セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
原作の時系列上でもアジーナスクエア襲撃(とその後すぐに発生するマザーコンピュータ襲撃)からアメロッパ城密室殺人事件までは結構間が空くので、こういうことやるなら今のうちに、となってしまうのが痛いところ。
次回辺りから原作本編進める……はず……
アジーナスクエア襲撃の後、「2」ではシャドーマンは間もなくしてニホンのマザーコンピュータ制圧を開始していた。
マザーコンピュータはニホンオフィシャルセンターで厳重に監視され、ニホンという国家の中枢として、またニホンじゅうに敷設されたネットワークの中心として、それらの維持管理を行うマシンであり、”マザーコンピュータが乗っ取られたらニホンは終わり”と言っても過言ではない。
この一連の事件、作中の描写でもシャドーマンが実力と策を大いに披露し、ロックマンとブルースの2人がかりでも苦しめられるという、「2」における危険度トップクラスの事件だった。
しかし現実には、アジーナスクエア襲撃は失敗。その後どうなるかと思えば、1日、2日、3日と経っても、ニホンにゴスペルが攻めてきたなどという話は、渡の耳には聞こえてこなかった。
ダーク・ミヤビに訊いてみれば、後詰のカットマンらまでやられた段階で、襲撃部隊は丸ごとゴスペルから手を切られており、その多くが落とし前をつけさせられたということだった。
ゴスペルは失敗した者に容赦しないはずではと問うと、ダーク・ミヤビやシャドーマンが無事なのは、そもそも現実世界の居所を掴ませないとか、追手がいくら来ようと物の数ではないとか、そういう理由だった。
猶予があると知った渡の行動は早かった。
……
ウラスクエア。
無法地帯のはずのウラインターネットに突如現れた、オモテのスクエアと全く同じ仕組みで守られているエリアである。ウラインターネットのほどほどに深い場所にあり、交通の便は悪い。
かつてウイルスの目を掻い潜るようにして各所に設置されていた掲示板たちは、ウラの住人たちのコミュニケーション基盤としての役割をウラスクエアに任せることになった。奇しくも、ここに来られるかどうかが実力を分ける一種のボーダーであるという点も同じである。
内部に掲示板が設置されていたり、ウラの路上でゲリラ的に商いを行っていたような者が商店を開いていたりと、実利面では通常のスクエアと遜色ない。
むしろ、オモテでは得られない情報、見かけないチップデータやプログラムなど、得られる物はより充実しているとさえ言える。
ガセネタ、厄ネタ、盗品、偽物、そうでなくてもオマケとばかりに起こる対人トラブルなどなど、付き纏うリスクは品質の差以上に段違いだが、それで大損したりデリートの憂き目に遭うようであれば、避けられなかった方が悪い。
ウイルスが進入できないというだけであり、ここもウラ、保障のない危険地帯には変わりはない。
ベータはこれまで、ウラスクエアに来たことがなかった。
特に欲しい物がないこと、集めたチップを売るにしても面倒事が伴いそうであることが主な理由だった。
ウラでのウイルス狩りの最中にチンピラに絡まれることがあるのは今でも変わっておらず、スクエアに足を踏み入れればたむろしている同類に目をつけられるのが容易に想像できていた。
「珍しいお客さんが、珍しい注文をつけて来たもんじゃわい」
それを押してやってきたのは、ついこの間欲しい物ができたからだった。
すなわち、ウラの技術者のツテ。目の前にいる、少し古い型のオフィシャルナビ――の横流し品――の、自らを闇医者と称する男を頼って来たのであった。
闇医者は仕事に法外な報酬を請求するが凄腕の技術者であり、その存在はウラでは有名。
生き残る強ささえあればウラスクエアには来られるが、ここで闇医者に会うには呼び出し用のキーワードを知る必要があり、これはウラの住人の中でさえ知る者は限られている。
知っている誰かを探して尋ねたところではいそうですかと行くわけもなく、キーワードの手がかりを求めて情報屋を頼ればそこそこのゼニーを払うことになるし、よほどの要件と手持ちがなければ闇医者に会う意味がない。よって、キーワードを知る者の数はほとんど増えることがなかった。
あまりウラの住人と積極的に関わってこなかった渡にとって、そのキーワードは本来知り得ない情報。
しかし、闇医者を呼び出すイベントが「2」本編にあるため、渡は当然覚えていた。
「音に聞くβ版ネットナビの狩人とて、アップグレードされておれば他のナビとそう変わらんじゃろうと、儂は考えておったのじゃがな。よもや、その体で今のインターネットを生き、あまつさえ壁跨ぎがしたいなどと宣うなどとは、夢にも思わなんだわ」
二者を遠目に見る者はあっても、関わろうと近づく者はなかった。渡が懸念していたような、運よくウラスクエアまでたどり着き、なおかつ闇医者含むウラの力関係が理解できていないチンピラというのは、今日のところはいなかった。
闇医者の不興を買えば、闇医者と関わりのある誰かに殴られかねない。そしてその誰かは、最低でも闇医者に代金を払うだけの力がある。自分で呼び出した場合を除き闇医者への接触はご法度、というのがここでの共通認識であった。
「直近で必須というわけではないんですが、将来的に使いたい予定があるもので。現状として無理なら無理で一旦は構わないんですが、どうでしょうか」
「難しいことは否定せんが、無理などと言ってしまえば闇医者の名折れよ。じゃがお前さん、代金は払えるのかね? 言っておくが、診察して無理だと分かった場合にも金は頂くぞ。たんまりとな」
「その闇医者の名前がいい意味でも売れているのは、過分に足元を見たりしないからでしょう。これまで積み上げた信用を換金するような真似をされない限りは、きちんと払いますよ」
「なんじゃ、からかい甲斐がないのう。ま、診せてみい」
闇医者に言われて渡がベータのセキュリティを緩めると、闇医者はどれどれとベータを解析し始めた。
珍しいものを見る態度を隠そうともせず、”ほう”とか”ははあ”とか、感嘆の声をしきりに漏らしていた。アップグレードされていないβ版ネットナビをあの手この手で補強してあるため、これまで頼ってきた技術者の工夫や腕前も見て取れていたのだった。
……
待つことおよそ30分。渡がアイリスを見つめて時間を潰していると、診察が終わったと闇医者の声がした。
「簡単にまとめると、可能性はあるがこのままでは無理。という感じじゃな」
闇医者が画面を浮かせ、診察結果を表示した。図上で両腕を開いたベータの体のあちこちから線が伸び、それぞれの先には細かい字で所見がびっしりと書き込まれていた。そのうちのひとつ、Dアーマーを指した記述の部分を拡大した。
「おぬしが唯一公開を拒否した、このアーマープログラム。壁跨ぎの際にエネルギーが全身を覆う時、これが骨のような役割を果たす見込みはあるんじゃが、残念なことに、いかんせん強度不足での」
(あ、じゃあDアーマーの改良終わったらまた来たらええな)
「そこで、ものは相談なんじゃが――」
「ダメです」
闇医者から渡の仏頂面は見えていないが、目に見えるようだった。
「なんじゃ、まだ何も言うとらんではないか」
「”耐えられるように改良してやるからアーマーの中を見せろ”でしょう。ダメですって」
「むう。面白いもんが詰まっておるに違いないのに、見れんというのは非常に口惜しいんじゃが……」
言い出しを挫かれて抗議したものの、自分の提案を先読みされた上で却下された闇医者はどうにか食い下がろうと思案した。しかし、相手は通常コミュニケーションを取ろうとしない存在で、情報が少ない。交換条件になるものがうまく思いつかず、強気に出られそうもなかった。
「……診察と施術をタダにしてもダメか?」
「ダメです。わかってて言ってますよね?」
「まあの。それが金で買えるもんならいくらでも払っとったわ。ヒョッホッホッ!」
「もう」
大笑いする闇医者に、渡も苦笑していた。
「じゃあ、今日は診察だけで、施術は今度ですね。代金は?」
「そうじゃなあ、お前さんが施術に来る保障もなし。しめて100万ゼニー頂こうかの」
「どうぞ」
ノータイムでの支払いに、闇医者はほんの一瞬硬直し、それからまた笑った。
「よほど稼いでおるのか、それとも糸目をつけぬほどにも欲しいのか……事情を知ろうとは思わんが、その思い切りと芯の通りは気に入ったぞい。アーマープログラムの都合がついたら、儂が忘れてしまわん内に来るんじゃぞ。ほれ、連絡先」
「はい。実はもう改良に着手してたりするので、そう遠くない内にまた来ます」
「ほう? そりゃ、アーマープログラムの作り主直々かい?」
「秘密です」
「じゃろうな」
軽く挨拶して、2人はそれぞれ帰っていった。
……
その日、ウラスクエアの掲示板で闇医者とベータの話題が急速に伸び、しばらくはベータの狩りの最中にチンピラナビが闇討ちを仕掛けてくる回数が増えた。
渡は、支払いを渋るフリでもしておけばよかった、と後悔した。
グラフィックがオフィシャルナビのそれであることも含めて謎が多い闇医者。
原作の言動からしてブラックジャック的なキャラクターにも見えますが、普段の客がウラの住人(≒犯罪者)なのを思うと、やっぱり基本は闇医者のようです。
結局あおワクチンが作れずじまいでしたが、やりかけた仕事としてどう思っているんでしょうか……