セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

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 誤字報告ありがとうございます。どうしてバグは発生するんだろう?
 長めですが実質前編です。


X6話 バックドラフト

 WWW壊滅から日が浅く、巷はその話題で持ちきり、という頃。

 平日朝、渡が業務用のチャットにログインすると、個別チャットに新規メッセージの通知が浮かんでいた。しかし、自分が主導している案件や遅らせているタスク、勤怠管理の漏れなどといった心当たりはない。

 

(……? えっ)

 

 どこからの連絡かと相手を見てみれば、プライド王女だった。

 

 最初に侵入した時こそ、契約の関係でプライドと話をすることはあったが、そこは健康を売って国力を買うような王女、その後は直接接触する機会はほぼなかった。

 献金は正規の窓口で行うようになったし、ネットワーク事業への口出しは科学省の職員として、現地チームの中で行うようになったからである。

 

(直々に話すようなことは……特にないよな? 何の話やろか)

 

 メッセージに目を通す。

 

 "C.P.改め、七代渡へ ニホンオフィシャルより、WWW討伐に大きく貢献したオペレータとしてのあなたについて、善意の情報提供をいただきました。"

 

(は!? ……いや、筋は通るんか? 通ってもうたなあ……)

 

 契約に際し、渡は自らの本名や国籍を含め、個人情報を一切明かさないことを条件にしていた。クリームランド側からはそもそも特定が不可能な状況であり、渡が素性を隠すにはそれで十分となるはずだったからである。そのはずが、なぜこうなったのか。

 

 クリームランドに情報が渡ったのはニホンオフィシャルのせい。WWWに対抗したオペレータとしてニホンオフィシャルに名が知れたのは、やむを得ない事情で渡が自分からWWWとの敵対関係をアピールしたから。

 そのやむを得ない事情が何かといえば、身内の二階堂が、究極のプログラムを奪取するなどしたWWW幹部だということである。

 

 つまり、全ての原因は二階堂だった。

 

(こんなところまで……兄ちゃんんん!!)

 

 渡は拳底で机を叩いた。"ははは"と笑って済ませようとする兄の姿が目に浮かぶようだった。

 歯噛みし、頭を振ってから、メッセージの続きを読み始める。

 

 "つきましては、日頃の我が国への尽力に対する感謝も込めて、急ではありますが、会食を開催することに致しました。移動及び宿泊の費用は経費とし、会食は往復にかかる時間も込みで業務工数に含めることとします。詳細な日時はメールでお知らせします。"

 

 不法侵入によって実力を示し、その上金銭で取り入った立場。そこから身元が割れた今、渡が思いつく呼び出しの理由は一つだった。

 

(出頭命令……早くもツケが回って来たか)

 

 机に両肘をつき、組んだ手で額を支える格好になり、しばらく頭が空っぽになった。

 

 

……

 

 

 後日。

 一度は平静を取り戻したものの、クリームランドまで飛行機で丸一日と少しかかると知ってキレそうになった渡は、役所でパスポートを取得した後、停電事件の時と同じように、みゆきの家に3泊すると両親に説明した。

 みゆきにも詳しい事情は伏せたが、追及されるようなことはなかった。しかしみゆきには今回も本当に来るのではないかと問われ、翔にはしこたまからかわれた。

 それらをあしらってようやく、デンサン空港からクリームランド行きの飛行機に乗った。

 

 クリームランドは屈指の緯度を誇る北国中の北国だが、気候に関しては北国の面汚しとでも言うべきか、活火山の地熱と国土を囲む暖流のおかげで、比較的温暖である。

 冬の最低気温でも、マイナス5度に達することさえ稀だというのだから、住むのに都合のいい話だった。

 夏が近い今、最高気温は10度ほどまで伸びる。現地で上着一枚買えば、防寒策としては充分。ニホンに比べ物価がかなり高いが、渡にとっては問題ではないため、友達の家に泊まりに行くような少ない手荷物での出発が可能だった。

 

 出国時、犯罪対策として空港職員にPETを預かられたが、その後はスリやハイジャックに遭うようなこともなく。ゲームで暇をつぶし、午後6時に無事到着。入国審査の窓口へ。

 

「パスポートの提示をお願いします」

「これです」

 

 預かられたPETからデータを移された、ナビを搭載できない簡易PET"ミニPET"の画面にパスポートを出して見せる。

 

「ええと……クリームランドへは何をしに来ましたか?」

(そら、この歳の子供が一人で来れば、対応に困るわな)

 

 入国目的を尋ねようとした若い審査官が言葉選びに迷い、渡は笑いそうになった自分を戒めた。が、返答しようとして、"あれっ?"と思い、神妙な顔つきになる。

 渡が来たのは旅行でも家族に会いに来たのでもなく、業務上の呼び出しだというのを思い出したのだった。顎に手を添え、自分でも確かめるように言う。

 

「仕事、ですね……」

「えっ……仕事?」

「ええ、一応……」

 

 微妙な空気が流れた後、渡は本来のPETを返却され、そのまま通された。

 

 道すがら免税店で上着を買い、空港のロビーへ。観光産業が主力の国だけあり、人が多い。

 

(入り口があっちやから……迎えの人は、っと)

 

 メールで指示された位置へ向かうと、黒服の男が。その直立した姿は、思い思いに過ごす人々の中で浮いていた。

 男は自分のPETの画面と渡の姿を見比べているようだった。

 

(なんや別室送りにしそうな格好しとるけど、この人なんか?)

 

 判断しかねる渡に、男が、日本語で話しかける。

 

「七代渡さんですね? 私は運転手を仰せつかっているストールムルと申します」

(失礼なこと考えてすんませんでした)

 

 日本語を流暢に話せるというだけで、なりすましの線はグッと薄くなる。更に渡の名前を知っているので、騙してどこかへ連れて行こうというケースではなさそうだった。

 勝手すぎた評価を改めながら、渡も挨拶を返す。

 

「あ、どうも。ニホンから来た七代渡です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。時間が押しておりますので、早速ですがこちらへ」

 

 速歩きするストールムルについて行き、車に乗る。大型だったり妙に長かったりはしないが、タクシー以上に快適装備が充実しているのか、揺れや外部の雑音はほとんど伝わってこなかった。

 そんな静かな環境、それも異国の密室という状況で運転手と二人きりにされ、子供の体ということもあって、渡は少し不安になった。ストールムルは、そんな渡の様子をバックミラー越しにちらと見て、口を開いた。

 

「国外へ出られるのは初めてですか?」

「そうですね」

(今生ではな)

「私は国政に携わる立場でもなければ、科学省の職員でもありませんが、プリンセスをお助けする者の一人として、C.P.、つまりあなたの噂を耳にすることもありました」

「不審人物としてですか?」

 

 窓の外を眺めながら無感動に聞き返すと、ストールムルは数拍ぶんだけ、返答に窮した。出で立ちに似合わず、"困っています"と顔に書いてあった。もうちょっと言い方があったか、と渡は思った。

 

「そのように捉える人が多かったことは事実です。同じクリームランド人として、申し訳ないと思います」

「いや、謝る必要はないでしょう。僕自身、怪しい自覚はありましたよ」

 

 渡はC.P.を不審人物として見る者たちの前に晒され続けていたし、それを正当な扱いとして受け止めていた。なので、ストールムルが主語を大きくして、渡を要人か何かのように扱うのには恐縮した。

 

「そう言って頂けると、気が楽になります。しかし逆に、渡さんにも誤解しないでいただきたいことがあるのです」

「誤解? 僕が?」

「あなたを不審がる者もいれば、純粋に歓迎していた者もいる。そこまではご存知のことと思います。しかし――」

 

 

……

 

 

 空港を出発して20分ほど経ち、窓の外をいくつものレストランが過ぎ去っていった後、車は、レストランどころか安い食堂さえない場所に停まった。路肩に寄せているので、信号待ちでもない。

 食事をする場所はないが、寄せた場所というのが、大ぶりのホテルだった。

 降りたストールムルが後部座席のドアを開き、渡に向かって手を差し出す。慣れない扱いに戸惑いつつも、渡も促されるまま降車した。

 

「会食と聞いていたんですが、ホールか何かあるんでしょうか? あっても、急に取れるような場所ではないんじゃ?」

「さあ? 私も、ここまでの案内について指示を受けただけですから」

 

 渡の問いに対して、ストールムルは意味ありげにニヤリとしながら返し、1枚の手のひら大のメモを手渡した。

 釈然としない気持ちで見ると、短い文章の後に渡の名前が書かれていて、なにやら仰々しい印章が押されている。朱肉をつけたのではなく、溶かして落とした封蝋の上に押されていて、その部分だけ紙がたわまなくなっている。

 まさか、と思いながら印章を見つめる渡に、ストールムルが補足する。

 

「それを受付で見せれば、会食の会場までご案内する手はずだそうです。どうぞ、ごゆっくり」

(は? 会食参加者に配るだけの紙切れに? 国璽(グレートシール)を? アホちゃうか?)

 

 メモを見て呆気に取られている間に、ストールムルは車に乗って去っていった。エンジン音が遠ざかっていく。

 風が吹き、寒さで我に返った渡は、さっさとホテルに入ることにした。

 

("ホテル・トルフ"……うーん、流石にこんなところに入った経験は前世でもなかったなあ。ホテル言うたらビジネスホテルとかカプセルホテルやったし)

 

 いざ入ってみると、暖色の照明で薄明るく照らされたロビーは、一見ごく普通のホテルのロビーだった。ラウンジも含め、やけに壁掛けの絵画が多く、渡は翔の書斎を想起した。

 カウンターに近付くと、受付係の女性は子供が一人で来たことへのリアクションも特になく、話しかけられるのを待っているようだった。

 

「すみません、これを見せるように言われたんですが、合ってますか?」

「七代渡さまですね。お待ちしておりました」

 

 メモによく目を通しもせず即答し、一枚のカードキーを取り出して、カウンターの上に置いてすっと滑らせた。

 

(話早いな。流石王族主催の会食ってことか? グレートシールがひと目見てわかるってのもあるんやろか)

「こちらのカードキーをお持ちになって、あちらのエレベーターで3階まで上がっていただき、右手すぐにお部屋がございます」

「えっ、部屋?」

 

 見れば、カードキーには部屋番号が刻印されていた。

 

「会食なんですけど、ホールか何かじゃないんですか?」

「当ホテルにも宴会場はございますが、七代さまはそのお部屋をご予約ということで伺っております」

 

 受付係の顔に貼り付いた笑顔は一切動かない。

 

(待機……いや、メールで貰った日程にそんな余裕はなかったはずや。何が起きとるんや?)

「わかりました。ちょっと、後でまた何か聞くかもしれません」

「かしこまりました」

 

 渡は一礼する受付係を尻目に、開始までの時間がないことに焦りつつ、部屋へ向かった。

 言われた通りエレベーターで3階へ上がり、出てすぐ右に、カードキーと番号が一致する部屋があった。カードキーを読み取り装置にかざすと、電子音とともに解錠された。

 

 ドアを開き、中を見る。

 

(奥にあるベッドを見るに、セミダブルかダブルルームか。部屋の中まで壁に絵え掛けてあんな。んで、本来なんもなかったやろう(であろう)スペースにテーブルがドン、そこに椅子2つが向かい合わせで置い――あっ、はい)

 

 椅子のひとつは、既に埋まっていた。やや浅めに腰掛け、背筋をピンと伸ばしたその人物は、ドアが開く音を聞いて、まさに今振り返るところだった。

 一周してファッションを疑われるほどに青黒く深い隈が、金髪や白い肌とドレスの中で浮いている。

 

(んんんんんん……!)

 

 渡は、その姿を見て胸から噴煙のように湧き上がる"なんでやねん"という言葉を、やっとの思いで飲み込んで、立っているだけで精一杯だった。




 移動時間、日本からアメリカとニホンからアメロッパが両方10時間程度なので、ニホンからクリームランドは日本からアイスランドに合わせました。遠すぎる。

 アイスランドの人名について調べたら、既定の人名リストみたいなのがあって、それ以外から名前をつける場合は役所で審査する必要がある、みたいなシステムがあるようです。
 なのでリストからランダムにピックアップしました。ストールムル(Stormur)は嵐を意味する名だそうです。

 ホテルの名前はアイスランドに実在のホテル・ホルト(Holt)のアナグラムです。先に都市名を考えていたのですが、まだ出す必要性がないのでこちらが先になりました。
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