セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

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 「X5話の次の話」であって「X6話」ではありません。


X5+1話 心の栄養バランス

 ウラインターネットでアイリスを拾ってから2日間……

 

「アイリスさん、どこか行きたい場所はありますか?」

「……」

 

 といったように、声をかけてもリアクションに乏しく、どう接していいかわからなかった渡は、アイリスについて考えていた。

 

(最初に熱斗と会った時でももうちょっと口数多かったよな? 何が足らんのや?)

 

 ゲーム「ロックマンエグゼ6」の序盤に登場した時点で、少なくとも現状よりはまだ情緒豊かであった。では、何が差を生んでいるのか。

 

 アイリスは20年近く前に作られた、ベータ程ではなくとも古い世代のナビである。当時のナビには人間に近い高度な感情というものはなく、ほとんど命令を遂行するだけの疑似人格プログラムだった。

 ごく一部、非常に高性能なナビに限れば例外もないわけではなかったが、アイリスにはさらに特殊な事情がある。

 

 ワイリーが作った、カーネルというナビがいた。非常に高性能で、心優しく、持ち主の少年と心を通わせる完璧なナビだった。

 しかしある時、カーネルは"電子機器制御能力"と"優しさ"をワイリーの手で奪われ、完全な戦闘マシーンと化した。

 

 カーネルから奪ったそれらを組み込んでワイリーが作り出したのが、アイリスだった。電子機器制御能力によって敵味方問わず兵器を自在に操るアイリスは、軍事用ネットナビとして生まれた。

 優しさのデータを持つが、その運用目的から、元来感情は与えられていなかった。

 

 戦場で兵器を操り、目に映るのは命を奪い合う兵士ばかり。そのような日々がアイリスの持つ優しさのデータを刺激したのか、アイリスは前触れ無く忽然と、ワイリーの下から姿を消した。

 とはいえ目的があるわけでもなく、電脳世界をさまよう存在となった。

 

 戦場でもワイリーの研究所でもなく、ごく一般的な平和な町を、アイリスは電子機器を通して見た。これまで"人間=殺し合う兵士"という認識を持っていたアイリスが、ほんの少しずつではあるが、普通の人間について、見て学び始めた。

 それからゲームのシナリオにおいて熱斗と出会うまでの間で、既に人間についてある程度学習しており、決め手になったのは学校で行われる児童教育の光景。

 校内のネットワークに身を隠し、子供たちが受ける授業を、アイリスも見聞きしていたことであった。

 

 渡が持つ前世の知識は完璧にこの世界を網羅しているわけではない。だが大筋は理解している。よって、渡がよく考えて出した結論は、アイリスの現状に合致するものとなった。

 

(――情操教育が足りひんのやな!)

 

 渡はテキストエディタを開いた。

 

 

……

 

 

 それから数日後の夜、アイリスの仮宿となったPETに、渡のPCから1つのファイルが送られてきた。そのファイルには、"優しさを持つあなたのために"とメモが添えられていた。

 

「……?」

 

 アイリスは何の気なしにファイルに触れる。それは、絵本プログラムだった。

 表紙の画像が表示される。傷ついた、大岩のような(いかめ)しい男が、怪我を押して船を漕いでいる絵だった。

 自動読み上げ機能が起動し、紙芝居を読むような音声が流れ始める。

 

 

……

 

 

 ゴゴ太郎

 

 むかしむかし、平和な山のふもとの村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。

 

 おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな岩が流れてきました。

 

「ひゃあ!」

 

 驚いてしりもちをつくおばあさんの前に岩が流れ着き、ゴゴゴと音を立てて、ひとりでに割れてしまいました。

 割れた岩の中からは、なんと元気の良い赤ちゃんが飛び出してきました。

 

 子供のいなかったおばあさんは、その子を連れ帰り、おじいさんと相談して、我が子として育てることにしました。

 おばあさんは、その子が生まれた時の様子から、ゴゴ太郎、と名付けました。

 

 おじいさんとおばあさんに愛され、ゴゴ太郎はすくすく育ち、15の頃には、とても頼もしい大男のようになりました。肩幅は広く、四肢は大地と空を衝くようで、その筋肉は石のように頑丈でした。

 言葉をどんなに懸命に教えても「ゴー、ガー」としか話せませんが、不思議とゴゴ太郎の気持ちが伝わってくるので、村の人たちとも仲良くしていました。

 

 ある日、ゴゴ太郎は、村の大人たちがこんな話をしているのを聞きました。

 

「昨晩もジゴク島の鬼に襲われて、畑が荒らされた」

「うちなんか、牛がみんな死んじまった」

「村長さんの宝物が奪われた」

「けが人も大勢いる。やつら、百ぺん村を襲っても気がすまねえって言ってたぞ」

 

 ゴゴ太郎は夜になるとすぐに眠ってしまうので、そんなことは今まで知りませんでした。ゴゴ太郎は子供心に"ゆるせない"と思いました。

 

 その次の朝。ゴゴ太郎はおじいさんとおばあさんに、ジゴク島のある方を腕で指して言いました。

 

「ゴ!」

(※訳:ゴゴ太郎、ジゴク島へ行って、悪い鬼を倒す!)

 

 おじいさんとおばあさんは、ゴゴ太郎を我が子として育ててきましたから、そのような危険な目にあわせたくないと思いました。

 しかし、ゴゴ太郎はとても真剣で、強い子なので、"もしかしたらこの子は、最初からそのために現れたのかもしれない"とも思いました。

 

 おじいさんは昔使っていた立派な鎧を与え、おばあさんはきび団子を作って持たせました。

 

 ジゴク島へ出かけたゴゴ太郎の背中が小さくなっていきます。ゴゴ太郎を呼ぶ声が、何度も、何度も、村中に響きました。

 

 旅路は過酷なものでした。ゴゴ太郎がやってくることを知った悪い鬼たちは、そうはさせまいと刺客を送り込んだのです。

 

 口から炎を吐く狼、鉄砲の名人の猿、猛スピードの突進が自慢のコンドルは、いずれも強敵でしたが、ゴゴ太郎はボロボロになっても諦めませんでした。

 鎧は使い物にならなくなり、きび団子は刺客への弔いに使ってしまいました。

 

 いざジゴク島についたゴゴ太郎でしたが、鬼の姿などどこにもありませんでした。

 人々が畑を耕し、牛の世話をする。それはまるで、ゴゴ太郎のいた村のようなのどかな風景でした。

 

 しかし、村人の一人がゴゴ太郎を見つけると、こう叫びました。

 

「鬼が出たぞ!」

 

 もちろん、ゴゴ太郎は鬼ではありませんから、あわてて釈明しようとしました。

 いつものように、ゴー、ガー、と話しますが、村人たちは聞き入れず、それどころか、より警戒心を強めました。

 

(どうして伝わらないんだろう? 村の人たちには伝わったのに)

 

 戸惑うゴゴ太郎の前に、武装した男たちが徒党を組んで現れます。彼らは口々にこう叫びました。

 

「畑は荒らさせんぞ!」

「家畜や女子供には一歩も近づけさせん!」

「誰かが怪我をする前に、やつの首をはねてやる!」

「奪え!」

「殺せ!」

 

 疑い、憎しみ、恨み、そして殺意。そのような暗い心を宿した人間たちを見て、ゴゴ太郎は理解しました。

 

(これが、"鬼"か!)

 

 ゴゴ太郎の言葉が通じないのは、彼らが"鬼"と化してしまったからでした。

 

 "鬼"たちが、一斉にゴゴ太郎に飛びかかります。

 しかし、流石はこれまで強敵を破ってきたゴゴ太郎。その硬く太い四肢で刀を折り、鎧を砕き、あっという間に"鬼"たちを無力化しました。

 

 もうこれで戦えないだろう。そう思ったゴゴ太郎は、沈んだ気持ちで山のふもとの村へ帰ろうとしました。

 そこに、倒れた村人のひとりが言います。

 

「おまえ、山のふもとの村のもんだな」

 

 ゴゴ太郎が驚いて振り向くと、その男は口の端から血を垂らし、頭を震わせながら、ニタニタと笑います。

 

「やっぱりそうだ。絶対に仕返ししてやるぞ。今度は畑や牛だけじゃ済まさねえ。村のもんは根絶やしにしてやる。村そのものを、潰してやるぞ!」

 

 ゴゴ太郎は、男が見得やはったりではなく、本気で言っていることがわかりました。なぜなら、男の、"鬼"の姿がだんだんと禍々しさを増していったからです。

 

 "鬼"となった村人と言葉を交わせないゴゴ太郎は、説得を試みることすらできません。

 このまま村を離れれば、本当にまた村が襲われ、今度は大勢の人が死ぬかもしれません。

 

「ゴオオオオオオオ!」

 

 雄叫びを上げ、ゴゴ太郎はのしのしと歩き、男を踏み潰しました。

 それを見た他の男たちや、遠くで様子を見ていた女子供は、すくみ上がりました。しかしゴゴ太郎は、それなのに、その誰もが鬼のまま変わらないことに気付きました。

 

 ゴゴ太郎は、もう後には引けませんでした。完全に禍根を断ち、山のふもとの村を守るためには、最後まで"鬼"と戦うしかありませんでした。

 自分こそ"鬼"ではないのかと、何度も自問自答し、村人を手に掛けなければならない悲しみに涙を流しながら、ジゴク島の村を滅ぼしました。

 

 誰もいなくなったジゴク島で、ゴゴ太郎は、足元が濡れていることに気付きました。

 ゴゴ太郎が流した涙が、大きな水たまりになっているのでした。

 

 ゴゴ太郎が覗き込むと、水面のゴゴ太郎が覗き返します。その顔は、悲しくて泣いているだけの、(いかめ)しくも優しいゴゴ太郎の顔でした。そこに、"鬼"の姿はありませんでした。

 

 ゴゴ太郎は、ジゴク島の人々を弔った後、奪われた宝物を持って、今度こそ山のふもとの村へ帰りました。

 

 おじいさんとおばあさんは、帰ってきたゴゴ太郎を暖かく迎えました。"鬼"のことも全て知っていた2人は、毎日泣きはらすゴゴ太郎を、優しく慰めました。村の人々も、ゴゴ太郎に感謝し、早く立ち直るようにと励ましました。

 

 それからゴゴ太郎は、その力を村を守るために使うことを決心しました。戦いの悲しさに、たまに涙することもありますが、長く長く、幸せに暮らしました。

 

 

……

 

 

 この時点のアイリスは、直接物語を読んで聞かされるなどという経験はしたことがなかった。新鮮な体験に没頭し、劇中で傷つくゴゴ太郎の姿を見ると、アイリスは、自分のどこか、なにかが、ざわつくのを感じた。

 

 かつてワイリーの研究所から抜け出した時のように、自分の中の何かに突き動かされるように、アイリスは繰り返し、絵本プログラムを何度も起動する。

 

 優しさ。アイリスは、自身にそのデータが組み込まれていることは知っていても、それが何かは理解していなかったし、理解しようとすることさえもなかった。

 絵本に触れたアイリスは、それが気になって仕方がなくなった。優しさとは何か。ゴゴ太郎が感じているという、悲しさとは何か。自分の中のなにかに起こっている、この不明な変化は何を意味するのか。

 

 絵本プログラムは物語を読み上げ、絵を映し出すのみで、ゴゴ太郎や人々について、解説してくれるわけではなかった。それでも絵本の中から知らない何かを見つけようとして、アイリスの中に、ただただ不明が降り積もっていった。

 

 

……

 

 

 翌朝、目が覚めた渡がPETを手に取ると、それに気付いたアイリスが、画面の中でこちらを向いた。腕の中に絵本プログラムを抱いている。渡が、何か言った方がいいのかと思う前に、アイリスが小さく口を開く。

 

「……この本……わたし……どうすれば……」

 

 言葉はたどたどしく、自分でも何を言えばいいかわからない、という風だった。

 

 寝起きで頭がぼーっとしていて、表情は動かなかったが、渡はまず、向こうから自発的に話しかけてきたことに驚いた。そして、絵本が効いていたことにも驚いていた。

 アイリスが自分の力で得た疑問を、言葉として完成させようとしていることに気付き、目やにを落としてじっと見つめ、その瞬間を待った。

 

「……優しさ……って、なに……?」

 

 渡は安心して、息をついた。アイリスは、どうして渡の口元が緩んだかもわからないまま、ただ質問の答えを待っていた。

 

(この歳で、子供にもの教えるようなことになるとはなあ)

 

 おかしく思いつつも、渡も質問への返答を真剣に考え、数秒してから言葉にした。

 

「まずは、一緒に読んでみましょうか」




 今回はアンケートありません。

 折角のアイリス登場だったのに前回の少ない分量で終わると出した意味ないのでは、と思ったので、続きを足しました。この後は24話アンケートの残りの消化に戻ります。

 感想欄で情報提供いただいたので、デカオの設定について補足します。
 設定解釈や把握漏れへのツッコみは随時募集しておりますので、あればどしどしお送り下さい。

①デカオの家族の設定解釈
 「2」で一度キャンプの誘いを断る際、デカオが"母ちゃんに留守番頼まれちまったんだ"と発言しています。
 素直に受け取れば、"それならデカオには母親が無事にいるのか"ということになるのですが、そうすると「3」のチサオの行動と矛盾します。
 デカオ曰くチサオは"デカオを連れ戻すためにニホンに来た"ので、やはりここで母親について触れられていないのは不自然です。母親を残してデカオ一人連れ戻しても大問題ですし、両方アメロッパに連れて行くなら話に出てこないのはおかしいですし。
 よって、警察の存在と同様、過去作品で起きたブレとしてなかったことにし、現状の解釈のままとなります。

②ゴゴ太郎と鬼
 アンケートがすごいことになって真っ先に展開を思いついたのは出会う過程でしたが、より具体的なことを考えたのはこちらが先でした。
 「ゴゴ太郎」という単語を前々に思いついたまま放置していて、それを再利用した形です。
 「鬼」という単語がクローズアップされていますが、本当は漫画版ロックマンXのネタを入れる予定だったのに、それができなかったため、特に意味なく入っているだけという結果になっています。
 おわかりのことと思いますが、ゴゴ太郎のモデルはストーンマンです。見た目とか名前とかだけですが。

③アイリスの過去
 「3」の戦車掌握にアイリスが関係ない辺り、ずっと昔からアイリスが逃げているのは確かそうなんですが、学校に行き当たって覚醒するまでに時間が随分かかっているような、そうでもないような、といった感じです。
 あてもなく彷徨ってたらそんなものなのかな、ということにしています。
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