セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
夢かな?
誤字報告ありがとうございます。
夜。ベータにDアーマーを組み込み、コンディションのチェックを行う渡は、さながら修学旅行や引っ越しの前日のような浮ついた心持ちだった。
二階堂との離別、ベータのオペレータとして正体を明かすこと、それらについて完全に整理がついたわけではなかったが、ふと頭をよぎった時に気分が落ち込むくらいで、そうならないために考えないようにしていた。
チップフォルダの組み直しを検討し終え、全ての準備が完了した後、朝に備えて渡はもう一度眠った。
そして翌朝。渡はいつものようにアラームで目を覚まし、顔を洗ってから居間に入る。
「おはよう」
渡の挨拶に、居間にいた両親が振り向く。
「おはよう」
「おはよう。渡、大丈夫? ご飯は食べられそう?」
(プレッシャーやと思っとるんか。そら、普通そうやろな)
食事の支度を済ませた鏡子は、真っ先に渡の体調を心配した。その理由が透けて見えた渡は、まさか、と頭を振って笑ってみせた。
「大丈夫。いただきます」
三人が席に着き、箸を手に取る。縁起物が入っているわけでもなく、いつもどおりの軽めの和食。家族揃っての食事中には珍しく静かなものだった。
(お父さんとお母さんの方が緊張しとるんか? ……まあ、するか。ありがたいこっちゃ)
両親が黙っていることから、両親が自分のことを思ってくれていると読み取れたが、渡は感謝を口にしなかった。負ければ全世界がどうにかなるような戦いに出かけるような時に、親に日頃の感謝を伝えるなどというのは、これから死にますと遠回しに伝えるようなものだと思っているからだった。
さっさと平らげ、お吸い物まで腹に収めると、ごちそうさまをした。そのまま渡が食器を流し台に入れ、鞄を持ったところで、鏡子が席を立った。食事は残っている。
「渡、本当に平気なの? どうして平気でいられるの?」
昨晩、翔は鏡子に、渡の話をそのまま伝えたし、渡は大丈夫だと、自分たちの子を信じてやろうと励ました。鏡子も、渡が翔に事情を明かすのに勇気が必要だったことは、想像に難くなかった。それでも、我が子が自ら危険へ向かっていくのを、笑って送り出そうなどとは考えられなかった。
今、渡が出ていったら、もしかしたら帰ってこないかもしれない。なんとなく嫌な予感がするのではなく、現実にその可能性が口を開けているのだ。
「ちょっと緊張してるよ。なんというか――」
修学旅行とか遠足の当日みたいな、と言いかけて、渡は今生で学校に通っていないことを思い出して、ふっと笑った。何かいい例えはないかと考えてみれば、思い至ったのは断水事件のことだった。
「――まあ、インターネットで知り合った友達に、初めて会いに行く日、みたいな」
「渡……」
鏡子には、その笑顔が、危機感の欠如や根拠のない自信から来るものではないと理解できた。そして、これ以上引き留めるべきでないことも。だから、渡を信じて、帰ってきた時に暖かく迎えてあげようと、内心自分に言い聞かせた。
「晩ご飯、何がいいかしら?」
「んー……友達と打ち上げ行くかもしれんしな。まあ、帰る前に連絡するわ」
「そう」
「うん。行ってきます」
渡が玄関へ向かう。その背中に向かって、次は翔が声をかける。
「渡! しっかりやれよ!」
「はーい」
渡は前を向いたまま、右手を上げて返事をし、その姿は2人から見えなくなった。
食事を再開しようとした翔が、渡の消えていった方を向いたまま動かない鏡子に気付く。
「鏡子? ぼーっとしとったら飯冷めるで」
「……そうね。帰りを待つ私たちも、気をしっかり持たないと」
……
コートシティからデンサンシティは秋原町まで、およそ1時間。
熱斗とは昨晩にある程度情報を共有済みで、校門前に集合する手はずとなっていたが、座席に座った渡が念のためにメールを確認していると、1件だけ新着が来ていた。みゆきからだった。
『テレビでWWWが演説をしている。渡くんは無事?』
『無事です。演説とは?』
(珍しくメールの内容が意味不明ちゃうな)
と失礼なことを考えながら短く返せば、更なる返信が来るまでもごく短かった。
『シャーロの軍事衛星をウイルスで乗っ取り、終末戦争を起こすと』
『起きませんが、今日一日は店を閉めておいて下さい』
『渡くんは?』
『友達と約束がありまして』
『信じている』
(やっぱみゆきやわ)
唐突に意味不明になった最後のメールへの返信を諦めた渡は、秋原町で降り、秋原小学校へ向かった。校門前には熱斗ひとりだった。
渡がPETで時刻をちらと見てみれば、予定より少し早かった。熱斗に向かって軽く手を上げ、声をかける。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。……渡、ほんとにいいのか?」
両親に続いて熱斗もまた、深刻そうな顔で渡に問いかける。
「何がですか?」
「えーっと……」
「WWWと戦うために協力して貰ったけど、ここから先は本当に危険だよ」
言葉に詰まる熱斗に代わり、ロックマンが答える。
「もし失敗すれば、終末戦争が起きる。これから起こる全てのことを、渡くんは受け止められるの?」
(それはお前のお父さんのセリフやんけ)
「偉そうなことは、勝ち越してから言ってもらいたいですね」
受け売りに気付いた渡は、薄笑いを浮かべて肩をすくめ、そう答えた。それから、トーンを1つ下げる。
「それに、僕にとってももう、他人事ではありませんから」
「そっか……わかった。じゃあ、行こう!」
意思を確認した熱斗が強く頷き、2人で校門をくぐる。校舎へ続く空間には誰もいない。そのちょうど真中にある、校長像の高い台座の裏を見れば、隠されているわけでもなく、塗装がところどころ剥げた金属製の扉が取り付けられていた。
(池のメンテ用ってことにでもなっとるんかな)
事前に熱斗の方から学校へ事情を伝えてあり、鍵はかかっていない。蝶番の軋む音と共に扉を開くと、奥には灯りがなく、反射した日光を込みにしてようやく、薄暗い程度と形容できるようなものだった。下へ向かう階段の先がよく見えない。
渡は一度、校門の方の様子を窺い、誰もいないことを確認してから、ペンライトをつけて降りていった。階段の下には、本物を狭く殺風景にしたようなような改札口と、そのすぐ後ろにホームがあった。
「駅員さんがいるわけじゃないし、無理やり行けそうだけど……」
「何かしらセンサーに引っかかると思いますよ。天下のWWWがそんないい加減な仕事はしないでしょう」
「それもそうだな。じゃ、頼む」
「承りました」
渡が改札機にプラグインして1分とかからない内に、改札の扉が開き、そのまま動かなくなった。渡が試しに通り、熱斗もそれに続いたが、改札の扉はやはり動かない。
「おおー……って、メトロはいつ来るんだ?」
「ボタン式ですよ、ほらそこに」
指差されて熱斗が振り向くと、確かに大きなボタンがあった。その上に、メトロ呼び出し用と書かれたシールが貼られている。指差す腕を伸ばしたまま渡が歩き、その指でボタンを押した。線路の遠くから、レール接合部と車輪がぶつかる音が響いてくる。ヘッドライトが近づき、無人メトロはすぐに到着した。
メトロに乗り込み、車両内部のボタンを押して扉を閉める。発進したメトロの座席にさっさと座った渡が、呆けている熱斗を呼んで座らせた。
渡が熱斗のチップフォルダを添削したり、持っているバトルチップを分けたりしている内に、20分弱が経過。メトロが減速を始め、停車した。
メトロから降りると、ホームや改札口の作りは同じだった。またも渡が改札をこじ開け、通過する。暗い階段を上って出た先は、これでもかと繁る木々が日光を遮り、朝だというのに薄暗い山中だった。
山肌は段々に削られ、内部はくり抜かれて人工物に置換され、おおよそ自然界ではありえない色の廃液が水路を伝って流れ落ちている。人工物の部分にも緑が侵蝕しているが、廃液の流れる周辺には寄り付いていない。
(分かっとったけども、やっぱグレープジュースちゃうな)
上段ある髑髏型に彫られた壁の、更に上の段では、軍事衛星へウイルスを打ち込むためのミサイルが、既に発射台にセットされている。
2人して見上げていると、PETの中でロックマンが口を開く。
「ついに……来たね……」
「……これが、WWWの研究所か」
家庭のオーブンレンジに始まり、WWWが起こしてきた一連の大事件全てに関わってきた、熱斗とロックマンだからこそ、その声には万感の思いが込められていた。
(これがエグゼの実家か……)
渡もまた、前世の記憶に知る一つの節目を飾る象徴としてそれを見て、"とうとう来たか"とも、"もうここまで来たか"とも思っていた。
「ロケット自体は既にセットされています。行きましょう」
「ああ、突入するぞ!」
13話アンケで「(増や)せ」を選んだ方は、14話後書きのチェックをお願いします。
(展開に関係する意見の募集です。ドリームウイルスが死ぬと締め切ります)
今回もアンケートがあります。
「S県北部山中」を「埼玉県北部山中」とする説があるので、東京~秩父御岳山で仮の距離を出しました。この作品においてS県が何シティなのかは決めていません。
京都~東京(コート~デンサン)の距離を走ると1時間、メトロの速さも同じとして計算すると、20分弱になります。
実際にはWWWアジトに通じる隠しメトロは(この作品では)複数あるのですが、二階堂は光熱斗のことも知っているので、秋原小学校のものを指定しました。
~キャラの話 黒井みゆき&スカルマン~
渡特効能力持ちの問題児。
敵対するか遊びでネットバトルするかも未定のまま、漠然と「骨董品買いに来てネットバトルする流れになる」ということだけ決まっていました。結果はご覧の通りです。
渡の魂から「淡いようで大きすぎる欲望」「子供なのに大人のように形が安定している」といった情報を得ています。本文中に記述がありませんが、実はもうこれ以上のことは読み取れません。あくまで魂が見える(らしい)のであって、心を読めるなんて設定は原作にないので。
渡の魂が見てわかるレベルの変化を起こせば、あるいは?
世の中がネット犯罪まみれになっていることをそれなりに危惧しており、それゆえに可能性を感じた熱斗を試し、リンクを渡した……というのが原作の流れであると解釈した結果、人一倍邪悪に敏感、的なキャラに。読心術はありませんが、勘は鋭いです。
渡の魂に大きすぎる欲望があることを見抜くや否や、割引と引き換えにドアをロックし、問答して渡を試します。強引に抜け出せば危険人物と判断するつもりでしたが、渡が存外平和主義者だったので、単純に変わった魂の持ち主として興味を持つことになります。
本文中にもあるような理由から孤独で、互いの同意の上で知り合いになった渡に対し、前のめり系コミュ障が発動しています。メールは送るけど内容が意味不明だったり、ものすごい勢いで接近したり。
お泊まりイベントに発展したのは、平日夜に起こる停電事件への介入方法に悩んでいた時、偶然最適な方法として思いついてしまったからで、思いついた時はめちゃくちゃ面白かったです。
原作でそこそこ寡黙キャラだと思うんですが、割引の一件以来キャラ崩壊しているのでは? と心配です。読者の皆さんから見てどうなのか、ご意見お聞かせいただけると嬉しいです。
スカルマンですが、WWW幹部と多少渡り合える程度に強いです。というのも、作中のネームドナビは、秋原組以外はWWW幹部に対抗できるレベルである、という設定にしています。でないとロックマンにとっての強敵になり得ないので。4の大会に出てくる固有グラがないネームドは流石に例外ですが……
「あらゆるものを粉砕する」みたいに言われてるシャレコーベイは半ば即死技みたいな扱いにしました。その分隙を晒しますが、それを腕ブーメランでカバーする戦法を取ります。
(19話)改題案アンケート
-
腹話術人形マン.EXE
-
こそ泥マン.EXE
-
セキュリティ絶対突破するマン.EXE
-
ロック解除マン.EXE
-
全部ボツにして感想欄で募集