セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

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34話 ディレクターズカット

 少し前、Aランクの市民ネットバトラーライセンス試験に合格した熱斗が、逸る気持ちに目を輝かせながらロックマンをインターネットに送り込み、アジーナの地から手紙つきの風船を飛ばしたという人物にコンタクトを取ろうと、アジーナスクエアへ向かった。

 

 国内外を仕切るセキュリティキューブを市民ネットバトラーライセンスで通過し、妙にひと気のないアジーナエリアを、違和感を覚えながらも進んで、ロックマンはやってきた。

 誰に出会うこともなかったので、なぜそうなのかを教えてくれる者もなかった。だから、辿り着いて奥を覗いてみた時、そこではゴスペルとオフィシャルによる合戦が行われていたというのにも、オペレーターの熱斗共々、理解が追いつくのに僅かながら時間を要した。

 

 一般ナビの一切が避難し終えていたこともあり、それは、予め場所と日取りを決めて争いを始めたような、まさに合戦の様相だった。

 スクエアいっぱいを戦場に使い、目を瞑って適当に指差せばそこでオフィシャルとゴスペルそれぞれのナビが切り結び、あるいは撃ち合っているような、戦国時代や近代の大戦を取り上げた娯楽映像さながらの光景だった。

 アジーナオフィシャルであろうナビも、襲撃者であろうナビも、互いに容赦はない。血煙はなくとも、ジャンクデータが舞い飛んでいれば、ただ事ではないと解釈するのに充分だった。

 

 最初にロックマンの姿に気付いた彼に続いて、口元まで青いマスクで覆ったナビの姿を認めたのは、その他のオフィシャルのナビだった。

 向かい合うゴスペルのナビたちが同じくするよりも先に、ロックマンの手にするツルハシが床に走らせた強化衝撃波(ソニックウェーブ)がその陣に線を引いた。幾人かは巻き込まれ、これ幸いとしたオフィシャルナビに追撃を受けてデリートされた。

 ロックマンからオフィシャルナビたちまでは距離があったため、誤射はなかった。

 被害を受けた、と認識したゴスペルのナビの1人が振り返った。

 

「何モンだ、テメエ!」

 

 ニホン語でも、アジーナ語でもなかった。事前に翻訳の準備をしていなかったので、ロックマンや熱斗には何を言っているかはわからなかった。一方で、声の調子や身振りから、やはり敵ということでよさそうだと判断した。

 翻訳プログラムを起動する前に、ロックマンは乱戦の中へ切り込んだ。それだけでロックマンを中心に混乱が広がり、ゴスペルの一団は不利になった。

 手投げ弾の着弾地点から離れ、迫る剣や拳を1撃につき1歩のステップで回避して、反撃にロックマンがチャージショットやハイキャノンでHPを削れば、またもオフィシャルナビがトドメを刺した。

 一度傾けば、終わりまでは早いものだった。最後の1体に遠距離からのメガキャノンがクリーンヒットし、この1グループの掃討が完了すると、誰かに命令されたわけでもなく、散っていたオフィシャルナビたちが駆け足で集まり始めた。

 

 元々一番近くにいたオフィシャルナビが、ロックマンに近付いた。ロックマンは翻訳プログラムを起動した。

 

「協力に感謝する。私はアジーナオフィシャルの者だ。君は市民ネットバトラーか?」

「はい。アジーナスクエアに何が起きているんですか? 外にも誰もいなくて……」

「不審な点があって、我々も全てを掴めてはいないのだが、奴らはゴスペルを名乗っている。一般のナビはいないが、スクエア自体への被害を防ぐために応戦中だ。まだ危険だから、プラグアウトしなさい」

 

 言われて、ロックマンはPETの画面越しに熱斗を見た。互いに頷きあってから、オフィシャルナビに向かって口を開いた。

 

「ボクたちも戦います!」

 

 オフィシャルナビは、駄目だ、と返そうと思った。しかし、ロックマンの実力、現在の戦況、問答している暇がないことなどをほとんど無意識のレベルで勘定し、一拍だけ置いて返答を決めた。

 ロックマンと同様にオペレーターに無言で同意を求めた後、ロックマンだけでなく、周囲の仲間全体にも呼びかけるようにして、戦闘音の中でもよく通る声を張った。

 

「これより、彼を含めて戦闘続行が可能な者でチームを組み、王様のもとへ向かう! その途中で他の交戦箇所を通過、または接触する場合、ゴスペルのナビへの攻撃を行う!」

 

 不揃いながら、人数分の了解の声が上がった。バトルチップでの回復による戦線復帰が困難な何人かがプラグアウトし、その他の何人かがロックマンの肩を叩いたり、守ってやるとか、無理はするなとか、声をかけた。

 大人たちやメイルから何度も言われ、何度も反抗してきた言葉に対しての反応は、今回も変わらなかった。

 といっても、今の熱斗のそれは、自信が無鉄砲を支えているだけではなかった。ロックマンの秘密を知ってからは、ただの無鉄砲ではなく、やり遂げる気持ちを強くして、オペレーターとして共に戦う覚悟を持つようになっていた。

 

「逃げたりなんてするもんか! 行くぞ、ロックマン!」

「うん!」

 

 現在のチームメンバーやルートの確認を終え、ロックマンを加えたオフィシャルの一団は、駆け足で移動を始めた。

 

 

……

 

 

 襲い来る敵は、ゴスペルのナビばかりではなかった。本来スクエアで姿を見ることのないウイルスも、いくらかゴスペルによって持ち込まれ、放たれていた。ロックマンたちはそれらも見かけ次第駆除し、まだ動ける味方のナビを他へ向かわせ、スクエアの奥を目指した。

 敵はナビもウイルスも、その強さに代わり映えがなかったが、いずれの交戦箇所においても、味方が劣勢に立たされていたし、あるいはどこか全滅したところから、敵だけが流れてきて、それに出くわした。ロックマンがいなければこのチームもそうなっていただろうと、メンバーの多くが思った。

 ロックマンと共に戦うナビの数は減っていき、5分、10分と時間が経過して行ってようやく、最奥にて、大柄なナビ・クックマンの姿が見えた。

 

 クックマンの他には、鋏を操るオレンジ色のナビがいた。それぞれが連れていた手勢はすっかり数が減り、クックマンを守る陣は崩壊していて、本人も、オレンジ色のナビとの直接対決を余儀なくされていた。

 丸太のような巨大なすりこぎ棒を振り回し、泳ぐ鋏を弾いては、オレンジ色のナビがちょこまか動きながら隙を伺っているところを牽制するように構えてみせた。頭部の鋏を取り外して投擲されれば、それもすりこぎ棒で打ち払った。

 互いにそれほどダメージはないが、クックマンの目には疲れが浮かんでいるのに対し、オレンジ色のナビは相変わらず両手をチョキの形に保って、攻撃を差し込む隙間を探していた。

 

「王様!」

 

 ロックマンの周囲の誰かが叫んだ。そこで戦っていたナビの全てが、ささやかながら心強い援軍の到着に気付いた。いくらかのナビが視線を動かし、ゴスペルのナビの1人が、その隙に独断での撤退に走った。たった今まで切り結んでいたオフィシャルナビは、プラグアウトした敵へ執着せず、近くの味方を援護しに行った。

 

 オレンジ色のナビが後ろ飛びして間合いを離し、ロックマンたちの方を向いた。

 

「随分抜けてきたみたいだね。そこの青い助っ人のせいかな?」

 

 ここはスクエアの最奥で、ゴスペル側としては多勢に無勢、囲まれた形となっていた。それでも、そのナビは焦る様子を見せず、2本の指で無遠慮にロックマンを指していた。ロックマンも一団の前に出た。

 

「戦いをやめて、アジーナスクエアから出ていくんだ!」

「ダメだね。こっちも予想外の事態で後がなくて、上からせっつかれてるんだ」

 

 ロックマンとオレンジ色のナビが問答している間に、横からオフィシャルナビが飛び出し、泳ぐ鋏と格闘するクックマンの方へ走った。オレンジ色のナビが投擲した鋏が突き刺さり、そのうち1人がつんのめって倒れ、そしてデリートされた。

 クックマンが唸り、オレンジ色のナビは、わざとらしく、つまらなさそうに、目を伏せてため息をつき、肩をすくめてみせた。続こうとした他のオフィシャルナビは思いとどまった。最後尾で1人だけ、脚を震わせていた。

 

「お前!」

 

 熱斗が短く叫んだが、オレンジ色のナビは、どこ吹く風で、強そうだと当たりをつけたロックマンに視線を向けた。

 

「こんなのでボクらを止められるはずがないのに、どうしてこうなったんだか。まあ、キミをデリートすれば、こっちの勝ちってことでいいよね」

 

 上げた顔には、風吹アラシのような欲望も、速見ダイスケのような復讐心も見当たらなかった。面倒だが、寝る前には歯を磨かなければならない、というような、当たり前のことをこなそうという平坦な義務感があった。

 幼くデフォルメの効いた顔立ち――デザインに、一応程度に引き締まっただけの、険しさのない表情を作っていた。

 

「ボクは、ゴスペルのアジーナ攻略部隊臨時隊長、カットマン!」

 

 名乗りを上げたナビ――カットマンは、両手をチョキの形にしたまま、特撮番組のヒーローのように決めポーズを取った。

 それをふざけていると思ったのは1人や2人ではなかったが、ナビが鋏でバラバラのジャンクデータにされたところを見た後では、誰もその思いを口にしなかった。




 危うく名前通りになるところでした。
 6の結末をすでに考えている以上、そこまではそうなるわけにはいきません。
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