セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
ある午後。
「テレビ、見ましたよ。お手柄だったそうですね」
「だーかーらー、あれは炎山のおかげなんだって」
渡は決して嫌味っぽく言ったわけではなかったし、熱斗も別にそう感じたわけではなかったのだが、その声の後には空気の抜ける音が続いて、顔の方は眉尻を下げているところがPETの画面に映っていた。
それぞれ渡は自室で、熱斗はメトロの駅で、オート電話で話をしていた。駅は混雑しておらず、周囲の雑音で渡の声が聞こえなくなるといった心配は不要だった。
一体何を、渡がテレビで見たのか。
風吹アラシの逮捕から数日後、秋原町の4人は連れ立って日帰りキャンプをしに行った際、おくデン谷のキャンプ場のそばで起きたダム爆破事件に巻き込まれていた。アラシと同じくネットマフィア・ゴスペルに所属するオペレーターの仕業だった。
前日にオフィシャルスクエアの掲示板で犯行予告があったため、オフィシャルである炎山が現地で待機しており、1度目の爆破の後に全ての爆弾を見つけ出して解除することで事なきを得たのだが、世間的には、熱斗の手柄ということになっている。
事件後日に行われたテレビ放送のせいだった。
スピード解決された事件の様子をカメラに収められたのもまた偶然で、サッカーチームのキャンプを取材するために出発した、テレビ局・
解決後、さあインタビューというタイミングで、実際に爆弾自体の処理を行った炎山は姿を消していたため、起爆プログラムの停止を担当するも完全にはやり切れなかった熱斗が捕まり、カメラの前で調子に乗ったデカオ共々、お茶の間に顔と名前を提供することとなった。
インタビューを行ったのが、持ちナビ共々市民に人気の女性アナウンサー・緑川ケロであったことも幸い――あるいは災い――して、ダム爆破を目論む悪を成敗した小さなヒーローとしての周知度合いは高めとなってしまったのだった。
なぜそれほど危険な事件を、渡はテレビで見ていたのか。
無論、そういう席に呼ばれるようになって久しい渡のこと、渦中にいなかったのにはいなかっただけの理由があった。
ダム爆破に関して、介入不可能という結論を出したためだ。
正確には、介入はできても、一番肝心な部分に関与できなかった。それは熱斗が起爆プログラムの停止を完遂できなかったことと密接に関係している。
熱斗は主人公、ヒーローである。爆破を遂行しようとした大学生・速見ダイスケと、そのネットナビ・クイックマンも、勿論倒すことができた。できたのだが、その勝利は、ダム爆破の阻止という意味では何一つ貢献しない徒労に過ぎなかった。
4つある起爆プログラムのうち最後の1つを守るクイックマンだが、同時に自身もまた起爆プログラムとしての役割を持っていた。クイックマンがデリートされてしまった場合、即座に起爆信号が送られるという、死なば諸共のシステム。
つまり、ダム爆破を阻止できたのは、本当に100%炎山の働きによるものだった。
その炎山がダム内部へ出向いて爆弾の処理に取りかかれたのは、オフィシャルとしての任務や権限があってのことである。熱斗はもちろん、渡もまたオフィシャル所属ではない。
渡が行ったところで、ダム爆破の阻止については何の役にも立たない。クイックマンを倒す手助けはできようが、そこにメリットはない。ダム爆破事件が起きるために、単純にキャンプを楽しむこともできない。
NPCである炎山は予定通りに動くだろうという予想ももちろんあったが、渡が行かなかったことに関しては、このないない尽くしが最大の要因だった。
とにかくそういうわけで、テレビで熱斗のヒーローインタビューを見かけ、今に至る。
「で、何の用だったんだ?」
こうなるなら折返し電話しなければよかったかと若干後悔しつつ熱斗が尋ねると、渡はカメラから目線を外し、唇の下の窪みを親指の関節で押さえた。返答までに数拍の間が開いた。
「光くんたちが大変な中、僕はそこにいませんでしたから。その、負い目があるというか」
「なんだよ、そんなの気にしなくていーって」
口ごもる渡に、熱斗は小さくため息をついて、手も小さく払うように振りながら、言った。渡はこめかみを人差し指の爪で押し、硬めの笑みを浮かべた。
「そう言ってもらえると助かります」
言い終わると指を離し、表情も平静に戻った。
「ところで、光くんは今忙しいんでしょうか? さっきかけた時は不在でしたし」
「ああ、メトロに乗ってたんだ。今、Aランクライセンス取るために依頼こなさなきゃいけなくて。自由研究のために、インターネットでアジーナまで行きたいんだよ」
インターネット上で外国に友人を作り、あわよくば現実で招待してもらい、当地のご馳走にありつければ、などというあんまりな願望については、熱斗も馬鹿正直に話すつもりはなかった。言われるまでもなく知っている渡としても、詳しい動機を追及する必要はなかった。
「なるほど。まあ、光くんならすぐ取れると思いますよ」
「そういう渡は市民ネットバトラーのライセンス取らないのか?」
デカオの提案でサブライセンスを集団受験した際、渡はいなかった。その後にライセンスの話題が出ることもなかったので、それはライセンスを持っていないものだと思っての発言だった。
渡の鼻から息が抜けた。引っかかったな、とでも言いたげに口元を歪めたのを見て、熱斗は訝しんだ。
「取っていない人間が"すぐ取れる"なんてことを言うのは、無責任だと思いませんか?」
チッチッ、と人差し指でも振っていそうな、自信満々の顔で言った。
「えっ? それじゃあ……」
「キャンプを断った時に言った用事。Aランクライセンスまでの受験だったんですよ。僕も国外に知人を持つ身ですから」
熱斗の視線が、通話画面からロックマンの方へ移る。
「そんなこと言ってたっけ」
「言ってた……と思うけど」
「まあ、知人のことは、別の話の流れでちょっと触れただけでしたから。忘れても仕方ないことですよ」
自信なさげに顔を突き合わせる2人に、苦笑しながら渡がフォローを入れる。より具体的には、今より幾分か涼しかった頃、ヒグレヤでバトルチップの価格変動について話した時のことだった。
いきなり、"あっ"と熱斗が声をあげた。
「じゃあ、その渡の知り合いに外国の食べ物のこと聞けばいいんじゃん!」
カメラ越しに小さく渡を指差して、熱斗が言った。
「確かに、それならわざわざ試験受けることもないけど……もう依頼受けちゃったし、やれるところまでやってからにしない?」
「えー」
既に渡の知人なのであれば取り入り易かろうと、早くも悪知恵を働かせてその気になっていた熱斗は、自分の顔にこれ見よがしに"イヤです"と書いた。その4文字を読み取ったロックマンが軽く叱ろうと口を開こうとしたが、それより早く渡が付け足す。
「といっても、尋常じゃなく忙しい人ですから、協力してもらえるかは怪しいですよ。それに、"この自由研究のために市民ネットバトラーのAランクライセンスも取りました"なんて言っておけば、箔もつくでしょう。
やっぱり試験は受けた方がいいと思いますよ。再三ですが、光くんなら受かるでしょうからね」
「なーんだ、じゃあいいや」
自分で描いた図面が頼りにならないと知るや、熱斗は自分でそれを放り出した。
「じゃあいいやって、熱斗くんね……」
肩まで落とし、続けてかける言葉も見つけられず、ロックマンの口から出たのはため息だけだった。
「それで、渡は今なにしてんの?」
ここまでの会話を全て忘れたかのような切り替えっぷりで言った。
「特に何も。ゆっくりしてますよ。気楽なものです」
ちらっとだけ、渡はPETから視線を外した。別のスタンドに立てられた黒いPETの中で、アイリスが教育番組を観ている。PCのモニタには、アジーナ政府直営スクエアたるアジーナスクエアの風景が映し出されている。
他にデスクの上に載っているのは、マウスやキーボード、カバーをつけたティッシュ箱、飲み物に、ゲーム用コントローラー等々だ。
「そっか」
渡によるまるで情報の得られない返答に対し、熱斗はコメントを思いつかなかった。
「そうです。まあ、長話をしていると、試験が終わる前に日が暮れてしまいそうですし、そろそろ切りますね。合格したらメールでも下さい」
「おう。じゃな!」
話を軽く切り上げると、通話も切断された。デスクに左肘をつき、人差し指と中指を曲げてその上に顎を乗せた渡が、モニタをじっと見た。
多くのネットナビが行き交い、商いや歓談が行われている空間の片隅で、ベータは押入れに仕舞われた人形のように大人しくしていた。
(間に合えへんかったな……)
賑わうアジーナスクエアのごく近い将来と、そこで自分のすべきこと。
それぞれに思いを馳せる渡は、準備が充分と言い切れないことに、心臓が締め付けられるような緊張を覚えていた。
改めて昔買った小説をもう一度読んでみたら、よくも短いシーンをとんでもない文字数にするものだな、と感じました。話す人のしぐさや空間の情景と変化、奇想天外な比喩表現……書く消費者になってみて初めて、プロの凄さの一端を理解した気がしました。
同時に「やっぱり恋愛ものも読まないと、苦手(=書けない)は苦手のままだな」とも思ったんですが、買って読みたい作品が頭の中にありませんでした。ぎゃるがんのノベライズとかあればよかったんですが……
恋愛以外は今読んでるものがあるので、何かおすすめがあれば教えて下さい。プロで長くやってる方の作品で、「恋愛要素もある」じゃなくて「恋愛ばっかり」の小説がもしあれば、そちらの方が望ましいです。