちゃんは科学省で!」
「そう。俺はオフィシャルみたいな当日限りじゃなくて、そもそも科学省で研究に携わる立場だったから、もともと正規入場できる。でも科学省関係者が連絡係兼任の実行犯をやると身元がバレるかもしれないから、当初は色綾に任せるつもりだったんだよ。ダメだったけど」
「なるほど、なるほどな。すっきりしたわ」
疑問が晴れるついでに、渡は冷静さを取り戻していく。狭くなった視野が広がり、コントローラーを握る手の指先に意識が行き渡る。二階堂への認識が回復する。きちんと兄として、師として、相対する気持ちを持てる。
「それはよかった。で、どうなんだ渡? WWWに来てはくれないのか?」
だが、世界を壊させたくないというエゴだけは、決して消えることはない。
「嫌に決まっとるやろ」
「じゃあ敵ってことか」
「そうや」
「なら、そのナビをデリートするしかない。味方になれば頼もしかったんだが、敵なら脅威だからな」
全てが決まる明日の舞台へ上らせないため、敵を排除する。互いに、もはやその他に道はない。
「せやろなあ!」
アイロニーが、ベータめがけて突撃して来る。わかっていたぞと声を大にし、それを鬨代わりに気合を入れる渡。
(パラディンソード!)
送信されたチップデータが、ベータの右腕を緑色の大剣に変える。大剣でありながら重さはなく、ベータは軽々と振るい、アイロニーを袈裟懸けに斬りつけた。
「なにっ!?」
「!?」
威力とリーチが非常に優れた、ソード系において最強のチップ。だというのに、アイロニーの受けたダメージは渡の想定を大きく下回り、およそ半分程度だった。二階堂が驚いた理由は、その逆だった。
「こいつにこれだけの傷を負わせられるバトルチップがあるのか!」
「なんでダメージがそんだけしか入らんのや!?」
「おっと。さあな!」
剣撃を受けながら前進したアイロニーが、鋼鉄の拳で反撃する。ベータは体捌きでかわす。
「これでも避けるのかっ」
(半分くらいは通るみたいやから、
アイロニーの防御力の正体について考えつつも、渡はチップデータを送り、ベータを操作し続ける。
(……なんやろな。このナビの性能は高い。兄ちゃんの動かし方も、目的のためにネットバトルの腕は磨いたのが伝わってくる。道徳的な話は置いといて、プロ意識みたいなもんが確かにある)
追撃。追撃。追撃。反撃を回避。間合いを詰め、追撃。
(兄ちゃんとの、WWWが絡んだマジのネットバトル。やから、いきなりのことでも気合入れた。でも)
強引に肉薄してきたアイロニーが、膝蹴りを繰り出す。膝の関節が僅かに光るのを見逃さず、アクアソードを突き入れる。光が消え、アイロニーはよろめく。
「くそっ、隠し玉でもやらせてくれないか!」
(それなりには強い。……でも、"それなり"程度じゃ、敵になるには弱すぎる!)
渡は、二階堂の実力は確かに認めていた。それは失望ではなく、悲しみだった。
(勝たなあかん戦いに勝てるのはいい。楽に勝てるのも喜ぶべきことや。でもその相手が、よりによって兄ちゃんなんか!)
腕部の刃がきらめき迫る。その足下で
「いつの間に……!」
(兄ちゃんが、固いだけの、クソボス! そんなん、そんなん……!)
その隙を逃さず、ベータがガイアハンマー3を直撃させ、アイロニーのHPは0になった。鉄人形が地面の上を無造作に転がり、行動不能となり、ただ消滅を待つ。
ベータには、傷一つない。
「はー、はー……!」
勝利してなお、渡に油断はない。両手はコントローラーを決して離さない。だから、渡は頬を伝い始めた涙を拭えない。口から漏れ始めた嗚咽を抑えられない。
(そんなん、ないやろ……!)
11話のアンケは次話投稿時に確定します。
13話アンケで「(増や)せ」を選んだ方は、14話後書きのチェックをお願いします。
(展開に関係する意見の募集です)
また、今回もアンケートがあります。
それで、その意見募集のゴールなんですが、「ドリームウイルスが死んだら」にしたいと思います。
急ぎじゃないとは言いましたが、キャラだけは早めに決めておかないと、いつどういう展開で出てくるか決められなさそうということに気付いてしまったので……
ゴールした次の話で最終投票アンケ設置となると思います。
ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。
……本編が結構シリアスなタイミングでこのようなアンケートを設置するのは気が引けるのですが、後がつかえているので、どうかご容赦ください。
渡の恋愛要素に関するアンケート(※その通りにするという決定投票ではなく単なる読者層リサーチですが、ご協力お願いします)
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一途
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両手に花
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総取り
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先延ばし逃げ回り
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盲信される教祖