セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
ゴスペルの自立型ナビ・カットマンがデリートされたという連絡が熱斗からもたらされた後。渡はダーク・ミヤビの呼び出しを受け、ベータとしてウラインターネットへと足を運んでいた。
アップグレードで姿を変えた迷宮を進み、脇道に逸れたところにある部屋――扉などはない。ただのスペースだ――で、シャドーマンと顔を合わせた。シャドーマンがベータの姿を捉えた時にまず確認したのは、道中でのダメージの程度だった。
「ほう、無傷か」
シャドーマンの反応は、感心するような、納得するようなものだった。
「こんにちは。もしかして、ここまで来るのも試験だったとか?」
「人目を避けるためだ。まあ、本人確認も兼ねているが」
(偽物ならここまでは来られまいってことね、はいはい)
答えながら、シャドーマンは右手に立方体を出現させる。どの面も淡い和柄をいっぱいに敷き詰められ、そういうラッピングが施されているようにも見える。投げ渡されたそれをベータがキャッチして、渡はそれが木箱だとわかった。馴染みのあるものではないが、それが何なのかはなんとなく知識にあった。
「
「確かに寄木細工でもあるが、それは秘密箱という。寄木細工は複数種の木材を組み合わせて模様にしたもの全般を指す」
「なるほど。寄木細工の秘密箱、ということですね」
箱というものは普通、どこかの面が蓋になっていて、簡単な押し引きで開く。秘密箱は、見た目から想像もつかないような細かい手順をなぞってようやく開くことができるもので、現実世界において工芸品として売られている。
また、寄木細工が木材を組み合わせて模様を描く都合上、その模様の縁に沿って入れた切れ目は目視できなくなるため、秘密箱を作るのに寄木細工は都合がいいという事情も存在する。
(ミニゲームでパズルってのはありそうな展開やけど、これはちょっと)
秘密箱を開くには、面全体をスライドしたり、一部分だけをスライドしたりを繰り返し、最終的にどこか一面を蓋として開く。一度動かした部分を戻す手順が含まれていることもある。
知恵の輪やジグソーパズルは形状や絵柄を手がかりに解いていくが、秘密箱は見た目ただの箱なので、そうもいかない。
「1時間やる。開けてみよ」
「壊すのはナシですよね? 構造解析とかそういうのは?」
「拙者は"開けろ"と言ったぞ」
(壊して中身取り出すんは開ける行為に該当せんってことか。んで開けられれば何でもええと。じゃあやるか)
ベータの手を通して木箱の情報を表層から順々に読み取らせると、PETにインストールしたセキュリティ解除用の自作ツールがいくつも反応した。PCのモニタに木箱の3Dモデルが描かれる一方、PETの画面には連続するロック解除のログが下から上に伸びていき、情報の取得・3Dモデルの描画ペースが遅れ始めた。渡は内心舌を巻き、自動化しておいてよかった、とため息を付いた。
(フリーハンドで解除やらされたら1時間とか絶対無理やろこれ)
数分で取得が完了し、秘密箱の構造が明らかになったが、複雑な形状の組み合わせを見ただけでは開け方はわからず。渡がPCモニタ上で秘密箱のモデルを回転させたりズームさせたりしていると、木の壁の中に気泡が浮かんでいることに気付いた。
ズームすると、それは壁の中をくり抜くようにして彫られた、ごくごく小さな文字の羅列だった。画像解析にかけてテキストデータに変換し、それを暗号解析ツールに放り込むと、箱の開け方が書かれていた。これで問題なく箱を開ける目処がついたが、渡の口から出たのはため息だった。
(いやなっが……100回仕掛けとかどうやって作っとんねん。っていうかこれ、あかんやつちゃうか……?)
ベータ――すなわちβ版のネットナビは、コントローラ等の命令入力で動作するため、予め登録されている大雑把な動作しかできない。
ドアを開ける、蛇口をひねる、などは融通が利くし、ルービックキューブのような単純な作りのパズルも動かせるようになっているが、個体ごとに構造が全く異なる秘密箱は考慮されていない。
(でもなあ……開けろ
セキュリティを抜いて箱の開け方を明らかにするのに5分経過。それから、手順を実行するのに15分かかった。
箱の角をずらそうとした親指が辺を空中を往復したり、面を押さえてスライドしようとして箱全体を回転させたり。失敗する度に渡の手に汗が滲み、擦れるような吐息が漏れた。箱の蓋が開いて現れた中身は、小さな巻物データだった。巻物の形をしているだけで、実際に開いて読めるわけではなく、ただの模型だった。
「20分33秒。あまり手先は器用でないようだな」
箱の中から巻物を掴み出したところで、シャドーマンが言った。
「まあ、これもβ版ネットナビの大きな欠点の一つですね。もしかしてわざとこういうテストにしたとか?」
「そうではない。その秘密箱は、お館様が弟子候補に課す決まった試験だ。さりとて、おぬし――ベータの弱点、都合に合わせるわけには行かぬ。実践の際に言い訳が通じんということはわかるだろう」
「もちろんです」
これまでに困ったことはないし、これからも物理的に手先の器用さが求められる場面があるとは思っていないが……という余計な部分を飲み込んで、渡は神妙そうに答えた。
「さて、七代渡。おぬしの能力は戦闘・技術いずれにおいても申し分ないと見受けられる。秘密箱が解けないようであればクラッキングの手ほどきをするつもりであったが、それも必要ないというのであれば、暗殺者として必要な技を身につければすぐにでも仕事ができるようになろう」
「……えっと? ひょっとして、セキュリティに関してはさっきので免許皆伝だったりします?」
「そうだ。レベルを測るための試験だからな」
(その割に驚いてへんやん。こっちの実績はある程度把握済みとかそういう話か? どこまで知っとるんやろ)
肩透かしを喰らい、考えても仕方ない裏を想像しながら机を指でトントンと叩いて、それからようやく、渡は本来の要件に話を戻そうと口を開いた。
「暗殺者になりたいとかダークの称号が欲しいとかじゃないんですよ。確かに僕はセキュリティの勉強は結構して来たんですが、他はそうでもなくて。例えば、ベータ用のオリジナルバトルチップとか作れやしないし、自分でベータのカスタマイズもできない。どっちもお金に飽かせて解決してるんです」
「必ずしもウラの技術者がオモテのそれより優れているというわけではない。何より、我らのような暗殺者は畑違いだろう」
「それがそうでもないんです」
(無理って言われたらめっちゃ困るとこや。頼むから首い縦に振ってくれよ……)
渡は、その答えあれかしと望む心から乾いた風が出て、口と鼻から抜けていくように感じた。手のひらをズボンの腿で拭い、麦茶で喉を潤す。
「僕が欲しいのは2つ。まず、別のナビになりきる方法。パッと見ではなく、あれこれ検査されてもバレないような、限りなく完璧な偽装。これって忍びの技術ですよね?」
シャドーマンが目の色を変えた。
オペレータではなくナビ自身の情報、身元を隠すというのは、たとえウラで立ち回るとしても不要なもの。
影武者を立てて敵を混乱させる、ノーマルナビに見せかけて油断を誘う、などといった使いみちもあるが、そうやって戦闘で敵を幻惑する程度の使いみちであれば、そもそも外見をごまかすだけで事足りる。
そして、渡ほどの実力の持ち主にその程度のことがわかっていないとは思えなかった。
渡には何らかの事情があり、ナビの身元を隠す必要がある。それが将来のベータなのか、はたまた全く別のナビなのかは分からないが、とにかく普通のナビ、並の事情ではありえない。
……ということを、シャドーマンは渡の要求の中に見ていた。
無論、それは自分たちのような忍びにこそ近しい技術。教えを請う先として選ばれたことにも得心が行った。
「なるほど。もうひとつは?」
目を閉じて頷いてから、先を促した。
「セキュリティ封鎖ではなく、物理的に地続きでない場所の移動手段。平たく言えば、空を飛ぶ方法でしょうか。こっちはオモテでも限定的にできてるケースが稀にあるといえばあるみたいなんですが、これもまあ現職の忍者に話を聞いたほうがいいかなと」
「……お館様、いかが致しますか?」
それまで一人で渡と受け答えしていたシャドーマンが、ここで初めてダーク・ミヤビに判断を仰いだ。回答はすぐだった。
「何に使うか、使ってどうなるかなどは私たちに関係のないこと。先払いされた月謝を考えれば安い仕事だ、教えてやれ」
「御意」
シャドーマンの返事の後、渡がパンッと手を叩く音が、ダーク・ミヤビの方まで聞こえた。
昔なつかしアンケートがあります。そこだけに用がある方はスクロールして下さい。
①キャラの一人称、二人称、パートナーの呼び方
原作でシャドーマンが「せっしゃ」、ミヤビが「ワタシ」、シャドーマン→ミヤビが「おやかたさま」。
凝ってると同時に、この辺の確認ってすごく面倒だなと思うところもあったり……
②ナビの外見偽装
実際、原作でもシャドーマン親衛隊がシャドーマンに化けてました。マザーコンピューター編の、一人称が「オレ」で若者っぽい口調の偽シャドーマン。
その他の例だと「3」のデザートマンとか。
ああいう例が少ない辺り、外見変えるだけでもそこそこ大変なんだろうなあと思います。そうでもないと、おしゃれ感覚でナビの外見しょっちゅう変える人とかいそうですし。
③飛行(跳躍、遊泳など含む)による地形無視
エレキマンステージのような問題が解決するだけじゃなく、「つわもののデータ」が楽々取れたり、割と洒落にならない能力です。
この辺そもそも整合性を取ろうとしてすらいないんでしょうけれど、真面目に考察するとめちゃくちゃ頭が痛い問題でした。敵サイドはともかくアクアマンとかグライドもできてしまう辺りも。
どんな屁理屈がついたのかは後々。
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