セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
プライドは青い目を輝かせてサッと立ち上がり、手を合わせ、早足で渡に近付くと、それから挨拶するでもなく中腰になり、メモやカードキーを持ったままの渡の両手を取って、その目を覗き込んだ。
(なんやこいつ!?)
相手が相手なので手を振り払うわけにもいかず、渡は言葉を選ぶ。面と向かって王族に物を言う経験などあるはずもなく、自信はないが、いい加減に心の整理をさせてくれという気持ちだった。
「……失礼ですが、殿下、その、何がどうなっているのか」
渡の声を聞いたプライドは、はっとして手を離し、のけぞるように一歩下がった。
「ご、ごめんなさい。わたくしったら……この時をずっと楽しみにしていましたの。気を悪くしましたか?」
「……いえ、大丈夫です」
(こっちは"はい"と言える立場ちゃうやろが)
表面上落ち着いた渡を見て、プライドも落ち着いた。着席を勧め、渡とともにテーブルに着いた。
「こうしてお会いするのは初めてですわね。改めて、わたくしはプライド。クリームランドの王女です。七代渡、あなたが遠路はるばる来てくれたこと、礼を言います」
「七代渡です。こちらこそ、殿下直々にお招きいただいたこと、感謝しております」
渡がプライドの言葉に対して頭を下げた後、身を乗り出さんばかりの様子で、プライドが話し始める。
「本当に……本当に、楽しみにしていましたのよ。ニホンオフィシャルから連絡が来た時は、夢でも見ているのではないかと思ったんですもの。11の男の子だと知って驚いたけれど、それはそれで――」
「恐れ入りますが」
またも渡の声に
(だるまさんが転んだしてんちゃうぞ)
「殿下のお話中に失礼しますが、発言してもよろしいでしょうか?」
「え、ええ」
プライドは、こんな大事な時に見苦しいところを見せてしまって恥ずかしいとも申し訳ないとも思い、目を伏せたが、すぐに視線を戻した。
「そんなに畏まらないで、もっと楽に話してくれて構いませんわ」
「承知しました。それで殿下、一体これはどういうことでしょうか? 私……僕は、会食ということで案内されて来たのですが、場所や人数がおかしいように思います。確認させていただきたいのは、僕をここへ呼び出した理由です」
ついでにテンションの高さにも違和感を覚え、渡は警戒する。記憶の中で連続殺人に手を染めようとした人物であり、その種が完全に取り除かれていない今、躁状態は赤に近い黄信号だと考えていた。
「ああ……そのことですのね。簡単なことですわ。いち早く、渡と二人でお話したくて、無理を言ってセッティングしてもらいましたのよ」
プライドが口角を上げる。渡は、見えるところに汗をかいていないだろうかと思った。
「お話、といいますと……いや」
頭を振って言葉を切る。背もたれに体重を預け、小さくため息を付いて、深く息を吸ってから、真っ直ぐプライドの顔を見た。
「はっきり言いましょう。僕をどうするつもりですか? クリームランドを脅かした罪人として処罰したいのか、それとも、それを免じる代わりに手駒にしようとしているのか。わざわざニホンを離れさせたのは、ニホンオフィシャルの介入を許したくないからでしょう」
プライドの顔から笑みが消えた。
「先に悪さをしたのは僕ですから、どうされてもそれは正当でしょう。ですが僕とて仮にも、終末戦争秒読みまで迫ったWWWを退けた者の一人。どうこうすれば、きっとニホンも面子のために庇いに来る。そうなれば争いは必定。ネットワーク社会の先頭を行くニホンは、今この国が最も喧嘩相手に――」
「違います!!」
テーブルに両手を置き、少し前のめりになって、力強く否定するプライド。
言葉を遮られた渡は一旦口を閉じた後、言い返そうとしたところで、プライドの表情の変化に気付いた。怒りではなく、悲しみが滲んでいた。先の鋭い声は強気から来たものではなく、悲鳴だった。
「渡……あなたは、それ程までにわたくしを信用してくれていなかったのですか? わたくしが、あなたを……夢に見るような"――"を賊として使い捨てるような、恩知らずだと思っていたのですか!?」
「……えっ!?」
(なんかとんでもない言葉が聞こえたような……いや、今はそこじゃなくて)
渡はここへ来て、ストールムルの言葉を思い出した。
『あなたを不審がる者もいれば、純粋に歓迎していた者もいる。そこまではご存知のことと思います。しかし、プリンセスは、それらとは一線を画しておられます』
誤解しないで欲しいと言いながら、それはそれで言葉足らずだろうと、他人事のように思った渡だが、目の前で狼狽するプライドを放っておくのはまずいと思い直し、すぐに声をかける。
「てっ……撤回します! どうか、今の無礼は忘れて下さい!」
「わ、忘れられるはずがありません! よりにもよってあなたに、そんな風に思われていたなんてこと、わたくしには……」
言葉尻が小さくなっていく。ええい、と渡が右手で机を叩いた。プライドの背筋が跳ねる。
「僕は信じていたし、今でも信じています! でなければ国境を犯してまで売り込みには行きません」
「……わたくしの、何を信じているというのですか?」
「愛国心……もとい、民を思う気持ち、です。クリームランドを、そこに住む人々の生活を豊かにしたいと本気で思っているあなた――殿下だから、僕は助けたいとも、必要だとも思ったんです」
(やらなぶっ壊れるなら、やるしかないんやからな)
言い切った渡は、ちょっと芝居がかったかな、とむず痒くなった。反応を待っていると、プライドはまたも
どうしたと渡が問う前に、プライドが無表情のまま渡の顔を見上げて口を開いた。
「やはり、わたくしは間違っていませんでした。あなたしかいません。あなたこそ、わたくしの"――"です」
「あの、さっきから言ってるそれって一体――」
ノックの音が渡を止めた。
「頼んでおいた食事が届いたようです。一緒にいただきましょう」
ドアの方を振り向いた渡に説明し、ルームサービスを通すプライド。温かい食事が配膳され、スタッフが去っていった後、プライドはすっきりしたという様子で、渡はまだまだ腑に落ちないという様子で、それぞれ食べ始めた。
(骨のない魚料理。ありがたい)
「お口に合うかしら?」
「こういうのは好きな方です」
「そう。それはよかった」
食事の時間になって緊張が解れてきたのか、プライドは自然な笑顔を見せ始め、当初したがっていたであろう話を始めた。
C.P.についてどう思っていたかについてだけは話さず、渡が手を貸すようになってからどれほど上向いたかという話題からだった。
「本当は1日2日かけて、わたくしが渡にこの国を案内したかったのですが……それだけの時間が取れるようになるには、後少しだけかかりそうなのです。今日も、この時間が終わればすぐに戻らねばなりません」
「光栄ですが、もしそれだけの時間があったなら、ご自身の睡眠に回すのが先決だと思います」
「あら、渡の恩に報いさせてくれないのですか?」
「殿下が健康になって下さる方が、僕としては嬉しいですから。具体的に言うと、隈は消していただきたいですね」
「まあ」
渡が何に期待していると思ったのか、プライドが含み笑いした。
「そういえば、渡が何か報酬を望んだことはありませんでしたわね。我が国のオフィシャルネットバトラーに認定するというのはどうでしょうか」
「WWWの件で名を売ったのは訳あってやむなくのことなんです。目立つ肩書は持ちたくありません」
「困りましたわ……あげられるものがなくなってしまいました」
「僕のことより、ご自身の健康のことを考えてください。僕が望めるようなことはそれくらいです」
「渡がわたくしに望んでくれるというならば、応えないわけにはいきませんわね。ふふ」
(さっきからなにわろとんのや)
再びの含み笑いに、渡は密かに訝しんだ。
その後、ささやかな会食は終わり、プライドは別れを惜しんで何度も会話を引き延ばした後、様子を見にやって来た政府の人間に連れられて公務へ戻っていった。渡は、無給とはいえ午前様の身として、いつも夜中まで大変だなと改めて思った。
ホテルの部屋は会食会場ではなく、あくまで1泊の予約であり、その後はそのままこの部屋で一晩過ごすことになった。
……
翌朝、帰りの飛行機に乗った渡は、天井を見上げながらプライドとの会食を思い返す。
ひとまず、自分の存在を好意的に受け取られていることに安心したが、どうも行き過ぎているような気がして、なんとも言えない気持ちになった。
また、その時にプライドの口から出た言葉のセンスを疑っていた。
(今どき"勇者"はないやろ……自分やっとること盗賊やし……)
中々口調が難しい。人名に敬称がつかない点はわかりやすいんですが、気がつくと敬語が強くなってしまいます。
虫馬アンケ当時は"白馬の王子様"という言葉をベースに考えていましたが、プライドの立場を考えるとおかしい気がしたため、このように変更したというのが、X2話午前編を投稿した時のことでした。あれから20話くらい経ちましたから、再登場まで長かったなあと思っています。