セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

38 / 64
29話 次なんてない

 湯沸かし器の電脳世界。

 黄色く薄い雲や、換気孔の空いた金属板が床になっていて、細長い道が枝分かれしている。

 電脳元栓から定期的に噴き出す電脳ガスはナビやプログラムくんを強く押し、ある時は障害物に、ある時は地続きでない場所への移動手段になる。前者は噴き出すタイミング、後者は元栓や床の位置関係が重要となる。

 電脳ガスとはいうが、実際は風圧で押し出す機能のみで、燃料や有害物質としての特性は持たないし、叩きつけられてダメージを受けるようなこともない、安全なものである。

 

 ガスを避け、元栓を開け閉めし、プラグインしてからおよそ1分。

 

「ロックくん、その換気扇プログラムは?」

「もう動いてるんだけど……違う部屋の換気扇だったのかな。あっちの道はそのままだし……」

 

 ベータはロックマンのいる所まで追いついたが、そのロックマンはガスの吹き溜まりを前に足止めされていた。それは元栓ではなく床の下から噴き出し、止めようがないように見えた。

 そんな折、現実世界にドタドタと足音が響く。デカオだった。振り向いた渡と熱斗に向かって、畳んだ扇子3本を差し出す。

 

「待たせたな! 扇子三丁だ!」

「ありがとうございます」

「お前、倒れたばっかで無茶しちゃダメだろ!」

 

 行きも帰りも全力疾走だったのか、汗をかいているデカオを見て、熱斗が呆れる。

 

「今は言いっこなしだぜ! それより、どうなんだ? 役に立ちそうか?」

「ちょうどいいタイミングでした。これで浴室を扇ぎましょう。こちら側の換気扇は動いていますから、奥からガスを持ってくるんです。現実のガスが薄くなれば――」

「電脳世界のガス溜まりも消えるかも!」

 

 現実世界での対処が電脳世界の状況を変える。熱斗にとってはよく知る理屈だった。

 

「そういうことです。デカオくんも行けますか?」

「オレさまを誰だと思ってやがる! 行くぞお前ら!」

 

 肩を回し、浴室の入り口を扇ぐ。PETを置き、引き戸を開けきってスペースを作ってから、熱斗と渡も横に並んで扇ぎ始めた。湯気も煽られ、湯船に浸かったままぐったりしているやいとの姿が見えた。

 渡は、緊急時に余計なことを考えるなと、心中で自分に言い聞かせた。電脳世界の様子を確認すべく、ガスを吸わないよう後ろを向いてから叫ぶ。

 

「ロックくん、そちらのガスは!?」

「ちょっと減ってきた!」

「よし、このままやいとのいるところまで……!」

 

 近くのガスが薄くなるごとに踏み出して、さらに扇ぐ。2歩、3歩と進んだが、溜まっていたガスをいくら外へ送り出しても、ガス漏れ自体が止まったわけではなく、奥からガスが増えていく。

 それでも無意味ではなく、熱斗とデカオがムキになりかけたところで、後ろからロックマンの声が変化を知らせる。

 

「熱斗くん、こっちのガスなくなった! 奥に換気扇プログラムあるよ!」

「渡っ」

 

 熱斗が手を止めて判断を仰ぐ。渡は前を向いたまま小声で指示をする。

 

「ここは僕一人で続けます。熱斗くんはオペレートを。デカオくんは桜井さんの所へ行って、オフィシャルが来たら家の入口以外を見張るように伝えて下さい」

「わかった、頼む!」

 

 頷いて熱斗が行った後、デカオが扇ぎ続けながら渡の方を向いた。

 

「オレじゃなくていいのか?」

「ロックくんに何かあった時のためです。犯人が逃げるとまずいですから、行って下さい」

「そうか、さっきは見なかったけど、隠れてやがるんだな。わかった、よ!」

 

 デカオは最後に扇子を大きく一振りし、そのまま部屋を出ていった。

 渡も浴室に向き直り、ガスを流す作業を再開する。

 

(順調に行けば最後までこんままか……若くて健康な体に感謝やな)

 

 

……

 

 

 電脳世界。ロックマンはガスの吹き溜まりが消えた時点で進み始め、熱斗のオペレートを受けて足場をガスで渡り、最後の換気扇プログラム前まで来ていた。

 正常化しようと近付くロックマン。その前に立ち塞がるように、ナビがワープした。

 

 ハンドルのないドライヤーから手足を生やし、排気口にプロペラをつけたような人型ナビ。メタリックブルーにシルバーの線が入っていて、銀色の排気口とプロペラはエンブレムのように見え、外国の自動車を思わせる。

 そのナビは排気口からゆっくり、"ホアーー"と息を吐き、瘤のような小さな頭部からロックマンを睨みつけた。長く続く息に、そのうち声が混ざる。

 

「お前かーー、邪魔をするのはー」

「家の中のガス、お前の仕業だな! すぐにガスを止めるんだ!」

「それはーー、できないーー!」

 

 目つきは鋭いが、言葉は間延びしている。ロックマンの呼びかけに対しても一言答えただけで、後は息を吐いているだけで何もしない。ロックマンはそのナビの意思が希薄であるように感じた。

 

「無理さ! エアーマンが聞くのは、オンリー、オレの命令だけさ!」

「!? さっきの……ガス会社の!」

 

 青いナビ・エアーマンのオペレータらしき、若い男の声。熱斗はその声を聞いたことも、声の主を見たこともあった。ガス会社を名乗る男が住所を間違えて光宅に来ていて、金髪が印象に残っていた。

 

「なんでガス会社のくせにこんなことするんだよ!?」

「会社なんかカンケーないさ! もっと大きな目的があるのさ!」

「やいとに恨みでもあるのかよ!」

「ないさ! 金持ちの子なら誰でもよかったのさ! そうしておけば次に、"金を出さなきゃ、お前の子供がガスで死ぬぜー!"って脅した親どもから、1億でも2億でもふんだくれるってものさ!」

 

 ガス会社の男は、自分だけが安全を確保し、身を隠してもいることから来る余裕なのか、ペラペラと計画を熱斗に喋った。熱斗は、男の犯行が無差別かつただの金目当てであると知って歯を剥く。

 

「こいつ! なんてヤツだ!」

「お金のために子供を狙うなんて! ボク、こんな人許せない!」

「なんとでも言うがいいさ! お前もこのまま、ガスを吸って死んでしまうのさ!」

「そううまくは行くもんか! 行くぜ! ロックマン!」

 

 熱斗と意志を一つにし、ロックマンが戦闘態勢を取る。エアーマンが動き出す前に、送信されたキャノンを構えて撃ち込み、怯ませた。

 エアーマンもよろけて動かした足に勢いをつけて走り、ロックマンの銃口から逃れようとするが、ロックバスターやショットガン、後方V字誘爆弾(ブイガン)を撃ち込まれ、HPの減少が止まらない。

 

「何やってる! 攻撃しろエアーマン!」

 

 男の指示を受けたエアーマンが、ホアー、と息を吐き、プロペラを回転させる。排気口の奥から流れ出す息にプロペラの回転が加わり、2つの細い竜巻に変化した。

 竜巻はそれぞれが別の軌道を取るが、ロックマンは両方が当たらない位置を見切り、そこへ駆け込んだ。竜巻の行く先も確認せず、振り向いてチャージショットを放ち、エアーマンを更にデリートへと一歩近づける。

 

「ああー! もう! だったらエアシューターで……!」

 

 苛立つ男から送信されたチップデータを知覚し、エアーマンの目が輝く。両手を掲げたエアーマンの前に、青い竜巻3つが一列に並ぶ。上げた両手をロックマンに向け、排気口からの風で竜巻たちを押すと、それらが緩急をつけて地面の上を滑る。

 壁のように迫ってくる竜巻を見て、熱斗もまたチップデータを送信する。送信された2枚のチップデータから熱斗のメッセージを受け取り、ロックマンは竜巻に突っ込むように走り出した。

 

「なんだよ、ナビまでガスでどうかしちまったのか? いいぞー、消えちまえ!」

(……)

 

 熱斗は、近付くロックマンと竜巻を見つめる。衝突まで3秒、2秒、と心の中で数えて、叫ぶ。

 

「今だ!」

 

 発声の始まりと同時にロックマンの姿が消え、そこを竜巻が通過する。消えたロックマンは、エアーマンの目の前に現れていた。姿勢を低くし、右手を左肩の近くまで引いている。

 

「あっ……!?」

 

 2枚目のチップ、ワイドソードで右腕を剣に変化させ、エアーマンの両腕を薙いだ。HPがゼロになったエアーマンは、即座にバラバラのジャンクデータになって消えた。

 

 

……

 

 エアーマンをデリートされ、2階の一室に身を隠していたガス会社の男、風吹アラシ。"組織"に所属することになったのは、ネットワーク犯罪の常習者だからだった。それだけに、引き際は心得ているし、計画も立てていた。

 

 まず、社内の顧客データで間取りを把握。ドアと窓を封鎖し、1階にガスを充満させ、自身は安全な2階からエアーマンをオペレート。中に入り異常に気付いた者は、手を加えられたロックプログラムにより外に出られない。

 

「なんでこんな子供なんかに……だが……いいさ! 次はこうは行かないぜ! オレたちの組織は最強なのさ! あばよっ!」

 

 そして万が一失敗しても、予め用意したロープを伝って、自分だけ窓から逃げる。

 熱斗たちに捨て台詞を吐いたアラシは、早速窓を開け、適当な家具に固定したロープを外へ垂らした。備品の滑り止めつき軍手を装着し、窓の縁から足をおろして壁につける。手足を動かすごとに、窓が遠ざかっていく。

 子供相手と油断してついネットバトルに応じ、あまつさえエアーマンをデリートまでされ、今回の仕事は完全な失敗という結果になってしまったが、それでもアラシの頭はクールに保たれていた。思考は次での挽回へと向いている。

 

(バレちまったから、デンサンシティは離れた方がいいかもな……ボスに報告したら、次はコートシティにでも行くか?)

 

 地に足をつけ、手元のリモコンを操作すると、家具に固定されたロープが外れた。2階の部屋に伸びるそれを、下から引っ張る。

 

(あとはこいつを回収して――)

「きみ、ちょっといいかね」

 

 アラシに声をかけたのは、スーツ姿の壮年の男だった。アラシはロープを離して逃げようとするが、男はその手首を掴んで捻り上げた。

 

「いっだだだ!」

 

 振りほどこうとするアラシの膝裏に蹴りを入れ、アラシとは別の方向に大声で呼びかける。

 

「西側だ! ホシが来たぞ!」




 久々にアンケートがあります。そこだけに用がある方はスクロールして下さい。

①ガッツマンの出番
 ロックマンとガッツマンのタッグでエアーマンを倒させるチャンスだと思ったんですが、ガッツマンは高速ガス地帯抜けられなさそうなのでボツに。グライドが無理でガッツマンが行けるとも思えないし……

②アラシ生存
 アラシを死なせようとして、「あっ通報してる……」となったので、生存する方向に。

 死んだ場合の理屈ですが、原作で爆発事故について報じるメールは"爆弾は小型で、被害はさほど大きくなく、現在のところ怪我人等は確認されていない"という文面で、メールが来たタイミングから考えてもまだ充分に調べられていない状況と考えられます。
 破片ではなく爆風で殺傷するタイプの爆弾なら、物は壊れても壁や天井が崩れたりはせず、爆弾によるものとしては"被害はさほど大きくない"程度に収まるでしょう。
 爆風で殺傷されるため、アラシは吹き飛ばされた後どこかの物陰に落ちてしまい、見つかる前に速報が打たれたとすれば、なんとか説明がつきます。

 結構強引な理屈ですが、それより大事なのは、ゴスペルという組織がメンツを重要視し、人命を軽視しているということです。アラシの上司らしき人物(首領本人かは不明。恐らく異なる)の台詞とあの流れからして、死なない方がおかしいというのが一番の肝です。
 原作のメールニュースが間違っていることにするのも考えましたが、駅がぐちゃぐちゃになると後でマリンハーバー行けなさそうなので、こういう形に。

③エアーマンが弱い
 小物と強い設定のないナビの組み合わせが1作品分の修羅場くぐってるヒーローたちに勝てるわけもないので……


~キャラの話 光熱斗&ロックマン~
 ご存知主人公コンビ。原作からの変化は少ないため、それほど語ることはありません。

 友達として付き合ってくれない炎山や、戦力としていささか頼りない秋原組と違い、渡のことは比較的頼ってきます。とはいえ熱斗自身がやりたがりな性分のため、最初から頼り切りにはなりません。

 断水事件のアイスマン戦や信号ジャック事件そのものがスキップされ、エレキマン戦が2対1になったりしていますが、経験値の不足分を渡との日常的な対戦で補っており、ネットバトルにおいては原作(=渡が放置した場合)と同じかそれ以上の戦闘力を発揮します。

 最初の最初、渡の名前や設定すらない頃は「転生者も敵わない無敵のヒーロー」として動かしていくつもりだったんですが、よく考えた結果、「正史で勝利が確定している主人公」と「ゲームオーバーにならない保証のないプレイヤーキャラ」の中間くらいの存在になりました。
 そのため、原作キャラ中でもまだ最強ではありません。仮に今の時点でWWWエリアのナビやバレル&カーネルと対戦すればほぼ負けます。ドリームオーラ覚えたてのフォルテにギリギリまで迫れる程度のラインです。

 メイルとのゴールインを渡に心配されていて、たびたびちょっかいを出されています。原作での鈍感主人公っぷりを考えると、それで進展が早まるかはまだまだわかりませんが……

(29話)謎アンケート

  • 投票したくないけど票数は見たい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。