セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
2分割するか悩みましたが、話が大して進まない回をそうするのも、と思ってそのままです。
つまり長めです。
露出した重い金属扉を開くと、内部は通路だった。外観と違って壁や天井は塗装され、床もコンクリートで平らに均されている。
その床の上、入ったばかりの渡たちの目の前に、ロープで拘束されガムテープで口をふさがれた3人の人物がいた。
「あっ!」
その顔ぶれに熱斗が驚く。ヒグレヤの日暮の他に、女性と老爺。いずれもWWWの元メンバーで、熱斗をボンバーマンが守る門まで導いた者たちだ。扉が開き、熱斗の姿を認めるとすぐに、日暮と女性はくぐもった声を出し、体をよじり始めた。
拘束を解くと、日暮が一番に礼を言い、ひとり動じていなかった老爺は、横でゆっくりと肩を回している。
数日間閉じ込められていたという程ではないようで、衰弱している様子はなかった。それでも、誘拐の原因になった熱斗は、引け目を感じているようだった。
「3人とも、オレに情報を教えてくれたばっかりに……」
「はっはっは、気にせんでもよい。この程度のことは慣れとる!」
「そ! それより、ね。早く上へ」
女性が通路の先、坂の上を指差してそれだけ言う。一刻を争う事態なのだから自分たちに構っている暇などないと、言うまでもないことを伝える時間も惜しかった。日暮は渡を見て何か言いたげにしていたが、やはりそれどころではないので黙っていた。
促された熱斗も、気を取り直して頷く。
「わかりました!」
「お言葉に甘えます」
坂を登り、2階の外へ繋がる扉の取っ手に熱斗が手をかけるが、びくともしない。その後ろからPETのコードを持った渡の手が伸び、プラグインした。
「難しそうなら光くんにも手伝ってもらいます。一応、準備しておいてください」
扉の電脳世界はあちこちから火柱が立ち上り、道を塞いでいる。元々赤い地面がさらに赤く照らされ、その中を歩いて先へ進むことは困難に見える。渡のPETの画面を見て、熱斗が、あっ、と漏らした。ロックマンも見覚えがあったのか、続いて反応する。
「これ、ヒノケンの!」
「うん、うちのオーブンレンジ!」
WWW幹部の男・火野ケンイチと、そのナビ・ファイアマンが、ファイアプログラム奪取のため、熱斗の自宅のオーブンレンジに侵入したことがあった。その際、後から邪魔が入らないように、電脳世界内部を火の海にして進行妨害を行っていた。
電脳世界の炎の影響で高温になったオーブンレンジをウォーターガンで冷ますことで炎の勢いを弱めたり、電脳世界の炎を消すアイスブロックというプログラムを使用することで、当時の熱斗は切り抜けていた。
そのアイスブロックを、入り口すぐのところに待っていたナビが、WWWのやり方についていけなくなったからと差し出したが、渡は一旦それを断った。
(見た目は炎やけど、ファイアマン本人がここを守ってへんのやったら……ひょっとするんちゃうか)
ベータの手が炎に触れる。何も起こらない。その中へ足を踏み入れ、全身が包まれる。何も起こらない。渡は確信した。
「道を塞ぐために作られた、炎の形をしたプロテクトですね。本物の炎と違って、維持する人手が要らないというメリットはありますが……裏目ですね」
数並べられただけのプロテクトをベータ1人通り抜ける分には、解除するまでもない。爆発物や炎を操るウイルスたちも軽くあしらいながら、不成立となった炎の迷路の中を軽快に走り抜けていく。
その最後には見上げんばかりの巨大な火柱がごうごうと燃え盛っていたが、ベータにかかれば眩しいだけだった。最奥に安置されたロックプログラムに触れれば、あっけなく、現実世界の扉から金属の擦れる音がした。
解錠までの所要時間は1分を切っていた。
「上までこれ一本で行けそうですね。楽な仕事で何よりです」
「す、すげー……」
「光栄です」
自分はあんなに苦労したのに、と呆ける熱斗を置いて扉を開けて出ると、慌てて熱斗もついていく。
通路で来たのと逆の方向へ、草生した土の道をまっすぐ進み、1階入り口の真上に位置する扉に、また渡がプラグインした。またも、熱斗が声を上げる。
「今度は学校かよ!?」
日暮が起こしたスクールジャック事件では、校内ネットワークのあちこちにセキュリティドアを設置していた。解除にはネットナビ自身の計算能力が求められる。
計算に特化した日暮のナビ、ナンバーマンならではのやり口だった。この扉の電脳世界にも、全く同じものが、塩を振ったように大量に配置されている。
時間さえかければ解除できるセキュリティだけに、時間稼ぎとして効果のある一手と言えるだろう。相手がベータでなければ。
暖簾でももう少し引っかかるだろうという勢いで扉をすり抜け、最後の高く複雑なセキュリティドアも、その堅牢さはまるで関係がなかった。ウイルスへの対処の方が、よほど手間がかかっている。
「ゴールです」
最奥のロックプログラムに手を触れ、施錠状態を切り替える。現実の鍵が開かれた。
扉の奥は1階と同様の通路で、坂の上に扉があるのも同じだった。熱斗も法則性が見えてきていたのか、電脳世界に仕掛けられた策が断水事件の時のものであることには驚かなかった。
凍結した滑る床のせいで比較的時間はかかったが、最後に道を塞いでいる氷塊をすり抜けてロックを解除する。
大きな髑髏の前を横切り、次は発電所かと思っていた熱斗は、その扉の前で首を傾げた。
「なんだこれ?」
電脳世界には交差点のような模様が描かれた踊り場があり、そこから赤・青・灰色の通路が伸びている。三色の道があみだくじのように張り巡らされ、あちこちに白い球が浮かんでいる。
(阻止したったけど、あるもんはあるんか)
灰色の通路を塞ぐ白い球を通り抜けると、片方の色が暗い通行不可の道になり、片方の色が明るい通行可能な道になる。本来起こる事件を事前に阻止した、デンサンタウンの信号機の電脳のセキュリティだ。
滑る床は滑った先を見る必要があるのに対し、この場合は通過する順番を考える必要がある。渡にはない。
「見たことないけど、いけそうか?」
「ふーむ」
渡は念の為、ベータを最寄りの白い球のところで何度も往復させてみる。赤と青の通路が点滅した。
(これも知ってる通りか。多分関係ないんやけどな)
「道路の信号みたいな感じでしょうか。まあ、車が通るわけでもなし。律儀に守る必要もないでしょう」
通路の状態を無視して、最短経路を走る。最後の一本道を塞いでいた岩もやはりすり抜け、解錠完了。
「知らない感じの電脳世界だったし、オレ一人だったら危なかったかも……」
熱斗の一言に、渡は思わず噴き出した。
「なんだよ?」
「いえ、何でも」
(あーカラードマンかわいそ。いや、当然の仕打ちか? どうでもええか)
扉の奥はまたまた通路。が、ロケットのある最上階へ出る扉はプラグイン端子がない。代わりに、入り口正面には今までなかった扉がある。Wの文字が描かれていて、いかにも特別な部屋のように思えた。
「こっちを調べるしかないみたいだな」
「ええ。上の扉のロック、もしくはロケットへ繋がる別の道があるはずです。鍵は……開いてますね」
中は広い空間で、よくわからない機械やコード、本が散乱している。その中でも目を引くのが緑・赤・黄・青の大きな機械だが、渡はそれが、4つの究極のプログラムをひとつにするためのものだとひと目でわかった。
(空洞部分になんも浮いてへん。ドリームウイルスはもう上行ったか)
「他の部屋に行くための扉とか、ないのかな」
熱斗が壁の大きなモニタから始めて、部屋をぐるりと見回す。扉は、入ってきた1つのみだ。
その間に渡は、モニタの横に据え付けられた大きな縦長の肖像画(にやりと笑うワイリーが描かれている)まですたすた歩いていき、それを拳でぐっと押した。肖像画の端がわずかにたわみ、隙間の奥には壁ではなく暗闇が覗いていた。
「秘密基地といえば、ですよ。来てください」
「何かあるのか? ……あっ、隠し扉か! プラグインもできそうだな」
「まずは様子を見てみましょう」
肖像画の縁にある端子を通して、ベータが送り込まれる。電脳世界の構造は、停電事件で見たものだった。
だが、電池ボックスやスイッチ、電球が見当たらない。かといって、電力が掌握され、ナビが危険な状態というわけでもない。残る問題は、跋扈するウイルスのみ。
熱斗は、ようやく出番が来たか、と拳を握った。
「なあ渡、これならロックマンも一緒に行けるよな?」
「そうですね。お願いします」
「ああ! プラグイン!」
熱斗がプラグインし、ベータとロックマンが駆け出す。ウイルスこそ強力だが、この2人ならやはり障害にはならない。切り飛ばし、打ち抜き、時には爆発で吹き飛ばす。そうして奥へ、さらに奥へと、ハイペースで進んでいった。
しかし、ロックプログラムを目の前にして、道が途切れていた。その途切れ方も、発電所で見たことがある。電球で道を照らす前のそれだった。
依然として電球はどこにもない。電池ボックスも、スイッチもない。これまでで最大の関門は、ほんの1メートル四方程度の虚無だった。
その光景を見つめて、発電所での経験から矛盾を見抜いたロックマンが指摘する。
「おかしい……ここ、電池は使えないよ」
「マジかよ……渡、なんとかならないか?」
熱斗がそう問いかけた時にはもう、渡はキーボードを取り出していた。
「幸い、今は特に電力に気を遣う必要もありません。この程度の大きさなら、地面に向かってお願いすれば、床を作ることもできるでしょう。ただ――」
「ただ?」
「ここは隠し扉の電脳です。いかにも大事そうで、もしかすると最後の関門かもしれません。そんなところで、ロックプログラムを野ざらしにしておくとは到底思えません。
それでいて、作り出した床を維持するためにベータは動けません。通れるのはロックマンだけです」
「……罠に気をつけろ、ってことか」
渡の説明は、半分は嘘だった。ベータを釘付けにせずとも、短時間であれば床は保つ。ほんの少しの距離ならば、その時間で渡ることができる。極力、熱斗とロックマンの経験や手柄を奪いたくないという気持ちが、今でもずっと働いているのだった。
「いいぜ。何が来ようが、オレたちは負けない! だろ、ロックマン!」
「うん!」
熱斗は、考えるまでもないと、快く声を張ってロックマンに呼びかけた。ロックマンもまた、熱斗と気持ちを同じくしていた。
(滅茶苦茶に巻いたったから、
渡も静かに決意を固め、ロックマンを送り出すべくクラッキングを開始する。ベータが床に手をつくとそこから電撃が迸り、途絶えた道の先で渦を巻く。
「うっ……!」
光と音を撒き散らす雷の渦を前に、ロックマンは反射的に腕で顔を庇う。虫歯治療用のドリルを耳の奥まで突っ込んで思い切り回したような轟音は、数秒するとピタリと止み、同時に光も収まった。
真っ白だったPETの画面が景色を再度映し出すと、ベータの手元から流れる電流が、さっきまではなかった青い床に流れ込んでいる。
どうぞ、と渡が言った。熱斗とロックマンはPETの画面越しに頷き合い、先へ進む。ベータは床から手を離し、ロックマンはロックプログラムをバスターで破壊した。鍵の形をしたそれは跡形もなくなり、現実世界の肖像画が部屋の奥に向かって倒れ、バタンと音を立てた。コンクリートで上下左右を塗り固められた、狭い通路が顕になっている。
「よし、やったぞ!」
「ああ、こっちの隠し扉も開いた!」
その。
さあプラグアウト、というタイミングで。
「お待ちなさい!」
鋭い声が飛んだ。それは部屋にいる誰の声でもない。たった今、ロックプログラムがあった場所に現れたナビの声だった。同時に、現実世界ではワイリーの肖像画が起き上がり、再び道を塞いだ。
「えっ?」
「ああっ!?」
渡はいきなりどうしたのかと、熱斗はせっかく開けたのにと驚き、そこにオペレータらしき男の声が続く。
「扉は私たちが再び閉ざした。ここから先に進ませるわけにはいかん……」
「お前、誰だ!?」
「WWW、ワイリー様の片腕のマハ・ジャラマと申す」
「そして、そのナビのマジックマンでございます」
これまでの経緯から最大の敵と言っても過言ではないはずの熱斗の誰何だというのにも拘らず、WWW構成員としては珍しく、慇懃無礼ということもなく、ただただ堂々とした名乗りだった。
姿の見えているマジックマンに至っては、西洋紳士風に礼などしてみせている。
マジックマン。奇術師ではなく、魔術師のネットナビ。魔術師らしいローブに、羽を刺したとんがり帽子。袖の中をまっすぐ伸びた両腕は魔法の杖で、先端にはついているのは手ではなく、大きな丸い宝石。ペストマスクのような嘴型の仮面をつけ、帽子の鍔との間から、細い目の光が覗いている。
当然その視線は、目の前の敵、ロックマンに注がれていた。隔絶した空間にいるベータは微動だにせず、そのオペレータの渡も、隠し扉が再び閉じるという予想外の事態に頭をかく。
(計算狂ったな……まあ、逆に危なくなったら加勢もできるか。
「では、行きますよ……」
マジックマンは静かに、両腕と殺意をロックマンに向けた。
13話アンケで「(増や)せ」を選んだ方は、14話後書きのチェックをお願いします。
(展開に関係する意見の募集です。ドリームウイルスが死ぬと締め切ります)
19話のアンケもドリームウイルスが死んだらゴールにします。この締切方式便利。趨勢が定まりつつあるので言ってしまうと、改題案は上から気に入った順に置いてます。虫と馬程度の差ですが。
今回もアンケートがあります。ふと気になったので。
それにしても、打ち切り漫画が如きペースで実家爆破まで行くつもりが、蓋を開けてみればそこそこ文字数(≒話数)がかさ増しされてしまっていますね。アンケ用の話数に余裕がないと思っていたんですが、そうでもなかったようです。
(20話)渡に求めるもの(リサーチ用です)
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勝利に次ぐ勝利
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原作キャラ救済
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家族愛・友情
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