セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
(デカオん
秋原町駅を出て、PETで町内の地図を確認。刑事ドラマとは違ってアンパンと牛乳もなければ車中でもないが、デカオの家に対して張り込みを開始。発電所ぶりに野球帽と伊達メガネを身につけ、遠目では渡だとわからないようにもしている。
ブックカバーをかけた子育ての本を読みながら、待つことおよそ40分。ドンッという音と共に大山宅のドアが開き、デカオが鍵どころかドアも閉めないまま全力疾走して行った。太ってこそいるが運動は得意な方であり、通りから消えるまで足を止めなかった。
デカオが向かった先は綾小路宅のある方であり、急いでいる様子からも、既に事件が始まっていると推測できる。
(よし、ついてくか)
渡は大山宅のドアを不正に施錠し、帽子と眼鏡をしまってから、速歩きで綾小路宅に向かった。
……
綾小路宅が目に入った時、既にデカオは入っていった後だった。閉じたドアの前で熱斗とメイルがそわそわしつつもPETの画面を見ていた。
「こんにちは。大山くんが随分焦っているようでしたが……」
声をかけられ、熱斗とメイルが顔を上げた。いるはずのない渡を見て、熱斗が思わず指をさす。
「渡! お前、デカオが連絡が取れなかったって……」
「メトロの車内で寝ていましたからね。秋原町駅を出た後、走っていく大山くんを見かけたもので、追いかけて来たんです。それで、何が?」
「えっと、やいとが風呂から出てこないんだ。ガス湯沸かし器もおかしいって!」
「グライドが言うには、ガス湯沸かし器の警報が鳴ってるみたいなの。デカオくん、5分で戻ってくるって言ってたけど……」
「確かに全員で一気に入るのは得策ではありませんが……ちょっと待って下さい」
熱斗が"あっ"と声を上げるのにも構わず、ドアを開けて中へ。邸内は一見して何の異常もないが、ガスの臭いが確かにする。
入って間もなく、渡の後ろで施錠音がした。取っ手を握って押し引きするが、動かない。
通常、オートロックというものは外側から開けられないようにするものだが、渡は外側から入ることができ、そして今、内側から開けられない。侵入者を防ぐものではなく、入った者を逃がさないものになっている。
(まずここやな)
ドア横のコントロールパネルにプラグイン。ベータの前に立つウイルスたちを、メットガードと
そうしてからもう一度取っ手に手をかけると、今度はきちんとドアが開いた。ドアを開けたまま、熱斗とメイルに要点を伝える。
「ガス漏れと、ドアのロック異常による閉じ込め。人為的なものと思われます」
「なんだって!?」
「桜井さんはオフィシャルを呼んで、ここでドアを開けておいて下さい。ロックくん、ガスチェックを」
「う、うん」
「わかった!」
渡とロックマンがPETのガスチェック機能をオンにする。画面の隅に、色で危険度がわかるインジケータが表示された。
「PETがガスの濃い所に入ると赤くなるから、気をつけて!」
「サンキュ! 渡、行こう!」
オフィシャルにオート電話で事情を説明するメイルを置いて、熱斗と渡が中へ入った。
「浴室の方へ。助けに入ったデカオくんも恐らくそっちでしょう」
腕を目一杯伸ばし、懐中電灯で照らして見回すような動きでPETを振る。そうしてガスの濃い所を避けながら、廊下を進んで行き、浴室に続くドアを開けると、インジケータの色が急激に変化した。
強まるガスの臭いに、熱斗が顔を顰める。
「うっ……」
(本能的に身の危険を感じる臭さやな。これが人工の臭いやって言うんやからすごい話や)
浴槽のある浴室はさらにもう一つガラス戸を隔てた向こうで、そのガラス戸は開いている。ガラス戸の手前は板張りの床のスペースになっていて、その端、床に換気扇のある所で、デカオがうつ伏せに倒れている。
「デカオじゃんか! ……このガス、どうすりゃいいんだ!」
「あちらのコンパネですね」
渡が湯沸かし器用のコンパネを指す。その下にはデカオのPETが落ちていて、ケーブルがプラグイン端子に刺さったままだった。PETからは時折、デカオを呼ぶガッツマンの声がする。
「意識を失うほどとなると、単なるガス漏れだけでなく、各所の換気扇も止まっているんでしょう。何にせよ、あちらから調べられるはずです」
「渡は?」
「先に、大山くんを部屋の外に。ここよりはマシなはずです」
口を小さく開けて息を吸い、止める。デカオを仰向けに転がしてから、腕を動かしてバンザイの姿勢を取らせ、両脚をそれぞれ腕に抱え、タイヤ引きのように引っ張る。
浴室の湿気が幸いして皮膚と床の摩擦は少なく、途中で引っかかることもないままデカオを廊下まで引きずり出すことができた。ガスの薄い場所まで引っ張った後、渡自身もガスに注意しつつ息を整えた。
(えーっと、心拍……は大丈夫やろから、呼吸の確認やな)
デカオの口元に耳を近づけて待つ。自身の緊張を押さえ、視聴覚に集中する。
(息は……聞こえる。心臓マッサージはせんで大丈夫か)
呼吸があることを確認した渡はデカオの横に膝をつき、その肩を軽く叩き始めた。
「大山くん、起きて下さい、大山くん」
呼びかけながら何度も叩く。十数秒ほど経つと、デカオは呻いたり咳き込んだりし始めた。
「……うう……ゲホッ、ゴホッ」
「大山くん、起きて下さい」
「……わ、渡か……大丈夫だ……」
辛そうに細めてはいるが、デカオは確かに目を覚ました。
「グッ、ふぅー……」
上半身を起こし、大きく息を吐いてから、ゆっくり周囲を見回し、また吸う。余裕がないのか、渡ではなく体の向いている方を向いたまま、渡に問いかける。
「……ここまで、運んでくれたのか?」
「換気扇が止まったままですからね。今、光くんが対応してくれています」
「そうか……ありがとよ、渡」
「どういたしまして。立てますか?」
「ちょっと待ってくれ……」
ガスに囲まれた中、慎重に呼吸を繰り返す。数回の後、楽になってきたのか、デカオは四肢にぐっと力を込めて立ち上がった。
「よし! もう大丈夫だ。行くぞ渡!」
「あっ、ちょっと」
復帰早々、デカオは浴室に向かって突撃して行った。
(前のめりやなあ)
後に続くと、板張りスペースのガスが減っていて、かすかに換気扇の動作音が聞こえた。
「熱斗! 今どうなってる!?」
換気扇の音をかき消して、デカオの声が響いた。
「換気扇動かしたとこ! ガッツマンはなんとか大丈夫!」
「デカオさまーー!!」
「すまねぇ、ガッツマン! こっから汚名返上と行くぜ!」
「大山くん、待って下さい」
「なんだよ!」
PETを手に気合を入れるデカオへ、渡が待ったをかけた。続けて熱斗に質問する。
「光くん。ガッツくんはロックくんと一緒ですか?」
「いや、ガッツマンじゃ速いガスを避けられないみたいで……」
「電脳世界でもガスが噴き出してて、触ると押されちゃうんだ」
質問には熱斗が答え、ロックマンが補足した。
「だったら、ドアのロックを――」
「それは解決済みです。大山くんには、扇ぐものを探して欲しいんです。浴室のガスは相当濃いですから、電脳世界にも影響があるかもしれません。頼めますか?」
渡より先にデカオが口を開いたが、遮って渡が指図をした。その間デカオは口を噤んでいたが、返事の際に握り拳を見せる。
「……ああ。でもな、オレさまの代わりに湯沸かし器を調べる以上、ヘマは許さねぇからなっ!」
「もち!」
「お気をつけて」
熱斗は頷き、渡は軽く頭を下げた。デカオは熱斗と渡に活を入れた後、プラグアウトして部屋を出ていった。
デカオを見送った後、熱斗はロックマンのオペレートを再開し、渡は空いた端子からプラグインした。
(相手が雑魚でも現実のガスがヤバい。急がんとあかんな)
開幕通報は市民の常識。
救急も消防も恐らくオフィシャルの管轄。すごい世界ですね。
書籍を揃えたつもりでしたが、どうも知らない設定(エアーマンは非戦闘用ナビを改造したもの、とか。ソース不明)がまだあるようで、公式ガイドブックも揃えるべきか悩んでいます。
「OSS」「3BLACK」「GP」は公式ガイドブックがなかったり、「6」だけ電子書籍があったり、これはこれでよくわからない……