セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
炎山とか、暗黒竜のナバールのチンピラ言葉に通じるものがある。
「はーあ、なんでワタシが連絡係なんてやんなきゃいけないのよ。ワタシにはアクアプログラムの奪取っていう大仕事があるんだから、そんなの他のヤツにやらせればいいのに。人員ケチっちゃって」
誰もいないところで所属組織の愚痴を言う、二十代を自称する三十代の女性、
エレベータを使って、予め脅迫しておいた職員、氷川のいる階へ。誰もいない廊下を進み……突如、背中、腰に激痛が走る。
(痛い痛い痛い痛い痛い!! なんなの!? 体、動かない!)
体が言うことを聞かなくなり、前のめりに崩れ落ちる。
痺れて声も出せず、痛みは続き、意識と思考をかき乱していく。
うつ伏せに倒れたまどいは、背後の襲撃者によって目隠しをされ、口をガムテープで塞がれ、両手両足を固い紐のようなもので縛られ、どこかに引きずられていった。
……
息を乱しつつトイレから戻ってきた渡が、カウンター下に隠れている熱斗に向かって声をかける。
「もう、大丈夫です。プラグイン、しましょう」
「ほ、ホントに大丈夫なのか?」
「はあ、はあ……」
渡はミネラルウォーターのペットボトルを開けて、口をつける。
(11歳の体で成人を運ぶんはきっついわ……結束バンドつけたるんも、子供やとバレんようブカブカの革手袋つけてやったから手間取ったしなあ。いろんな汗がめっちゃ出たわ)
水を飲んで息を整え、一息つく。
「……ふう。あの人がオフィシャルなら、午前に手続きをして一度上がってきているはず、そうでないなら私服はありえません。職員の方はスーツか白衣か作業服を着用ですからね。十中八九、というかほぼ100パーセント、犯人グループの誰かです。念の為鞄に入れておいた護身用品が役に立ちました」
「おまえ、いつもスタンガンとか結束バンドとか持ち歩いてるのか……?」
「まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。今すべきことはネットワークの調査です」
渡に促され、熱斗もPETからプラグイン用のケーブルを引き出し、二人で壁際に設置されたウォータークーラー(水は出ない)の前に立つ。
「プラグイン! ロックマン.EXE、トランスミッション!」
「ベータ、入ります」
接続されたケーブルで2体のネットナビが送り出され、ウォータークーラーの制御コンピュータを通して水道局の電脳世界に着地する。
内部は水道管を組み合わて作った通路が、迷路のように枝分かれし入り組んでいる。
「あれ? ところどころ、凍っちゃってる……それに、ナビもプログラムくんもいないみたいだ」
見える範囲に動くものはなく、ロックマンとベータだけが立っている。ロックマンの言う通り、床のところどころは、平らな氷に覆われている。
「あの人、全力でバグを取ってるって言ってたけど……」
「予想が当たって嬉しいやら悲しいやらですね。とにかく、まずは奥を目指しましょう。設備のプログラムがあるはずです」
この電脳世界に張られた氷は、その上を歩くナビを意思とは関係なく滑らせ、壁にぶつかるまで制御させない。
水道局だけあって電脳蛇口が設置されており、ここから電脳水を流して氷を溶かせばどうにか進むことができた。
道中で湧き出すウイルスも、ロックマンとベータなら無理なく蹴散らせる程度のものだった。
熱斗、渡、ロックマンが協力して、いくつもリンクを移動した先。そのエリアに入ったところに、別のナビがこちらに向かってきていた。
ボディは全体的に赤く、口元だけ空けたフルフェイスメットの後ろから長い銀髪を垂らし、右腕は光の剣になっている。ひと目で、戦闘向けのナビだとわかる出で立ちだ。
「……なんだ、キサマ?」
「ここのナビじゃない? まさかWWWかっ!?」
熱斗が言うと、赤いナビが動き出す。素早く踏み込んで、ロックマンに向かって右腕の剣を振るう。正体不明の相手を警戒していたロックマンは、後ずさってそれを回避した。赤いナビに向かって叫ぶ。
「何をするんだ!」
「フン、少しはやる! が、オレをWWWなんかと一緒にするとはな……」
「その声、浄水施設でわめいていたガキどもか。ブルース、構うな。ただの迷子だ」
赤いナビに呼びかける少年のような声の言い草に、熱斗は色めき立つ。
「バカにすんな!」
「さっさと家に帰るんだな。オフィシャルネットバトラーの伊集院炎山と――」
「――そのネットナビ、ブルース」
「オレたちの邪魔をすることがあれば、遠慮なくデリートさせてもらう。行くぞ、ブルース」
「ハ!」
赤いナビは、ロックマンとベータが来たリンクで移動して行った。
(今の芝居がかった口上、恥ずかしくないんやろか)
「やっぱ、ヤなヤツ!」
「いちいち気にしても仕方がありません。オフィシャルがきちんと仕事をしていると、ポジティブに捉えましょう」
熱斗を宥めつつ、再び水を流して氷を溶かし、道を作って進んで行く。何度かそれを繰り返し、ずっとこのままかと思いきや、一行は異常を発見する。
「……おや?」
「熱斗くん、これ……」
「げっ、蛇口のハンドルがない!」
道を作れそうな蛇口は見つかったものの、水を出すために回すハンドルが外されているのだった。
「ロックマン、他の蛇口からハンドルを外してこれないか?」
「うん、やってみる!」
ロックマンが別の蛇口のハンドルに手をかけて引くが、びくともしない。
「……ダメだ、簡単に取り外せるようにはなってないみたい」
「ロックくん、ちょっと失礼」
渡に言われてロックマンが
「確かに、誰でも外せる作りではないようです。が、これも必要なこと。やむを得ませんね」
渡がPETに繋がれたゲームコントローラを抜くと、ベータが蛇口のハンドルに手をかけた状態で静止する。続けて、空いたポートにキーボードを差し込み、なにやら操作する。
「何してんの?」
「この蛇口に働きかけて、"ハンドルを外させてください"とお願いします」
「それってクラッキング……」
「不法侵入して無断でプラグインした時点でクラッキングでしょう。おかしなことを言いますね」
不安がる熱斗をよそに淡々と作業は進み、ふと渡が手を止め、キーボードから再びコントローラに差し替えると、ベータがあっさりとハンドルを引き抜いた。それをハンドルのない蛇口にはめて回し、水を流す。
「では、進みましょうか」
(こういう面倒をカットするために、家庭教師までつけてお勉強してきたんや。縁起でもないけど、氷川の息子が助からんかった場合、進めんまま最悪の結末ってことも……ないとも限らんからな)
……
最後の凍結迷路を抜け、リンクで飛んだ先。そこには氷漬けの浄水プログラムがあり、1体の小柄なナビがいた。
人型で、もこもこした水色の服に、分厚いミトンを着用した、雪国の住人のようなデザイン。
警戒のまなざしを投げかけてくるナビに、ロックマンが話しかける。
「君は――」
「来るな!」
言葉を遮り、そのナビは口から冷気を放射した。ロックマンはガードするが、ダメージを受けて数歩後ずさる。
「浄水プログラムに触れるんじゃない! それには
電脳世界に響く、オペレータらしき男の声。熱斗と渡は、それを少し前に聞いたばかりだった。
「氷川さん!?」
「WWWの指示を守れなかったら、透は……透は!」
男の感情と連動するかのように、冷気のナビが攻撃を再開する。
冷気を放射するだけでなく、ロックマンの身の丈よりも大きい氷塊を瞬時に生み出して、それを蹴って滑らせて来る。
「ロックマン、氷を壊せ!トリプルアロー!」
熱斗はPETの画面上で、チップフォルダから読み込まれたバトルチップデータのうち、魚のアイコンが描かれた1つを選んで送信する。
するとロックマンの右腕が弓のような銃に変形し、構えられた銃口から矢が3本連続で飛び出す。それらは狙い過たず、氷塊に1本2本と突き刺さるたびにヒビが走り、3本目が氷塊を砕いた。
その奥から新たな氷塊が造られ、床を滑ってロックマンに迫るも、横合いからベータのガイアハンマー3で殴打され砕け散った。
しかし、冷気のナビの攻撃は止まず、激しさを増していく。
「熱斗くん、ダメだ! 彼らは話ができる状態じゃない! 人質をなんとかしないと……」
「そんなこと言ったって、氷川さんの息子のことなんて――」
ピピピ、と場違いな音が熱斗のPETから響く。クラスメイトの綾小路やいとからのメールだった。
内容は長くなく、PETの画面端に全文が表示される。
「なんだよこんな時に……!?」
その文面をちらと見て、熱斗は目を見開く。
「これだ! ロックマン、一旦プラグアウトだ! ベータも頼む!」
「わかった!」
ロックマンとベータが光の線となり、電脳世界から飛び立つ。PETに戻ったナビたちはダメージを回復し、ひとまず安全になった。
「熱斗くん、さっきのメールに何かあったの?」
「やいとからだ。隣のクラスの男子が昨日から家に帰ってないって話は朝に聞いてたんだけど、それがやっぱりWWWに誘拐されたらしくて、その苗字が"氷川"だって!」
世界有数の財閥・綾小路家の令嬢であるやいとは、自身も飛び級するほど優秀であり、その家の力をある程度は自由に使うことができる。なので、小さな誘拐事件についても、こういった独自の情報網での調査が可能だった。
「渡、なんかわかんない!?」
「なるほど、綾小路さんのツテならソースも確かでしょう。少し待ってください。整理します」
目を閉じ、眉間を揉みながら考える仕草を取る渡。
(ええっと台本台本……)
しかしその実、昨日までに予め考えておいた"それらしい推理"の内容を思い出していた。
「……帰っていないということは、下校のタイミングを狙われたはず。よって、被害者が隠されている場所は……学校の近く、遠くても秋原町内。あるいは、車で運ばれた可能性もありますが……"オフィシャルがWWWの尻尾を掴めないのは、現実世界での派手な動きがないからだ"という話も聞きます。誘拐した子供を入れたままあちこち移動するのも、見つかるリスクが高い。恐らく前者でしょう。探せば見つかるはずです」
「よっし! そうと決まれば――」
「待った!」
エレベータにライセンスカードを差し込もうとした熱斗を、渡が鋭く呼び止める。
「なんだよ! 探せばって言ったのは渡だろ!」
「命がかかった
「なんだよ、オフィシャルに通報でもするのか? オレたちの話なんてゼッテー信じてくれないに決まってるじゃん!」
「その通り、僕たち子供の話ではダメでしょう。だから、信じてもらえるような大人から話をしてもらえばいい。というわけで、代理通報をお願いしました」
熱斗に説明しながら、渡はPETからメールを送信し終えた。
「誰に頼んだんだ?」
「秘密です。さて、ああは言いましたが、探す人手は少しでも多い方がいい。かといって、水不足での消耗を考えると、町の人たちは頼れません。1人がここに残り、もう1人は秋原町へ行って、自力でも氷川トオルくんを探すべきでしょう。そこで――」
探しに行くのは
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熱斗
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渡